「日産 ノート」と「日産 オーラ」との間違い探し
2025年7月22日

日産車の乗用車ラインナップの代表的な車種に乗って試す本企画の3台目は「日産 オーラ(Nissan Aura)」。小さな高級車は果たしてどれほど高級なのか?大林晃平が根掘り葉掘りチェックする。
日産横浜本社の地下一階で水色のノートから、赤いオーラに乗り換える。一見一緒に見える外板は実は別物で、実車は確かに抑揚が強い。またチョコレート菓子を髣髴とさせるホイールデザインも別物だしそこに履くタイヤサイズも大きい。果たして2025年の今、オーラは小さい高級車として成立しているのだろうか?
オーラのカタログには、ほとんど解説の文章が載っていない。最後の方の装備一覧と主要諸元のページを除けばほとんどはファッション雑誌のようなイメージ写真と文字数少なめのキャッチコピーだけで、どのような装備を持ち、どこが「普通の」オーラと違うかはまるで記されていない。ちゃんとePOWERの解説や4WDの仕組みが記された普通のノートのカタログとの違いはもう清々として気持ちいいほどで、こういう「イメージ写真だけの」カタログに出会うのは実に久しぶりである。前回に出会ったあれは、いったいなんの自動車のカタログだっただろうか……。
小さな高級車、それはもう半世紀以上もの間の課題であり、自動車メーカーの命題のようなものであった(と思う)。そのジャンルで圧倒的に有名なのはイギリスのヴァンデンプラで、ロールスロイスに普段乗っている方々が、混みあったロンドンのシティに向かうときにはコレを選ぶ、みたいな話を皆様も聞いたことがあるだろう。

僕の世代になると「ルノー サンク バカラ」が小さな高級車のあこがれとして有名で、僕も所有はできなかったが心の中でうっとりと憧れたものである。その後の代表として頭に浮かぶのはおそらく「トヨタ プログレ」で、今でも街中で見ることもたまにあるあの車、僕は買いそこなったこともある。買いそこなった理由は簡単で、ちょっとその頃の自分(30代)には不釣り合いのデザインと雰囲気だったからで、大いに悩んだ挙句結局購入には至らなかった。でも今見るとあの、ちょっと時代遅れの感じが魅力的に思える……のは僕が歳をとったからである、たぶん。
といったように個人的にも小さな高級車という存在には憧れるものの、今に至るまでサンク バカラもプログレももちろんヴァンデンプラも手に入れることはできないままだ。だが、最近ではレクサスLBXを街中で見る機会も多くなってきたし、映画のシニア割を使える年齢を迎えたのだから、いよいよこういう小さな高級車に乗る時期に必然的に到達したのかもしれない、などと思うことも多い。
そうはいっても、やはり世の中には大きい自動車=高級、みたいな呪縛のようなものはいつの時代にも存在しているのは事実なわけで、そこに日産として果敢と挑戦したのがこのオーラなのだろう、などと理屈っぽく思いながら赤い還暦色に塗られたオーラに乗り込んだ。
オーラはノートと同様、グレードはG(とGレザーエディション)のみの展開で(NISMO、AUTECHもある)それぞれに2輪駆動、4輪駆動のいずれも基本的にはモノグレードとなる。今回借用したガーネットレッド・スーパーブラックの2トーンに塗られたオーラはG FOUR、ということはつまり前回と同じ4輪駆動モデルである。その車両価格は3,061,300円。それに今回の広報車両はBOSEパーソナルプラスサウンドシステムを筆頭に、ADASのプロパイロット、ETC2.0、NISSAN Connectナビゲーションシステムなどのセットオプションが423,100円、ガーネットレッドとスーパーブラックの2トーン特別塗装色97,900円、クリアビューパッケージ25,300円、ウインドウ撥水処理13,255円、日産オリジナルドライブレコーダー85,674円、プレミアムフロアカーペット30,800円、トノカバー26,400円の合計3,761,929円。諸経費を入れると400万円カーである。
それにしても小さな高級車を目指すのなら、やっぱりトノカバーくらいは標準で付けてほしかった。ルノー バカラには上着などをしまうことができる、えらくスタイリッシュなトノカバーが装備されていたことを思い出す。
さてこれまたマイナーチェンジ前の方がずっと男前に感じられるような整形手術を施されてしまった、くどい顔つき(もののけ姫のアシタカをつい連想してしまう)にちょっと違和感を感じてしまった。

オーラのインテリアは先ほどまで乗っていた普通のノートが明るく、小型車として好感度全開であったのに対し、オーラはひたすらシックで大人っぽく演出されている。もちろん昔の小さな高級車のように明るく光ったウッドパネルとかコノリーレザー、あるいはピクニックテーブル(笑)のような価値観ではなく、より現代的な解釈の室内装飾である。
ダッシュボードやドアトリムに貼られたざっくりとしたファブリックの生地や、磨かれたウッドパネルではなく、最近はやりのオープンポア仕上げのシックなウッド風パネルなどが、都会的な大人向けセレクトショップか銀座6のTSUTAYAのような、なんとなくクールな雰囲気を醸し出している。

身体に大きく感じる差異としては、ふっくらフランス車的とさえいえた普通のノートのシート感触が、オーラではかなり張りが強く感じられたことで、これだけで違うクルマに乗り換えた感が強い。それでも馬鹿の一つ覚えのように標準では本革張りになっていないことに好感をもちながら、電動となったシートを調節して日産本社の駐車場から路上に出ると、まずはノートよりも静かなことが印象的であった。
細かい部分でいえばサイドウインドーが2重のガラスとなっているし、エンジンがかかった場合の透過音などの処理もあきらかにこちらは小さい。この静かなことは小さな高級車として絶対的に大切な部分だと思うので、この「普通の」との違いは重要なことといえよう。
もう一点気が付いたことは、乗り心地の違いで、これまたちょっと古いシトロエンZXシュペールみたいなフランス車的感覚がオーラにはなく、もっとしっかりと硬質的な感じが強いことで、タイヤサイズ(ノートが185/60R16に対し、オーラでは205/50 R17となる)や銘柄の差なども大きく関係しているように思われる。

