【一騎打ち】メルセデスAMG対ポルシェ 果たしてメルセデスAMG GT 63 Proはポルシェ911 GT3に勝てるか?
2026年7月3日
メルセデスAMGは「GT 63 Pro」を「サーキット走行も楽しめるスポーツクーペ」として市場に投入した。その立ち位置は、このコンセプトを確立した存在ともいえるポルシェ911 GT3の真正面に位置する。
偶然にも今回、私は「メルセデスAMG GT 63 Pro」でドイツ・西アイフェル地方にあるテストコースへ向かっている。そのおかげで思いがけず静かな時間を過ごし、これまでを振り返ることができた。控えめに響くV8エンジンのサウンドをBGMに、思い出したのは先代AMG GTの「R」を最後にドライブした日のことだ。当時のAMG GTは、まさに本格的なトランスアクスル・スポーツカーだった。
まるで昨日の出来事のように鮮明に覚えている。
その理由のひとつは、2017年春、この試乗記事の撮影で、オランダで最も美しい”知られざる公道サーキット”とも呼ばれる「ヴァルセルリング(Varsselring)」を、思う存分攻めるという貴重な機会に恵まれたこと。そして何より、当時の鮮やかなグリーンに彩られた「メルセデスAMG GT R」が、予想をはるかに超えるほど荒々しい性格を持っていたからだ。容赦なく、耳をつんざくような轟音を響かせ、人を威圧する存在だった。

だからこそ、今味わっている快適な移動性能には驚かされる。
しかもこれは、開発陣が「時折サーキット走行も楽しめる実用的なスポーツクーペ」と位置付ける「Pro」仕様だ。わずかに着座位置が高く、少々ゆったりしすぎたスポーツシートに身を預け、巨大なインフォテインメントディスプレイを眺めながら、このクルマがサーキット志向であることを示すディテールを探してみる。しかし、それらしいものはなかなか見当たらない。
「もしかするとメルセデスは、間違ったクルマを送り込んできたのではないか」そんな考えすら頭をよぎる。だが、待ち合わせ場所に到着し、リアに装着されたエンブレムを見ると疑いようはない。これが「GT 63 Pro」そのものだ。スポイラーやホイール、カーボンセラミックブレーキの大半は通常のメルセデスAMG GTにもオプション設定されているため、目の肥えたファンでさえ「本物のPro」を見分けるのは簡単ではない。
メルセデスAMG GT 63:Proは約3万ユーロ高い
そして実際のところ、「Pro」でもサイドやリアバンパーに設けられたエアインテークは、ドナルド トランプの選挙公約と同じくらいフェイクだ。さらに中身を見ても、GT 63との価格差約3万ユーロを正当化する違いは、虫眼鏡で探さなければならないほど小さい。
では、その付加価値を簡単に整理してみよう。Proには左右それぞれ2基ずつラジエーターが追加され、エンジンの熱対策性能が大幅に向上している。さらに四輪駆動システムとディファレンシャル専用の補助ラジエーターも新設され、こちらは電動ポンプによってアクティブ制御される。足まわりには手動調整式のコイルオーバーサスペンションを採用し、カーボンファイバー製スタビライザーも調整可能となっている。

セラミックブレーキとリアアクスルステアリングは標準装備となる。しかし、かつて採用されていたドライサンプ潤滑やゲトラグ製デュアルクラッチトランスミッションは姿を消した。代わりに搭載されるのは、他のGTシリーズと共通の四輪駆動システムと電子制御ダンパーだ。
もちろん、ツインターボV8エンジンは従来どおり本来の姿を維持している。最高出力は612PS、最大トルクは850Nm。数字だけを見れば圧倒的だが、そのインパクトは最終的に車重によって相殺されてしまう。このクルマの最も大きな変化は、実は重量の増加にある。車重は最大1,875kg。これは先代GT R Proより少なくとも300kg重く、今回の比較相手であるポルシェ911 GT3と比べても約400kgもの差がある。
ポルシェ911 GT3:「なんというサウンドだ!」
