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ヨーロッパ最大の自動車メディア「AUTO BILD」の流儀 年間100万kmを走る理由─世界が信頼する試乗テストの舞台裏「このクルマ、本当にいいの?」

2026年7月10日

新型車が発表されるたびに、インターネットには試乗インプレッションがあふれる。YouTubeでは発売直後からレビュー動画が公開され、SNSにも数え切れないほどの感想が並ぶ。

「加速が速い。」
「内装の質感がいい。」
「燃費は優秀。」

そんな評価は珍しくない。しかし、本当にそれだけでクルマの価値は判断できるのだろうか。

例えば、同じ300馬力のスポーツカーでも、アクセルを踏み込んだ瞬間の高揚感はまったく違う。長距離ドライブで疲れにくいシートもあれば、カタログスペックには表れない乗り心地の良さを持つクルマもある。

さらに、テスト車両は18m間隔で配置されたパイロンによるスラロームコースを走行し、その平均速度を計測する。ただし、ここで重要なのは、優れたタイムだけでは走行安全性を判断できないということだ。
Photo: Ronald Sassen

クルマとは、数字だけでは語れない工業製品なのである。だからこそAUTO BILDは、創刊以来「測ること」と「乗ること」の両方を重視してきた。

年間100万km。その数字が意味するもの

AUTO BILDでは毎年2,000本を超える試乗記事を制作している。そして、テスト車両が1年間に走る距離は100万km以上。地球約25周分にも相当する距離を走り続けながら、あらゆるメーカー、あらゆるカテゴリーのクルマを同じ基準で比較している。

もちろん、ただ走るだけではない。サーキットでは限界性能を試し、公道では日常での使い勝手を確認する。さらに最新の計測機器で性能を数値化し、その結果を何十年にもわたって蓄積してきたデータと照らし合わせる。

ポルシェ タイカンのテストは3年に渡って行われ10万キロを走破した。
Photo:Photo: autobild.de

この膨大な積み重ねこそが、AUTO BILDの試乗テストを世界中で信頼されるものにしている。

「速い」だけでは高得点にならない

意外に思われるかもしれないが、AUTO BILDでは最高出力や最高速度だけでは高い評価は得られない。評価は数百点にも及ぶ独自のポイントシステムによって決まる。重要なのは、「毎日乗るクルマとして本当に優れているか」。

計測機器を使って客観的にデータ収集が行われる。
Photo:Toni Bader

そのため、評価は多岐にわたる。

ボディはミリ単位で測定する

「室内が広い。」そんな曖昧な表現では終わらない。AUTO BILDでは、室内寸法や荷室容量をミリ単位で測定し、荷物の積みやすさや後席の居住性、視界の広さまで細かくチェックする。

すべての車両テストでは、空車重量や積載可能重量、最小回転半径、さらには室内寸法まで、AUTO BILDが自ら計測する。メーカー装着オプションを含め、すべての車両を公平な条件で比較するためには、この方法が欠かせない。
Photo:Auto Bild

車重についてもメーカー公表値ではなく実測値を使用する。つまり、「なんとなく広い」ではなく、「どれだけ広いか」を数字で証明するのである。

エンジンは馬力よりフィーリング

もちろん最高出力や加速性能も重要だ。しかし、それだけでは終わらない。アクセル操作への反応。トランスミッションの変速の滑らかさ。高速道路での余裕。街中で扱いやすいかどうか。こうした「数字では表しにくい部分」まで評価する。

スポーツクーペだけでなく、すべてのクルマに共通する重要なテーマが「実際の速さ」だ。AUTO BILDでは加速性能の計測をすべて専用テストコースで実施。全長2kmを超える旧滑走路を利用したコースは、正確なパフォーマンス測定に最適な環境となっている。
Photo:Christian Bittmann

そして、特に重視されるのが実燃費だ。AUTO BILDではカタログ値ではなく、自ら計測した燃費データを維持費の算出にも反映する。クルマは買って終わりではない。維持して初めて、本当の価値が見えてくるからだ。

