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【クラシック オブ ザ デイ】打倒マツダ ロードスター! 日常的な実用性とオープンエア感覚を併せ持つボンドカー BMW Z3とは?

2023年9月21日

ジェームズ・ボンドとともにスクリーンで活躍したロードスター。ジェームズ・ボンド・カーに憧れるなら、BMW Z3 1.8(1996年)に興味があるかもしれない。日常的な実用性とオープンエア感覚を併せ持つ、手頃なロードスター。クラシック オブ ザ デイ!

1990年代に小型の「マツダMX-5ロードスター」が成功を収めたことで、ドイツのメーカーも2シーターのオープンスポーツカーを提供するようになった。

メルセデスが1996年に「SLK」をサーキットに送り込んだのに対し、BMWは「Z3」を公道で、そして大きなスクリーンで公開した。ジェームズ・ボンド役のピアース ブロスナンは、『007 ゴールデンアイ』の中で、この小型ロードスターを駆って陽光降り注ぐキューバをクルージングした。完璧なプロダクトプレイスメントだ!

アメリカで製造された最初のBMW

バイエルンのロードスターは、スパータンバーグ(米国サウスカロライナ州、米国初のBMW生産拠点)の、当時真新しかった工場で、生産ラインからロールオフされた。ロングボンネット、ショートオーバーハング: Z3はソフトトップを備えたクラシックなロードスターである。サイドエアインテーク(機能なし)は「BMW 507」を彷彿とさせる。

タイムレス: 光るタッチスクリーンの代わりにシンプルなノブを備えた90年代のコックピット。
Photo: Helmut Werb

華やかな「Z1(1989-1991)」と「Z8(2000-2003)」の間に位置する「Z3(ベーシックバージョンで43,700マーク=約355万円)」は、普通のクルマとしての役割を与えられ、成功を収めた。1996年当時、この妥協のない2シーターは46,000台以上を販売し、2002年までに合計280,000台近くの「Z3」が生産された。今日、市場には多くの「Z3」が出回っており、走行距離の長い巨人であれば、5,000ユーロ(約80万円)という低価格で提供されている。

どのエンジンを買うべきか?

エンジンは、115馬力の4気筒(1.8i)から、192馬力、後に231馬力の6気筒モデル(3.0i)まで、幅広く用意された。しかし、最もパワフルなバージョンでは、61,300マルク(約500万円)を支払う必要があった。よりパワフルなのは「M」モデルだけだった。タイトにカットされたインテリア、リアアクスルの近くに座ることで、ドライバーは道路との集中的なつながりを体験する。

窓枠の前にある2つのラッチを緩め、ソフトトップを座席の後ろに放り出すだけ。
Photo: Christian Bittmann / AUTO BILD

ベーシックバージョンの115馬力は、ゆったりとしたクルージングには十分だ。初期モデルでは、ウィンドウシールのずさんな仕上がり(水漏れ)に悩まされ、乳白色のプラスチック製リアウィンドウ、ぐらつくシート、不安定なフロントアクスルには忍耐が必要だ。後者はダイナミックなドライビングには向いていない。

Z3は「トレーナー」として最も高価だった

Z3のクーペバージョンである”ターンシュー”は、当時物議を醸したが、今日では特に象徴的である。1998年当時でさえ、2.8リッターバージョンのシューティングブレークは、64,000マルク(約520万円)からと、決して安くはなかった。クーペは17,000台で、ロードスターの台数には遠く及ばなかった。

垂涎の的: BMW Z3はクーペとしては17,000台しか製造されず、今日でも高価である。
Photo: Holger Schaper

シャープな「M」バージョンと2.8リッター6気筒の他に、ルーフを持つこの2シーターには後に3リッターにボアアップされたエンジンも用意された。「Z3」は2002年7月に生産を終了し、後継モデルは「BMW Z4」となった。

大林晃平:
BMW Z3はボンドカーの一台と言われてはいるものの・・・、長年のボンドオタクからすると、ちょっとそりゃあ違うんじゃないかな、と言うのが自説である。そもそもこのZ3がスクリーンに登場したピアース ブロスナン時代の007には、BMWが3台ボンドカーとして登場する。今回のZ3(ゴールデンアイ)、750iL(トゥモロー ネヴァーダイ)、Z8(ワールド イズ ナット イナッフ)の3作品で、妙に小難しく覚えにくい判別しにくいカタカナ表記の映画名であることが、007ファンには不評である(ピアースブロスナン時代の007映画そのものは、個人的に楽しくて好きである)。

