【購入アドバイス】メルセデスSL(R107) どこをどう注意して購入すべきかを適切に指南 パゴダ(W113)の現状

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メルセデスSL(R107)ロードスターのクラシックカーとしての評価は?R107シリーズのメルセデスSLは、「若ければ若いほどいい」というのが経験則だ。初期の個体でサビの罠に陥りたくないなら、ロードスターのこんな問題点を知っておくべきだ!

SLと名のつくものは、生まれながらにしてクラシックである

しかし、1971年にパゴダの後継車がデビューしたとき、誰も、この車がこれほどの人気を博し、多くの人が購入するとは予想できなかった。生産開始から終了まで18年、今日ではドイツで3番目に人気のあるクラシックカーなのである。

そうメルセデスSL(R107)は、ダイムラーの中でも特別なクルマである。その人気の理由はたくさんある。長寿ブランドとしての生来の強みに加えて、スペアパーツの供給が充実していることもその一つだ。

この渋いクロームメッキの感じ。これこそがR107の魅力なのである。

● 280 SLから560SLまで
● 最もパワフルなR107: 450 SLから560 SL
● R107の一番のサビポイントは?
●神経質なサビのポイント
● スペアパーツの供給
● 中古市場の状況

「R107」は重厚さが決定的な印象となり、品質がヘビーメタルのような重い体験となった。つまり「SL」という魔法の略語は、もはや「スーパーライト」ではなく、「リッチ」や「ラグジュアリー」を意味している。そして世界中のカスタマーにいまだに支持されている。「R107」は18年間で237,287台を販売し、SLとしての最多販売台数記録を保持している。

6気筒のバージョン: メルセデス280SLと300SL

「280SL」の185馬力の直列6気筒(エンジンタイプ: M110 E28)は、セル内でのパワーは小さいが、その分エンジンの回転数は高い。オーバーランカットオフが導入される前(1981年10月)は、エンジンの回りの落ちる感じもあった。またオートマチックではかなり鈍重である。基本的には非常に頑丈なエンジンだが、後期の「300」よりも、メンテナンスが必要となる(バルブクリアランスコントロールなど)。弱点はカムシャフトの摩耗、ガタガタ音、オイル切れなどだ。

300SLに搭載された188馬力の直列6気筒: 走行性能と経済性を両立させたSLとしては最高のバランスのエンジン。しかし残念ながら日本には正規輸入されていなかった。まだこのころのメルセデス・ベンツのエンジンルームは雑然としており、見かけにはまったく気を使っていない。

その後「300SL」に搭載されている直列6気筒(エンジンタイプ:M103 E30)は、性能と経済性を両立させた、「R107」SLでは最もスムーズに回るエンジンだ。コールドランニングガバナを搭載し、「ユーロ2」にも対応している。低回転域では、「280」型よりもはるかにパワフルで、メンテナンスも少なくて済む、暖かく充実したサウンドのエンジンだ。それでも1988年9月までは、ランインカムシャフトやサーモスタットカバーの割れなどの問題があった。

8気筒バージョン: メルセデス350SLから420SLまで

「350SL」に搭載された200馬力のV8(エンジンタイプ:M116 E35)は、音がよく、回転が速いが、燃費は悪い(リッターあたり5.8~6.6km)。しかし全回転域での均一なパワーデリバリーが特徴だという。また、「V8-SL」では、唯一、マニュアルトランスミッションが用意されていたのも特徴だ。このエンジンは「450」と同じく鋳鉄製のV8なので、耐久性は抜群であり、メンテナンス性も高い。その後「380SL」に搭載された218馬力のV8(エンジンタイプ:M116 E38)は、低回転域からの力強い立ち上がりが特徴で、「500」とほぼ同等のフィーリングを持っている。1981年10月には204馬力のバージョンが登場し、経済性が大幅に向上した。弱点は(他の軽合金製V8と同様に)、壊れやすいスライドレール(経年劣化、タイミングチェーンの伸びやチェーンテンショナーの不具合が原因)だ。「420SL」のV8(218馬力)は、「380」をさらに発展させたものだが、性能面での優位性はあまりない。しかし「420SL」では燃料消費量もわずかに増加している。

最もパワフルなR107: 450SL~560SL

「450SL」に搭載されている225馬力のV8(エンジンタイプ:M117 E45)は紙面上からは想像できないほど、性能面では「350」よりも優れている。しかし、軽合金製エンジン(380、420、500)と比較して、メンテナンスの必要性が増加(1975年末まで、ブレーカー接点の交換とバルブクリアランスのチェック)している。「450」は、生産台数は多いが、それに比べてパーツなどの供給量は少ない。「450SL」に搭載された240馬力のV8(エンジンタイプ:M117 E50)は、225馬力バージョンよりも、俊敏な感覚を持っていたといえる。また「560SL」の230馬力バージョンのV8(エンジンタイプ:M117 E56)は、当時、ドイツ国内では入手できなかった北米、日本、オーストラリア向けの輸出モデルである。欧州の「Sクラス(W126)に搭載された「560」のエンジンに比べると、パワーは落ちてはいるものの、非常にトルクフルで、1981年10月から販売された「500」よりもファイナルドライブが短いこともあって、サーキットでの走破性も高かった。

