One Car Is Not Enough: 1台だけじゃぜんぜん足りない MI6のカンパニーカー「ボンドカーの系譜をたどる」 Part2

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1969年封切りの『女王陛下の007』はシリーズの第6作目になる。ボンドカーはアストンマーティンDBS。“Q”に秘密装備はなかったが、人生で唯一結婚したボンドのウェディングカーとなった。だが地味なボンドカーということは間違いなく、実際に市場においてもこのモデルは比較的に不人気である。そしてそれは、たった一作だけ出演したジョージ レイゼンビーの姿ともどこかオーバーラップしてしまうのである。(レイゼンビーの英語はオーストラリアなまりがあまりにひどく、撮影後にすべて吹き替えられたという。しかし本人はそのことに気がつかなかったとも伝えられている)(Photo: Werk)

『007 ダイヤモンドは永遠に(1971)』ではジル セント ジョン演じるボンドガールのティファニー ケースがフォード マスタング マッハ1に乗った。(それにしても、ボンドガールの名前はどれもだいたい隠語ではあるが、ティファニー ケースとは、『ダイヤモンドは永遠に』というタイトルにひっかけたことは間違えない)ラスベガスのカーチェイスシーンの中でボンドは右側2輪走行で路地に入り、途中で(いつのまにか)左2輪ですり抜けるという撮影ミスがあり、これは007映画史に残るミスである。(Photo: Werk)

クルマによる脱出シーンはボンドカーに限らない。『007 ダイヤモンドは永遠に』では宇宙研究ステーションからの脱出に月面車を使った。だがこのマシーンはえらく作りが悪く、パラボラアンテナは鳥かごみたいだし、走るたびにアームがボヨンボヨンと動いてしまうのは興ざめ。(そもそもこの作りじゃ、カプセルから酸素が漏れちゃうし、月面の凹凸を超えられそうにない)
(Photo: Werk)

『007 黄金銃を持つ男(1974)』では、市内のカーディーラーに展示してあったAMCホーネットを盗み(おいおい)、目を見張るようなスタントを演じた。悪党スカラマンガを追走するボンド(ロジャー ムーアの2作目である)は、破壊された橋を飛び越え、空中でノーズを進行方向に向けたまま車体を360度回転させてみせた。当時最高のコンピュータを使用して徹底的にジャンプ台の角度や速度などを計算 & 解析したこのシーンは多くのファンにとって印象に残るシーンの一つだろう(残念ながら映画では、スローになったり、妙な効果音がつけられたりした編集が、おおいに速度感をそいでしまってはいるが)。(Photo: Werk)

ショーン コネリー演じるボンドのお気に入りはアストンマーティンだったが、ロジャー ムーアの出演作ではロータスが多く使われることになった。エスプリの最初の登場は『007 私を愛したスパイ(1977』)』で、初期のエスプリS1が登場。(内装はチェック柄である)

写真はボンドガールを演じたバーバラ バック(ロシアのスパイで、アニヤ アマソワ少佐。暗号名は「XXX(トリプルエックス)」。意味は18歳未満、お断り)とロジャー ムーア。

『007 私を愛したスパイ』に登場するエスプリS1は地上を走るだけではなく、敵のキャロライン マンロー演じる「ナオミ」が操縦するベルヘリコプターに追われて海中に……だがあっという間に潜水艦に変身するのでご安心を。
“水対空”ミサイルなどを備えており、水中攻撃の備えは完璧だったし、海岸に上がるシーンでは魚を海水浴客にプレゼントするなどサービスも満点である。
なお、サブマリンになった姿のロータス エスプリをデザインしたのは、ケン アダム、特撮技術ディレクターはデレク メディングス。デレクはサンダーバードにも関わったスタッフでもあり、ケン アダムともども007に長年撮影に貢献した超一流スタッフである。モーリス ビンダーの影絵もそうだが、当時のスタッフはキラ星のごとく素晴らしいメンバー勢揃いである。

