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時代の先駆けとなった70年代、80年代、90年代のデジタルでもちょっぴりレトロなコックピット21選

2021年6月28日

フューチャーコックピット・オブ・イエスタデイ。

デジタルコックピット、ヘッドアップディスプレイ、タッチスクリーンは今やどこにでもあるものだが、それらは決して新しい発明ではない。我々は、前世紀に生まれた、最も革新的な未来のコックピットを紹介する。

コックピット、ステアリングホイール、ダッシュボード、インスツールメントパネル、メーターパネル、シフトレバー、スイッチとボタン、どれも自動車好きにとっては、愛着があり、その多くが郷愁をそそるものだ。
自動車にとって外装と同じくらい、いや同じ以上にコックピットは重要だと言いきってもよい。なにしろ車に乗っている間、必ずコックピットを見ているのだし、クルマの魅力の半分以上は内装の魅力である、と言っても過言ではないだろう。

そんなクルマに装備されているデジタルコックピットやタッチスクリーンは、21世紀の発明ではない。
それらは20世紀の発明なのだ。
自動車メーカーは、最近のハイテクインテリアを偉大な革新技術として宣伝したがるが、実は70年代、80年代のいくつかの車には、すでにこの技術が搭載されていた。
それも、決してスタディモデルや少量生産シリーズのモデルだけではない。
その技術は、現在のように高度なものではなく、場合によっては「スターウォーズ」のパロディから生まれたものかもしれない。
しかし、このようなギミック満載のような要素こそが、今日の彼らを、さらに魅力的なものにしているのだ。

1976年、アストンマーティン ラゴンダ: 市販初のデジタルコックピット
「アストンマーティン ラゴンダ」のシリーズ2は、今日のデジタルコックピットの精神的な父と、自信を持って呼べるだろう。
奇抜なスタイルの高級サルーンには、1976年にはすでに極めて未来的なディスプレイが標準装備されていた。
そして、デジタル式スピードメーターは、しばらくの間、英国人にとってユニークなセールスポイントであり続けた。
その2年後、キャデラックはアストンに次いで、「セビル」にデジタル表示を採用した。
デジタルコックピットがヨーロッパで本格的なトレンドになったのは、80年代初頭のことである。
しかし、角張った「ラゴンダ」には、デジタルディスプレイ以外にも見どころがあった。
例えば、このハイテクセダンにはすでにセンサーボタンが搭載されており、それを使っていくつかの機能をコントロールできるようになっていた。
強調されているのは「できた」ということだ。
この技術はまだ成熟しておらず、製造開始後数年で完全に失敗することもあった。

1976年、世界で初めてデジタルディスプレイを搭載した奇抜な高級セダン、アストンマーティン ラゴンダ。
大林晃平: 写真は後期モデルのシリーズ2に搭載されたCRTディスプレイ仕様だが、前期モデルのほうがはるかに前衛的で未来的であった。スイッチ類なども前期と後期では全くことなり、この写真のモデルははっきり言ってあまり魅力的ではない。シリーズ1のスイッチ類は、高級なオーディオを思わせるスイッチやタッチコントロールパネルなども装備されていた。シリーズでは写真のような(おそらくアメリカ車などからの流用スイッチと思われる)味気ないスイッチが使用されているが、タッチスイッチ式の前期モデルでは、そのトラブルが頻発したのだろうと予想される。
Photo: Aston Martin

1986年 ビュイック リヴィエラ: 世界初のタッチスクリーン搭載車
80年代のゼネラルモーターズのインテリアには、時代の数十年先を行くものがあった。
例えば、1986年に発売された「ビュイック リヴィエラ」は、市販車として初めてタッチスクリーンを搭載したモデルだ。
「グラフィックコントロールセンター」と呼ばれるこのシステムは、高級クーペのラジオやエアコンなどの操作のほか、トリップメーターのリセットやエラーメッセージの表示にも使われた。
この新技術の技術開発を担当したのは、GMのソフトウェア部門である「デルコ」だった。
その3年後には、この先進的な操作コンセプトは、「ビュイック リアッタ」や、その兄弟車である「オールズモビル トロネード」にも採用された。
残念ながら、この技術革新は、当時のGMグループ以外ではほとんど模倣されなかった。
この技術が全メーカーに浸透したのは、それから20年以上経ってからのことである。

ビュイックはデジタルスクリーンを採用するのが数年早かった。このシステムは、当時、他の追随を許さなかった。
大林晃平: 三角定規だけで線を描いたかのように四角四面なデザインではあるが、これはこれで潔くも感じる。グリーンに浮かぶ数字と絵柄、これこそが未来、これこそがハイテクの象徴だったといえる。Tバーのオートマチックトランスミッションセレクターも妙に懐かしい。またこの時代にして、もうすでにステアリングスイッチが登場していることにも注意したい。
Photo: Buick

