【なるほどメルセデス・ベンツ】空へ飛び出したスリーポインテッド・スター クレム・ダイムラーの軽飛行機
2026年8月17日
メルセデス・ベンツの象徴、スリーポインテッド・スター。その「陸・海・空」の思想は、自動車だけにとどまらない。シュトゥットガルトのメルセデス・ベンツ博物館に展示されている黄色い軽飛行機、「クレム・ダイムラー L 20」を紹介する。
メルセデス・ベンツの象徴、スリーポインテッド・スター。「陸・海・空の三つの頂点」を意味していることは、メルセデス・ベンツのファンならご存じだろう。1909年に登場したこのエンブレムには、ダイムラー社のエンジンを陸上、海上、そして空中のあらゆる交通手段に供給したいという願いが込められていた。1926年6月、ダイムラー社とベンツ社が合併してダイムラー・ベンツ社となる(車名はメルセデス・ベンツ)。
さて、ドイツ・シュトゥットガルトのメルセデス・ベンツ博物館を訪れた人なら、頭上に吊り下げられた一機の黄色い小型飛行機に気づいたことだろう。
これは「クレム・ダイムラー L 20」。1920年代に開花した軽飛行機の時代を象徴する機体である。設計者は、後に自らの名を冠した航空機メーカーを創設するハンス・クレム(Hanns Klemm)。彼はダイムラー社のジンデルフィンゲン工場で航空機設計・製造部門を率いていた人物で、1922年には自ら設計した。

Photo:Mercedes-Benz Media
「L 15」を、続いて1924年には改良型の「L 20」を生み出した。1925年以降はフェルディナント・ポルシェ博士が設計したF 7502空冷2気筒水平対向エンジンを搭載するようになった。そして、この「L 20」を一躍有名にしたのが若き冒険家フリードリッヒ・フォン・ケーニッヒ=ヴァルトハウゼン男爵である。1928年8月11日、22歳の男爵はベルリン・テンペルホーフ空港を「L 20 カメラート(ドイツ語のKamerad=同志、仲間)」で出発した。メルセデス・ベンツの航空用エンジンF 7502は空冷2気筒水平対向、わずか20psという小さなエンジン。20psといえば、現代の自動車では考えられないほどの出力だが、軽量な機体と組み合わされ、「L 20」を世界一周へと導いた。男爵が世界一周飛行を成し遂げたのは1929年11月22日。出発から15カ月以上を費やした壮大な旅であった。
では、博物館に展示されている機体は、その「カメラート」そのものなのだろうか?実は違う。オリジナル機は現存していないため、博物館に展示されているのは男爵が残した当時の資料や写真などをもとに1980年に製作された忠実なレプリカである。つまり、我々が博物館で見上げる黄色い「L 20」は、1928年に世界一周へ飛び立った「カメラート」の姿を、今日に伝える一機なのである。
陸を走る自動車だけではない。海を渡り、そして空を飛ぶ!

Photo:Mercedes-Benz Media
スリーポインテッド・スターが掲げた「陸・海・空」という思想を思えば、メルセデス・ベンツ博物館に「L 20」が展示されていることは、決して意外なことではない。一機の小さな飛行機が、メルセデス・ベンツの歴史に「自動車だけ」にとどまらないことを静かに物語っているのである。
TEXT:妻谷裕二
【筆者の紹介】
妻谷裕二(Hiroji Tsumatani)
1949年生まれ。幼少の頃から車に興味を持ち、1972年ヤナセに入社以来、40年間に亘り販売促進・営業管理・教育訓練に従事。特に輸入販売促進企画やセールスの経験を生かし、メーカーに基づいた日本版カタログや販売教育資料等を制作。また、メルセデス・ベンツよもやま話全88話の執筆と安全性の独自講演会も実施。趣味は クラシックカーとプラモデル。現在は大阪日独協会会員。 モーターショー情報

