「またねトゥインゴ」ルノー トゥインゴへのオマージュ We miss you…
2023年12月12日
初代ルノー トゥインゴが発表されてから30年。残念ながら3代目である現行トゥインゴは来春にも販売終了を予定している。初代のトゥインゴを長年愛用していた友人のことを思い出しながら、ファイナルを迎える3代目トゥインゴに、今改めて乗ってみよう。
1993年10月のパリサロンにおいて、初代ルノー トゥインゴが発表された時のことははっきりと覚えている。といっても、もちろんパリのモーターショー会場に僕が行って直接目撃したわけではなく、自動車専門誌に掲載された記事で読んだのだが、そんなレポーター記事の中でもカーグラフィック誌の1993年12月号に掲載された記事は、穴が開くほど眺めた。表紙の写真も小河原認カメラマンによる赤いトゥインゴの写真だったが、同号P201からの本文レポートにおいてもトゥインゴは堂々2ページも費やされて紹介されていた。フェラーリ456GTでさえ3分の1ページほどの紹介にすぎなかったのだから、いかにトゥインゴが重要で注目すべき新型ルノーであったかがわかろう。
その可愛いエクステリアはなんとなくホンダのトゥデイを彷彿とさせたが(トゥデイとの関連性をホンダの人から教えてもらうことになるのは、それから何十年も経った後だった)、僕が一番注目したのはその室内スペースの広さと、今まで見たことのない形状のシートと華やかなシート生地だった。
当時はまだ珍しかったセンターのデジタルメーターやピンポン玉のようなハザードスイッチも可愛かったが、エアアウトレット部分やドアハンドルなどに用いられたミントグリーンのプラスチックパーツと、それまでの自動車では考えられなかったようなキュートでおしゃれなシート生地は、まさに新しいルノーの時代がきたことを感じさせた。デザイナーであったパトリック ルケマンという名前を覚えたのもその時である。
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それから数年後に出会った、僕の人生上大切な友達がトゥインゴを購入し、徹底的に使い倒すことになるとはその時は全く予想もつかなかったが、とにかくトゥインゴも彼も、出会った時から心のどこかに、ふんわりとした暖かい残像のようなもの感じる存在であったことには間違いない。
友人が初めての自分の車として手に入れた中古のトゥインゴは、イメージカラーのグリーンに塗られたモデルで、すでに多くの人に容赦なく数年間にわたって酷使されたそれは、すでに結構な距離も刻んでいた。それでも彼は本当にこの一台で南へ北へ西へ東へ、もう全開で走り回っていたし、可愛がりすぎず、でも愛用するという言葉がまさにピッタリで実に似合っていて、とにかく都会的で格好良かった。
僕もイヤっていうほどそんなトゥインゴに同乗させてもらったが、驚くべきは10万キロをとっくに超えているという過走行にも関わらず、「へたり」など全く感じない耐久性と、床も抜けるほど踏んで走らされているのに不安感を一切感じさせず、粘っこく路面をつかんで離さないタフな足回りだった。例のカラフルで可愛いシートも全くへたっていないことが意外だったし、単なるファッションだけを追い求めた自動車ではないというところが、骨の髄までルノーだったことが証明していたともいえよう。
彼はどんな車を運転させても、不安なく器用に乗りこなしてしまう天性の才能を持っていたことももちろんあるが、こんな小さく、決して高価でもないカエルみたいな形の小さな自動車が、どうしてこれほどちゃんと走り曲がり止まるのだろうとショッキングなほどだったし、見かけによらぬタフさこそがルノーの本質なのだろう、と教えてくれたのがこの15万キロも走ったカエルのようなトゥインゴであった。人も荷物も満載状態で、いっぱいたのしくおしゃべりしながら東奔西走していた日々、トゥインゴが運んでくれたのはまさに輝いていた青春だったと思う。
結局初代トゥインゴは15年にわたって作り続けられ、2007年にキープコンセプトの2世代目にフルモデルチェンジされた。2世代目は7年間ほどスロベニアで生産されたのち、スマートと兄弟車である現行モデルに2014年に生まれ変わる。つまり3代目トゥインゴも早デビューからもうじき10年が経過するわけで、終売のアナウンスがなされたことは不思議でもなんでもない。実際に兄弟であるスマートは数年前に、似ても似つかないサイズとデザインのBEVモデルを、中国の会社がスマートの名前で発売するとアナウンスされて時間がかなり経過しているし、兄弟車のトゥインゴもそういう意味では乗り越えなくてはいけない問題はパワーユニットだけではなく安全デバイスなどかなり多い。
