大好きなスズキの(ほぼ)全部に一週間ずつ乗りますよ その1 ジムニーとジムニー シエラどっちがいいの?の巻
2026年9月29日
前口上
プラモデル一つきれいに仕上げて作ることもできない不器用さからなのか、僕はモノを作ることができる人をこころから尊敬している。なかでも生来大好きな自動車を作る人というのは、僕にとっては崇拝するべき人種で、彼らには尊敬の念さえ抱く。自動車設計者、つまりデザイナー、エンジニアの方々はもちろんだがそれだけではなく、数千にも及ぶ部品を作るサプライヤーや素材メーカー、ガラスだってタイヤだってオイルだって接着剤だって、誰かが毎日どこかで一生懸命に知恵を出して作りテストして……それを日夜改良しているからこそ、今のような性能の良い自動車が初めてこの世に生まれるわけである。
中でも我々の日常生活に入り込み、市井の生活を助けながらも思い出を作ってくれる、さりげない自動車が大好きだし、そういう多くの人の便益を生み出す自動車をできるだけ安く作るというのは、最近巷にあふれる億超えのスーパーカーを限定で生み出すよりどんなに大変な作業であろうか……という話を昔から大好きだったスズキの方々に僭越ながらも熱く語ったところ(ああお恥ずかしい)、「じゃあスズキの自動車に全部乗ってみますか?」という企画が生まれ、広報担当さんの温情なご協力の下スタートさせていただくことになった。
こちらとしては嬉しい限りではあるのだが、スズキの車種全部というのは軽自動車も普通自動車も商用車もあるわけで、その中から重要なものをピックアップしていっても一週間づつ乗ると、夏の終わりに初めても2026年の大みそかには終わりません、という流れになった。長丁場だけれども、一生懸命に、そして人様に迷惑をかけないように頑張るのでお付き合いをお願いしたい。
トップバッターはジムニー シエラ(JB74 )
さてその第1回目はスズキにとってかけがえいない財産ともいえる、世界に誇るべき自動車のジムニー(JB64 )とジムニー シエラ(JB74 )。試乗のテーマはそのどっちがいいのか、という永遠の命題?である。

偉そうに生活に即した小さな自動車だなんだと言いながら、しょっぱなにいきなりジムニー(とシエラ)っていうのは、なんだか違うんじゃないの、と文句のひとつもきそうだが、2026年の国民的人気車はジムニーなんじゃないか、と真剣に思っている。私が住んでいる横浜の片田舎もそうだが、おとなりの山梨や長野くらいまで行くと、景色の中のもういたるところにジムニーがいて、「21世紀の国民車」と断言していいほどの繁殖ぶりだ。

もちろんそのほとんどはJB64/74の現行モデルが多いが、JB23やJB33もまだまだ現役バリバリでその多くはカスタムやモデファイされるでもなく、つるしのまま普通にご家庭の足としてあらゆる層の方に愛され使われていることも多い。そういう意味では生活の中にすっかり溶け込んでいるのが今のジムニーの立ち位置、というのが肌で感じられるし、少なくとも以前ほどの特殊な存在ではなくなり、実用車としても趣味車としてもみんなの大人気者になったジムニーが今のJB64とJB74といえる。
かくいう私もJB23を新車で買ってから、あまりの乗り降りのしやすさと見切りの良さに感動し、その後、常にガレージにはジムニーを一台配備するようになってしまった。別に他の軽自動車でもダメではないのだが、ジムニーが手元にないとなんとも寂しいのである。結局今はJB64を2台乗り継いでいて、登場しているJB64がその2台目である。なぜ乗り換えたのかといえば家族があまりに気に入って僕よりも乗るようになった結果、あっという間に過走行になってしまったため、車検を機に乗り換えたのであった。
シエラの方が良かったらどうしよう?
さてそんなJB64の軽自動車ジムニー愛用者にとって気になるのは、シエラ(JB74 )はいったいどうなんだろうか?ということである。普通車のシエラがどれほど快適で楽ちんなのりものなのだろうかと、オーバーフェンダーも凛々しいシエラを見かけるたびに気にならないと言えばウソになる。正直言うとシエラと真剣に長時間乗り比べたことはないのだが、あまりにシエラが良かったらどうしよう、と思いながら今回1週間ほどをとっかえひっかえ比較してみることにした。

まず一番気になるのはその動力性能だが、いくらターボ付きとはいえ660㏄に対して1500㏄もあるのだから良くて当たり前だろう、と期待してシエラに乗るとやや肩透かしを食らう。アイドリングでの振動の少なさや走り始めた瞬間の滑らかさ、静かさといったものはシエラの方が上だが、世の中で言われているように「高速道路に乗る機会が多いのならばシエラにするべき」という高速領域の評価は正直それほどでもない、と感じた。
その理由は言うまでもなくトランスミッションで、オートマチックトランスミッションは4速だし、マニュアルトランスミッションの方もローギヤードな5速である。100㎞/hではシエラといえども3000回転もエンジンは回ってしまうし、どちらの車もこの速度で長時間走ることは物理的には大丈夫であっても、決して快適とは言い難い。