しかし、「911 GT3」のスリムなキャラクターは、必ずしもすべてが長所というわけではない。私がAMGで快適に移動してきたのとは対照的に、同僚たちは「911」から降りる頃にはかなり疲れ切っていた。
「これを”実用的なレーシングカー”なんて呼ぶのは無理だ!」
ベルギーの高速道路を含む約3時間の移動を終えた元審査員はそう嘆く。
「とにかくうるさい!」
衝突安全基準や環境規制の強化によって「GT3」は本来ならさらに重く、パワーも抑えられる運命だった。そこでポルシェはファイナルギアをショート化し、さらに遮音材を大幅に減らすという対策を講じたようだ。その結果生まれたのが、エンジン音とロードノイズが絶えず車内へ流れ込むクラブスポーツ仕様の世界である。これを好むかどうかは完全に好み次第だ。
日常使いには決して理想的とは言えないが、カーボン製ロールケージやレーシングシートを備えたこの仕様なら、サーキットではその魅力が何倍にも増す。もちろん、それだけの性能を手に入れるだけの資金があればの話だ。
「911 GT3」も他の911シリーズ同様、マイナーチェンジによって価格は大幅に上昇した。従来の17万1,000ユーロから、現在は20万9,000ユーロからとなる。AMGより102PS低く、最大トルクも実に400Nm少ないクルマとしてはかなり高価だ。それでも加速性能は驚くほど互角であり、トルク差と重量差が絶妙に打ち消し合っているかのようである。
右側のパドルを3回も引いて回転数を下げようとしても何も起こらず、「すでに7速だったのか」と気づいた瞬間、ここまで同僚たちがどれほど苦労してきたのかがようやく理解できた。
GT3はドライバーに多くを要求する。しかし、それ以上のものを返してくれる。その感覚を、決まり文句を使わずに表現するのは決して簡単ではない。
| テクニカルデータ | メルセデスAMG GT63 Pro | ポルシェ 911 GT3 |
| エンジン | V8ツインターボ | 水平対向6気筒 |
| 排気量 | 3982cc | 3996cc |
| 最高出力 | 450kW (612hp)/5500–6500rpm | 375kW (510hp)/8500rpm |
| リッター馬力 | 154hp/L | 128hp/L |
| 最大トルク | 850Nm/2350–5000rpm | 450Nm/6250rpm |
| トランスミッション | 9速オートマチック | 7速PDK |
| 駆動方式 | 全輪駆動 | 後輪駆動 |
| タイヤサイズ | 295/30 R21 – 305/30 R21 | 255/35 R20 – 315/30 R21 |
| タイヤ | ミシュラン パイロットスポーツ 5 | ミシュランパイロットスポーツCup2 |
| 全長/全幅/全高 | 4728/2100/1354mm | 4570/2033/1279mm |
| ホイールベース | 2700mm | 2457mm |
| 燃料タンク/トランク容量 | 70/321L | 63/135L |
| 0-100/0-200km/h | 3.2/10.9秒 | 3.4/10.8秒 |
| 最高速度 | 317km/h | 311km/h |
| 燃費 | 7.0km/L | 7.2km/L |
| 価格 | 219,674ユーロ(約4,064万円) | 209,000ユーロ(約3,867万円) |
ケータハム以上のフィードバックを持つクルマはない
高回転まで一気に吹け上がる水平対向6気筒エンジン。そのクレッシェンドは、自宅で眠りにつく10時間後になっても耳に残る。アクセルレスポンスは、実際のスロットルバルブまでの物理的距離を忘れさせるほどダイレクト。ブレーキペダルは驚くほど繊細で、コントロール性は抜群だ。
そしてステアリングは、まるで拳そのものが前輪へ直結しているかのような感覚を与える。PDKが操る6気筒サウンドは、ドライバーを人と機械だけが対話する独特の世界へと自然に引き込んでいく。ロール、ピッチ、ヨーという車体のあらゆる動きがそのまま身体へ伝わり、4本のタイヤにどれだけ荷重が掛かっているかを体感だけで把握できるほどだ。