それにもかかわらずトゥインゴは、特に日本市場においてまだまだ人気車種でもあり、コンスタントに売れ続けているモデルもであった。コンパクトなサイズでRRという実用車は他にはない個性であるし、キャンバストップや洒落たボディカラーやディテールといった、ちょっと自動車好きの心のどこかに引っかかるような部分が多いが故の人気ロングセラーモデルであるといえよう。
そんなトゥインゴが生産中止となる前に(広報車がなくならないうちに)乗っておかなくては後悔すると思い、ルノージャポンにわがままを言うとイメージカラーの水色に塗られた最上級モデル、インテンスを借りることができたのは幸いであった。現行トゥインゴには発表された直後に短時間だけ乗ったことがあるが、それ以降はしばらくご無沙汰なので、うすれた記憶を呼び戻しながら乗ってみることにする。
だがここで一つあらかじめ断っておきたいのだが、今のトゥインゴに乗りながら記憶の糸をさらに手繰って、「あの」初期型トゥインゴにまでさかのぼって思い出しながら、似ている部分だとか共通する箇所とか、どこかに残っているはずの初代の香りのようなものを根掘り葉掘り探すのは意味のないことなのではないか、ということである。
後ろにエンジンを積んで後ろのタイヤを、3気筒ターボと6速EDCのトランスミッションの組み合わせで駆動して走る、4ドアでパワーステアリングとパワーウインドウとシートヒーターのついたスマートとの兄弟車を、初代、あるいは2代目のトゥインゴと比べてどこかに残っている残り香のようなものを探したとしても、それは郷愁からくる趣味のようなもので3代目トゥインゴの客観的なインプレッションには何の意味も持たない。今のトゥインゴがルノーの一番小さいセグメントの車として、ファイナルエディションともいえる今回の試乗車において、発売されてから10年近く経過し、「今」どれだけの完成度と実用性を持っているか、それこそが大切なのだから。
今回、ルノージャポンからお借りしたのは0.9リッターターボエンジンを搭載するトゥインゴ インテンスEDCだったが、誰に聞いても「素敵な色」と言われる水色に塗られた車に乗ってみての最初の感想としては、6速EDCの変速が初期のモデルと比べて洗練され、よりシームレスになり、記憶の中の現行トゥインゴの姿よりもはるかにスムーズで望外に速く走ることができる、ということに感銘を受けた。とはいっても相変わらず極低速域やストップアンドゴーを余儀なくされる渋滞、あるいはちょっと傾斜のついた駐車場での車庫入れなどでは今一つ洗練には欠けひょこひょことした挙動が出るし、広報車がまだ2,000kmあまりの走行距離ということもあり、足の動きもどことなく突っ張った乗り心地ではあった。
街中で印象的なことは、とにかく市販車としては最小ともいえる回転半径のため、驚くほど小回りが利くということだ。ここじゃあ無理だろうというような道でも簡単にUターンができるし、極小スペースの駐車場では小さいボディサイズと相まって無敵の機敏性を持つ。この部分だけでもトゥインゴはコミューターとしての資格十分だし、押しなべて大きくなってしまった一つ上のセグメント(ポロや208でさえ3ナンバーの時代なのには、ちょっと疑問を抱く)に比べて圧倒的に使いやすい。
ただし一つだけ気を遣う部分がトゥインゴにもあり、それはタイヤのハイトで、特にリアタイヤは45%のプロファイルのタイヤを履いているため、コインパーキングや段差などでホイールにガリ傷をつけてしまわないかずっと気になった。リヤエンジン故なのか、これほどの扁平率のサイズが必要なのかどうかはわからないが、もう少し穏やかなサイズのタイヤサイズであったなら、機動性と実用性は無敵になったのに、と常にホイールのことを忘れないようにして運転していたのであった。
それでも絶対的に小さいことは本当にありがたいし、特に全幅はぜひこのサイズのままでルノーにも次期モデルを継続開発してもらいたいと願う。
助手席も含めてフロントシートに座っている限りは快適満点なトゥインゴではあるが、初代及び2代目トゥインゴに比べて敗北している点がある。それはリアシートスペースで、大人にはレッグスペースは必要最小限だし、かなり立ったシートバックと、開かないリアウインドーとも相まって長時間をここで過ごすことはかなりの難行となると思う。それでもこのサイズにも関わらず後ろにドアがついていることは圧倒的に便利だし、ドアのノブにトゥインゴの絵がレリーフで描かれているなど、少しでも使いやすさを向上させるように努力したり、楽しく演出したりしようという設計者の良心は感じられた。
同様にリアにエンジンを積むという物理的な関係から、カーゴスペースも初代、および2代目トゥインゴから比べるとはっきり言って狭い。実際に普段使いで買い物などの荷物を搭載するには十分とはいえるが、一点だけ気をつけなくてはいけないことがあり、床がエンジンの熱で暖かくなるということを忘れてはならない。生鮮食品などをそのまま積むことは避けるべきだし、真夏にはどうなるのか、ちょっと心配な点ではある。
