未来のクラシックカー デビューから16年 メルセデス・ベンツSL 55 AMGを再びドライブしてみた そのドライビングレポート

158

2001年に角張った先代モデルに代わって、R230シリーズのメルセデスSLが登場したとき、丸みを帯びたフォールディングルーフのオープンカーに異論を唱える人々もいた。しかし、AMGバージョンは、その懸念を払拭してくれた。

スポーツ選手であっても、時の流れに悩まされることはある。
たとえば、モハメド アリはキャリアの最後に苦しみ、トレバー バービックに惜敗して、20年間のプロボクシング人生を終えて引退した。
しかし、「メルセデスSL 55 AMG」は、16年経っても魅力がなくなることがない。
517馬力のパワーを持つ「SL AMG 55」は、今日までほとんど競争相手がおらず、まさにワンマンショーだ。

そのパワーソースは、「M113 E55 ML」と名づけられ、特別に開発されたV型8気筒3バルブエンジンに、スーパーチャージャーを搭載した、排気量5,439ccのものだ。
このエンジンは、2001年に、先代の「R129」に代わって、「SL R230」が登場した際に、「メルセデスSL AMG 55」の動力源としてデビューした。
当初、このエンジンは476馬力いう公称値で、高級ロードスターに搭載されていたが、AMGファンは、すぐにさらに豊かなパワーの広がりを楽しむことができるようになった。
新しいコントロールユニット、最適化された吸気システム、そして豪華なサイズのスロットルボディにより、出力は500馬力を超えたAMGモデルが登場したのだった。

アクティブボディコントロールサスペンションが、SLの走りを支えている

「メルセデスSL」には、あらゆる技術的改良が施されている。
油圧ダンパーとスチール製スプリングを組み合わせた、アクティブボディコントロールサスペンションは、コーナーでのボディロールやブレーキピッチを大幅に抑制する。
これは社内チューナーであるAMGに大きな助けとなった。
「AMGは幸運にも、良いベースを手に入れることができました」と、SLのエンジニアであるフランク ノテ氏は言う。
「SL 55 AMG」で、開発者はもう一度セットアップを改良し、ボディロールをさらに減少させた。
このシャシーには、電子油圧式ブレーキシステムが搭載されており、各ホイールに適切なブレーキ圧を供給することで、制動距離を短縮し、減速時の安定性を向上させている。
これに加えて、「SL 55 AMG」のフロントアクスルには、8ピストンキャリパーを備えた360ミリのブレーキがあり、強力な減速を行う。

メルセデスSL 55 AMGのアクティブボディコントロールサスペンションは、ボディロールを効果的に抑える。

パワーも十分なため、「SL 55 AMG」は300km/hに達することができる。
それでも、これほどのパワーと、0-100km/hを4.5秒で駆け抜けるスプリント能力を持つAMGメルセデスが、250km/hでリミッターをかけなければならないのは、実に残念なことだ。
しかし、「パフォーマンスパッケージ」を注文すれば、当時の電子制御アンカー、つまりスピードリミッターから逃れることができる。その場合、サスペンションはさらにタイトにチューニングされ、ブレーキディスクのサイズは380ミリになり、19インチのホイールが必要なグリップ力を発揮するようになった。
トラクションについて言えば、30%のロック効果を持つディファレンシャルが2シーターの軌道を維持し、高速コーナーのたびにリアエンドがドライバーを追い越すことがないようにした。
このようにして追加装備された「メルセデス・ベンツSL 55 AMG」は、300km/hまでの加速を可能にした。
さらには、フロントエプロンのエアインテークを大きくし、ラジエーターを追加することで、エンジンの温度を常に適正に保つことができた。

必要に応じて、5.5リッターのV8が、快適なSLを300km/hまで加速させる。

路面状況は常に変化する

今日においても、「R230」シリーズの「メルセデスSL」が、当時のドイツ自動車工学の王冠であったことにすぐに気づく。
しかし、AMGは「SL500」とはまったく異なる挙動をする場合もある。
「SL500」は、このスポーツカーに対して、ほとんどセダンのようなセッティングが施されたものだ。
しかし、AMGではそのセッティングも変更され、さらにAMG専用の目的に合わせて最適化された内部構造を持つ5速オートマチックがより優れた仕事をする。
そしてそれはいいことだ。
なぜなら、エンジンのさらなる高パワーと、720Nmのキレのあるトルクに対応しなければならないのだから。

快適なシート。シートにビルトインされたシートベルトはR129以降のSLの伝統装備だ。

SLは思ったよりトップヘビーではないことが判明

テストドライブに入った途端、「メルセデスSL 55 AMG」は驚くほどよく走ることがわかる。
ステアリングは、「SL500」よりもダイレクト感があり、前述のリミテッドスリップディファレンシャルを含むシャシーも、それぞれの役割をしっかりと果たしている。
さらに、AMGの8気筒エンジンは、力強さだけでなく、当時のこの気筒数のエンジンとしては、最軽量の部類に入る。
その結果、12気筒の「SL 65 AMG」のような、トップヘビーさはどこにも見られない。
だからこそ、「メルセデス・ベンツSL 55 AMG」は、元気よくエンジンを回して、スイスイとコーナーを旋回しながらも、その重厚な重さを感じさせないのも不思議ではないのである。
また、パワフルなエンジンは、音が豊かなだけではなく、トラクションも強大なため、トラクションコントロールを持っていたとしても、アクセルペダルの操作に気を配る必要がある。
特に雨の日はより一層・・・。

エンジンの軽量化により、SL 55 AMGはなかなか軽快な走りを実現している。

「R129」の後に登場した「R230」、出た当初は、喧々諤々な反応となり、「コレがダメならメルセデス・ベンツはもうオシマイ」と書かれたレポートの文言を今でも鮮明に覚えている。
結局「R230」はかろうじて、その性能も仕上がりも納得できるレベルの、「SL」と名前がついても許される程度には完成したオープンモデルではあったが、もっとも問題になったのは、安っぽい内装の仕上げと、トラブルなどの信頼性の問題であった。
この当時のメルセデス・ベンツらしく(?)、安っぽい仕上げとデザイン手法の内装は、もう仕方がないか、とあきらめる以外ないが、信頼性に関してはなかなか厳しい部分も多い。
変色して、曇ってくるヒョウタン型のライトユニットは定番トラブルとしても、複雑怪奇なサスペンションブレーキシステムがトラブってしまうとあっという間に車輛本体価格を超える修理見積書が届く。さらに各種電子デバイスの信頼性も決して高くはなく、そのパーツ価格も目を疑うような値札がついている場合がほとんどである。
もちろんそれはAMGであろうが、普通のモデルであろうが同じこと。中古車の車輛価格の安さにひかれて購入しても、維持するのにはそれなりの出費と根性が必要である。プリミティブなクラシックカーでもなく、ハイテク過渡期のクルマであることと、もとの車輛価格が高いクルマほど維持費も高い、そんな定説を購入する際にはお忘れなく。

Text: Wolfgang Gomol
加筆: 大林晃平
Photo: Lena Barthelmeß