メルセデス・ベンツSクラスのすべて その系譜を歴代モデルの解説で紐解く
2025年5月10日

1991年;3代目Sクラス/W140(1991-1998年)
12年ぶりのモデルチェンジとなった3世代目Sクラス。フラッシュサーフェイス化を徹底した、洗練されたスタイリングのボディは全長5.120mmまで大型化され、エンジンにはついに6L、V型12気筒エンジンが搭載されるなど、堂々たる存在感を持ったモデルである。

Sクラスの伝統である進取の気風はこの代でも継承された。ナビゲーションシステムや電子制御5速A/T、ESP(エレクトロ・スタビリティ・プログラム)、SRSサイドエアバック、さらにはブレーキアシストまで最新の装備が積極的に投入された。

相変わらずそのドライビングポジィションは四方見晴らしが良く、ハンドルが切れるので、はたで見るよりも運転は楽である。十分にスポーティドライブを楽しめるメルセデス・ベンツの操縦感覚、ふと我に帰ると知らぬ間に掛け心地の良いシートに一体化して安心感に浸っている自分に気がつくという包容力はSクラスオーナーの特権である。あらゆる技術も装備も運動性能、安全性能も他に一段と差をつけ、充実している。Sクラスはショーファードリブンとしても使われるが、基本的にはドライバーズカーである。

1998年;4代目Sクラス/W220(1998-2005年)
W140から一転、コンパクト化されたボディにソフトな印象の流麗なスタイリングを与えてSクラスの新しい方向性を示した先進モデル。
Cd値は0.27の空力ボディと大幅な軽量化、そして排気浄化性能に優れた3バルブヘッドを持つV型エンジンによって、環境性能は飛躍的に向上。一方で最高峰のS600ロングには5.5L、V型12気筒ツインターボを搭載して、高級車のパフォーマンス競争に終止符を打った。

エアマチックサスペンションや7G-TRONICなど、最新技術を真っ先に採用したのも伝統通り。また安全性は衝突の危険を察知すると被害を最小限に抑えるべく各種デバイスを連携させる「プレセーフ」を投入して安全哲学もさらに進化した。
2005年;5代目Sクラス/W221(2005-2013年)
パーソナルカーとしての側面をさらに強調したスタイリングで登場したのが5世代目のSクラスだが、それ以上にインパクトが大きいのがインテリア。新開発のCOMANDシステムに統合された各種操作系は、少ない視線移動で簡便な操作が可能になり、ナイトビューアシストなどさまざまな新機軸と合わせて、安全性に大きく貢献している。

搭載される3.5L、V型6気筒、5.5L、V型8気筒の各エンジンは新開発のDOHC4バルブ、進化したエアマチックサスペンションと組み合わされる。2009年3月にフェイスリフトされたこのSクラスは何といっても輸入車初のハイブリット車となるHYBRIDロングがハイライトである。安全性や快適性だけでなく環境保護への取り組みに尽力し、自動車の環境性能についても世界の指標となることを目指す成果のひとつが、ハイブリッドテクノロジーである。
2013年;6代目Sクラス/W222(2013-2020年)
6代目Sクラス/W222は戦後のメルセデス・ベンツが築きあげてきた高性能・高品質を高い次元で融合させたプレムアムセダンで、ステレオマルチパーパスカメラやミリ波レーダーを利用した安全システムが充実している。

フォルムは引き続き4ドアクーペ風だが、彫刻的なサイドビューや大きくなったフロントグリル、室内などの意匠はクラシック調に仕上げている。ボディシェルはアルミを50%以上使用し、約100kgの軽量化を実現し、ねじれ剛性は約50%向上している。油圧アクティブサスペンションを制御するマジックボディコントロールを設定。
2020年;7代目Sクラス/W223(2020年~)
現行7代目Sクラス/W223は2020年に発表され、さらに進化した安全性の集大成であるインテリジェントドライブを具現化した。

エクステリアは「Sensual Purity(センシュアル ピュリティ)」と称するデザイン思想に基づき、ラインやエッジを大幅に削減し、シームレスドアハンドルを採用。インテリアはインパネセンターに12.8インチのディスプレイを装備し機能を集約している。

また、派生モデルとして「メルセデスマイバッハSクラス」は究極の洗練を具現化した贅沢なサブブランド、「メルセデスAMG S 63Eパフォーマンス」はハイパフォーマンスラグジュアリーの未来を形作るエキサイティングなサブブランド、「メルセデスEQS(BEV)」は未来のモビリティのための新たなスタンダードを造り出す革新的なサブブランドを揃えている。
Sクラスの元祖モデルからの一覧(元祖Sクラスには諸説ある)
・220シリーズ/W187(1951-1955年)は元祖Sクラスに当たると言える
・180/W120 220シリーズ/W180/W128“Ponton”(1953-1961年)世界初衝撃吸収構造のセミモノコックボディを採用
・220シリーズ“Tailfin”/W111/112(1959-1971年)
・スマートなスタイルの250・280・300シリーズ/W108/W109(1965-1972年)
・初代Sクラス/W116(1972-1980年)「正式にSクラス」と呼ばれた
・2代目Sクラス/W126(1979-1991年)
・3代目Sクラス/W140(1991-1998年)
・4代目Sクラス/W220(1998-2005年)
・5代目Sクラス/W221(2005-2013年)
・6代目Sクラス/W222(2013-2020年)
・7代目Sクラス/W223(2020年-)現行Sクラス/W223は、元祖と呼ばれるW187から11代目
MANUFAKTURプログラムの採用
新たにメルセデス・ベンツは、個性ある特別装備「MANUFAKTURプログラム」を外観と内装に導入した。「MANUFAKTUR」とはドイツ語で製造・製作の意味で、「伝統的なクラフトマンシップ、そして最高品質を兼ね備えたサービスをユーザーに合わせて製造・製作」するというものである。適用される主な車種はSクラス、GLS/GLE、SLクラス、Gクラス、AMG GT、AMG GTクーペほか(2024年10月現在)。

