【Blu-ray発売記念】『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』 ボンドバカがネタバレ全開で語る「No Time to Die」
2022年3月2日
公開から早くも6か月が経ち、「No Time to Die(邦題: 007/ノー・タイム・トゥ・ダイ)」のブルーレイディスクも発売される日を迎えた。ここまで時間が経過すれば、もう何を書いてもいいだろうと判断し、前回の初日インプレッションではあえて言葉を濁して書かなかった部分も含めて、もう一度個人的な感想をまとめてみたい。
※上映初日インプレッションはこちらをどうぞ。
Thank you, Daniel ボンドバカの「No Time to Die」初日鑑賞感想文
なぜならば、6か月も経過して007映画を観ていない人はきっとボンドファンではないと思うし、あくまでも私の気持ちとして今回の映画はどういうものであったか、ちゃんと包み隠さず報告しておきたかったのである。それほどに今回の「No Time to Die」は問題作なのである。
今振り返ってみれば、2006年「カジノロワイヤル」を初日に劇場で観終わった時点で嫌な予感はしていた。別に当時よく言われていたように、ダニエル クレイグがどうみても敵側の悪役に見えるとか、ニコリともせず洒落に欠けた内容、という部分にではない。まあ洒落と笑いに欠けたニヒルなボンド映画というのは、それはそれで大問題なのではあるが、その点よりも私が一番問題に感じたのは「ジェームス ボンドが成長してゆく過程の物語」になっていたということであり、次回作に続くという「継続した」展開になっていた部分である。
それまでのボンド映画は言うまでもなく、一話一話が独立し、ごく一部(例えば「女王陛下の007」と「ユア アイズ オンリー」の巻頭部分に関連性があるといったところ)を除けば、基本的に関連性を持たず、一話一話で完結する映画である。まあ毎回毎回世界が繰り返し征服されたり、世界を揺らすような大事件が勃発したりすることはナンセンスではあるのだが、とにかく一話一話が独立し、それぞれが解決することで映画はスッキリと終わる。
それがダニエル クレイグの演じる「ジェームス ボンド ムービー」は、今回の「No Time to Die」までの5本が、ワンセットでつながりを持ったストーリー展開になっているのであった。このことによりジェームス ボンドの映画は新しい魅力と価値を持ち、継続することに成功したことは認めるし紛れもない事実ではある。しかし成長する姿を描くということは、同時に明確な時間軸を持つということでもあるし、ひいてはいずれはジェームス ボンドが老いて最終的には引退(あるいは死ぬ)ことを描かなくいけなくなるという意味を持つ。そしてそのことは本来、ジェームス ボンドを演じる俳優が、何事もなかったかのように若手と交代することで、脈々と成長もしないが衰えもしないまま続いてきたという部分と相反することとなってしまう。
その事実が顕著なのは「Skyfall(邦題: 007 スカイフォール)」の中で、ジェームス ボンドは自分の肉体の衰えを感じ、そのことを理解するMのシーンさえもご丁寧に描いている。(そもそもダニエル クレイグのジェームス ボンドは、5回の作品の中で3回もMI6 を自己都合で退職し、復職しているのだが、そんな007が今までいただろうか?)そしていよいよ今回の「No Time to Die」では、最終的な結末さえ描かれているのだから、あの「カジノロワイヤル」を観終わった時の嫌な予感は的中してしまったのであった。
そんな「No Time to Die」は、冒頭の美しいイタリア マテーラでの「DB5」のカーチェイスシーンと、世の中のほぼ100%の男性が絶賛するアナデ アルマス演じるパロマちゃん大活躍のシーンまでは娯楽映画らしく、景気よく展開する。しかしそれが一転するのは、パロマが余韻も残さずあっさり去った直後、CIAのフェリックス ライターが海に沈んでいくシーンからで、個人的にはあのシーンを観た瞬間驚きを禁じ得なかったし、最終的に起こるであろう嫌な結末を予感したのであった。ジェームス ボンドのかけがえのない友人であり理解者であったフェリックス ライターは、俳優を変えながらずっと継続されてきた、イアン フレミングの作りあげた007には必須のキャラクターである。それをあっさり殺してしまうなんてあり得ないだろう・・・。
そんなフェリックス ライターの死というシーンを受け入れられないまま「No Time to Die」のスクリーンを観ていると、話はそこからどんどん深刻で暗く、そして本来ボンド映画にもっとも不要ともいえる生活感満載な内容で展開し始める。ジェームス ボンドがリンゴをむいて自分の娘のマチルダに食べさせるシーン、007の称号をボンドに戻してほしいと懇願する女性007のノーミ(そんな台詞も配慮もいらぬ)、今さら領有権だなんだと国際問題を言い始めるM、そしてぼろぼろのウサギのぬいぐるみをズボンに差し込んだままボロボロの格好で死ぬジェームス ボンド・・・。そんなものを私はスクリーンで観たくはなかった。
衝撃的でとんでもない内容にもかかわらず、今回の「No Time to Die」は、巷においては、絶賛の声も多く、「泣けた」、「感動した」という意見も聞く。そしてその多くはダニエル クレイグの007から観始めたという、「ダニエル クレイグ=ジェームス ボンド」というファンの声が主流であることは言うまでもない。だが極論させていただければ、ジェームス ボンドの映画はダニエル クレイグの5本だけではない。ダニエル クレイグが演じた5本の007作品のみを「ジェームス ボンド ムービー」というのならば、それはきれいにまとまった5連作品なのかもしれないが、ほかにも007は20作品もあり、その映画たちを無視してしまっても良いのだろうか? ショーン コネリーにロジャー ムーアに、ジョージ レーゼンビーにティモシー ダルトンにピアース ブロスナンに、そしてなによりイアン フレミングに失礼千万じゃないか!
