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このクルマなんぼ? 60年代のアイコン アルピーヌA110対ポルシェ912 今どっちのほうが価値あるの?

2021年5月31日

Back to the 60s: ポルシェ912対アルピーヌA110

ポルシェ912とアルピーヌA110 1300、今買うならどっち? 軽快なアルピーヌA110がポルシェ912をコース上で追い抜く。2つのクラシックカーのうち、果たしてどちらが現在でも優位性を持っているだろうか? その結果は驚くべきものだった。

「ポルシェ912」は、かつてよく、以下のように揶揄されたものだ。「見た目は911と同じだが、パワーがなさすぎる。しかも、4気筒しかない」。しかし、レーシングラインや峠道、そしてタイトなハンドリングの愛好家たちは、最初から、よりパワフルで有名な兄貴分よりも、「912」を好んだ。4気筒の重量は136kgしかなく、ドライサンプ式のオイルタンクも取り外されているため、リアの重量は54kgも減っている。しかし、俊敏な「アルピーヌA110」との比較で、判明したことがある。それは、ポルシェはモータースポーツでも使用されたクーペであり、アルピーヌは一般道路走行許可も備えたレーシングカーである、という事実だ。

その生まれた背景を知ると納得できる。アルピーヌの生みの親であるジャン レデレは、月曜から木曜までは従業員に生産車を作らせ、金曜と週末はレースカーを作っていた。ルノーのディーラーであるアルピーヌは、メーカーからの技術提供とレーシングカーコンストラクターであるアメデ ゴルディーニの恩恵を受けていたのだった。そして、半世紀を経た今、この2台のクラシックカーはサーキットでどのようなパフォーマンスをみせるだろうか?

パイロンを軽々と通過するアルピーヌA110

我々のテストドライバーは、「アルピーヌA110」のフラットルーフの下に潜り込み、イグニッションキーを回して、スタートだ。スラロームでは、信じられないほど簡単かつ正確にパイロンを通過し、ストレートでは他の車よりも蛇行したラインでの傾きが少ない。「速く、速く!」。
アルピーヌは、水冷式のリアエンジンで外側に押し出すように走り、オーバーステアを発生するも、それは一時的なことで、ドライなコースではアクセルを少し緩めれば十分間に合う。
ダイレクトなステアリング、小さなステアリングホイール、低重量、低重心、引き締まったスプリング。それらはすべて優れた運動性能のために設計されている。突然現れる障害物を回避した際の車の挙動を見るムーステスト(エルクテスト)でも、アルピーヌはポルシェよりもかなり高い速度でしかバランスをくずすことはない。

直列4気筒エンジンの排気量は1.3リッター、出力は69馬力。760kgの重量で、1馬力あたり11キログラムのパワーウェイトレシオを実現している。

ポルシェ912はすぐに限界を迎える

アルピーヌの後では、ポルシェは意外なことにセダンのように感じられる。スラロームに突入すると、重たいシートが前後に揺れながらも、ポルシェは大きなステアリングホイールの回転に従順に従っているようだ。
「もっと速く!」。ペダルを数ミリ踏むタイミングで、コーナリングできるかできないかが決まるのだ。そしてアルピーヌ同様、次は、突然現れる障害物を回避した際の車の挙動を見るムーステスト(エルクテスト)だ。ポルシェは60km/hを超えると限界に達し、70km/hではスピンせずにはいられない。私たちの写真の車では、重量の55%だけがリアアクスルにかかっている。
これにより、「912」は初期の「911」よりも予測しやすく、疑わしい場合にはタイトコーナーをより速く通過することができる。実際のところ、「912」と「911」の違いは、初年度モデルの「912」に最も顕著に表れている。そして何よりも、1968年夏、ポルシェはリアホイールのスタビライザーと両モデルのホイールベースを57mm延長し、「911」を落ち着かせた。

ポルシェは912のホイールベースを57mm延長した。オーナーは、ホイール、ミラー、テールパイプなどでA110を個性化した。

よくレストアされたポルシェ912とアルピーヌA110は市場では珍しい

よくレストアされた「912」は市場にほとんど出回っていない。パーツだけでは、レストアにはまだお金がかからないからだ。ダッシュボードがペイントされた初期の車、サンルーフ付きの「912」、ソフトウインドーのタルガなどは希少であり、求められている。しかし、今後も価値の大幅な跳ね上がりは期待できない。クラシックデータ社によれば、「ポルシェ912」はコンディション2で50,500ユーロ(約680万円)、コンディション3で34,700ユーロ(約470万円)となっている。
一方、アルピーヌはどうだろうか?2017年に登場した新しい「A110」は、価格も含めてオリジナルモデルへの関心に拍車をかけている。以前は現代的なチューニングがシーンの大きなトピックだったが、現在では全体的に見て、オリジナルへの関心が高まっている。ファクトリーオリジナルの「A110」は市場では珍しく、ほとんどがコレクターの手に渡っている。クラシックデータ社のリストでは、コンディション2の「A110」が67,100ユーロ(約900万円)、コンディション3が44,600ユーロ(約600万円)となっている。

アルピーヌには5つの計器があり、ここには油圧とアンペアがある。スピードメーターやタコメーターは非常に高価だ。

結論:
「912」には、トランクの広さ、サスペンション、3,000回転以下のトルクなど、いいところがたくさんある。また、低回転でスロットルをコントロールすることができ、心地よいビートルサウンドを奏でることができる。ほとんど万能の車だ。しかし、「アルピーヌ」にそれを期待してはいけない。「アルピーヌ」の発明者であるジャン レデレは、常にモータースポーツを主眼に置いていた。いずれにせよ、技術的に優れたドイツ車と快適なフランス車という決まり文句は、この2台の車によって大きく覆されたことになる。

ポルシェはいつの時代も絶対的王者、という概念はいよいよ崩されたというか、そもそもポルシェが絶対的にいつも勝者になるということはなかったことに、ちょっと安心(?)した。もちろん年代とか車種によっては絶対的に、客観的に優れた自動車であることは間違いないが、それでもすべての年代ですべてのポルシェが優れていた事実もなければ、最新のポルシェは最良のポルシェなのかどうかも、本当かどうかは正直わからない。比較する場所や観点を変えればどちらが良いか悪いかも変わってくるし、そもそも成り立ちも考え方も違う2台なのだから、率直に言って今回の比較はどちらが楽しかった、あるいは操縦性や運動性が優れていたのはアルピーヌだったということだ。そして2台とも今乗ってみても楽しい自動車であったことは確からしいことも事実である。この2台の時代からかなりの年月が経ち、今もう一度同じような比較レポートができる環境が整っている。機会さえあれば、我々も乗って比べてみたい2台だ。

Text: Frank B. Meyer
加筆: 大林晃平
Photo: Christoph Börries / AUTO BILD