1988年 シトロエン アクティバ コンセプト: 今日のコックピットの原点
1988年のパリサロンで、シトロエンが発表した、「アクティバ」のスタディモデルは、今日の自動車のインテリアを予言するかのようなコックピットを備えていた。
デザイナーとエンジニアが考案した操作コンセプトは、今日、実際に同じような形で定着している。
ステアリングホイール上の操作ボタン(音量調整など)、センターコンソールに組み込まれたディスプレイ、リトラクタブルウィンドシールド付きヘッドアップディスプレイ。
このレイアウトは、現在では多くの車種でクラスを超えて標準化されている。
シトロエンがヘッドアップディスプレイを採用したのは1988年のコンセプトモデルからだが、同年、オールズモビルはカットラスシュプリーム「インディペースカーエディション」を、日産は「240SX」を、それぞれフロントガラスに重要な運転情報を映し出す本物の市販車として発表している。
しかし、この技術の先駆者はフランスメーカーだ。
2005年、「シトロエンC6」はヘッドアップディスプレイを搭載した最初のヨーロッパ車となった。
以下、フォトギャラリーとともに、前世紀の最も素晴らしいデジタルコックピットをご紹介する。

未来のビジョンを描く。「シトロエン アクティバ コンセプト」のコックピットのレイアウトは、その数年後には、実際に採用された。
大林晃平: 今やヘッドアップディスプレイもごく普通のものとなったが、そもそもの起源は飛行機(戦闘機)の技術であった。まだこの「シトロエン アクティバ」の時代はプラスチックボードに投影する仕組みだったが、現在はフロントウインドーに特集コーティングを施すことで直接投影式となった。まだタッチスイッチに進化する前のため、無数のエアコンスイッチボタンが並んでいるが、米粒大のため走行中には操作できないだろうが、その部分がシトロエンの「ヘリカルギア」に由来するダブルシェブロンのモチーフになっていることに、開発陣の意地と洒落を感じる。
Photo: CITROEN
「オペル カデット」では、デジタル表示は最大156馬力のスポーツバージョン「GSi」に限られていた。1983年に発表されたリュッセルスハイムのコンパクトスポーツカーでは、タコメーターの目盛り、燃料計、オイルレベル計などがデジタル表示されている。中央には現在の速度が別途表示される。ちなみに、「モンツァ」や「セネターB」にもこのデジタル液晶ディスプレイが搭載されていた。
大林晃平: 超地味に思われるかもしれないが、ものすごく贔屓目に見れば、かつてブラウンのチーフデザイナーであった、ディーター ラムズの影響を受けたような機能的なデザインと思えないこともない(時計の処理などもそう思わせられる要素のひとつ)。実際、ちょっとざっくりしたファブリック素材のドア内張との組み合わせは、クリーンで機能的で、ドイツ風味満載である。使いやすそうな位置にあるハザードランプスイッチなども大変好ましい。
Photo: Sven Krieger
同じグループの「シボレー コルベットC4」も1983年に発表され、同じようなスピードメーターを搭載していた。4代目となるアメリカンスポーツカーのダッシュボードは、アメリカらしい、カラフルで華やかなものになっていた。
大林晃平:助手席前のラリーメーターは後付けだが、他の部分はなかなか未来的ながらも、ちょっと脱力感もあるアメリカンなデザインだ。特にメーターそのもののデザインも、トルクの盛り上がり方を意識したタコメーター表示も、なかなか楽しい。コルベットなら、こういうデザインもおおいにあり。小物を置いておくスペースに欠けるのも、アメリカ車の特徴である。日本の軽自動車のようなちまちました収納スペースなど、上下10車線のフリーウェイで通勤しているエンジニアたちにはどうでもいいことなのだろう(カップホルダーなどもまだないことに注意)。
Photo: Thomas Ruddies
シボレーは1984年から1986年にかけて、「カマロ ベルリネッタ」にデジタル機器を搭載したバージョンも用意していた。GMのマーケティング部門は、「the Digital Camaro」あるいは「the Starship Camaro」というスローガンを掲げて、このモデルを宣伝した。コントロールサテライトとの組み合わせで、コックピットは本当に宇宙船のインテリアのように見えた。
大林晃平: これはすばらしい。ぜひ、「バックトゥザフューチャー」に使ってほしかった、と思えるほど未来的。同時期のコルベットよりもさらにデザインされている印象を受けるが、それは写真の状態では警告灯類が全部点灯しているのと、ダッシュボード上を赤い撮影用照明で演出されているからとも思われる。ドライバーのほうを向いてデザインされたオーディオ類(明らかにカセット)にも注意。
