ガチンコ勝負 パワーV8-SUV対決 アウディSQ7対メルセデスAMG GLE 63S 勝者は?
2021年3月17日
メルセデスAMG GLE 63 SとアウディSQ7の比較テスト。2台のヘビー級SUVは、レーストラックの上でパワフルなV8を駆使して競い合う。大型スポーツSUVはどのようなパフォーマンスを発揮するのだろうか? 我々のテストが明らかにする。
V8パーティーはまだ終わっていない。
しかしゆっくりと、確実に、出口に向かって踊り続けている。
排出ガス規制はますます厳しくなっており、大排気量エンジンにとっては生活が困難になってきているし、世間一般の認識でも、太ったエンジンはとっくに数えるほどしか存在しなくなっている。
いずれにしても、「メルセデスAMG GLE 63S」や「アウディSQ7」のような大型車に搭載された8気筒エンジンに関して、「良識のある」議論を展開するのはほとんど不可能だ。
性能データという意味では、「アウディSQ7」に搭載されているV8のほうがAMGより劣っている。
多くの「スペースだけ」を必要とする人にとって、ガソリンエンジンのSUVトップモデルはオーバーパワーであり、オフロード走行を楽しみたい人にとっても低車高の巨体SUVは第一選択ではありえない。
そういった矛盾をスポーティなドライバーも冷たい目で見る。
高すぎる重心と、テスト車1台あたり約2.4トンで、肋骨の上にあまりにも多くの脂肪が付いている。
そして、約7.6km/ℓというテスト時の平均燃料消費量は、長距離旅行にも決して適していない。
しかし、正直に本心を述べるなら、V8はまだまだ魅力的だ。
ボンネットの下には、エンジニアリングの傑作が隠されている。
アウディの場合、8本のシリンダーを備えた万能4.0 TFSIが推進力を提供する。
このエンジンはトップモデルの「RS Q8」にも搭載されているが、こちらは600馬力、800Nmと、「SQ7」よりもはるかに多くのパワーを発揮する仕様になっている。
メルセデスは加速時のアドバンテージが驚くほど小さい
「SQ7」には、マッチョな兄弟である「RS Q8」のビジュアル的な乱暴さはほとんどない。
一方で、エンジンサウンドは、4本の太いテールパイプが8気筒のシンフォニーを奏でていて、我々は熱心に耳を傾ける。
「AMG」もまた、その響き渡る轟音で楽しませてくれるが、アウディのほうがより我々を魅了する。
アウディと同じ4リッターのメルセデスV8の612馬力は、さらに付属するマイルドハイブリッドジェネレーターが22馬力の追加でそれを後押しする。
これは、メルセデスが常に弾力性のある加速能力でアウディの数十分の一先にダッシュするのに役立つ。
加速といえば、両モデルとも恐ろしいほどのパワーでまっすぐに進む。
「SQ7」には、駆動力の60パーセントがリアアクスルにもたらされる永続的クワトロドライブシステムが搭載されている。
「AMG」の「4MATIC+」全輪駆動システムは、電気機械式クラッチを介してアクスル間の動力を分配する。
そして最大時には半分のパワーがフロントに送られる。
アウディ同様、「GLE」もまたリアヘビーな傾向がある。
ベンツはその公約通り、約2.4トンのボディを3.8秒で0から100km/hまでスプリントダッシュさせる。
しかし、アウディは我々をそれ以上に感動させる。
わずか25kgの軽量化で、105という馬力差を補い、アウディは、0-100km/hスプリントでは、ベンツにわずかコンマ2秒の遅れをとるだけだ。
コンチドローム(コンチネンタルタイヤのテストコース)では、「GLE」がそのフルパワーを発揮する。
さらにすべての速度をちゃんと減速する必要があるため、アウディは8500ユーロ(約110万円)のセラミックブレーキシステムを装着している。
しかしそれでもライバルよりも減速性に劣るため、それはあまり助けにはなっていない。
そして、激しい使用の後にはパッドから生じる煙が目立つ。
一方、「AMG」は、穴の開いたスロットル付きスチールディスクを採用しているため、ブレーキの効きが良く、安定性の点でアウディよりも優れている。
ドライビングダイナミクスの面では、特にアウディは、その足がとても軽やかだ。