なお、サーの称号を受けたロジャー ムーアは1973(『死ぬのは奴らだ』)~85年(『美しき獲物たち』)の間に制作された合計7作品でジェームズ ボンドを演じ、2017年5月23日に89年の生涯を閉じた。ショーン コネリーのボンドよりもやさしく甘いボンド像だが、娯楽映画としては、ロジャー ムーアのボンド作品が一番楽しい、という声がファンの間では大きいのも事実である。(Photo: Getty Images)

(Photo: Werk)

海中へエスプリごとダイブする直前にボンドが助手席のロシアの女スパイ、アニヤ・アマソワ少佐に話し掛ける。
その時のセリフ、
“Can you swim ?”は、
ロジャー ムーアだから言えるセリフでショーン コネリーでは似合わない。
ロータス社がイオンプロに売り込んでエスプリが採用されたらしいが、実際に撮影するには数台のエスプリが必要となる。しかし、ロータス社の所有車輌だけでは不足した為、コーリン チャップマン個人所有のエスプリまで駆り出られたという。
それにしてもボンドガールとかタイトルのネーミングって際どいものが多い。
「プッシー ガロア」とか、いいのかな?
Pussyは子猫ちゃんという意味だが、性的なスラングとしても使われている。
その他にも、
Holy Goodhead (なんて上手な??だ!)
ゼニア・オナトップ(They you are on a top)
トリプルエックス(XXX)
と果てしなく続く。
「私を愛したスパイ」の主題歌は「Nobody does it better」というのだが、アメリカ合衆国の何処かの州では放送禁止になったらしい。
「貴方ほど〝それ″が上手い人はいない」と解釈できるそうだ(;^_^A)。

 『ムーンレイカー(1979)』のブラジルロケで、タキシード姿でMPラッフェルとともにポーズを決めるロジャー ムーア。(アルミホイールが微妙にダサい)。実際に映画の中ではMPラッフェルをボンドカーとして使用することはなく、ちょい役として使用しただけであるが、ブラジルの車としての選択と登場の意味は間違っていない(同様に、途中でわざわざ登場するコンコルドも同様の意味を持っている。当時はブリティッシュエアウェイズがコンコルドを、ブラジルに就航させていた、という事実こそが大切なのである)

『ユア アイズ オンリー(1981)』の504と2CV(角目なので、2CV6)のカーチェイスシーン。このシーンは宮崎駿の「ルパン3世カリオストロの城」のシーンに影響を受けたといわれており、実際にそうと思われる、似たようなシーンが登場する(栗の木の枝や網の中をユーラスに突破するシーンなどがその一例)。なお、ボンドあやつる黄色いシトロエン2CVはこの映画用にモディファイされており、シトロエンGS用のエンジンに換装されていた。 (Photo: Werk)

“Q”が準備したボンドカー、最初に登場する白いロータス エスプリ ターボは「特殊な防犯装置搭載」というステッカーを貼ってあったにもかかわらず、敵がサイドウインドーを割った瞬間に自爆してしまう。仕方なくボンドはキャロル ブーケ演じるメリナ ハブロックの黄色い2CVに乗ることとなり、独特のシフトレバーに戸惑うシーンさえ出てくる。

映画に公開に合わせ、メーカーのシトロエンは作中に登場したのと同じ明るいイエローに塗装した2CVを限定販売、弾丸が貫通した跡を示すステッカーや、007のロゴステッカーまで用意された。 (Photo: Werk)

第12作『007 ユア アイズ オンリー(1981)』の後半のボンドカーは派手なカラーのロータス エスプリ ターボ。スパイがこんな目立つ車にのってどうする、とは思うが、それこそが娯楽映画の中の娯楽映画である。特別なQ装備は登場しなかったが、ショーン コネリー演じるボンドのお気に入りはアストンマーティンだったが、ロジャー ムーアの出演作ではロータス エスプリが代表的なボンドカーといえよう。オリン製のスキーがなんとも時代を表して格好いい。