リアからののどかなエンジンサウンドを聞きながら、いつもよりゆっくりとトゥインゴを走らせていると、心のどこかで何かがほどけるような優しい気持ちになる。試乗したのは北風の強い寒い日であったが、乗り込んですぐに強力なシートヒーターが身体を暖めてくれることを感じながら、足元に心地よい温風が噴出した瞬間、ああ自動車はありがたい、と心からトゥインゴに感謝した。
さて快適にちょこまかと走りながら、頭の中で同じセグメント競合車と比べると、フォルクスワーゲンUP!に対しては、圧倒的に主にトランスミッションの洗練性などでトゥインゴは優位にたつものの、スペースユーティリティの面では(主にリアシートの居住性とトランクスペース)で完敗。フィアット500と並べるとやはりトランスミッションと最小回転半径の部分では圧勝するものの、乗り心地の面では500のたおやかな感じには負け、特にツインエアに対してはエンジンの個性で劣るといったところだろうか。
リアからのエンジン音とトラクションを感じつつ、軽く小回りの利くステアリングを駆使してきびきびと走る、このちょっとだけ落ち着かないけれど軽快なトゥインゴの感じは・・・。当たり前かもしれないが、スマートにそっくりだという結論になった。それも3代目のスマートだけでなく、初代、あるいは2世代目のスマート(for two)にも似た感じであったのがなんとも面白く興味深かった。
それにしても自動車のサイズって大切だなぁ、周囲をSUVに取り囲まれながら走っていると、あんなに大きく重いことが、街を行く自動車に必要なのだろうか、と改めて思う。
あっという間に夕暮れを超えて夜の帳がおり始めた高速道路に上がると、トゥインゴはさっきまでの印象とはまた違った面を見せてきた。ちょうど1トンとは思えないほど落ち着き、荒れた路面をものともせず、目的地までびしっとまっすぐ駆け抜けていく高速性能は、高速性能ではUP!と比べてもまったく遜色のないものだった。しいて言えばUP!が安定と落ち着きを重視し路面を離さないようにして走る感じならば、こちらはふわっと軽く浮遊したまま軽やかに滑走するような違いである。
あれだけ乗る前には、初代トゥインゴの残像を引きずらないように、と心に決めて運転しているはずなのに、速度があがればあがるほど妙に安定し、同乗者を楽しさと幸せに包みながら目的地まで駆け抜けていく感じ、そこに見えたのは間違いなく初代のトゥインゴと同じ温度と香りだった。
さっきまでの小さいサイズという言葉は頭の中から消え、本当に0.9リットルで68kw(92ps)、135MNのほぼ1000㎏という車なのだろうかと不思議に思うほどの高速性能である。ポジショニングランプ兼用のウインカーはしっかりとLEDのくせに、肝心のヘッドランプがハロゲンというのには最初は笑ってしまったが、かなり荒れた路面状況にもものともせず、フラットだがどこかに浮遊感さえ感じながら、ハロゲンの優しい光に照らし出される路面を見ていたら、初代のトゥインゴの姿が心に浮かんできた。
このとっても素敵な3代目のトゥインゴ、もうじきなくなっちゃうのかぁ。ハイブリッドだBEVだ、安全デバイスだ、という昨今の急激な時代の流れとは無常なものである。まだまだ魅力も実力も十分以上だし、人を幸せにするための自動車が、これ以上複雑に高性能な方向で進化する必要があるのだろうか、無理に環境という大義名分のもとに、重くいびつな形に変えられていくことはいったい誰のためなのだろう? そんな哲学的なことさえ、シンプルで軽く、心をふんわりとさせてくれる色に塗られたトゥインゴに語りかけられたような気がした。
アウトビルトジャパンのコンテンツ『「ルノー トゥインゴ」が電気自動車に生まれ変わって戻って来る 「E-トゥインゴ」はエントリー価格もリーズナブル』でも報告済みだが、1993年に発表されたトゥインゴは31年の間に3世代を経たのち、2026年にはBEVとして「トゥインゴ レジェンド」が発表される予定となっている。形はあの初代のカエルの雰囲気のオマージュで、個人的には好感と期待の持てる一台だ。時代の最先端を見つめながら、自動車と東京と美味しいものを愛し、さわやかに駆け抜けていってしまったトゥインゴ愛用者だった彼が、新時代のBEVトゥインゴを見たらどう言うだろう。
「時間は止まらず流れていくものですし、自動車も変化していくでしょう?どういうパワーユニットになっても、きっとトゥインゴは楽しい車ですよ。BEVのトゥインゴに乗ったら、ぜひどんなだったか教えてくださいね」。都会のど真ん中に浮かんだ白い雲の上から、そんな声が聞こえるような気がした。緑色のトゥインゴが、洒落た音楽を流しながら全開で東奔西走していたのが昨日のことに思えてならない。
トゥインゴ、またね。
【フォトギャラリー:ルノー トゥインゴ】
Text&photo:大林晃平 / アウトビルトジャパン