【ロードインプレッション】シトロエンからのマルチアクティビティビークル ベルランゴに初試乗&評価
2021年5月10日
昨年に日本導入された直後、最初のデビューエディションが5時間半で完売したと言われ、日本への正式なモデルの導入の日を、首を長くして待っていた人の多さを証明した?シトロエン ベルランゴ。そんなシトロエン ベルランゴの特別仕様車であるシャインXTRパックに試乗してみた。
シトロエンというと日本では、ちょっと変わった車で、愛好家のためのクルマというイメージが強いが、当たり前ながら本来はそういうものではまったくなく、人も荷物も満載で、こっちの地平線からあっちの地平線まで走っていくような実用車だし、そのためのハイドロニューマティックサスペンションや、抜群の直進安定性、そしてウルトラソフトなシートを備えたクルマだったのである。
そんなシトロエンの中でも「ベルランゴ」は、1996年に貨物車として登場したクルマであり、それが2代目で貨物車よりも乗用車テイストを増し、今回の3代目ではさらにマルチパーパスビークル的な性格を強めて進化したものとなっている。
「ベルランゴ」を日本でも待っていたエンスージャストは多く、やっとというべきか、昨年正式輸入決まった直後には、先行輸入されたデビューエディションがあっという間に売り切れるという事件が発生した。日本に正規導入された「ベルランゴ」には、1.5リッターのターボディーゼルエンジンに、ダイヤルセレクターを持つ8速ATが組み合わされているが、これは好敵手たる「ルノー カングー」にはない組み合わせであり、この仕様はなかなか魅力的で、適切なモデルだと個人的には思う。
今回試乗したモデルは、「シャインXTRパック」という特別仕様車で、ところどころに配されたオレンジのアクセントと、17インチ(通常は205/60 R16)ホイールを履くモデルである。さてそんな「シトロエン ベルランゴ シャインXTRパック」のなんとも明るく広々とした車内に乗り込み、全幅も全高もちょうど同じ1850mmという大きなサイズを忘れないようにして走り始める。走り出した途端に感じたのは、軽快というシトロエンに似合わない言葉だった。130馬力で300Nmというパワーは必要にして十分だし、8速ATという、ZF製のAL4時代を知っている者にとっては、夢のようなトランスミッションと相まって、街中から高速道路まで過不足なくサクサクとベルランゴを動かすのである。直進安定性も路面の凹凸のいなし方も、ソフト過ぎず、心地よい動きで乗り越える。それにはやや小ぶりではあるが、やはり快適な形状と柔らかさを持つシートも大きく貢献しているのだろう。
個人的な話で恐縮だが、私はシトロエンを複数台乗り継ぎ、さらに正式輸入された「ルノー カングー」の最初期モデル(1.4 AT)を長年愛用していたことがある。そのどれもが忘れようにも忘れがたい思い出に満ちていたし、自腹を切って所有していたことで実感できる長所も短所も理解しているつもりである。そんな若干の贔屓目バイアスが掛かった目から見ると、このベルランゴはなんとも濃厚なフランス車だし、前述の通りに人も荷物も満載の状態で酷使する実用車としてはかなり魅力的だと思った。そしてライバルと言われることの多いカングーとは、同じフランス車ながら、性格はかなり異なっていると感じたことも事実である。一言で言えば、ベルランゴのほうが軽快で乗用車的なのである。
乗った当初は全幅の大きさによる見切りに悪さや、「シャインXTRパック」たるがゆえの、ちょっと過剰な感じのディテール処理には馴染めない部分があったものの、ねちっこい加速感やサスペンションの動き、そして広大で明るさに満ちた空間とともにのびのびと移動しているうちに頭の中から消え去り、返却する際には、かなり欲しくなったことは事実である。
さて、そんな「ベルランゴ」のライバルたる「カングー」は、この春にフルモデルチェンジを敢行し、さらに大きく(車幅が1900mm以上もある)、なんとも没個性な顔つきのモデルになってしまった。あ~あ、これじゃあカングーファンはガッカリだろうな、と思っていたところに本国から、「ルノー エクスプレス」というなんとも懐かしい名前を持つモデルの発表ニュースが届き、こちらは1750mmという扱いやすい幅を持っており、顔つきも「カングー」に比べると(兄弟車のダチア似だが)納得できるレベルにあるではないか。
おそらく日本には「カングー」の後継として「エクスプレス」が輸入されるのではないかと勝手に推測しているが、その場合、「エクスプレス」は「ベルランゴ」のライバルとなりえるのだろうか? あくまでも商用車ベースであることを隠さず、そんな飾りのない自由な実用性の部分に魅力を感じる人が積極的に選ぶ「カングー(エクスプレス)」と、マルチパーパスビークルの方向性をあえて強めに演出した「ベルランゴ」とは、かなり方向性も魅力も異なるため、がっちりとぶつかるライバルにはあまりならないのではないか、というのが個人的な意見である。
ともかく今、人も荷物も満載で、ゆったりと心地よく移動することのできる、今もっともシトロエンらしい一台が、この「ベルランゴ」なのではないだろうか
Text: 大林晃平
Photo: 大林晃平 / AUTO BILD JAPAN