当時はなんで英国MI-6のスパイのジェーム スボンドさんが、ドイツのバイエルン地方の自動車にわざわざ乗らなくっちゃいけないのよ、改造を施す(生粋のイギリス人の)MはBMWをばらしながら、ゲルマン民族はこんなけったいな設計しているのか、と不満の一つも述べているのではないか、と私も思ったものだが、そこはそれ、思い切り大人の事情だからやむを得ない。アルバートRブロッコリー プロデューサーだってそんなこと百も承知なはずである。(映画製作のEONプロダクションが、3本続けてBMWを劇中に登場させるという契約を交わしてしまったとのことである。この頃007映画も、興行成績などちょっとした苦境の時代ともいえるので、やむを得なかったのであろう。)

さてそんな3作品の中で、スティンガーミサイルを搭載し、なかなかの活動を見せるものの、あっけなく半分に切り刻まれて任務を終える「ワールド イズ ナット イナッフ」のZ8(実車が間に合わず、中身はシヴォレーのV8エンジンを乗せたクルマだったという)や、AIVISのレンタカーとして登場し(ハンブルグという場所で目立たないように移動するためにわざわざBMW 750iL……いう苦肉の設定だったのではないか、とは考えられる))、攻撃ガジェット満載の750からすると、はたしてこのZ3はボンドカーと言ってもよいのだろうかと思うほど活躍が少ない。

ゴールデンアイの中での登場シーンは2か所。確かにMのラボラトリーで一応ミサイルなどの改造を施されているシーンはあるし、ボンドカーを綿密に取り上げた解説本には、ミサイルのほかにもパラシュートブレーキや自爆装置なども装備されている、はず(と多くの「007解説書」には書いてある)が、どの装備も一切使われないまま瞬間芸ともいえる登場でZ3のシーンはオシマイ。

フロリダ(撮影はプエルトリコで行われ、ちゃんと顔が映るように本革シートの上に厚いバスタオルをひいて座るボンドガールを演じたイザベラ スコルプコの撮影ショットが有名)で、旧知のCIA友人であるフェリックス ライターからセスナを受け取るシーンに、単なる移動用のアシ車として登場しただけでZ3はスクリーンから消える。えっ? もういっちゃうの? Mが用意して解説してくれた装備はどうするの? Z3はまた後で出てくるのかもなぁ、という淡い期待を裏切って、Z3は銀幕の向こうに去って行ってしまう。

せっかくZ3がボンドカーとして登場すると聞き、どんな活躍をしてくれるのかと期待していたのに、最後はボンドから受け取ったZ3をちょっとだけドリフトさせ、嬉しそうにカウンターステアを当てながら走り去っていくライター・・・。これでZ3はもうボンド映画には戻ってこない。通算で2分ほどの「友情出演」だろうか・・・。そんな扱われ方をしたZ3ではあるが、これで未来永劫、ボンドカーの一台として仲間入りさせてもらえ、堂々と解説本などで紹介されるのであれば・・・、よかったのか・・・、な。

そんなZ3ではあるがゴールデンアイが公開された1995年の12月、アメリカの超高級デパートだったニーマンマーカスが、クリスマススペシャルカタログの中で「Z3 007スペシャルエディション」を100台限定販売している。ニーマンマーカスといえば、クリスマスカタログの中に、突拍子もないほどの高額クリスマスプレゼントを用意するのが有名で、以前にはプライベート潜水艦や、ヘリコプターなども掲載し話題となっていた。

そんなニーマンマーカス クリスマスカタログ1995年版の目玉になったのが、「Z3 007スペシャルエディション」であった。その内容としては映画と同じアトランタブルー(カラーコード番号306)に塗られ、映画で登場したのと同じビスケット色の本革シートとソフトトップを装備。ほかに特別装備としてはウッドのステアリングとシフトレバーもあったが、実はゴールデンアイに登場していたZ3にはこれらの装備はされていないので、ここだけはピュアなファンには「映画と違うじゃん」と不評であった。

ほかにも「007」の刺繍が入ったフロアマットと、専用ラゲッジ類が付属し、100台が用意されたこのスペシャルエディションはアメリカだけで販売されたが完売。アメリカって、やっぱり豊かで広い国だなぁ、とあらためて痛感したエピソードであった。なお蛇足までにこの「007スペシャルエディション」、今でもたまにアメリカの中古車サイトで見かけることがあり、だいたい2万ドル程度(300万円前後)で取引されているようである。

そんなZ3のデザイナーは日本人の長島譲二さん。自分の車がボンドカーに選ばれるなんて名誉の中の名誉ともいえるが、「ゴールデンアイ」を観たはずの(絶対に観ているはずだ!)長島さんに、映画を見終わった後の感想をぜひ聞いてみたいものだ。

Text: Matthias Techau