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【JAIA輸入車試乗会】メルセデス・ベンツEQS 450+ 未来的なワンモーションフォルムと優雅にうねる曲線美を持つラグジュアリーEVモデル

2023年2月16日

数年前にドイツのシュトゥットガルトに個人旅行した時のことである。ご存知の方も多いと思うが、シュトゥットガルトはメルセデス・ベンツとポルシェの本社を抱える自動車の街であり、クルマ好きの聖地巡礼の必須科目のひとつである。その日は朝一番にポルシェミュージアムを訪れ、お土産にポルシェグッズを買い込んでから、ローカル線を乗り継いでメルセデスミュージアム最寄りのネッカーパーク駅に降り立った。ポルシェのイラストが描かれた紙袋にはお土産がたくさん入っているが、別に重いというほどではない。紙袋を片手にメルセデスミュージアムに入場しようとしたのだった。しかし……。

メルセデス・ベンツミュージアム

「そちらにロッカーがありますから、お荷物はそちらにお預けください」と、受付の背の高いお姉さんがポルシェの紙袋を持った筆者に告げる。特に重い荷物ではないし、ロッカーの利用は面倒である。ありがとう、でも大丈夫です、と日本人らしくやんわりとお断りすると、そのお姉さんは「その紙袋を持って当館に入場することは出来ません」とにこりともせずに仰る。メルセデスの聖地にポルシェの紙袋を持ち込むなど言語道断。氷よりも冷たい目がそう言っていた。典型的日本人である筆者はすごすごと引き下がり、紙袋をロッカーに入れ、依然として笑顔のないお姉さんにチケットを渡してやっとミュージアムに入れたのであった。それ以来、メルセデスのいかめしいエンブレムを見ると、この頑固だが職務に忠実で真面目なお姉さんを微笑ましく思い出すのである。

あれから月日が経ち、大磯ロングビーチでメルセデス・ベンツ EQS 450+と対面した。メルセデスの最高級EVらしく全長5225mm、全幅1925mmという大柄なサイズだが、未来的なワンモーションフォルムと優雅にうねる曲線により、Sクラスのような威圧感は覚えない。乗り込んでみても(オプション装備の)ダッシュボード全体に広がるスクリーンや、明るく開放的な内装色、ヘッドレストについたやわらかなクッションのおかげで従来の生真面目なドイツ車とは全く印象が違う。外装も内装も全体に肩肘を張ったところがなく、メルセデスというよりもシトロエンの最高級モデルのようだ。つまりEQSには、あのお姉さんを感じなかったのである。

走り出してもその印象は変わらない。やや硬めだがフラットな姿勢を保つ20世紀の伝統的なメルセデスとは異なり、ふんわりゆったりと路面の不整をいなしながらクルーズする姿は、まるでよく出来たアメリカ車のようだ。AMG仕様では前後に二基の搭載となるモーターは、450+ではリアのみの一基の搭載であり、システム最高出力は245kW(333ps)、最大トルクは568N・mである。よってポルシェ・タイカン ターボのような暴力的加速はしないが、それでも2530kgの車体を俊敏にダッシュさせるには十分な動力性能を持っている。もっとも、やさしい感触のヘッドレストクッションに頭を預けて気持ちよくクルマに揺すられていると、飛ばそうなどという気には全くならないが。これはアウトバーンの速度無制限区間をハイビームで突進するためのメルセデスではなく、お気に入りの音楽でも流しながら家族や友人と談笑しつつ人生の豊かな時間を過ごすためのクルマである。

メーカーや国籍によるテイストの差こそあれ、かつての欧州車はほぼ例外なくドライバーズカーであった。しかしEQS 450+は乗員に快適な移動空間を与えることを重視したモビリティであり、やがて遠くない未来に自動運転と車内エンターテインメントがそのコンセプトを完成形へと導くだろう。欧州の怖さはここである。いま日本はトヨタやスバル、マツダを中心にクルマ好きの琴線に触れるドライバーズカーをどんどん世に出しているが、一方で欧州はもともと日本が得意としていたリビングルームのように快適な移動空間を持つクルマ作りで次の時代の天下を狙っている。このいつもの手のひら返し……失礼、自己変革こそが欧州の強さであり、EQS 450+がそのフロントランナーであることを強く実感した試乗だった。

やわらかな方向に変貌しつつあるメルセデスであるから、きっと、ミュージアムの受付のあのお姉さんも今は笑顔で手を振りながら来館者を迎えているに違いない。それを確かめるためにも、今度シュトゥットガルトを訪れる際には、こんな時のために大切に保管してあるあの時のポルシェの紙袋を日本から持参しようと思う。

ショートインプレッション by スタッフメンバーズ

メルセデスのフラッグシップEVのEQSだが、その完成度には驚かされた。どこまで行ってもメルセデスクオリティ。快適に、早く、安全に目的に到着できるモビリティという視点ではもう内燃機関だかEVだかは関係ないのだと、文句のつけようのないリアシートに掛けて運転手くんが飛ばす西湘バイパスで心の底から思った。もちろん自らがハンドルを握ってもその印象は変わらず、スムーズだがしっかりとした加速感や高級車らしいネットリとしつつ正確なハンドリングなど、内燃機関のSクラスと何が違うのだろう。これがメルセデスの目指す先だと確信した。(日比谷一雄)

EQSはEV専用のプラットフォームを初めて採用したモデルだけあり、デザインも個性的で、ラグジュアリーな未来を感じ取れた。ドライバーズシートに乗った瞬間、ダッシュボード全体がディスプレイパネルになっていることに驚くと共に、情報量の多さにも関わらず、わかりやすいパネル表示に感銘する。比較的大柄なボディであるが、大トルクのモーターにより、静かで、滑らかに、ストレス無く加速していく。このEQSはEVであることを最大限に生かしたラグジュアリーカーの提案であることを感じることができた。(池淵宏)

Text: AUTO BILD JAPAN
Photo: 中井裕美、日比谷一雄、池淵宏、AUTO BILD JAPAN