スマホとの相性までテストする時代

現代のクルマは「走るスマートフォン」ともいえる存在になった。ナビゲーション、音楽配信、音声操作、スマートフォン連携。こうしたデジタル機能も重要な性能である。AUTO BILDでは複数のスマートフォンを用意し、Bluetooth接続やアプリ連携まで細かく検証する。毎日使う機能だからこそ、「ちゃんと使えるか」を確認するのである。

サスペンションは数字では語れない

乗り心地を決めるサスペンション。これは最も難しい評価項目のひとつだ。振動の大きさは測定できても、「心地よい」と感じるかどうかは数字だけでは分からない。

テストではテスターの経験値も求められる。
Photo:Ronald Sassen

そこで重要になるのが、何千台ものクルマをテストしてきたドライバーの経験だ。高速道路では安定しているか。荒れた路面でも不快ではないか。ワインディングロードではドライバーとクルマが一体になれるか。こうした感覚もAUTO BILDでは重要な評価対象になる。

クルマは「所有してから」が本番

AUTO BILDは購入価格だけでは評価しない。燃料代。リセールバリュー。維持費。所有コスト全体を計算し、「本当にお買い得なのか」を判断する。

読者が知りたいのは、「いくらで買えるか」ではない。「買ったあと、満足できるか」だからだ。数日では分からないこともある

長期テスト車のポルシェ マカンGTSはスタビリティの高さが評判で長距離ドライブには最適だった。
Photo: Lena Willgalis / AUTO BILD

AUTO BILDには4種類のテストがある。

・試乗レポート
・単独テスト
・比較テスト
・そして長期テスト。

長期テストでは数万kmを走行し、耐久性や信頼性まで検証する。短時間の試乗では見えない不具合や経年変化も、このテストなら見えてくる。だからこそ、「長く乗るならどのクルマがいいのか」という答えにも説得力が生まれる。

最後に残るのは「また乗りたい」という気持ち

AUTO BILDには、少し変わった評価項目がある。Lustfaktor(楽しさ指数)だ。

・デザイン
・エンジンのキャラクター
・ハンドリング
・居心地の良さ
・ブランドイメージ

緊急時には、制動距離がわずか1m伸びるだけで、生死を分ける結果につながることがある。そのため、ブレーキ性能の検証が極めて重要であることは言うまでもない。ただし、ブレーキに過度な負荷を与えるようなテストに意味はない。評価は、あくまでも実際の走行環境を想定した条件で行われる。
Photo:Toni Bader

これらを編集部が率直な感性で評価する。一見すると主観的にも思えるが、実はここにAUTO BILDらしさがある。どれほど優秀なスペックを持っていても、乗っていて心が動かなければ、それは「最高のクルマ」とは言えない。逆に、多少の欠点があっても、降りたあとにもう一度キーを握りたくなるクルマがある。数字では測れない魅力もまた、クルマの価値なのである。

AUTO BILDが伝えたいのは、「数字」ではなく「真実」

AUTO BILDの試乗テストは、単なる性能比較ではない。数値で証明できるものは徹底的に測り、数字では表現できないものは経験豊富なテストドライバーが評価する。その両方を組み合わせることで、一台のクルマを多角的に見極めている。年間100万kmという走行距離は、その哲学を支える積み重ねにほかならない。

AUTO BILD独自の評価システムは、クルマを隅々まで徹底検証する。メーカーにとって不都合な点であっても見逃すことはなく、隠し通すことはできない。
そのクルマがテストエディターの直感にどれほど訴えかけたのか。その評価を数値化するのが「プレジャーファクター」だ。

AUTO BILD JAPANもまた、このテスト手法と思想を受け継ぎ、日本の読者に「本当に価値ある一台」を伝えていく。

Text:アウトビルトジャパン(Auto Bild Japan)