ドアに貼られた007のステッカーはもちろん撮影時にははがされ、ついていない。(あたりまえだ)。イタリアにおける撮影中に着ているロジャー ムーアのジャケットにも誇らしげに007のロゴが入っている。 (Photo: Werk)

(Photo: Getty Images)

『007 ユア アイズ オンリー』の1シーン。GPビーチバギー(?)に乗った敵のエミール ロック (演じるのはマイケル ゴダード)がイタリアの砂浜にてボンドに攻撃をしかける。ボンドがちょっと浜辺には不釣り合いなドレスシャツでいるのは、この日の朝までカサンドラ ハリス演じる「リスル伯爵夫人」と一夜を共にしていたためであるが、最初のボンドガールはわりとあっけなく殺されてしまう、の法則通り、リスル伯爵夫人はこのバギーにはねられ死んでしまう。ちなみにカサンドラ ハリスは後のピアース ブロスナンの妻だったが39歳にてがんで逝去している。
(Photo: Picture Alliance)

おやじ! ガソリン満タン! 
『007 オクトパシー(1983)』のオープニング シークエンス、つまり話の枕で使用したアクロスターBD5。もちろん実機であり、ちゃんとこの機体を使って撮影したそうだ。なお、ロジャー ムーアはボンド役を降板したい意向だったが、最終的に説得されて次回作の『美しき獲物たち』まで出演した。(Photo: Picture Alliance)

新しいボンドに新しいボンドカー。『007 リビング デイライツ(1987)』ではティモシー ダルトンが4代目ジェームズ ボンドに就任し、ボンドカーとしてアストンマーティンV8ヴァンテージ ヴォランテが登場。秘密兵器はミサイル、レーザー発射砲、タイヤから伸びるスパイクとサイドから出るスノースキー板と自爆装置。危険な爆発物、満載の車輛である。なお、冒頭のシーンでは珍しくアウディ200に乗っているボンドの姿が見られるが、いまひとつしっくりこない。(オープニングのシーンで登場するSASのランドローバー ディフェンダーの方がしっくりと似合う。 (Photo: Werk)

007 ゴールデンアイ(1995)』では『007 ゴールドフィンガー』と『007 サンダーボール作戦』で活躍したアストンマーティンDB5が復活、5代目ボンドとして華々しく登場したピアース ブロスナンがカンヌの裏山で適役のファムケ ヤンセン演じる「ゼニア オナトップ」の赤いフェラーリ355とバトルを演じた。当時、この映画を見た故徳大寺有恒氏(当時アストンオーナーだった)は「どう考えてもあんなの無理、無理」とコメントしていたものである。

それにしてもこの撮影シーンを見る限り、ブロスナンは妙に嬉しそうにボンド役を演じているが、それもそのはず、実は4代目ボンドに就任するはずだったが、CMの関係で延期になってしまい、待ちに待ったボンド役がついにきたから、である。(Photo: Werk)

『007 ゴールデンアイ』ではボンドカーに初めてBMWが起用され、この後しばらくはBMWがボンドカーとしてスクリーンに登場する。この写真は発表間もないZ3にボンドとイザベラ スコルブコ」演じるボンドガール:ナターリア シミョノヴァの撮影シーン。ただしZ3が登場するのはQの開発研究室と、この2つのシーンだけで、あっという間にセスナに乗り換えてしまう。(BMWがボンドカーに決定したのは、映画の途中から、といううわさもあり、つまり急ごしらえの付け加えシーンである可能性も高い) (Photo: Werk)

