【007祭り】One Car Is Not Enough: 1台だけじゃぜんぜん足りない MI6のカンパニーカー「ボンドカーの系譜をたどる」 Part2

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2002年に封切られた『007 ダイ アナザー デイ』はシリーズの第20作目に当たる作品であり、ブロスナンボンドの最後の出演となった。アストンマーティンとしてはこの節目の作品を逃すまいとして3作振りに450hpのヴァンキッシュでボンドカーに復活することとなったのだが、その装備は、透明になってしまうデバイスを含めていささかインフラ気味。さらに登場シーンでも一生懸命説明しようとする新しいQを相手に、秘密装備の取扱説明書(そんなもの書面で用意したら秘密は駄々洩れだが)を木っ端みじんにしてしまうなど、やや悪乗り気味。だがBMWよりもやはりジェームズ ボンドにはアストンでしょう、と妙に安心したことも事実。
(Photo: Werk)

『007 ダイ アナザー デイ』はシリーズ20作目というだけでなく、第1作目の『007 ドクター ノオ(1962)』が封切られてからちょうど40年が経った2002年の作品でもある。そんなわけで『007 ダイ アナザー デイ』には過去の作品のオマージュがふんだんに盛り込まれており、例えばヴァンキッシュのボディカラーは『007 ゴールドフィンガー』のDB5と同じシルバーに塗装されていた。この写真ではミサイルと機関銃が見えた状態で走っているが、ドライ路面でこの二つが登場するシーンはないので、プロモーションのための撮影走行、と思われる。 (Photo: AUTO BILD / AUTO EXPRESS)

アイスランドの凍結地で撮影されたアクションシーン、その撮影期間は3週間にも及んだ。ヴァンキッシュに乗るボンドが、敵のザオが乗るジャガーXKRの追走をかわす。
といっても実際にはどちらも4輪駆動車(おそらくアメリカの大型SUV)のシャシーに、それぞれのドン柄を乗せたものであり、あくまでも撮影用のスペシャルである。だがせっかくのカーチェイスも、透明になってしまう装備と雪上という速度感を感じにくい舞台設定があだとなり、いささか現実離れしてしまい残念。 (Photo: 20th Century Fox)

ハル ベリー演じるNSAのエージェント、ジンクスはフォード サンダーバードに乗ったが、アメリカの組織たるNSAがアメリカ車に、というのはある意味正解といえる。まあ実際問題としては同じフォードの中でもトーラスかエクスプローラーあたりの方が地味で、仕事しやすいとは思うが。 (Photo: Werk)

悪役ザオが放ったミサイルによりヴァンキッシュは横転し、ルーフを下に着地してしまう。ではなぜボンドは生還できたのか。答えは簡単、サンルーフを開け、パッセンジャー側の射出シートを使って車をもとに戻したのである。(何回考えても、物理的に横転した状態から、シートの反力で車が元に戻るとは考えにくいが、それこそがボンド映画である。この後パラセールで太陽ビーム光線から逃げたりするのだから、あまり深く考えてはいけない)
それにしても適役がジャガー、というのは「スペクター」でもそうだがイギリス同士の戦いのようで面白い。(最近、上司のMが乗るのもジャガーXJかレンジローバーである。それだけイギリスを大切にした映画なのだともいえる)
(Photo: 20th Century Fox)

(Photo: Hör Zu)
(Photo: 20th Century Fox)

第21作の『007 カジノ ロワイヤル(2006)』ではボンド役を演じる俳優がダニエル クレイグに変わったが、ボンドカーはやはりアストンマーティンが勤めた。登場するDBSは撮影の時点では実車がなく、やむを得ずDB9をモディファイして使ったそうだ。本作のDBSはファンを喜ばせる華々しい秘密兵器はなかったが、解毒剤を注射でき、細動除去の機能を持つ応急キットをグローブボックスに備えていた。しかしDBSは後半のカーチェイスシーンで7回横転するという離れ業を演じ(?)、運転したスタントマンは「ワールド スタント アウォード」で「もっともひっくり返って回ったで賞」を受賞(実話)した。(Photo: Hör Zu)

役柄に相応しくないし、地味ではあるが『007 カジノ ロワイヤル』でボンドはフォード モンデオに乗っている(レンタカー、として乗っているし、車中では尾行装置としてソニーのXperiaを使用している。それだけタイアップ効果が大きいのだろう)。2006年撮影時はまだ開発途中だったため走行可能なモンデオはなく、フォードはプロトタイプを手仕上げしてバハマに空輸し、撮影に供した。 (Photo: Werk)

