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アルピナD5Sを自腹で所有レポート 最低山アルピニスト誕生!の巻

2026年8月4日

アウトビルトジャパンに寄稿するライター大林晃平が、7年落ちのBMWアルピナD5Sビターボリムジンアルラット(BMW ALPINA D5 S Bi-Turbo Limousine Allrad)を自腹で購入した。これからどういう顛末が待っているのか、その記録を一切包み隠さず長期レポートしたら面白いのではないか、ということで今回はその序章、というよりも45年以上も一方的に片想いをしていた男の、長文ラブレターである。

ポールフレールと松本隆

長身のポールフレールがレーシングスーツとヘルメット姿でアルピナグリーンに塗られた「アルピナ B7 S」に乗り込み、サーキットを駆ける。我々クルマ好きには超有名なヨコハマタイヤのCMだが、16歳の僕はその画像を見た瞬間、ああ格好いい、と不覚にもポールフレール先生とアルピナに心底憧れ、身分不相応ながら恋に落ちた。もちろんポールフレール先生はカッコウいいに決まっているのだが、あの世界一美しいCピラーを持つ6シリーズがグリーンに塗られサーキットを走る画像を見て、僕は生まれて初めて自動車とは美しく格好いいものだという認識を持った。そして世界で一番美しいクーペはその時以来、永遠に「B7 S」である。(ちなみに美しいセダンの永遠の最高峰はナス紺色のランチア テーマである)

スーパーカーブームど真ん中を生き抜いてきた自動車少年だというのに、それまで一度もポルシェもフェラーリももちろんランボルギーニも格好いいと思ったことなどなく、へそ曲がりだから逆にコロナとかブルーバード、アコードといったなんてことのない自動車が美しく見え、心の中では一過性のスーパーカーブームに踊る子どもたち(自分だって子どもなのに)を冷めた目で見る、という実に嫌なガキだったのだが、そんな唐変木さえも一瞬で魅了するあの格好良さはいったい……その日から僕の心にはずっとALPINA(アルピナ)の名前が刻まれた。もう45年も前のことである。

D5Sは3リッター直列6気筒DOHCディーゼルターボエンジンを搭載、326ps、700Nmのパワーを誇る。巡航最高速度は275km/h、0-100km/hは4.9秒。

それまでもカーグラフィック80年2月号で表紙になった「B7ターボ」を見てアルピナのことは知っていたが、その時はそれを好きになるとは微塵も思っていなかった。だが前述のポールフレール先生とB7Sの組み合わせと同じ時期に、僕を憧れの対象にひきずりこむ記事が発行されることになる。それはあのモーターファンの「すべて」シリーズの一冊に、どういうきっかけなのか『アルピナのすべて』というムックが発刊され、もちろんそれを購入した僕は丹念に何回も何回も読みこんだ。徳大寺有恒巨匠のB7のインプレッションや、若かりし頃の佐々木弥一氏がオーナーとして登場するなど、今読んでも実に面白い本ではあるのだが、僕が衝撃を受けたのはオーナーインタビューの中に作詞家の松本隆さんが出ていたことである。

都内の高級マンションドムス(多分)の前に止めた黒い「B7ターボ」の前でポケットに手を突っ込みながら立つ松本隆氏は「目立つのでストライプは外してしまいました」というコメントと共に、実に嬉しそうに写真に納まっていた。そしてその時、改めて僕は認識した。アルピナはポールフレール先生や松本隆さんのような、天上界の人が乗る車で、僕が生涯所有することも、座ることもないだろうな、と。街で見かけられただけでも幸せと思おう、そう心に決めたのは、くどいけれど45年以上前の話である。

いきなりな展開@関内の居酒屋

その後アルピナはかなり知名度も上がり、街で見かける回数も増えたものの、まだまだ秘密の花園的な自動車で、それは今でもやはり変わらない。20年ほど前には松任谷正隆さんが「B3」をアルピナグリーンのボディカラーに一切のストライプなどを付けずに乗る、という超絶おしゃれなチョイスで乗っていらっしゃるのを見かけたが、松任谷さんも天上界の人だから乗れるのであって、やはり一般庶民の私には縁のない世界の自動車であることに長年変わりはなかった。