ボンドカーではないが『007 ゴールデンアイ』にはボンドカーとしてT54戦車も登場する。ボンドがロシア陸軍の戦車をかっぱらってサンクトペテルブルグの街をめちゃくちゃに破壊しながら、ウルモフ将軍を追走する。なんだか正義の味方にあるまじき行為ではあるが、モンティー ノーマン作曲のジェームズ ボンドのテーマをバックに、戦車で豪快に街を破壊するこの景気良さこそが、当時の007映画の勢いを象徴していた、ともいえよう。
なお、この写真を見てもわかるように、キャタピラーにはゴムの保護カバーがつけられており、路面を傷めない配慮がなされてはいた。だが盗んだ戦車で古都や止まっている車輛を破壊しまくるとは、英国情報部の後始末が心配になってしまう。 (Photo: Werk)

レンタカー、返却するぜ!
第18作の『007 トゥモロー ネバー ダイ(1997)』で、はBMW750iLを携帯電話によるリモート操作で操ったり、ルーフ下のロケットランチャーや、自動タイヤ空気圧復帰装置、BMWロゴ下の金属のこぎりなどの新兵器でハンブルクの駐車場を舞台にカーチェイスを繰り広げたりする。Qがレンタカー会社AVISの係員として赤い背広(同社の制服である)を着て登場し、「車両保険は?」とか「同乗者保険は?」などと冗談交じりに話し、最後に「傷つけずに返却してくれよ」というセリフに対するボンドの行為が、このシーン。でも、ちゃんとAVISの会社に落下する、というのがオチとなっている。この頃の007はそういったノリの娯楽映画であり、それはそれで観る方としてはおおいに肩の力を抜いて満喫することができた。最近のように、出生の秘密や、MI6内部のゴタゴタ人事問題など、娯楽映画にとっては邪魔な、いい迷惑でしかないのだから。
なお、この無人走行シーンの撮影は、リアシートに運転席を設置した750を複数用意し、リアシートにスタントマンが潜り込んで運転したそうである。おつかれさま。(Photo: Werk)

ピアース ブロスナンがボンド役を演じた4作品のうちBMWは3回登場しているが『007 ワールド イズ ノット イナフ(1999)』でボンドカーを勤めたのはZ8。遠隔操作機能、サイドロケットランチャーなどを装備し、大活躍かと思いきや、途中でチェーンソー付きヘリコプターに真っ二つにされ、大した活躍もしないまま、桟橋から海へと沈んでしまう。なんだかボンドカーも、それを提供したBMWもそれで本当によかったのだろうか?なお、撮影用の車輛は実車のZ8ではなく、FRPで型を取ってそっくりに作ったレプリカだったという。
(Photo: Werk)

撮影中のスナップ。これで見る限り実車かな、とも思うが、どうやら中身はアメリカンV8のレプリカだったという。このZ8でBMWボンドカー時代は終焉を迎え、次回には「あの」アストンが、ちょっとやりすぎの装備テンコ盛りで復帰することとなる。(Photo: Werk)

2002年に封切られた『007 ダイ アナザー デイ』はシリーズの第20作目に当たる作品であり、ブロスナンボンドの最後の出演となった。アストンマーティンとしてはこの節目の作品を逃すまいとして3作振りに450hpのヴァンキッシュでボンドカーに復活することとなったのだが、その装備は、透明になってしまうデバイスを含めていささかインフラ気味。さらに登場シーンでも一生懸命説明しようとする新しいQを相手に、秘密装備の取扱説明書(そんなもの書面で用意したら秘密は駄々洩れだが)を木っ端みじんにしてしまうなど、やや悪乗り気味。だがBMWよりもやはりジェームズ ボンドにはアストンでしょう、と妙に安心したことも事実。
(Photo: Werk)