メルセデスR107の主な問題はボディ部分の腐食

「メルセデスSL(R107)」は、その長い生産期間の中で、常に改良と開発が続けられてきたため、初期型と後期型では大きな違いがある。その転機となったのが、1985年秋のモデルチェンジである。ハンブルク近郊のバルムシュテットでヴィンテージメルセデス専門の修理&修復業を営むハラルド フォルマー氏は、「それまでの107は、インナーフェンダーなしで納車されていました」、と述べている。それ以降の車にはすでにインナーフェンダーが装着されていたため、フロントエンドの錆の問題はかなり軽減されていたという。

マニュアル作業: 2つの開閉バーによるルーフリリース。油圧による自動幌開閉システムが登場するのはR129からである。R129と比べれば、内装の(骨まるみえ)つくりなども意外と簡素だ。

「メカニズム的には、70年代のSLは特に変わったトラブルを起こすことはありません」とヴォルマー氏は報告している。「350」と「450」の「SL」に搭載されていた「280」の6気筒とV8の鋳鉄製エンジンは、後期のエンジンに比べて、わずかにメンテナンスが必要なだけだ。しかし「107」の主な問題点は、ボディ部分の腐食である。ヴォルマー氏は、1978年製のホワイトの「450SL」を例に、リフティングプラットフォーム上で何に気をつけるべきかを説明している。フロントエプロンの裏側を見ると、バンパーが取り付けられているフロントクロスメンバーに錆が付着している。ここにはすでに、道路の土や小石をぶつけた跡が板金に残っていることが多いという。1985年以降、この場所に設置されたバルクヘッドがあれば、これを防ぐことができた。そのパーツは、後付けは可能だと専門家は言い、またそれを勧めている。

メルセデスR107のさらなる神経質なサビのポイントはこれだ

フロントマスクとヘッドライトの周辺を見ると、「107」の初期モデルに見られる、もうひとつの典型的なサビの箇所が露出している。ヘッドライトボックスの上面には渦巻き状の汚れが付着し、水分を吸収している。そして、そのサビが下からフェンダーを突き破って押し寄せてくるのだが、フェンダーはネジ止めされているので、簡単に交換することができる。もうひとつの注意すべきポイントは、フロントシルの先端と、その後ろのジャッキポイントだ。インナーシルの状態は、フットウェルに向かってカーペットで覆われているため、判断チェックは容易ではないが、ノックすることや押してみるなどのテストで、壊れやすい部分を見つけることができるはずだ。

フロントシートの後ろには十分な収納スペースがある。リアのエマージェンシーシートはオプション装備だった(もちろん座ることなどできる形状ではないし、荷物、または愛犬を載せるためのもの)。パーツがあれば後付け可能だし、ちゃんとシートベルトも備わっていることにも注目。この写真のシート生地はMBテックスだと思われる。

「リアのホイールアーチ内に厚みを感じるようなら要注意です」とヴォルマー氏は車の下をチェックする必要を説く。その際、杜撰なレストアの痕跡は、ドアからリアエプロンへの移行部分によく見られるという。サイドチェッカープレートとトランクタブの接合部が錆びているのだ。「また、リアライトユニットの多孔質シールから水分が浸入した場合、タブ自体が内側から腐ってしまうこともあります」とも警告する。車の下で、安全に関わる錆の被害は、最悪の場合、後輪のサスペンションのピボットポイント周辺に見られる。

それ以外の注意すべき部分は、通常、消耗品の範疇に入るものがほとんどである。「初期型R107の純粋な魅力を評価する人は、製造年が古いほどサビとの関係が深くなる可能性があります」とヴォルマー氏は言う。一方、トラブルのないクラシックカーを求める場合は、購入時に「年式が新しければ新しいほど良い」という経験則が当てはまる。

リブ付きレンズ: メルセデスはR107でも汚れに強いテールライトを導入した。

現在では、在庫調整によって、「R107」の場合でもメーカーの消耗品や交換パーツなどの在庫ラインナップは薄くなっているが、メルセデス・ベンツ社のクラシックセンターでは、その隙間を埋めるべく努力している。また、愛好家のクラブや、独立したサプライヤーが補充を行っている。「R/C 107 Club」の会長であるギュンター ホーファーラー氏によると、現在、ボトルネックとなっているのは、主にエキゾチックカラーのインテリアパーツと、ロックシステムだという。後者は、同時期に生産された「W116」シリーズや「W123」シリーズにも影響しているという。「R107」には、クラシックカーのためのHナンバープレートが装着できるようになった。一番若い車でも初年度登録は32年以上前だからだ。したがって、触媒コンバーターが搭載されているかどうかという問題(後者のモデルは、メルセデスの専門用語で「後付け車両」を意味する「RÜF」と呼ばれる)は、少なくとも税金に関しては、もはや役割を果たしていない。

