【面白ネタ】日本では観ることのできない水陸両用車の世界 その3 エリーゼを走れて泳げて潜れる車に作り変えた

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リンスピード スキューバ(Rinspeed sQuba): 走ることも泳ぐことも潜ることもできるスイス製アンフィカー

スイスのチューナー、リンスピード(Rinspeed)社のボス、フランク リンダーケネヒトは奇抜なクルマを作ることで有名な人物だ。この2008年のジュネーブショーで発表された「スキューバ」は、ダイビングもできる。

アンフィカー(水陸両用車)の歴史
1899年以来、軍用も含め、研究者たちは何度も水陸両用車の夢を実現しようと試みてきた。
現代のアンフィカーを可能にしたのは2人の人物である。それは、水陸両用車のパイオニアであるハンス トリッペル(1908年~2001年)と実業家のハラルド クアント(1921年~1967年)である。
1961年、クアントはベルリンでアンフィカーの生産を開始したが、計画されていた25,000台という生産台数はまだ夢のまた夢的なものであった。
さらに、定期的な顧客サービス網はなく、海水の旅には公的機関から警告が出されていた。
専門家の話では、2500~3000台が生産され、1965年に生産が終了したとされている。

第2次大戦時にフェルディナンド ポルシェ博士の作ったタイプ166。このアンフィカーは後にライン川のレンジャー隊の足として活躍した。

「ジェームズ ボンド ムービー」をこよなく愛する人はよくおぼえていると思う。
40数年前、「私を愛したスパイ」の中で、ロジャー ムーアの演じるジェームズ ボンドは、ロータス エスプリに乗って、海の中を無重力のように泳ぎ、バーバラ バック演じるボンドガール、その名も「トリプル エックス」(18歳未満お断り)とともに海中散歩を楽しんでいたものである、
スイス人開発者、フランク リンダーケネヒトは、エリーゼをベースに生み出したリンスピード スキューバで、ボンドの潜水ロータスのコピーを作ろうと考えた。
そして、007エリーゼが事実上デレクメディングス撮影チームによる特殊効果によってダイビングをしていたのに反し、「スキューバ」は実際に海の中へとダイビングし、水中で泳ぐことができるように作り上げたのだった。
第78回ジュネーブサロン(2008年)で、初めて公開されたリンスピード社の水陸両用車は、ボタンに触れるだけで、道路上で運転できるだけでなく、水深10メートルまでの水中でも水中車両として使用できる。
最大2名の乗員のための呼吸用空気は、車載システムから供給される。
「スキューバ」は屋根のない構造でダイビングをするために、剛性の高いボディを備えている。
陸上では、クリーンな電動モーターが2つの後輪を駆動する。
水上では、2つの船尾のプロペラがボートを素早く前進させ、ダイビングステーションでは、船首の2つのジェットドライブが勢いを提供する。
リンスピードによれば、流れに最適化されたボディワークは超軽量の「カーボンナノチューブ」で構成されている。

凄い。4本の車輪を持つ水の生き物。スイスのチューナー、リンスピードが生み出したユニークな「スキューバ」。それは水の上で泳ぐことができるだけでなく、水中に潜ることもできる。
ダイビングマスクを付けて、ゆっくりと深呼吸して…。水がドアの上から流れ込み、コックピットが沈む。スキューバはアスファルトのためだけの車ではない。
サイドに備わった2基のジェットエンジンで、エリーゼは水の中に潜ることができる。3.6kWの強力なジェットを泡立たせながら、エリーゼは潜水を始める。そして電気回路が途切れれば自動的に浮上する。シンプルだ。
このプロジェクトのために、リンスピードはロータス エリーゼからカバーを完全に剥ぎ取り、発泡スチロールで覆った。こうして水に浮くのに十分な浮力を備えるに至ったのだった。
スキューバは鼻を先にして海の底に向かって沈んでいく。
小さな魚やカメが好奇心旺盛に側を泳いで過ぎる。
スキューバは10メートルの深さまで潜れる。たとえ水中マスクをしていても、ひじは外に出してドアをつかんでいなければならない。
浮上後、シートカバーはまる1日乾燥させなければならない。
船尾にある2基のプロペラが推進力を提供する。スキューバは常にプロペラの方向に回転する。
センターコンソールのボートレバーも水中ではステアリングレバーの役目を果たす。カバー以外はすべて防水だ。だがシートは乾くまで1日待たなくてはならない。
スキューバタンクからの圧縮空気がエンジンの電子機器を乾燥させる。
水陸両用エリーゼは最大トルク160Nmの電動モーターで走行する。
静かだが、最高時速120kmという速さだ。

まあ正直なことを言えば、これは水陸両用車、といえるかどうかは微妙なポジション?の車である。そもそも屋根がないために、水の中に突入する場合には、乗員は必ずそれなりの格好をして、それなりの水中用ギヤ(水中眼鏡、酸素ボンベとかレギュレーターなどなど)を装着して臨まなければ、海難事故必須である。
そう考えるならばこのリンスピードの「スキューバ」は、水中スクーターのようなもの、と思えば良いのであろう。

さらにリンスピード社は、前後どちらの車輪を電動で駆動しているのか記していないため、一抹の不安が残るのが駆動輪だ。基本的に4輪駆動でなければ水陸両用車は自力で水中から岸辺にあがることは、大変難しい。だからこのスキューバも後輪駆動であったならば、水から上がることに相当な困難が伴うだろう。そう考えると007「私を愛したスパイ」のように、海水浴場に上陸し、海水浴客にお土産のサカナを渡すことなど到底不可能なのだが、まあ娯楽映画にいちゃもん付けてもしかたあるまい。

と、ああだこうだ言ってはみたものの、熱中症警戒アラートなるものが発令されるほどの暑さの毎日に、こういう話題を目にすると、楽しそうで、涼しそうでなんとも羨ましい。そもそもこういった楽しい自動車が世の中にあることは、それだけで心が軽くなるような嬉しさなのである。

続く。
日本では観ることのできない水陸両用車の世界その4をお楽しみに。

Text: Stephan Bähnisch
加筆:大林晃平