【面白ネタ】日本では観ることのできない水陸両用車の世界 その3 エリーゼを走れて泳げて潜れる車に作り変えた
2020年8月29日
リンスピード スキューバ(Rinspeed sQuba): 走ることも泳ぐことも潜ることもできるスイス製アンフィカー
スイスのチューナー、リンスピード(Rinspeed)社のボス、フランク リンダーケネヒトは奇抜なクルマを作ることで有名な人物だ。この2008年のジュネーブショーで発表された「スキューバ」は、ダイビングもできる。
アンフィカー(水陸両用車)の歴史
1899年以来、軍用も含め、研究者たちは何度も水陸両用車の夢を実現しようと試みてきた。現代のアンフィカーを可能にしたのは2人の人物である。それは、水陸両用車のパイオニアであるハンス トリッペル(1908年~2001年)と実業家のハラルド クアント(1921年~1967年)である。1961年、クアントはベルリンでアンフィカーの生産を開始したが、計画されていた25,000台という生産台数はまだ夢のまた夢的なものであった。さらに、定期的な顧客サービス網はなく、海水の旅には公的機関から警告が出されていた。専門家の話では、2500~3000台が生産され、1965年に生産が終了したとされている。
「ジェームズ ボンド ムービー」をこよなく愛する人はよくおぼえていると思う。40数年前、「私を愛したスパイ」の中で、ロジャー ムーアの演じるジェームズ ボンドは、ロータス エスプリに乗って、海の中を無重力のように泳ぎ、バーバラ バック演じるボンドガール、その名も「トリプル エックス」(18歳未満お断り)とともに海中散歩を楽しんでいたものである、
スイス人開発者、フランク リンダーケネヒトは、エリーゼをベースに生み出したリンスピード スキューバで、ボンドの潜水ロータスのコピーを作ろうと考えた。そして、007エリーゼが事実上デレクメディングス撮影チームによる特殊効果によってダイビングをしていたのに反し、「スキューバ」は実際に海の中へとダイビングし、水中で泳ぐことができるように作り上げたのだった。第78回ジュネーブサロン(2008年)で、初めて公開されたリンスピード社の水陸両用車は、ボタンに触れるだけで、道路上で運転できるだけでなく、水深10メートルまでの水中でも水中車両として使用できる。最大2名の乗員のための呼吸用空気は、車載システムから供給される。「スキューバ」は屋根のない構造でダイビングをするために、剛性の高いボディを備えている。陸上では、クリーンな電動モーターが2つの後輪を駆動する。水上では、2つの船尾のプロペラがボートを素早く前進させ、ダイビングステーションでは、船首の2つのジェットドライブが勢いを提供する。リンスピードによれば、流れに最適化されたボディワークは超軽量の「カーボンナノチューブ」で構成されている。
まあ正直なことを言えば、これは水陸両用車、といえるかどうかは微妙なポジション?の車である。そもそも屋根がないために、水の中に突入する場合には、乗員は必ずそれなりの格好をして、それなりの水中用ギヤ(水中眼鏡、酸素ボンベとかレギュレーターなどなど)を装着して臨まなければ、海難事故必須である。
そう考えるならばこのリンスピードの「スキューバ」は、水中スクーターのようなもの、と思えば良いのであろう。
さらにリンスピード社は、前後どちらの車輪を電動で駆動しているのか記していないため、一抹の不安が残るのが駆動輪だ。基本的に4輪駆動でなければ水陸両用車は自力で水中から岸辺にあがることは、大変難しい。だからこのスキューバも後輪駆動であったならば、水から上がることに相当な困難が伴うだろう。そう考えると007「私を愛したスパイ」のように、海水浴場に上陸し、海水浴客にお土産のサカナを渡すことなど到底不可能なのだが、まあ娯楽映画にいちゃもん付けてもしかたあるまい。
と、ああだこうだ言ってはみたものの、熱中症警戒アラートなるものが発令されるほどの暑さの毎日に、こういう話題を目にすると、楽しそうで、涼しそうでなんとも羨ましい。そもそもこういった楽しい自動車が世の中にあることは、それだけで心が軽くなるような嬉しさなのである。
続く。
日本では観ることのできない水陸両用車の世界その4をお楽しみに。
Text: Stephan Bähnisch
加筆:大林晃平