もちろんそれはジムニーという自動車が本来持っている性格の宿命であって致命的な欠点ではないと言ってもよい部分ではあるが、どこまでも淡々と走っていけるスイートスポットは軽のジムニーは80㎞/h+αに対し、シエラは90km/h+αくらいの差なのではないかと感じる。もっともその速度ならどこまでも延々と快適に移動できるのがジムニーというクルマだし、まあ軽とシエラの高速巡行性能の違いとは、それくらいの差異に感じられた。
また街中や山坂道でもジムニーとシエラの走行性能の差に圧倒的な違いは感じられない。ジムニーはDOHC3気筒660㏄にインタークーラーターボを組み合わせて64馬力。シエラはDOHC4気筒1460㏄ノンターボ101馬力だから、いずれもものすごくパワフルなエンジンではないし、正直どちらのモデルも必要ギリギリな感じのパワー感である。
もちろんそのパワー感は、それぞれのエンジンの特性の違いとして現れるためシエラの方がゆとりを明確に感じるが、いずれもエンジンパワーを速度に変えるのではなくギア比を上げて少ないパワーをトルクに変えるセッテイングだ。モリモリパワフルに感じられるというよりも、一般の路上では必要十分条件をぎりぎりクリアする程度の速さである。
乗り心地の違い
一方、乗り心地やハンドリングに関していえば軽とシエラはそれなりに異なるが、こちらもどちらかの方が圧倒的に乗り心地も良く、ものすごく快適というような違いではない。
そもそも今のJB64とJB74のジムニーは、一つ前のJB23とJB33に比べ足回りが固い(良くいえばしっかりしている)印象が強く、舗装路などでも快適で滑らかなのは一つ前のモデルだったように感じられてならない。もちろんハンドリングや安定感などの良い面の向上はあるのだが、乗り心地に関してはずっとたおやかで快適なのはJB23とJB33なのではないかと思う。

そういう面からすればJB64とJB74には圧倒的な差がみられず大同小異に感じられた。その一方でハンドリングやブレーキに関してはすっきり軽やかな印象の強い軽ジムニーに対し、シエラはねちっこくアンダーステアがより強く(つまり曲がりにくく)、なぜかブレーキの印象も軽モデルほどのソリッドさに欠けるように思われる。車重の影響なのかタイヤのサイズの違いなのか、あるいはその相乗効果なのか、個人的にはすっきり軽やかな軽自動車ジムニーの方に好感を持った。

蛇足ながら今回、自動車を日々運転している、それなりに自動車に詳しい方々数名(女性も含む)に乗り比べてその違いをインプレッションしてもらったのだが、「それほどの違いは感じられない」という意見が大多数で、ある人に至っては「色の違いしか分からない」とのことであった。まあその程度の差なのかもしれません(笑)。
いずれにしろ軽ジムニーとシエラの違いというのは、今回のように2台をとっかえひっかえ乗り換えてのインプレッションという、一般的には行わない特殊な状況下で感じることができる程度の話で、どちらが一方が圧倒的に良いとか劣っているという範疇の話ではないと思う。
今回は、自動車メディア恒例の針小棒大にインプレッションをするという、一般的には異常事態(笑)なレベルでの話で、ジムニーについてはどちらが大幅に劣るということでは決してないことだけは強調しておきたい。

ジムニーはジムニー
結論としては個人的にはこの2台ならば、十分以上な性能を持ちながら維持費も安く、ハンドリングや乗り心地が(ちょっとだけ)すっきりさわやかな軽自動車ジムニーを選ぶが、オーバーフェンダーの格好良さにひかれて(実際に2台を並べて目の当たりにすると、シエラはものすごく立派に見栄えがする)シエラを選ぶ人もその心意気や良しである。燃費に関して言えば今回の試乗でジムニーは11.9 km/l 、シエラが12.5km/lとちょっとだけ差が生じたが、まあどちらもそれほど良い燃費は期待できないし、これはそういうことを理解したうえで購入するべきジャンルの自動車なのだからジムニーの大きな欠点と言っては的外れなのではないかと思う。
それにしても今回改めてジムニーの価格を見ると軽自動車ジムニーの最上級モデルXCが2,160,400円(ATもマニュアルトランスミッションも同価格、オプションなし、税別だと1,964,000円)、シエラが上位モデルのJCで2,385,900円(こちらもミッション問わず同価格)。確かにここ数年でどちらも価格が上がったとはいえ、内容を考えれば十分以上に魅力的な価格と言ってよい。

格好良く、特に悪路における性能は圧倒的で、世界に誇れる自動車がこの価格……そりゃ売れて当たり前だし、スズキにとっては貴重な財産ともいえる車種、それがジムニーである。こんな自動車、浜松のメーカーでしか作れるわけないじゃないか、とさえも思いながらスズキの横浜研究所にシエラのキーを返却した。
これから千本ノックのように続く「スズキの自動車1週間ずつイッキ乗り」だが、苦になるどころか楽しみでならない、というのが本音である。
Text&Photo:大林晃平