『007 ダイ アナザー デイ』はシリーズ20作目というだけでなく、第1作目の『007 ドクター ノオ(1962)』が封切られてからちょうど40年が経った2002年の作品でもある。そんなわけで『007 ダイ アナザー デイ』には過去の作品のオマージュがふんだんに盛り込まれており、例えばヴァンキッシュのボディカラーは『007 ゴールドフィンガー』のDB5と同じシルバーに塗装されていた。この写真ではミサイルと機関銃が見えた状態で走っているが、ドライ路面でこの二つが登場するシーンはないので、プロモーションのための撮影走行、と思われる。 (Photo: AUTO BILD / AUTO EXPRESS)

アイスランドの凍結地で撮影されたアクションシーン、その撮影期間は3週間にも及んだ。ヴァンキッシュに乗るボンドが、敵のザオが乗るジャガーXKRの追走をかわす。
といっても実際にはどちらも4輪駆動車(おそらくアメリカの大型SUV)のシャシーに、それぞれのドン柄を乗せたものであり、あくまでも撮影用のスペシャルである。だがせっかくのカーチェイスも、透明になってしまう装備と雪上という速度感を感じにくい舞台設定があだとなり、いささか現実離れしてしまい残念。 (Photo: 20th Century Fox)

ハル ベリー演じるNSAのエージェント、ジンクスはフォード サンダーバードに乗ったが、アメリカの組織たるNSAがアメリカ車に、というのはある意味正解といえる。まあ実際問題としては同じフォードの中でもトーラスかエクスプローラーあたりの方が地味で、仕事しやすいとは思うが。 (Photo: Werk)

悪役ザオが放ったミサイルによりヴァンキッシュは横転し、ルーフを下に着地してしまう。ではなぜボンドは生還できたのか。答えは簡単、サンルーフを開け、パッセンジャー側の射出シートを使って車をもとに戻したのである。(何回考えても、物理的に横転した状態から、シートの反力で車が元に戻るとは考えにくいが、それこそがボンド映画である。この後パラセールで太陽ビーム光線から逃げたりするのだから、あまり深く考えてはいけない)
それにしても適役がジャガー、というのは「スペクター」でもそうだがイギリス同士の戦いのようで面白い。(最近、上司のMが乗るのもジャガーXJかレンジローバーである。それだけイギリスを大切にした映画なのだともいえる)
(Photo: 20th Century Fox)

(Photo: Hör Zu)
(Photo: 20th Century Fox)

第21作の『007 カジノ ロワイヤル(2006)』ではボンド役を演じる俳優がダニエル クレイグに変わったが、ボンドカーはやはりアストンマーティンが勤めた。登場するDBSは撮影の時点では実車がなく、やむを得ずDB9をモディファイして使ったそうだ。本作のDBSはファンを喜ばせる華々しい秘密兵器はなかったが、解毒剤を注射でき、細動除去の機能を持つ応急キットをグローブボックスに備えていた。しかしDBSは後半のカーチェイスシーンで7回横転するという離れ業を演じ(?)、運転したスタントマンは「ワールド スタント アウォード」で「もっともひっくり返って回ったで賞」を受賞(実話)した。(Photo: Hör Zu)

役柄に相応しくないし、地味ではあるが『007 カジノ ロワイヤル』でボンドはフォード モンデオに乗っている(レンタカー、として乗っているし、車中では尾行装置としてソニーのXperiaを使用している。それだけタイアップ効果が大きいのだろう)。2006年撮影時はまだ開発途中だったため走行可能なモンデオはなく、フォードはプロトタイプを手仕上げしてバハマに空輸し、撮影に供した。 (Photo: Werk)

日本では2015年12月4日に公開された『007 スペクター』は、007シリーズの24作目に当たる。ボンド役はダニエル クレイグ。お約束通りアクション満載で、ボンドガールもボンドカーも登場するが、ストーリーはややミステリアスだった。写真はスペクターが乗る、砂漠での送迎用ロールスロイス ファントムIII。誰が整備しているのか気になってしまうようなシーンではあるが、それこそが秘密結社スペクターなのだ。ちなみにスペクター(Spectre)とは、“Special Executive for Counter intelligence, Terrorism, Revenge and Extortion”の頭文字をとったもので、簡単に翻訳すれば、とにかく世界的に悪いことをする特別機関、ということになる。実際にサンダーボール作戦でも、今回のスペクターでも、悪者が集まって、ああだこうだと世の中をゆすってお金をせしめる算段をするシーンが登場する。あくまでもお金のための組織であり、世界征服をしようとか世界を破滅させようとか、そういう組織ではないところがポイント。