“D” の意味の一つは、アルピナ・モデルの「ディーゼル・パワー・ユニット」を示しています。”D”の二つ目は、「ダイナミクス」。そして、三つ目の”D”はドイツ語の「Drehmoment」つまり、トルクを示しています。とアルピナの日本総代理店ニコルのホームページに書いてあった。

たまに中古車で見かけても「買う」という気持ちになれなかったのはもちろん値段の高さが一番の理由ではあるものの、自分の心の中には、私ごときが持ってはいけない永遠の憧れ、そういう地位の自動車だったのである。たとえば松田聖子を偶然にも街で見かけたとしたところで「ずっと長年のファンだったんです」と声をかけられるか、というともう絶対に無理、そんなことしちゃいけません、そっと見守りながら、見かけただけでも幸せでしたと思う、そういうことなのだと思う。

さて話はいきなり展開し、ついこの前のこと、僕はいつもの自動車大好きチームの面々と横浜関内の小さいけれど美味しい居酒屋でいつも通りの楽しい時間を持っていた。話の中はもう毎度毎度飽きることなく続く内容で、あの車はどうたらこうたら、そういえばあの車の修理はどうするべぇ、という周りの人が聞いたら、いったいこの人たちはいつも同じ話をしているけれど飽きないのだろうか、という例のアレなのだが、そんな中でも「こんな中古車を見つけた」というのは定番中の定番ネタである。

僕の隣に座っていたのはジョージ君(日本人)で、彼は超良家のご子息、とんかつの大好きな心優しい51歳である。その気のいい彼が「こんなの見つけましたぁ」と普段太陽光に当たっていないからなのか真っ白でぷよぷよの手で握ったスマートフォンで見せてくれたのは……7年落ちの「アルピナD5S」で、2.8万キロしか走っていないのに、値段はずいぶん安い一台だった。現車は金沢にあって、まだ売れてないみたいなんですよ、と肉をおいしそうにほうばりつつジョージ君は語ってくるではないか!

ジョージ君がD5Sに給油する図。

もう今だから言うと、その瞬間にその車をなんとか買えないものだろうか、と心に決めていたのだと思う。個人的な話題で恐縮だが、昨年めでたく健康のうちに還暦を迎え、18歳で免許をとってから大きな事故もなく、幸せな自動車との時間を重ねてくることができた。その間、本当に本当に幸運なことに大好きな自動車を何台も所有し、自分が生涯の中で乗りたいと思う目標の自動車はかなり制覇したと思う。もちろんその多くは中古車だったり大古車ではあったが、それでも世の中の人の中でも僕は超幸せな一人であることに間違えはない。

D5Sは「アルラット(Allrad)」つまりxDriveシステムをベースにアルピナの専用チューニングが施された全輪駆動車だ。

そしてその多くは、今となりで一緒にご飯を食べたり、馬鹿話を飽きることもなく続けている大切でかけがえのない友人たちが運んできてくれたことがほとんどで、僕の人生における最大の財産は言うまでもなく彼らのような友人なのである。

だからこそ、今回の機会も大切にしたいし、これからも楽しく笑い声いっぱいの時間をまだまだみんなと重ねていきたい……そんな時間をこの7年落ち中古の「アルピナD5S」は、きっと運んできてくれるのではないだろうか。そんな幻想というか予感をスマートフォンの中のクルマが感じさせてくれているようにも思えた。

ALPINA(アルピナ)の正式社名はアルピナ ブルクハルト ボーフェンジーペン有限&合資会社(ALPINA
Burkard Bovensiepen GmbH + Co. KG)である。

「来週、一緒に金沢にこの車見に行きませんか?」僕がそういうと、色白でぽっちゃりしたジョージ君は嬉しそうに笑った。蛇足ながら僕とジョージ君は完全な下戸で一切のアルコールを受け付けない身体である。だから酔った勢いの展開では絶対にない。(つづく)

Text&Photo:大林晃平