Photo: GM
1983年に発売された伝説の「Ur-クワトロ」で、アウディはマウスシネマと呼ばれるデジタルディスプレイを採用した。並んだ3つのディスプレイに、ドライバーが最も重要な情報を表示していた。しかし、伝説のグループBレーサーである「クワトロS1」では、アウディスポーツはアナログ表示を採用していた。
大林晃平: 「アウディ クワトロ」にもたしかにこのデジタルメーターのモデルあったが、その表示に関しては写真のように極めてシンプルで必要最小限のものであった。まあ「アウディ クワトロ」そのものも、エモーショナルな自動車ではなく、機能に徹したフルタイム4輪駆動クーペであったのだから、これはこれで似合っていたともいえる。メーターパネルの左右に設置されたサテライトスイッチ類も、当時の流行であった。
Photo: Christian Bittmann / AUTO BILD
1986年からは、「ゴルフ2」のドライバーにもデジタルで速度を表示することが可能になった。フォルクスワーゲンのデジフィズ(デジタルドライバーインフォメーションセンターの略)は一体型で、GTIモデルにはオプションで用意されていた。不思議なことに、デジタル表示にもかかわらず、スピードメーターは299,999kmまでしか表示されず、その後は6つのダッシュが表示されていた。今では人気のスペアパーツとなったデジファイズ。当時は需要がなかったため、スペアパーツの状況は厳しいというよりも、スピードメーターが希少なのだ。
大林晃平: 極めてシンプルながら、これはこれでおおいにアリのデザインでVDOによって作られたデジタルメーターである。数字で表されるガソリン残量に対し、今のクルマからはすっかり消え去った水温計がバーグラフであることはちょっと興味深い。あえてフォルクスワーゲンのエンブレムもメーターと同色で点灯するのは、これがないとあまりに味気ないと感じたデザイナーの唯一の息抜きだろうか。
Photo: Volkswagen AG
メルセデスの「AUTO 2000」スタディモデルは、W 126世代のSクラスをベースに、1981年のIAAでミレニアムの変わり目の自動車技術をプレビューすることを目的としていた。デジタルで設定可能なインストルメントクラスターは、これに適合している。ドライバーは、ナビゲーションシステムからの情報を表示したり、ディスプレイの色を変えたりすることもできた。
大林晃平: ステアリングホイール(エアバックは備わっている)のデザインとマッチしてないことと、これだったら当時のメーターそのままだった方がはるかに魅了的だといえるそっけないグラフィック。特にガソリン残量の表示は、これじゃああんまりだ、というよりも、いかにも実験車風情で情緒もなにもあったもんじゃない。こういう未来だけはお断りである。
Photo: Mercedes-Benz Classic
1996年、メルセデス・ベンツは、「F200イマジネーション」というコンセプトカーを発表した。ダッシュボード全体に広がるデジタルディスプレイは、現在のメルセデスの一部モデルに採用されているオペレーティングシステム「MBUX」を彷彿とさせるものだ。第2世代の「CL」を予感させるこの高級クーペは、中央に配置されたジョイスティックで操作する。
大林晃平: なんとも超未来的だが、飛行機のスロットルレバーのような操縦桿(おそらくステアリングホイールとアクセル・ブレーキを兼ねているのだろう)はっきり言って自動車として街中で機能するのかどうか心配になる要素は多い。その割にはちゃんとメルセデスベンツ風味のメーターパネルが備わっているのも面白い。ナビシステムや、最高速度表示が早くも取り入れられたり、リアビューミラーもCCDカメラ方式になっていたりするのも先進的だ。でも……、そもそも、あなたはこのクルマ、運転してみたいだろうか??(笑)
Photo: Mercedes-Benz Classic
ボルボのコンセプトカー「タンドラ」のインテリアは、1979年に想像されていた未来の姿を表している。しかし、ベルトーネがデザインした、このスタディモデルは、スウェーデンの人々にとっては未来的すぎるものだった。そこでベルトーネは、デザインに多少の修正を加えたものを、最終的にシトロエンに売却した。そしてそれは、シトロエンのミッドレンジモデルの「BX」に採用された。
大林晃平: どことなく「フィアット ティーポ」を思わせるようなインスツルメンツパネル。写真では警告灯全点灯状態なので華やかに見えるが、実際にはここまでの派手さはないはず。タコメーター表示はバーグラフ式だが、レッドゾーンで色が変わるようには、どうやらなっていないらしい。エアコンがマニュアルエアコンで、オートエアコンになるのはまだまだ先の話である。
Photo: Volvo Cars