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【クラシック オブ ザ デイ】ギョロ目の実用的なファンカー 初代「ルノー トゥインゴ」全長わずか3.43mのシティランナバウト物語

2023年11月2日

初代ルノー トゥインゴは、ギョロ目の実用的なファンカーだった。90年代初頭、ルノーはトゥインゴで、陽気な全体コンセプトの中に最小限のモビリティを組み込んだクルマを発表した。クラシック オブ ザ デイ!

1992年、ルノーはパリモーターショーでミニマリストのモビリティの卵を発表した。カエルのようなハッピーフェイス、生き生きとしたパステルカラー、可変的な室内空間を持つマイクロバンのフォルムを持つこのクルマは、80年代の臭いを道路から一掃するのにうってつけだった。

「トゥインゴ」は運転するのが楽しい – そして、わずか3.42メートルという全長から想像されるよりも車内は広い。とにかくちょっと未来的だ、と当時は誰もが同意した。まとめて買い物に行くことが多い人には、17センチずつ長さを変えられるリアシートベンチがありがたい。

初代ルノー トゥインゴの極めてスパルタンなプラスチック製コックピット。エアバッグ?パワーステアリング?レブカウンター?まさか!
Photo: Michael Nehrmann

ルノー トゥインゴは、大きな折りたたみ式ルーフを備えた楽しいクルマだ

プラスチック製のコックピットは整然としているが、中央に配置されたデジタルスピードメーターは、「トゥインゴ」が急発進するよりも反応が遅れることがある。常に批判されるのは座り心地だ。短すぎるシートと質素な内装は、永遠のベストセラー「R5」を彷彿とさせる。55馬力の1.2リッター4気筒エンジンも、コスト上の理由でこのモデルに搭載されている。

オープンエア: 折りたたみ式の屋根を持つ初期の個体は、現在では状態の良いものを見つけるのは難しい。
Photo: Sven Krieger

「トゥインゴ」のドライバーは互いにヘッドライトをパッシングしたり、開いた折りたたみ式ルーフから手を振ったりして挨拶を交わしていた。このサンルーフは決して安くないが、最も重要な(そして、エアコンシステムを除けば、当初は唯一の)オプション装備だった。ABS、エアバッグ、リアヘッドレスト、そして後に大きな評判となる無線リモコン付きセンターロックは、最初の数年間はまだ装備されていなかった。

2022年以降、最初のトゥインゴはH登録の対象となった。

最後の初代「トゥインゴ」がフランスのフラン工場の生産ラインから姿を消したのは、242万台が生産された後の2007年のことだった。実用車として、またあからさまなチューニングのベースとして、そのステータスは、良質のオリジナルモデルを探すことをますます困難にしている。シルやサイドメンバーを錆が蝕んでいる個体も多い。特に折りたたみ式ルーフの初期型は、ほとんど見つけることができない。

トゥインゴに問題がないわけではないが、実際に故障することはほとんどなく、故障してもほぼすべての部品がすぐに入手できる。
Photo: Klaus Kuhnigk

大林晃平:
ルノー トゥインゴが登場した1992年。フランスの小型車は魅力に持ち溢れていた。プジョーには106があり、シトロエンにはAXがあり、さらに同門のルノーにはシューペル5もあって、いったいどれを買ったらいいのか迷うほどの充実ぶりである。もし僕が大富豪だったら、間違いなく全部買って並べて、日替わり定食のようにその日の気分で選んで乗ったと思う。

そんな中でも、トゥインゴの最大のライバルは106で、徹底的にコンサバティブで自動車の基本に忠実で、実用車の中の実用車を演じた106に比べると、トゥインゴはちょっとファッショナブルで「陽」な魅力を醸し出していた。もちろん106も実に洒落た実用車だったし、トゥインゴよりもお洒落じゃないことなどまったくなかったが、モードとか流行に敏感だったのはトゥインゴの方だと思う。

なにしろ1992年9月のパリモーターショーでアンベールされた時には、コンセプトカーかと見紛うような姿で、特に内装のお洒落な配色や、実にカラフルで美しいグリーン やイエローなど、フランス人以外が設定したら滅茶苦茶ダサい配色になってしまうような絶妙のバランスの上に成り立っていたお洒落さといえるだろう。

青いシート生地に散りばめられた赤い幾何学的な模様のシートや、ミントグリーンに彩られたスイッチ類、シンプルだが美しいメーター文字など、もう文句のつけいる隙がないほど素敵なデザインを取り仕切ったのは、この頃ルノーでブイブイ言わせていたパトリック ルケマンで、彼なしにはこんな粋でセンスにあふれた造形もカラーリングも成立しなかったであろう(そういう意味では、のちにラインナップされた「KENZO」バージョンもお洒落なことは間違いないが、個人的にはデザインの完成度と純度と言う観点では、初期のこのモデルに尽きると思う)。

トゥインゴには最初期はOHVモデルだったモデルと、その後SOHCになったモデル、さらには16バルブのエンジンも積まれたし、トランスミッションもMTのほかに、イージー(言ってみればクラッチがないMTで、マニュアルミッションのように変速してあげなくてはいけない)、クイックシフト(こちらはちゃんと自動変速する、ロボダイズドMT)、さらには本国にはちゃんとトルクコンバーターを持つATモデルもあったが、日本には輸入されなかった。

なんでちゃんとしたトルクコンバーターのATを日本に輸入しなかったのかはちょっとナゾだが、トゥインゴはその構造上(おそらくスペースの関係で、右ハンドルにした場合に、ペダル配置などが成立しなかったのだろう)、右ハンドルモデルがなく、左ハンドルモデルのみというラインナップだったからではないか、と思われる。

そんなトゥインゴではあるが、もちろんお洒落で可愛いだけの自動車ではなく、ものすごく実用性にあふれ、洒落ていて、快適で、タフで、文句なく乗って楽しい自動車であった。そんなトゥインゴの最初期型を所有し、長年にわたり愛用していた大切な親友が身近にいたことを思い出す。緑色のカエルのような車中で、「トゥインゴと言う名前は、ツイスト&タンゴという造語と、カエルちゃんという意味もあるんだそうです」と教えてくれたのも博識な彼だった。

10万kmを優に超えたトゥインゴで、関西から東北まで、彼の運転でそれこそ人も荷物も満載状態で、床を踏み抜くほど全開で東奔西走したあの時間は、まさに青春の貴重な時間だった。そしてそんな、彼の、飛ばすけれども、全く不安のない華麗なドライビングにこたえるように、トゥインゴはフルスロットル状態でも一切の不安もないまま快適にタフに走り続けた時間に、僕は自動車とはどういうものなのか、そしてそれを愛する仲間とはどんなに大切でかけがえのない存在なのかを、深く教えられたように思う。今でも、空の上で、そんな彼は、全開で走り回っているのだろうか・・・。

Text: Matthias Techau and Frederik E. Scherer