One Car Is Not Enough: 1台だけじゃぜんぜん足りない MI6のカンパニーカー「ボンドカーの系譜をたどる」Part1

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映画007シリーズの25作目となる『No time to die』が、ようやくこの4月に封切りとなる。様々な理由で製作が1年以上遅れたが、ダニエル クレイグ最後の作品となるのは間違えないため、大きな転換期の一作となるであろう。25作目の本作でボンドカーに起用されたのは、アストンマーティンDB5(とV8 )であるが、これを期に過去のボンドカーの活躍振りを振り返ってみよう。

おそらく世界でもっとも有名なスパイ、ジェームズ ボンドはこれまでの24作で、人もうらやむ豪華なクルマを運転し、めちゃくちゃに壊してきた。もしあなたが1日だけ殺しのライセンス「ダブル オー」を与えられたらとの質問に、39%の男性がボンドガールと一夜を過ごすより、アストンマーティンで出かける方を選ぶと答えている。これはドイツのマーケットリサーチ会社Forsaがコカコーラの依頼により、19~35歳までの男性1000名を対象にアンケートを出して得られた結果である。妙なことを調べるアンケートもあったものだが。

ところで今までボンドはアストンマーティンばかりではなく、平凡なクルマにも、(一時期はドイツのクルマであるはずのBMWがボンドカーであったこともある)乗っており、それが一躍脚光を浴びたこともある。『ユア アイズ オンリー(1981)』ではシトロエン2CVを操り、追走する2台のプジョー504とカーチェイスするシーンはその一例といえよう。

Photo: Werk

『007 黄金銃を持つ男(1974)』では、地味なAMCホーネットでおどろくようなスタントを演じ、センセーションを巻き起こした。悪党スカラマンガを追走するボンド(ロジャー ムーアが演じた)は、破壊された橋を飛び越え、空中でノーズを進行方向に向けたまま車体を360度回転させてみせた。当時最高のコンピュータを使用して徹底的にジャンプ台の角度や速度などを計算 & 解析したこのシーンは多くのファンにとって印象に残るシーンの一つだろう(残念ながら、スローになったり、妙な効果音がつけられたりした編集が、おおいに速度感をそいでしまってはいるが)。

ボンドカーの中のボンドカーといえば、いうまでもなく、アストンマーティンで、とりわけDB5だろう。映画史に燦然と残る、名脇役であるともいえる。初めて登場したのは『007 ゴールドフィンガー(1964)』。“Q”はDB5にリヤからせり上がる防弾壁やオイルを噴霧し、霧を出す仕掛け、さらには追走するクルマに“まきびし”をばらまくデバイスなど、ありとあらゆるギミックを搭載した。さらには助手席の噴出シートや、スイス、英国、フランス登録に変わる回転式レジスタープレートなどでファンを楽しませた。

この時に使用された実車は、撮影後に「普通の姿」に戻され、中古車として販売されたという…。信じられないことだ。

ゴールドフィンガーの撮影にはDB5のプロトタイプが使われ、スタントにはこれとは別の1台が使われた。なお作中のボンドカーを模した生産型DB5も2台製作され、プロモーションに供され、現在もアメリカのコレクターなどが大切に所有している。

このボンドカーの装備は「コーギー」のミニカーでも有名な飛び出る助手席シートをはじめ、ウインカー裏から出るマシンガン、リヤホイールのセンターハブから回転するナイフが伸びて、併走する敵のクルマのタイヤをズタズタにするデバイス、敵の行方を見失っても心配不要の、今でいうナビシステムのような画面レーダーシステムなどなど装備満載(いったい、どれくらい重いのだろうか、心配になってしまう)。

なお、ボンドカーとして絶対的な地位にあるDB5はその後も『007 サンダーボール作戦(1965)』、『007 ゴールデンアイ(1995)』、『007 トゥモロー ネバー ダイ(1997)』、『007 カジノ ロワイヤル(2006)』、『スカイフォール(2012)』、『スペクター(2017)』にも登場し、最新作の『No time to die』においても大活躍する姿が予告編において目撃されている。 (Photo: Werk)

2008年封切りの『007 慰めの報酬』での冒頭シーン。アストンマーティンDBSに乗るジェームズ ボンドが複数のアルファロメオ159に攻撃を受ける。
『007 慰めの報酬』は、イタリア ガルダ湖周囲のワインディングロードを舞台にした、息を飲むようなカーチェイスから始まるが、スタントマン曰く「今まででも一番ハードなスタントのひとつ」だったそうで、実際に湖に落ちた車輛もあったとか。(落ちた車輛はDBSだったらしいが、撮影中ではなく移動中というのが、なんともお粗末な話ではある)

159(とトラック)の総攻撃を受けてボロボロのDBS。まあボンドカーの使い方などこんなものである。車両価格24万ユーロの(日本の販売価格は当時2999~3276万円だった)アストンマーティンDBSを複数用意してこんな目に遭わせたのだから、映画の総制作費が2億3000万ドル(約250億円)に達したと聞いても頷ける。  

だが『慰めの報酬』は全体的に、編集とカメラのカット割りがやや早すぎて、せっかくのこの冒頭のシーンもいったいどういうカーアクションが行われているのか、ちょっと見にくいのがたまに傷ではある。(Photo: Werk)

