1. ホーム
  2. EV
  3. BYD「ラッコ」に試乗! 大衆車の最適解は「日本の軽自動車ユーザーのためのEV」だった

BYD「ラッコ」に試乗! 大衆車の最適解は「日本の軽自動車ユーザーのためのEV」だった

2026年8月14日

BYDが日本市場に投入する軽EV「ラッコ」の試乗会が、8月5日に開催された。世界的なEVメーカーであるBYDが、なぜいま日本独自の規格である「軽自動車」に挑むのか。その答えは、単に日本市場で販売台数を増やしたいから、というものではない。

BYDによれば、日本の交通事情や道路環境を実際に見たBYD副総裁の劉 学亮氏が、「日本に根差した、より良い軽自動車をつくりたい」と考えたことが、ラッコ開発のきっかけになったという。日本では狭い道路や限られた駐車スペースが多く、日常の足として軽自動車が重要な役割を担っている。そこにEVならではの価値を組み合わせることが、BYDにとっての日本戦略のひとつになった。

しかも驚かされるのは、その開発スピードだ。ラッコはボディやシャシー、パワートレインなどを含めて基本的にすべてを新設計。それにもかかわらず、製品化までに要した期間はわずか2年だという。BYDが持つEV開発のノウハウと開発体制のスピード感には、あらためて驚かされる。

スーパートール×両側スライドドアという発想

ラッコのエクステリアでまず目を引くのが、軽自動車の中でも背の高い「スーパートール」系のパッケージングだ。

これは単に室内を広くするためだけの選択ではない。日本の軽自動車ユーザーが何を求めているのかを研究した結果であり、マーケティング面から見ても非常に重要なポイントだろう。

スーパートールボディを採用し、限られた軽自動車規格の中で最大限の室内空間を追求している。

さらに両側スライドドアを採用したことで、狭い駐車場や住宅街でも乗り降りがしやすい。子どもの送り迎えや買い物など、日本の生活シーンを具体的にイメージしたパッケージングになっている。

リアシートを倒せば大きな荷室が生まれる。フラットにはならないがこのままでいいと思う。フロントシートの背もたれにはポケットとテーブルがついている。リアスピーカーの上にある小物入れは使い勝手が良さそう。

限られた軽自動車規格の中で、乗員スペースと使い勝手をどう最大化するか。ラッコはその答えを、スーパートールボディと両側スライドドアの組み合わせで示している。

X-PACKなどBYDらしいEV技術を投入

もちろん、ラッコの魅力はボディだけではない。EVメーカーとしてのBYDらしさは、パワートレインにも凝縮されている。

その代表が「X-PACK」をはじめとする電池・パワートレイン技術だ。軽自動車という限られたサイズの中に、EVとして必要な性能と使い勝手をどのように成立させるか。BYDがこれまで培ってきた電動化技術を、日本の軽自動車というフォーマットに落とし込んでいる。

X-PACKは6つの性能を高い次元で実現すべく設計されている。

航続距離についても、軽EVだから近距離専用と割り切るのではなく、日常的な移動を十分にカバーできることを狙っている。また、ソフトウェアによってクルマの機能を進化させるSDV(Software Defined Vehicle)の考え方も取り入れている。

つまりラッコは、「小さなEV」ではなく、軽自動車のサイズにBYDが持つEVとデジタル技術を凝縮したモデルなのである。

驚かされたのは、想像以上に自然な走り

そして今回の試乗で、個人的にもっとも印象に残ったのが走りだった。軽EVというと、電気モーター特有の瞬発力を生かし、アクセルを踏んだ瞬間にグッと前へ出るようなセッティングを想像するかもしれない。しかし、ラッコの味付けはそれとは少し違う。

BYDは日本の軽自動車オーナーを徹底的に研究したという。その結果として採用されたのが、発進時に急激なトルクを立ち上げるのではなく、ドライバーの意図に合わせてスムーズに速度を乗せていくセッティングだ。

BYD RACCO(ラッコ)の走りは従来の軽自動車にあらず。走る、止まる、曲がるすべてが一段上だ。印象的だったのがアクセル操作に対する自然なレスポンス。急発進することなく、実に滑らかに速度を乗せていく。

実際にステアリングを握ってみると、その狙いがよく分かる。アクセルを踏み込んだ際に「電気自動車だから急に飛び出す」という感覚がなく、非常に自然にクルマが前へ進んでいく。軽自動車の日常的な使い方を考えれば、この味付けは理にかなっている。

EVのメリットを追求するだけではなく、日本の軽自動車に乗る人が違和感なく受け入れられることを優先した。その姿勢が走りからも感じられた。

さらに感心したのがブレーキだ。リアブレーキにはディスクブレーキを採用しており、コンパクトな軽EVだからといって走りの部分で手を抜いていない。

リアブレーキにはディスクブレーキを採用。軽EVだからといって走りの部分で妥協していないことが分かる。残念なのがグリップ力に欠けるタイヤだ。早急に見直してほしい。

軽自動車というカテゴリーに合わせてコストを抑えながらも、必要な部分にはしっかりと技術を投入する。このバランス感覚もラッコの大きな特徴といえる。

「日本の軽自動車を研究してつくったEV」ではなく、「日本の軽自動車ユーザーのためにつくったEV」

日本の軽自動車市場は、言うまでもなく、国内メーカーが長年にわたって磨き上げてきた独自の世界だ。そこへEVの巨人BYDが参入した。日本の道路事情、駐車環境、家族の使い方、そして軽自動車ユーザーがクルマに求めるもの。BYDはそこをかなり深く研究している。

掛け心地の良いシートはベンチシートのようにつながって意外と便利。センターコンソールの保温機能付きカップホルダーは不要。フラットな床のままにして欲しい。
170cmのドライバーのシートポジションでリアシートを一番後ろにすると足元に広大なスペースが生まれる。

わずか2年で完全新設計の軽EVを製品化した開発力も含め、ラッコはBYDの日本市場に対する本気度を象徴するモデルになりそうだ。

もちろん、最終的な評価を左右するのは価格と航続距離、そして購入後の安心感である。ラッコでは新車保証についても競争力を持たせており、価格設定も含めて、日本の軽EV市場で十分に勝負できるポジションを狙っている。

クリーンなダッシュボードのデザイン。センターのモニターの大きさもちょうど良い。シフトレバーのデザインと操作性には改良の余地あり。スマホの置き場所がないのは意外だった。

今回ラッコを試乗して感じたのは、BYDがこの違いをかなり意識しているということだった。軽自動車の定石を押さえながら、BYDならではの技術と開発スピードを武器にするラッコ。

日本の軽自動車を研究しただけではない。日本の軽自動車ユーザーのためにつくったEV。その先にBYDが見据えているのは、大衆車の最適解なのかもしれない。日本の軽EV市場に、これまでとは違った競争を持ち込む一台になりそうだ。

走りが良くなると軽自動車を積極的に購入したくなる。この感覚はやはり軽自動車の枠にはまらない独特の世界観を持つジムニーと似ている。

編集部より
BYD RACCO(ラッコ)が販売を開始して1週間足らずで700台を成約したと聞いた。多くは軽自動車ユーザーだが、中には予約もせずふらっとディーラーを訪れた宅配業者が即決で購入したという話を聞いた。これはラッコが物流のプロもうならせる商品力の高さを証明するものだ。商用軽EVバンとしても普及してほしい。アウトドアにも最適だと思った。アウトビルトジャパン(Auto Bild Japan)

Text&Photo:アウトビルトジャパン(Auto Bild Japan)