左ハンドルが半数という時代錯誤がたまらない!「メルセデスAMG CLE 53 ナイトカーボン」は最後の王道クーペなのか?電動化時代に現れた“AMGらしいAMG”
2026年6月23日
SUV全盛。EVシフト加速。さらに高性能モデルですらハイブリッド化が進む2026年。そんな時代にメルセデスAMGが日本市場へ投入したのが「Mercedes-AMG CLE 53 4MATIC+ Coupé Edition Night Carbon(ISG)」だ。価格は16,330,000円。全国限定100台。
「Mercedes-AMG CLE 53 4MATIC+ Coupé Edition Night Carbon(ISG)」はカーボンファイバーをふんだんに使った専用エクステリアに、AMGナイトパッケージ、20インチ鍛造ホイール、ドリフトモードを備えるAMGダイナミックプラスパッケージを標準装備した特別仕様車である。しかし、このモデルの本当の見どころはカーボンパーツでも限定台数でもない。実は100台のうち50台が左ハンドル仕様なのだ。

いまや日本市場では右ハンドルが当たり前になった輸入車の世界で、半数を左ハンドルに割り当てるという決断は異例といえる。それはつまり、このクルマが万人向けではなく、AMGを愛するエンスージアストへ向けて作られたモデルであることを示している。
CLEはクーペ文化を守るために生まれた
そもそもCLEという車名自体が象徴的だ。メルセデス・ベンツは近年、ラインアップ整理の一環としてCクラスクーペとEクラスクーペを統合した。その後継として誕生したのがCLEである。効率や合理性だけを考えれば、クーペは真っ先に消えるカテゴリーだ。SUVより実用性は低い。4ドアセダンほど家族向きでもない。EV時代になれば空力効率を優先したファストバックが主流になる。

それでもメルセデスはクーペを残した。なぜか。クルマは移動手段だけではないからだ。長いボンネット、低いルーフライン、引き締まったリアエンド。その美しいプロポーションそのものがクーペの存在意義なのである。CLEはまさにその思想を受け継いだモデルだ。ロングホイールベース、ショートオーバーハング、ロングノーズという伝統的なFRクーペの造形は、かつてのEクラスクーペやCLKを思わせる。
そしてAMG版となる「CLE 53」は、その美しいボディに現代AMGのパフォーマンスを与えたモデルなのだ。
V8が消えた時代のAMGを支える直列6気筒
かつてAMGといえばV8だった。自然吸気6.2リッター。あるいは4.0リッターツインターボ。重厚なサウンドと圧倒的なトルクこそがAMGの象徴だった。しかし時代は変わった。排出ガス規制と燃費基準の強化により、大排気量エンジンは急速に居場所を失いつつある。
そのなかでAMGが選んだ回答が、CLE 53にも搭載される「M256M」だ。3.0リッター直列6気筒ターボに48Vシステム、電動スーパーチャージャー、ISGを組み合わせた最新ユニットである。最高出力は449PS、最大トルクは60Nm。オーバーブースト時には600Nmに達する。数字だけ見ても十分にスーパーカー級だ。さらに電動スーパーチャージャーによってターボラグをほぼ感じさせず、直列6気筒ならではの滑らかな回転フィールを実現している。
V8の豪快さとは違う。だが、このエンジンには現代AMGらしい洗練された速さがある。むしろ将来を考えれば、この直6こそが純エンジン時代最後のAMGを象徴するユニットになるかもしれない。
カーボンとブラックで仕立てた“夜のAMG”
Edition Night Carbonの魅力は、その名の通り徹底したブラック&カーボンの世界観にある。ドアミラーはカーボンファイバー製。フロントエプロン、サイドスカート、リアバンパーにもカーボンパーツを採用。リアには大型化されたカーボンスポイラーリップが装着される。さらにAMGナイトパッケージによって各部をブラックアウト。20インチ鍛造ホイールもブラック仕上げだ。
最近の高性能車は派手なカラーや巨大なエアロパーツで存在感を主張することが多い。しかしこのクルマは違う。黒を基調にした抑制されたスタイルでありながら、近づくと尋常ではない迫力を放っている。まるで仕立ての良い黒いスーツをまとった格闘家のような雰囲気だ。
ドリフトモードを残したAMGの意地
さらに興味深いのが、AMGダイナミックプラスパッケージを標準装備している点だ。RACEモードに加え、ドリフトモードも搭載される。前後トルク配分を0:100とし、完全な後輪駆動状態を作り出す機能である。もちろん公道で使うものではない。しかし重要なのは機能の有無ではない。AMGがまだ「運転する楽しさ」を諦めていないという事実だ。
EV時代になると、多くの高性能車は加速性能ばかりが語られる。0-100km/h加速が何秒か。最高出力が何馬力か。しかしAMGは違う。クルマを操る歓びそのものを残そうとしている。ドリフトモードは、その象徴なのである。
左ハンドル50台が示すメッセージ
そして最後に触れておきたいのが、やはり左ハンドルの存在だ。今回の限定100台のうち、実に50台が左ハンドル仕様となる。現在の日本市場を考えれば大胆な判断である。しかしAMGは知っているのだろう。
AMGを選ぶ人のなかには、単なる移動手段ではなく「本国仕様への憧れ」を抱くファンがいることを。

左ハンドルはなにかと不便かもしれない。それでも左ハンドルを選びたい。そんな人たちが確実に存在する。だからこそ半数を左ハンドルにした。
それはマーケティングではなく、エンスージアストへのメッセージだ。SUVが売れる時代。EVが主役になる時代。効率だけを求めれば存在意義すら疑われる2ドアクーペ。それでもAMGは449PSの直列6気筒を積み、ドリフトモードを残し、そして左ハンドルを50台も用意した。
「まだクルマ好きのためのクルマを作っている」
「Mercedes-AMG CLE 53 Edition Night Carbon」は、そんなAMGの意地が詰まった1台なのかもしれない。
Mercedes-AMG CLE 53 4MATIC+ Coupé Edition Night Carbon (ISG):全国限定250台
MANUFAKTUR オパリスホワイト(メタリック)
・左ハンドル30台、右ハンドル30台
・価格16,330,000円(税込)
MANUFAKTUR アルペングレー(ソリッド)
・左ハンドル20台、右ハンドル20台
・価格16,330,000円(税込)+外装色オプション価格 ¥230,000(税込)
先の「メルセデス E 300 Edition Elegance(ISG)」は限定250台の全てが左ハンドル仕様だった。メルセデス・ベンツ日本の判断に感服する。
Text:アウトビルトジャパン(Auto Bild Japan)
Photo:メルセデス・ベンツ日本

