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すべて見せます M3&M4用エンジン

2021年4月12日

BMW M3とM4に搭載された新しい直列6気筒エンジンのテクノロジー。

BMW M社は、X3 MとX4 Mに新しい直列6気筒エンジン(S58)導入したが、このパワーユニットはM3とM4の心臓部にも搭載されている。

➤ 基本構造
➤ エンジンブロック
➤ シリンダーヘッド
➤ オイル供給

2019年、生産開始から5年弱で、BMW M社内で「S55」と呼ばれていた直列6気筒エンジンは引退を余儀なくされた。
そして、その伝統は、今回発表されたBMW製の現行で最もパワフルな新型直列6気筒エンジンへと引き継がれた。
この新型直6エンジン「S58」は、基本的にはノーマル直列6気筒の「B58」をベースに開発されたものだ。
しかし、BMWのスポーツ部門によって、強力なパワーユニットへと改造されたことは言うまでもない。

「S58」は、まず、「X3 M」と「X4 M」に480馬力と510馬力で搭載された。
そしてそのユニットは、現在、「M3」と「M4」にも採用され、搭載されており、同じ性能を発揮している。
しかし、このエンジンにはまだまだこれ以上の余力がある。
BMW M製直列6気筒エンジンについて知っておくべきことのすべて。

テストベンチに置かれた新型直6エンジン。現在の最高出力は510馬力だが、将来的には増強される予定。

基本構造: 最高出力510馬力のBMW Mツインターボ

ベースとなった「B58」エンジンとの関係は、すでに主要データで明らかになっている。
標準モデルと比較して、このスポーツエンジンは、ストロークが5mm近く短く(90.0mm)、ボアが2mm大きい(84.0mm)。
同時に、9.3:1の圧縮比を持つ新型Mモデルは、11:1の先代Mモデルほど強く圧縮されない。
3リッターエンジンは、2基の古典的なターボチャージャーを介してツインチャージされている。
その作動だが、1つのスーパーチャージャーが3つのシリンダーにそれぞれ供給する。
さらに開発されたコンプレッサーと、低温水回路で供給される間接的なチャージエアの冷却により、ターボの出力が向上するように設計されている。
現時点では、最小バージョンのエンジンでも480馬力、コンペティションヴァリアントでは510馬力を発揮する。
鍛造クランクシャフトが伝達する最大トルクは、今のところ600Nmだ。
しかし、このエンジンが今後に向けてすでにはるかに高い馬力の数値を想定して設計されているに違いないことを示している。

人の手による作業に加えて、機械の助けも効果的に借りてエンジンを製造している。

エンジンブロック: クローズドデッキデザインによるS58のねじり剛性

今回の開発では、「S55」で実績のあるクローズドデッキデザインを採用している。
これは、冷却水や潤滑油を供給するための穴や空洞を設けたものだ。
これにより、エンジンがねじれにくくなり、ピストンライナーの歪みも少なくなった。
これと対をなすのが、オープンデッキデザインだ。
ライナーは冷却水の通路で完全に囲まれているが、これもねじれの影響を受けやすいシステムだ。
エンジンのフリクションを可能な限り低く抑えるために、BMWは「S58」のライナーにも特殊なコーティングを施している。
BMWの他のエンジンと同様、この薄いコーティングはアークワイヤースプレーのプロセスによって施されている。
鍛造クランクシャフトは、軽量化と回転質量の低減により、エンジンの回転性能をさらに向上させているという。

複雑なシリンダーヘッドを、3Dプリントしたサンドコア(砂の中子)を使って鋳造する。もはや3Dプリンターを生産現場で活用する時代となった。

シリンダーヘッド: 3Dプリンターで複雑な形状を実現

シリンダーヘッドの冷却は、エンジニアにとって特にハードルが高いものだ。
損傷を防ぐためには、適切な温度管理が必要となる。
「B58」エンジンでは、2つの冷却回路からヘッドの異なる部分に異なる温度のクーラントを供給するスプリットクーリングシステムを採用している。
一方で、Mエンジンでは、3Dプリンターで作成したシリンダーヘッドの形状を採用している。
ただし、ここでプリントされるのは、シリンダーヘッドそのものではなく、その後の鋳造のためのサンドコア(砂の中子)だ。
この工程では、石英の砂をバインダーで何層にも重ねて接着していく。
その結果、複雑な形状を再現できる鋳型用の中子ができあがるのだ。

典型的なBMWパワーユニットらしく、バルブは可変バルブコントロールシステム「バルブトロニック(Valvetronic)」とカムシャフトフェイシング(位相調整)システム「ダブルヴァノス(Double-Vanos)」によって作動する。
また、インジェクターの噴射圧も大幅にアップしている。
新エンジンは、350バールの圧力で燃料を燃焼室に送り込む「B58」のインジェクターを採用している。

B58をベースにしているとはいえ、エンジンは独立したものだ。ストロークは小さく、ボアは大きくなっている。

オイル供給と冷却管理

こういった高性能エンジンでは、オイルの供給も常に保証されていなければならない。
特に高速カーブでは、ウェットサンプ方式のエンジンでは、横方向の加速度で潤滑油がオイルパンの壁に押し付けられる傾向がある。
すると、オイルポンプが空気を吸い込み、エンジンに十分なオイルを供給できなくなる。
そのため、多くのメーカーでは、オイルを別のタンクに貯蔵するドライサンプ方式を採用している。
BMWはウェットサンプを採用しているが、オイルパンの設計が異なっている。
オイルパンは、2つの独立したチャンバーと一体化したサクションチャネルを備えている。
大きなチャンバーにはオイルの主要部分が入っており、小さなチャンバーは激しい走行時のバッファーの役割を果たすようになっている。
エンジンのオイル要求に個別に対応するマップ制御のオイルポンプは、追加の吸引ステージを使用して、必要に応じて小さなチャンバーからも潤滑油を供給するようになっている。
これにより、従来のような複雑なドライサンプ方式の潤滑システムは必要なくなるのだ。

オイル供給に加えて、エンジン冷却も重要な役割を果たしている。
スポーティなエンジンも通常のユニットよりも熱的にストレスがかかるため、追加のクーラーが使用されている。
したがって、BMWはメインのラジエーターに加えて、サイドに取り付けられた2つのラジエーターを追加している。
エンジンオイルとトランスミッションオイルはそれぞれ別々のクーラーを通過する。

※めったに見られないエンジン製作現場での希少な動画ビデオをぜひご覧ください。

Text: Andreas Huber
Photo: BMW