日本では2015年12月4日に公開された『007 スペクター』は、007シリーズの24作目に当たる。ボンド役はダニエル クレイグ。お約束通りアクション満載で、ボンドガールもボンドカーも登場するが、ストーリーはややミステリアスだった。写真はスペクターが乗る、砂漠での送迎用ロールスロイス ファントムIII。誰が整備しているのか気になってしまうようなシーンではあるが、それこそが秘密結社スペクターなのだ。ちなみにスペクター(Spectre)とは、“Special Executive for Counter intelligence, Terrorism, Revenge and Extortion”の頭文字をとったもので、簡単に翻訳すれば、とにかく世界的に悪いことをする特別機関、ということになる。実際にサンダーボール作戦でも、今回のスペクターでも、悪者が集まって、ああだこうだと世の中をゆすってお金をせしめる算段をするシーンが登場する。あくまでもお金のための組織であり、世界征服をしようとか世界を破滅させようとか、そういう組織ではないところがポイント。

『007 スペクター』でダニエル・クレイグが演じるボンドのためにアストンマーティンは撮影用に10台を用意した。また敵役のジャガーC-X75も複数台が撮影用に用意され、ローマの街や、バチカン広場(!)を縦横無尽に走り回ったが、結局市販されず結局コンセプトカーで終わった。アストンもジャガーも、実際に市販されない車輛を使ったことに関して、生粋のファンからは「ボンドカー(とその悪役の車輛)はせめて、市販ベースにすべき」という声も多く、確かにあまりに現実離れしてしまうことは、007の自己否定にもつながりかねない。つまりボンドカーも、スーツも、アタッシェケースも時計も、男として手に入る可能性がある範囲の夢、を与えることこそがボンド映画の任務であるともいえる。(まあどんなに頑張ってもボンドガールと殺しのライセンスは無理なわけ、ですが)

2015年1月、ダニエル クレイグと撮影クルーは、人口700人の普段は静かなオーストリアの小村オーバーティリアッハを訪れた。飛行機のクラッシュなど、アクションシーン撮影のためだった。雪深い当地ではアストンマーティンではなく、レンジローバースポーツSVR(左)と大径ホイールを履いたランドローバー ディフェンダー(右)が活躍した。近年のボンド映画ではランドローバー社の車輛が登場することが大変多く、敵味方入り乱れて??使用されているシーンも多い。一方、敵のみが使用することが多いのはアウディで、黒いアウディが登場した場合、だいたい敵の殺し屋が乗っている、と思ってよい。

格好いいボンドカーに乗り、ステアではなくシェイクしたマティーニかドンペリニヨンを飲みながら世界中を駆け回り、Qの貸してくれた秘密兵器で世の中と美女を危機から救い、最後にメイクラブする……男の夢なんて、しょせんそんなもんよ、と思いつつ、映画を見終え「ボンビキビンビン……」とテーマ曲を鼻歌で奏でつつ、自分の車がボンドカーのつもりで高揚感たっぷりに帰宅する、それが007映画の醍醐味だ。

実際に原作者のイアン フレミング「世の中の男子の夢なんてもんは、しょうがないねぇ」と言いつつ、男の夢物語をしたためていたそうである。

この重装備はいったいどうしたことか!
ローマ市街路を疾走するシーンの撮影では、スタントマンがルーフ上からアストンマーティンDB10を操った。といってもダニエル クレイグの操縦技術が足りなかったからではなく、車内を撮影するのに多数のカメラと照明機材を要したため、前がみられなくなってしまったことと、ダニエル クレイグにはどう考えても無理な、スリリングな曲芸走行をするため、である。

「スカイフォール」冒頭のランドローバーのシーンも、新作「NO time to Die」
のDB5のシーンもこの写真と同じようにルーフ上にスターが乗り、遠隔操作で車輛を運転しているが、いったいどういう仕掛けで正確に遠隔運転できるのか、そのシステムをみてみたいものである。(ブレーキやステアリングなど、大丈夫なのか、と素人は思ってしまう。思い切りドライブバイワイヤにでもなっているのだろうか??)

なお、デイリーミラー紙によれば、この時の撮影ではテヴェレ川河岸で、DB10もジャガーもそれぞれ川に落ちたそうだ。やっぱりアクシデントはつきものなのだろう。やれやれ。 (Photo: Getty Images)

(Photo: dpa)
(Photo: DPA)

Text: Lars Busemann、大林晃平