伝説のモデルをテスト メルセデスベンツ190E 2.5 16エボリューションⅡ 30年を経てその真価は?

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エボⅡは、メルセデスベンツ190Eのもっとも過激なルックスとパフォーマンスを兼ね備えたスペシャルエディションだ。しかし、エボⅡは、見た目ほど残忍な走りをしないし、見た目ほどスポーティな走りはしない。レジェンド190のドライビングレポート!

メルセデス190 E 2.5-16エボリューションII – 略して190エボII- は伝説だ!

190エボIIほど、他の190より獰猛に見え、より高価な190は存在しない。走行距離1万km未満のモデルはすでに40万ユーロ(約5,120万円)を超えているが、専門家たちは、エボIIはますますその価値を高める可能性を秘めていると予測している。今回、我々は幸運にも、希少な190エボIIの1台、生産された502台中、99番目のモデルをテストドライブする機会を得た!

走行距離9,307kmの190エボIIは417,600ユーロ(約5,345万円)

この信じられないほどの価格は、180万台以上製造されたW201のうちの1台について話しているのだ。今では、よくメンテナンスされた標準モデルの190E(W201)でさえも、すでに数千ユーロ(数十万円)で市場に出回っている。では、なぜエボIIだけがそんなに高価なのだろうか?

エボIIをとても特別なものにしている理由

その理由はいくつかある!
第一に: エボIIはスタンダード(標準)モデルではない。素人でも、XXLサイズのリアウィングを持つボディキットを見れば、そのことに気づくはずだ。
第二に: 190 E 2.5-16エボIIは502台しか製造されていないので、非常に希少だ。
第三に: 30年前のデビュー当時、115,259ドイツマルク(約750万円)という価格で、新車のベーシックモデル190Eの約3倍の価格だった。
そして第四番目の理由: CLK GTRを除けば、メルセデスベンツからの最後のホモロゲーションモデルだ。
※ホモロゲ―ションモデルとは、レース参加車輛としての資格を得るために一定数作られるモデルのこと。

真のホモロゲーションモデルである190エボIIは、実際にDTMマシンのように見える。

1990年に生産されたエボIIがメルセデスのポートフォリオの中で非常に特別な車であることには多くの理由がある。視覚的には、エボIIは本当に別の星から来た乗り物のように見える。そしてそれは大きく膨らんだホイールアーチや伸びやかなフロントリップ、特徴的なリアウィングによって強調されている。したがって、実際にはまるでレーストラックから来たかのような外観をしている。

エボIIはパーツも貴重品

しかし今日の目的地はレーストラックではなく、シュトゥットガルト周辺のカントリーロードであった。出発前に、フロントスポイラーを危険にさらさないためにも、「ハイドロニューマチックサスペンションを一番低い位置まで下げないように」、と言われた。最近はエボII専用のボディパーツはなかなか手に入らないことはよく知っていて、その要望はむろんよく理解できたので了解した。ちなみにテストカーは9,000kmで40万ユーロ(約5,120万円)を超えるプライスタグをぶらさげているエボIIの個体ではなく、総走行距離約74,000kmキロのモデルだったが、この車も完璧にメンテナンスされていて、20万ユーロ(約2,560万円)以上の価値はゆうに備えている。

フロントスプリッターは手動で引き抜くことができるが、特にご用心。この部分のスペアパーツはもうない!

190のインテリアは地味でクラシック

ドライバーシートに座って少し残念に思った。その残忍かつ獰猛な外見に比べて、インテリアはごく地味なものだからだ。油温やバッテリー電圧などの計器が追加されている以外は、量産型190とほぼ変わらない。バケットシートの代わりに、30年前の電動で調整可能なレザーシートがある。

空っぽのリアコンパートメント?
そんなものもなく普通にリアシートが備わっていた。
スポーツカー用シートベルトは?
ない。
その代わり、ステアリングホイールとダッシュボードは、この時代のメルセデスベンツ独特の雰囲気を醸し出している。

インテリアでは少なくともエボⅡには2つのクールなディテールがある。ライトスイッチの隣にはハイドロニューマチックサスペンションのボタンがあり、障害物の前では最大30mm上げたり、15mm下げたりして、特にスポーティなハンドリングを実現する。また、特筆すべきはギアセレクターレバーで、左側手前に引いてファーストギアに入れる「ドッグレッグギアボックス」だからというだけでなく、製造ナンバーが刻み込まれている。我々はその製造ナンバー「99/500番」とともに路上へと走り出した。30年を経て、ドイツではエボIIが正式にクラシックカーとなり、2020年からはHプレート対象車になるというのは、その獰猛なルックスから考えれば信じがたい。

コックピット内にもう少しエボⅡ用のオリジナルな部品が備わっていれば、本当に特別なモデルになっていただろう。
2つの金属触媒コンバーターを備えた2.5リッター4気筒エンジン(M102)は、最大出力を発揮するにはかなりの回転数が必要だが、今回のテストでは、この「コレクターズアイテム」を無理してレブリミッター(7700rpm)まで回すことは想定していない。235馬力と245Nmの最大トルクを持つエボIIは、ベンツらしい威風堂々とした乗り心地だが、今日のコンパクトなスポーツカーと比較して、特別に速くはない。

言うまでもなく、この車はオリジナルのDTMマシンとはまったく異なる。DTMマシンは4バルブ技術を用いて2.5リッター4気筒エンジンから370馬力を引き出し、最高回転数は9500rpmだった。重量は1トン以下で、最高速度は300km/hまで可能だった。ロードカーのホモロゲーションモデル「エボⅡ」は、それには程遠い。しかし、速く走ればいいというわけでもないことも事実ではあるし、試乗は特別な体験だった。ゆったりと、堂々と、そして快適な走りを満喫した。他の道路利用者たちがすれ違う時に時々戸惑いの表情を浮かべるが、無知な人々が何を考えているのかはよく想像できる。「この人は普通の190にどんなチューニングを施したんだろう?」と考えているに違いない。(笑)

エボIIでのテストドライブは特別な経験であり、速く走ればいいというわけではないことを教えてくれる。一方で、一目見て本物のエボIIと見分けることのできる愛好家たちは、感嘆の声を上げる。
それもそのはず。なぜなら、190エボⅡはCLK GTRと並んで、メルセデスの最後の真のホモロゲーションモデルだからだ。だからこそ、エボリューションⅡは、その見た目ほどスポーティに走らないという事実も簡単に許すことができるのである。

本サイトの記事にすでに何回も登場しているが、190エボリューションⅡはもはやコレクターズアイテムの領域に入っていて、その価格は前述の通り(かなりの距離を走ったモデルでさえ)、2,000万円を簡単に突破し、距離の少ないモデルは5,000万円以上もするというのだから、希少なモデルはとはいえ、もはや一般の人々には手の届かない領域の車になってしまった。以前はたまに中古車としてみかけた記憶もあったが、現在はすっかり見かけなくなってしまった。聞くところによれば、独特のボディパーツなどはもはや補修部品などが完全に欠品し、どこに依頼しても入手できない状況だというし、維持していくにはかなりの情熱が必要になるだろう。また本文にも記されている通り、21世紀の現在ではその絶対的な性能は特筆すべきものではなく、フォルクスワーゲン ゴルフGTIにも速さではとても敵わない。だがあの頃のDTMを知っている者にとっては、速い遅いなどそんなに大切な問題ではなく、あのDTMのレースを展開していたという歴史上の事実こそが重要なのである。

Text: Jan Götze
加筆: 大林晃平
Photo: AUTO Bild