はっきり言ってしまえば、路面状況によってはかなり厳しい突き上げやドタドタした感じがすることもあったし、そんな面に遭遇すると「普通の」ノートのあのいなし方が懐かしくも感じられた。ちなみに車重は普通のノート(4輪駆動)が1350㎏に対しオーラ(4輪駆動)は1380㎏。外板パネルとBOSEだけで30㎏ということは考えにくいので、他はおそらく遮音材などであろうか。
さてオーラのパワーユニットだが、発電用のガソリンエンジンである1.2リッター3気筒のHR12DEはそのままだが、モーターの出力が異なり、ノートがフロント116㎰/280Nm リヤ68ps/100Nmに対し、オーラでは136ps/300Nmリヤ68ps/100Nmとフロントモーターが20㎰ほど強力なものとなっている。
個人的には「普通の」ノートの性能で十分以上であり、この分野での性能の成長は必要ないと感じられるが、かつてのルノー サンク バカラの時代にもエンジンは普通のモデルよりも排気量が大きいものが搭載されていたし、上位に立つものはそれなりの力の差が必要なのかもしれない。そんなところも日産がルノーに学んだ部分、かどうかはよくわからないが、オーラの性能はノートよりもさらに上の、小型車としてもうこれ以上は日本の一般的な路上では必要ない、と思われるほど十分以上の速さと力強さであった。

さて普通のノートの時にも感じたがe-POWER 4WDのきめ細かい制御は驚くほどのもので、ちょっと空いた上りコーナーなどを少し早めに抜けるときの感覚は快感と言ってもよい。そして繰り返しになるが、これ以上の性能はもう日本の一般的路上では必要ないと思う。
一方、気になった点としては最初に抱いたかなり固めの乗り心地という印象は、長時間乗ってもそのままだったことで、その意味では乗員に優しい乗り心地は、シートも含め「普通の」ノートのほうが優れていると感じられた。タイヤサイズも個人的にはオーバーサイズに感じられ、ノートの185/60R16のほうが好みである。その方が交換の時に安価で済むし、なによりホイールのガリ傷の心配が減るのが個人的には嬉しい。
またこれはノートとオーラ共通の部分なのだが、パワーユニットを始動し走り始めたデフォルト状態では、必ず「エコ」モードになるように設定されている。だがこの状態はかなり回生ブレーキが強く感じられ、私は乗ると必ずモードスイッチを操作し「ノーマル」モードを選択して乗っていた。この部分はデフォルトでは「ノーマル」になるような設定のほうが自然なのではないだろうか。ひょっとするとユーザーの中には切り替えスイッチのことを理解しないまま、エコモードだけで走っている人も存在し、損な印象を抱いてしまっていないか、と余計な心配をしてしまう。
前回の記事でも記したが、初期のノートe-Powerに乗っていた女性は、結局9年近く「ワンペダルモード」の存在をしらぬまま、切り替えスイッチを一度も操作せずに使い切ってしまったという。そんなのは希有な例だと言われるかもしれないが、世の中のユーザーの使われ方というのは実際にはそんなものかもしれない、と痛切に思うこともある。
なにしろそのオーナーは「ウインドウウオッシャー液は、雨水が勝手に入って溜まるもの」だと長年思っていたのよ、と笑いながら言っていた。これを「何も知らないバカな例」と思うことは簡単だが、日常的に自動車を必要な3本目の足として酷使しているユーザーの中には、実はそんな感じの方も多いのではないか、と僕は思う。
生活に即した自動車はなにかとか、本当の意味でのユニバーサルデザインとは、というと話は大きくなってしまうが、最近の凝りまくった挙句複雑になりすぎたコントロール類を見ながら、だれにでも迷わずに使える操作系の重要性等を改めて痛感した次第である。

「これはいいぞ!激しく進化した「日産 ノート」はコンパクトカーの白眉」:https://autobild.jp/54165/
では結論として、「普通の」ノートとオーラを1週間づつ乗り比べてみて、価格差なりの魅力が感じられたり、オーラが小さな高級車として成立していたかというと、個人的にはあともう少しなのではないかと思う。確かにBOSEのオーディオシステム(といってもこれもオプション装備なのだが)やパワーシートなどの装備品は充実しているし、前述のとおり静粛性は明らかにオーラのほうが上である。だがせっかく何十億円(あくまでも予想)も投資し専用ボディパネルを用意したり、2重ガラスなどを採用したことは認めるものの、圧倒的な差が普通のノートとオーラの間にあったかと聞かれるとちょっと答えに窮する。
もっと明確なメカニズムの差、例えばオーラにだけプロパイロット2を採用するとか、より大きなバッテリーを積んでプラグインハイブリッド的に走行できるといったように、上位モデルならではの特別感満載の機能面での魅力もあってもよかったのではないか。「そんなこと簡単に言っても、作る方は大変なんだゾ!」という開発陣の声が聞こえてくることは必至だが、せっかく21世紀の小さな高級車を目指したのであれば、快適装備と速さという性能差だけではなく、先進的なメカニズムで勝負し、普通のノートと差別化しても良いのではないだろうか。
それでこそ「技術の日産」なのではないかと思う。
Text&Photo:大林晃平