保存状態の良いメルセデスR107の価格は3万~5万ユーロ(約400~670万円)

1970年代から80年代の、安定した(高価な)価格推移を経て、現在では保存状態の良いものでも約3万〜5万ユーロ弱と決して高価すぎない価格となっている。また初期のものは後期のものよりやや安くなっている状況であり、これは供給が豊富であることが理由である。しかしそれでも、クラシックデータ社のマリウス ブルーネ氏によれば、一部のモデルの価格は2011年から50%以上も上昇しているという。そして、「パゴダSL」はそれ以上に上昇しており、中には80%も上昇しているものもあるというため、「R107」はまだそこまでの価格上昇には至っていない。それでも程度の良い「R107」が5万ユーロ(約670万円)以下で求められるのは、例外的なケースに限られる。状態の良い後期型「パゴダSL(W113)」は、まず5万ユーロ(約670万円)以上から始まることが多い。人気や在庫数では、ロードスターがクーペを上回っているが、価格差は人気の差から想像するよりも小さくなっている。ブルーネ氏によれば、出品されている「W113パゴダSL」の車両の大半は、メンテナンスが行き届いているとのこと。

パゴダSL(W113)

アメリカのメルセデスR107を改造する方法

アメリカからの逆輸入「SL」は、ヨーロッパ仕様に比べて魅力的なほど安いことが多い。グッドコンディションの「R107」でも、3万ユーロ(約400万円)を大きく下回る価格で入手できることが多い。しかし、ヨーロッパの「SL」との違いは、インパクトアブソーバーを内蔵した米国製の巨大なバンパーや、シールドビームデュアルヘッドライトだけではない。米国車のボディシェルは、バンパーの取り付け部分も異なっているのだ。そのため「US-107」をオリジナルパーツで、完全に「ヨーロピアン」に改造しようとすると、14,000ユーロ(約187万円)もの費用が必要になる。

R107は18年間で237,287台も販売された。

H4ヘッドライトへの換装だけで約3,600ユーロ(約48万円)、ボディインホワイトを施した新しいフロントバンパーとリアバンパーでさらに7,000ユーロ(約93万円)。さらに、トランクリッドの第3ブレーキランプ、テールライトのライトレンズ、マイルスピードメーターの改造(いずれも約1,000ユーロ=約13万4千円)など、細かい作業が必要となる。ドイツで登録するために最低でも必要となるものは、シールドビームヘッドライトインサートの改造、サイドポジションライトの除去、新しいタイヤなどでそれらだけでも合計約1,100ユーロ(約14万7千円)となる。やはりパーツ類などの価格に関しては覚悟が必要である。

本文中に「スポーツカー」という表現が出てくるが、「メルセデス・ベンツSL」は、スポーツカーかというと、そういうクルマでは本来ない。目を吊り上げてシャカリキに走るような性格の自動車ではなく、ビバリーヒルズのロデオドライブに買い物に行ったり、カンヌのはずれのレストランに食事に行ったり、といった時に、ゆるゆるっとオープンで出かける、そんな性格の自動車が「R107」であり、今でも「SL」の本質はスポーティではなく、ラグジュアリーなのではないかと思う。

日本に正規輸入された「R107 SL」は8気筒のみで、6気筒モデルは「R129」の後半に少数輸入されたということもあり、実際に「R107」に乗ってみると、エンジンのドロドロとした感じも、オートマチックトランスミッションの緩い感じも、はっきり言ってスポーツカーのようにしゃっきりしたものではなく、安楽で乗用車的なものである。そしてそれは決して文句ではなく、誉め言葉でもある。そう、「メルセデス・ベンツSL」とは、絶対的な速度を競うような自動車ではなく、快適で豪華なオープン2シーターであるべきなのだ。

もう40年以上も経過し、立派なクラシックカーの仲間入りとなった「R107」、良い感じにメルセデス・ベンツの脂ぎった感じが抜けて、品が良く見えるモデルとなった。特に最近のデコラティブなSL(というかメルセデス・ベンツ全般の車種にいえる、過剰でデザイン優先な路線)と比べると、シンプルでなんとも格好いい。

あの時代の、リッチでラグジュアリーな雰囲気を懐かしみながら、さらっと気負わずに乗ったら、きっと素敵だと思う。そして今の「メルセデス・ベンツSL」の販売が、世界的に不調な理由は、そんな部分の欠如にあるのではないか、と思ってしまうのである。

シャカリキに走るスポーツカーの要素など他の車に任せ、オジサン(とおじいさん)が、余裕をもってお洒落に乗るための2シーターオープンカー、そんな魅了的な自動車であることを「SL」はもっと徹底するべきなのではないだろうか。

Text: Martin G. Puthz
加筆: 大林晃平
Photo: autobild.de