これ以上ロードインフォメーションが欲しいなら、ケータハムに乗るしかない。
「GT3」最大の魅力は、自分自身の運転技術によって「無敵になった」と錯覚させてくれることだ。プリュム、ゲロルシュタイン、ビットブルクを結ぶワインディングロードでも、その感覚は変わらない。その裏ではリアアクスルステアリングや電子制御LSDが高速で作動し、アンダーステアもオーバーステアも発生する前に抑え込んでいる。ESPも必要最小限だけ介入し、ドライバーにはほとんど気付かせない。

助手席のジェロームは、市街地へ入る前に少し強めのブレーキングをした瞬間、驚いたようにこう尋ねた。「今、どれだけスピードが出ていたかわかってた?」正直に言えば、まったく気付いていなかった。これほどまでにコントロール性が高いと、法定速度との感覚まで曖昧になってしまうのである。
これが完璧というものなのだろうか。答えは「イエス」であり「ノー」でもある。純粋なドライビングフィールとコントロール性能だけ見れば、これ以上望むものはほとんどない。
一方で992.2型GT3を公道で走らせると、本来このシャシー性能を発揮できるのはサーキットなのだと痛感する。コーナリングはあまりにも容易で、公道ではすぐに退屈になってしまう。あるいは危険ですらある。
911 GT3は、そのまま受け入れるべき存在
一方で、過去の「GT3」への郷愁も残る。かつてのPDKは削岩機のような衝撃で変速し、8,000〜9,000rpmでは丸ノコのような甲高いサウンドを奏でていた。チューニングパーツやソフトウェアで多少再現できるかもしれない。しかし、本当に軽快で遊び心があり、軽量スポーツカーらしい感覚を味わいたいなら、数世代前の「GT3」まで遡る必要がある。
もっとも、現在のライバルは乗員2名と満タン状態で2トンを超えるスポーツカーばかりだ。そう考えれば、この「GT3」は現代における最善の姿なのかもしれない。もっとも、もはや「AMG GT Pro」を簡単に引き離せる時代ではなくなっている。
では「AMG GT Pro」はどうだろうか。現代AMGらしく、まず快適なGTから本物の「Pro」へ変貌させるには細かなセッティングが必要になる。Sport+のさらに上にはRaceモードがあり、ESPにもPro、さらにMasterモードが用意される。Sportモード中にESPを作動させた状態でも、完全オフでも選択可能だ。もちろんポルシェにも各種ドライブモードがあり、特にサスペンションやPDKの制御は明確に変化する。

しかしAMGでは、それぞれのモードの違いというより、「GTからProへ変身する」という印象のほうが強い。これはAMG GTのキャラクターそのものだ。数多くの電子制御システムによって走行性能を作り上げていることを、あえてドライバーへ意識させているようにも感じられる。
その理由は「63 Pro」というパッケージそのものにもある。トランスアクスルではなく、大型V8と四輪駆動を採用。静止状態で54%もの重量がフロントへ掛かり、ドライサンプではないため重心も高い。乗員は後輪操舵機構の真上付近へ座る格好となり、その独特な挙動は運転中にもはっきり感じられる。295mm幅のフロントタイヤは大きなパワーステアリングアシストを必要とし、その結果としてステアリングフィールはやや曖昧になる。
最初の数kmは、とにかくこのクルマへ慣れ、電子制御を信頼することが重要になる。しかし、それは簡単ではない。圧倒的なパワー、迫力あるサウンド、非常にクイックなステアリング、そして何より巨大なボディ。あらゆる要素がドライバーを威圧してくる。幸い今回はオプションのセミスリックではなく、標準装着のミシュラン パイロットスポーツS5を履いていた。十分なグリップを持ちながら、限界付近での挙動も穏やかで扱いやすい。
まずは少しずつペースを上げ、このAMGがどこまで応えてくれるのかを探っていく。そして分かってくる。速く走れば走るほど、このクルマは本領を発揮する。とはいえ、この怪物のようなV8には最後まで慣れない。
わずかに遅れて反応するアクセル。ターボが立ち上がった瞬間に襲ってくる猛烈な加速。さらにスピーカーを通して車内へ流れる単調なV8サウンドは、回転数の情報をほとんど伝えてくれない。