『007 慰めの報酬』では冒頭のカーチェイスシーンが展開しただけでなく、ハイチの街やチリの砂漠というボンド映画では珍しいロケーションも選ばれた。『007 慰めの報酬』では新型フォードKaもスクリーンデビューを果たした。オルガ キュリレンコ演じるボンドガール、カミーユがこれに乗って、ハイチの首都ポルト オ プランスを走り抜ける。残念ながらボンドは彼女の横に座わるだけで運転はしなかったが。なおこのKaはプロトタイプで内装なども未完成、グローブボックスなどは羽目殺しだったという(Photo: Werk)

ジェームズ ボンドが美しいスイスアルプスでゲルト フレーべ演じるオーリック ゴールドフィンガーを追跡するシーン。(なお、ゲルトはドイツ語で金であり、オーリックも金を表すため、金三重奏である。萬屋錦之介の演じる遠山の金さんみたいなものか)ここで活躍したのが“ホーマー”と呼ばれるレーダーシステム。ゴールドフィンガーのロールスロイスのトランク内部にホーマー(発信器)をつけ、ボンドがセンターコンソールのスクリーンでその信号を傍受した。ホーマーには小さいものもあり、ボンドの靴のかかとに収まっている。

それにしてもこの写真では、どう見ても屋根に脱出装置用の切りかきがないため、「普通の」車輛を使って撮影したと思われる。またフロントフェンダーと左ドア部に、どう考えてもへこみ傷があるのだが、撮影中にどこかにぶつけたのだろうか。

映画に使われたDB5のインテリア。車載電話がドア内張に内蔵され、シフトノブのボタンを押すとパッセンジャーシートが射出される。ボンド専用の武器ケースはドライバーズシート下に位置し、アームレストには数々の秘密兵器用スイッチが隠れている。デスモンド リューウェリン演じるQが、開発ラボでその説明をするシーンは必見であり、「1時間もあれば説明できるよ、でも全部こういった装備はこわさずに返却しておくれ」と伝えると、ボンドはやれやれと呆れた顔をする。当然、実際にこわさずに返却することは一度もない。(Photo: Werk)

DB5にはフロントだけで3つの秘密兵器が隠れている。前方に伸びるオーバーライダー。スイス、英国、フランス登録車に変わる回転式のナンバープレート。そして方向指示器の奥から姿を現すマシンガン。ただし映画では今まで、オーバーライダーを使ったシーンは一度もない。

このシーンではジョークのためか、プロモーションのためか、「JB007」のナンバーがついているが、実際には「BMT216A」というのが、ボンドカーのナンバープレート番号であるはず。いくらなんでも007のナンバーがついていては、スパイ業はなりたつはずがない。

“Q”はDB5のリヤにも防御システムを備えた。上方にせり上がる防弾壁は乗員を守る。オイルを噴霧し、霧を出す仕掛けが敵の追走を阻む。ナンバープレートはフロント同じように回転式で敵を混乱させる。
テールライトの奥には“まきびし”をばらまくデバイスが潜み、後続のクルマをパンクさせる。

同様のギミックはその後。『トゥモロー ネバー ダイ』に登場したボンドカーBMW750にも装備されていたので、古典的ながらMI6ではいつの時代にも有効な武器と考えているらしい。

それにしてもこの位置に防弾ボードを装備してしまうと、トランクリッドは開かない、はず(だが、ゴールドフィンガーではゴルフセットを出し入れしている)だし、ものすごく重いはずなので、前後の車重バランスが思いやられる。(Photo: Werk)

1965年の『007 サンダーボール作戦』でも再度アストンマーティンがボンドカーに起用された。ここではショーン コネリー演じるボンドがロケット ベルト(ジェット パック)で脱出している。後方の敵に向かって放水するデバイスも新登場。なお、この写真ではフロントグリル中央に何か装備がありそうな雰囲気なのだが、いったいこれがなんなのかは不明なのが残念。(Photo: Werk)

『007は二度死ぬ(1967)』のボンドカーはトヨタ2000GTのオープンモデル。生産モデルは国内向けと国外向けを合計しても351台しか作られなかったが、コンバーチブルはこの映画のために製作したスペシャルで、ショーン コネリーの座高が高すぎるので、大至急オープンカーにしてほしい、と言われた由。作中ではボンドは運転せず、若林映子演じる「アキ」のパッセンジャーシートに収まった。ギミックはボイスコントロールのカセットプレイヤー、SONYの車載テレビ、ライセンスプレートカメラ、丹波哲郎演じるタイガーと会話する無線電話などなど。

なお、このオープンボディへの擬装作業は、トヨペットサービスセンター綱島工場(現在はショッピングモールとなり、中にトヨタのディーラーが入っている)において、突貫工事で行われた。この写真は撮影場所たるニューオータニ駐車場入口付近と思われるが、東京で行われた撮影では主にニューオータニ近辺、246、赤坂などで行われた。運転したスタントマンによれば「信号無視して走って、イギリス大使館に入ってしまいなさい、そうすれば絶対に大丈夫だから」と伝えられ、実際にパトカーに追われながら撮影を慣行したそうである。なんともいい時代だ。(今なら国際問題である)(Photo: Werk)

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