小学校時代からジェームス ボンドにあこがれ、劇場で初日に観続けてきた私にとって、ジェームス ボンドが死んでしまう、その衝撃と喪失感は説明しがたいほどのものがある。そしていくら「James bond will return」と言われたって、一度スクリーンで死んでしまったという事実はもう変えられないのである。
ボンドガールではなくボンドレディ? ジェンダー問題? そんなものは他の映画でやってくれ。時代遅れでジジイの繰り言と言われても構わない。「ジェームス ボンド ムービー」は男の(しょうがない)夢を描いた娯楽映画であるべきだ。タキシードを着てドライマティーニかドンペリニョンを飲みながら、世界中を苦もなく回りながら各地でボンドカーとQの秘密兵器を駆使して世界を救い、絶世の美女とメイクラブをしてジ・エンド、それの繰り返しのお気楽な映画のどこが悪いというのか?
次作以降も「ジェームス ボンド ムービー」は作られる予定だというが、新しいボンド俳優の描くストーリーが、今回の「No Time to Die」のことはまったくなしで、仕切り直しになるのか、あるいは今回の話を引きずるのか、スピンオフ作品のようなものを作るのか、まったく予想もつかない。だがいずれにしろ、ジェームス ボンドが一度死んだという話を描いてしまったという事実、これだけは、いかんともしがたい。そしてもちろん、今回の映画をなかったことには到底できない。
そういう意味では監督のキャリー フクナガとプロデューサーのバーバラ ブロッコリー(007映画の生みの親のアルバート R ブロッコリーの娘である)は重罪である。きっとキャビ―(アルバート R ブロッコリーのニックネーム)は、天国でヤレヤレとした顔をしていることであろう。「No Time to Die」の最後のシーンで「女王陛下の007」のオマージュみたいなシーンを描いてうまく、きれいに終わらせたとでも思っているのだろうが、大きな間違いだ、まったく。
【オマケ】
蛇足ながら、ではどうやったら、うまく「No Time to Die」が終わったか、最終シーンをいくつか私なりに考えて、今回の記事の終わりにしたい。
その1:
ラストシーン、アストンマーティンV8で家に帰ったマドレーヌ スワンとマチルダは、ぼろぼろのウサギが家のドアの横に目立たぬように置いてあるのを見つける。
マドレーヌ スワン「Where, where are you, James??」
タラッタラーンタタラーと007のテーマのサビが流れて真っ暗になるスクリーン、で終了
その2:
MI6でのウイスキーでの献杯の後、さあ仕事に戻ろうとミスマイペニーがデスクに戻ると、机の上に一本のバラが・・・
ミスマイペニー「Oh, where are you, James??」
タラッタラーンタタラーと007のテーマのサビが流れて真っ暗になるスクリーン、で終了
その3:
MI6でのウイスキーでの献杯の後、さあ仕事に戻ろうとQがデスクに戻ると、アストンマーティンのキーと冷えたドンペリニョンが・・・
Q「Where are you, 007?? I said that return the equipment in one piece…」
タラッタラーンタタラーと007のテーマのサビが流れて真っ暗になるスクリーン、で終了
以上のどれもダメだとしたら・・・、「Skyfall」のラストシーンで、ダニエル クレイグは降板して終了。あそこで次の俳優にとっとと代わるべきだった、これにつきる。
RIP James.
※007ボンドカーストーリー、こちらもお楽しみください。
【007祭り】One Car Is Not Enough: 1台だけじゃぜんぜん足りない MI6のカンパニーカー「ボンドカーの系譜をたどる」Part1
Text: 大林晃平
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