負荷が変化すると、ESPを非アクティブ化したアウディは、コンチドロームの狭いハンドリングセクションでは、お尻を激しく外側へ突き出すものの、その乱れた挙動を回復させるのは驚くほど簡単だ。
これは俊敏に見えるだけでなく、実際にそうなのだ。
コンチドロームのコースでは「AMG」のほうが実際には速いが、「SQ7」の縦方向のダイナミックレンジでのパフォーマンスは特に印象的だ。
測定グラフは、アウディのわずかに速いコーナリングスピードを証明している。
さらに、「SQ7」はステアリングの影響下でより早いブレーキングポイントと安定した姿勢を可能にしている。
チェックアウト時にはメルセデスよりもアウディの方が有利
傾斜角がフロント18度(アウディ)と21度(メルセデス)、リア20度(両モデルとも)しかなく、どちらも傾斜が苦手なので、隣のオフロードコースで試す必要すらなかった。
彼らの低傾斜のスポーツエプロンは、急な地形で思い切って冒険をおこなうことを忌避させる。
どちらも、少なくとも理論的にはある程度の水深の中を走ることもできるが、現実にそんなことをおこなうオーナーはほぼいないだろう。
このジャンルでは、「GLE」のほうが「アウディ」よりも優れている。
これは、AMGがほとんどすべての分野で優れた車であるもう理由のひとつだ。
とはいえ、アウディの方がクルマとしては楽しい。
また、アウディのほうが4万ユーロ(約520万円)以上安いので、最終的には勝利を得る。
しかし、アウディでさえも10万ユーロ(約1,300万円)弱で、高価だということは否めないのは事実だが。
400点満点中268点で2位: メルセデスAMG GLE 63 S
AMGは高性能なクルマではあるが、あまりに高い価格のために僅差での敗北を喫する。
価格:138,647 ユーロ(約1,800万円)から。
400点満点中270点で1位: アウディSQ7
ロングホイールベースの「SQ7」は、大幅にパワーが劣っているにもかかわらず、俊敏なシャシーで驚くほど運転が楽しい。また、価格的にも比較的安い。
価格: 97,200ユーロ(約1,260万円)から。
結論:
ラップタイム、素晴らしいシート、直感的なステアリングが「AMG」を物語っている。
しかし、広々とした素晴らしい音を奏でるアウディは、常に近くに感じ、最終的には価格を介して勝利を確保する。
加えて、ドライビングダイナミクスの面でも、我々は「AMG」よりも、「SQ7」のほうがもう少し楽しむことができ、そのサイズにもかかわらず、それは俊敏に感じる。
結果、2点という僅差でアウディの勝利となった。
2トン以上もの豪華で高性能なSUVをサーキットで試乗する…。なんとも矛盾に満ちた比較テストではあるが、そもそもこの2台のSUVは様々な矛盾に満ちたモデルであり、その矛盾とアンバランスさを魅力と感じながらチョイスするという2台なのであろう。さらに言えばSUVのくせに?悪路にはまったく適していないし、キャンプ道具を満載して目的地へ行くような一台でも、スキーを積んで雪道を走るようなクルマではない。そういうSUVではまったくなく、2台ともあくまでもオンロードにおける超高性能SUVなのである。
その結果?今回は「アウディSQ7」の勝ちとなったが、その理由の一部に価格が安い、という部分があることは意外であった。アウディは様々なオプション装備が高いのは有名だし、そういった装備をチョイスしていくとAMGとはあまり変わらない価格になるのではないかと思われる。
ただし性能においての優越や、駆動系の差異などでアウディが優位にたった、という理由は納得のいく部分である。若干アウディのほうが全体的なバランス面では上であろうし、AMGはもっと粗削りで洗練よりも迫力、のクルマだからである。だがその部分こそがAMGの魅力ともいえるし、アウディのようなSQといえども優等生、な性格とは大いに違う。
いずれにしろこれだけの大きさのSUVをショッピングモールに行くための車にしたりすることは根本的に違う行為ではあるが、前述の通り、最初から数々の矛盾に満ちた車なのは承知の上である。そしてそういう部分に魅力を感じるのも、また車という存在の魔力のひとつであろう。
Text: Alexander Bernt, Mirko Menke
加筆: 大林晃平
Photo: Ronald Sassen / AUTO BILD