『007 スペクター』でダニエル・クレイグが演じるボンドのためにアストンマーティンは撮影用に10台を用意した。また適役のジャガーC-X75も複数台が撮影用に用意され、ローマの街や、バチカン広場(!)を縦横無尽に走り回ったが、結局市販されず結局コンセプトカーで終わった。アストンもジャガーも、実際に市販されない車輛を使ったことに関して、生粋のファンからは「ボンドカー(とその悪役の車輛)はせめて、市販ベースにすべき」という声も多く、確かにあまりに現実離れしてしまうことは、007の自己否定にもつながりかねない。つまりボンドカーも、スーツも、アタッシェケースも時計も、男として手に入る可能性がある範囲の夢、を与えることこそがボンド映画の任務であるともいえる。(まあどんなに頑張ってもボンドガールと殺しのライセンスは無理なわけ、ですが)

2015年1月、ダニエル クレイグと撮影クルーは、人口700人の普段は静かなオーストリアの小村オーバーティリアッハを訪れた。飛行機のクラッシュなど、アクションシーン撮影のためだった。雪深い当地ではアストンマーティンではなく、レンジローバースポーツSVR(左)と大径ホイールを履いたランドローバー ディフェンダー(右)が活躍した。近年のボンド映画ではランドローバー社の車輛が登場することが大変多く、敵味方入り乱れて??使用されているシーンも多い。一方、敵のみが使用することが多いのはアウディで、黒いアウディが登場した場合、だいたい敵の殺し屋が乗っている、と思ってよい。

格好いいボンドカーに乗り、ステアではなくシェイクしたマティーニかドンペリニヨンを飲みながら世界中を駆け回り、Qの貸してくれた秘密兵器で世の中と美女を危機から救い、最後にメイクラブする……男の夢なんて、しょせんそんなもんよ、と思いつつ、映画を見終え「ボンビキビンビン……」とテーマ曲を鼻歌で奏でつつ、自分の車がボンドカーのつもりで高揚感たっぷりに帰宅する、それが007映画の醍醐味だ。

実際に原作者のイアン フレミング「世の中の男子の夢なんてもんは、しょうがないねぇ」と言いつつ、男の夢物語をしたためていたそうである。

この重装備はいったいどうしたことか!
ローマ市街路を疾走するシーンの撮影では、スタントマンがルーフ上からアストンマーティンDB10を操った。といってもダニエル クレイグの操縦技術が足りなかったからではなく、車内を撮影するのに多数のカメラと照明機材を要したため、前がみられなくなってしまったことと、ダニエル クレイグにはどう考えても無理な、スリリングな曲芸走行をするため、である。

「スカイフォール」冒頭のランドローバーのシーンも、新作「NO time to Die」
のDB5のシーンもこの写真と同じようにルーフ上にスターが乗り、遠隔操作で車輛を運転しているが、いったいどういう仕掛けで正確に遠隔運転できるのか、そのシステムをみてみたいものである。(ブレーキやステアリングなど、大丈夫なのか、と素人は思ってしまう。思い切りドライブバイワイヤにでもなっているのだろうか??)

なお、デイリーミラー紙によれば、この時の撮影ではテヴェレ川河岸で、DB10もジャガーもそれぞれ川に落ちたそうだ。やっぱりアクシデントはつきものなのだろう。やれやれ。 (Photo: Getty Images)

(Photo: dpa)
(Photo: DPA)

Text: Lars Busemann、大林晃平

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