穏やかなアンダーステアから本格的なオーバーステアまで
頼りになるのは四輪駆動とLSDだけである。その制御は驚くほど優秀で、タイトコーナーでも「GT」を極めてニュートラルに保ってくれる。ドライバーの操作やESP設定次第で、穏やかなアンダーステアから大胆なオーバーステアまで自在に引き出せる。フロントタイヤからほとんど情報が伝わらず、後輪操舵によってフォークリフトのような感覚になることさえ受け入れてしまえば、このステアリングシステムの完成度は非常に高い。ワイドなフロントタイヤがしっかりと路面を捉え、後輪操舵が巨大なV8を中心に車体全体を自然とコーナーへ向けてくれる。

ドライバーの仕事は、余計なステアリング操作をしないことだ。応答は驚異的なほど正確である。自然なフィーリングとは言い難いが、その効果は非常に高い。リアが流れても最小限のカウンターステアで簡単に修正できることが分かれば、ようやく思い切ってアクセルを踏めるようになる。それでも四輪駆動は俊敏さを演出しすぎることはなく、派手なドリフトではなく安定した四輪スライドへ持ち込む。
前を走る「911 GT3」の美しいリアを見つめながら、あとは恐怖心を捨て、同じタイミングでブレーキングし、同じ速度でターンインし、コーナー入口で失った分を四輪駆動のトラクションで取り返すだけだ。経験の浅いドライバーにとっては、「AMG GT Pro」の性能を引き出す方が「911 GT3」よりも容易だろう。
最大の理由は、あらゆるレベルのドライバーに適したドライブモードが用意されているからだ。ESP付きSportモードから、850Nmすべてをリアへ送り、豪快なスモークを上げるDriftモードまで揃っている。しかしドリフトも、昔ほど簡単ではない。トラクション制御は急激に介入し、ステアリングも落ち着きを欠くため、美しいドリフトを維持するには高い技術と繊細な操作が必要となる。その圧倒的な速さには感心するものの、近寄り難さもまた際立っている。限界まで速く走り続けるか、無理をして破綻するか。AMGはそのどちらかになりがちだ。
一方、「911 GT3」は限界だけでなく、限界へ近づく過程そのものが楽しい。ドライバーへ常に課題を与え続けるからだ。シートヒーターやインフォテインメント、通常モードで十分な乗り心地を備えながらも、「GT3」は徹底してドライビングプレジャーを最優先に設計されている。
一方「AMG GT Pro」は、その車名やモデルレンジ上の位置付けとは裏腹に、「GT3」の真のライバルとは言い難い。むしろ比較すべき相手は、時折サーキットも楽しめるよう設計された「ポルシェ911ターボ」である。
ドライビングフィールという点では、圧倒的なコミュニケーション能力と俊敏性を持つ「911 GT3」が依然として頂点に立つ。しかも現在、この種のスポーツカーでは唯一の自然吸気モデルでもある。
しかしGTの「T」が本来「ツーリング」を意味するのであれば、「メルセデスAMG GT Pro」もまた、十分魅力的なGTカーと言えるだろう。
結論:
メルセデスAMG GT 63 Pro ★★★★☆(5点満点中4点)
テクノロジー面ではAMGの方がはるかに多彩であり、「GT」という名称が持つ二面性を象徴する1台である。耐久レースとサーキット走行、その狭間に存在意義を見いだした圧倒的な高性能スポーツカーだ。しかし純粋なサーキット性能という点では、これまで以上に「911 GT3」との差が明確になっている。
ポルシェ911 GT3 ★★★★☆½(5点満点中4.5点)
先代と比較すると、「GT3」にも少しずつハイテク技術が入り込み、かつてのピュアさを支える存在となっていることが分かる。ハンドリングも人工的に作り込まれた部分はあるが、そのことが精度や予測しやすさを損なうことはまだない。パワートレインとドライビングフィールの一体感は、現在でも比類ない完成度を誇る。
Text: Dries van den Elzen
Photo: Jérôme Wassenaar & Ronald Sassen