この「MANUFAKTURプログラム」の最大特徴は、こだわりの自分仕様を作りあげられることである。フルオーダーメイドではないが、数多く設定された特別装備を新車購入時にオーナーの好みで選ぶことが可能。特にシートの素材はナッパレザーをメインとするが、一部のモデルではフルレザー仕様となるなど、モデルの特性に合わせてこだわりのある装備をラインナップ。例えば、シートと同色のナッパレザーのステアリングに仕立て上げることが可能。

他のインテリアではウッドやピアノラッカー仕上げなど最高級素材のみを使用し職人の手作業で磨き上げられる。外観では個性豊かなボディカラーがある(深みのあるソリッドペイント/力強くボディを際立たせるマットペイント/高光沢のあるメタリックペイント)。尚、このプログラムの詳細は専用ウェブサイトで見ることができる。
日本における「Sクラス」
さて、日本では60年代半ば、自動車輸入自由化と共に大企業が好んで社長専用車として求めたのが「黒塗り」のフィンテール/220S 4ドアセダン。これをきっかけに日本でも、Sクラスは正真正銘のメルセデス・ベンツのイメージリーダーとなった。
特に、吉田茂首相が西ドイツのアデナウアー首相と購入約束を果し300SELを愛用した。以来、高品質と最新技術を使い、自社のみならず、常に業界のお手本を示してきたSクラス。しかし、60年代までは世界の競合車種に比べて圧倒的に生産台数が少なく、品不足だけが唯一、頭痛の種だったといわれた。

そして、1970年代でも、納期は半年から10カ月もかかったが、幸い「待つだけの価値がある!」と理解を示すお客様にも恵まれたといえる。販売活動の一環として用意されたカタログ、ポスター、各種販促用品は当時の業界の常識を遥かに超えた豪華版。ところが、意外にも最も肝心なSクラスの展示には大げさな舞台装置などは全く必要なかった。Sクラスは「置くだけでOK!」。それ自身の存在感は周囲を圧倒する貫禄を示した。
Sクラスは競合各車を相手に性能数値上の比較を超越するレベルにあった。歴代の各種装備品にも数々のエピソードが語り継がれている。「ハイ・メカニズムがずらり勢揃い」、それに加えて「ドアの閉まる音は、まるで金庫のようだ!」、「本革シートはクルマの寿命がきても生き残る!」、「ダッシュボード全面を無垢で削り上げたドイツマイスターの手仕事!」などなど。
Sクラスに採用される全ての機構、安全装備はいずれも見事な完成域に達している。これらは、多くのオーナーが自らハンドルを握ることを喜びとしたことから自然と自慢話として語り継がれてきた。実際、Sクラスは外観から想像する以上に、乗ってみると運転し易い。これは「自分で運転しなければもったいない!」と思わせる軽快な操縦性に触れた実感であると言わしめた。
乗り心地についても、エアサスは60年代の300SEセダン、そして600リムジンからの経験を生かし、現代の電子制御により完成域にまで熟成されてきた。何時でも、どのモデルに乗っても安全で疲れないメルセデス・ベンツ。それを解り易く解き、オーナーを安心に導く配慮は半世紀を超える豊富な知識と経験のもたらすSクラスの高い功績だ。
現行のSクラスにはS450d 4MATIC、S500 4MATIC/ロング、S580 4MATIC/ロング、S580e 4MATICロング、AMG S 63 Eパフォーマンス、マイバッハS580/S680 4MATICなどの最新鋭モデルが揃っている。さらに、現在のメルセデス・ベンツラインナップには優れたサブブランドも揃えている。

メルセデスAMGはハイパーフォーマンラグジュアリーの未来を形つくるエキサイティングなサブブランド、メルセデスマイバッハは究極の洗練を具現化した贅沢なサブブランド、メルセデスEQS(EV)は未来のモビリティのための新たなスタンダードを造り出す革新的なサブブランドである。

メルセデス・ベンツ社の前身ダイムラー・ベンツ社の設立から100年、Sクラスの元祖220シリーズ/W187の生誕75年を迎える。輝かしいSクラスの系譜は、技術革新と共に綿々と続く。
TEXT:妻谷裕二
PHOTO:メルセデス・ベンツAG、メルセデス・ベンツミュージアム、妻谷コレクション。
【筆者の紹介】
妻谷裕二(Hiroji Tsumatani)
1949年生まれ。幼少の頃から車に興味を持ち、1972年ヤナセに入社以来、40年間に亘り販売促進・営業管理・教育訓練に従事。特に輸入販売促進企画やセールスの経験を生かし、メーカーに基づいた日本版カタログや販売教育資料等を制作。また、メルセデス・ベンツよもやま話全88話の執筆と安全性の独自講演会も実施。趣味はクラシックカーとプラモデル。現在は大阪日独協会会員。
【メルセデス・ベンツの歴史】
モーターレースを語らずにメルセデス・ベンツの歴史を語ることは不可能!(前編)
https://autobild.jp/10646/