1. ホーム
  2. ニュース
  3. 伝説のレーサーの名を冠した「アウディ ヌヴォラーリ」はR8の後継ではない!499台限定の新型スーパーカーがブランドの未来を示す

伝説のレーサーの名を冠した「アウディ ヌヴォラーリ」はR8の後継ではない!499台限定の新型スーパーカーがブランドの未来を示す

2026年6月8日

アウディはスーパーカー「ヌヴォラーリ(Nuvolari)」で反撃の狼煙を上げようとしている。しかし、それが成功するかどうかは一つの条件にかかっている。

いいえ、これはR8の後継モデルではない。アウディは499台限定のスーパーカー「ヌヴォラーリ」を投入する。車名は伝説的レーシングドライバーの タツィオ ヌヴォラーリ(Tazio Nuvolari) と、2003年に発表され第2世代TTを予告したコンセプトカー「ヌヴォラーリ クアトロ(Nuvolari quattro」へのオマージュだ。

そして、その通り。このヌヴォラーリは「ランボルギーニ テメラリオ(Lamborghini Temerario)」をベースとしている。4.0リッターV8ツインターボハイブリッドに加え、フロントアクスルに2基、V8エンジンとトランスミッションの間に1基の電気モーターを搭載する構成だ。

しかし、ランボルギーニとの血縁関係は、かつての「R8」以上に巧みに隠されている。辛うじてそれを感じさせるのはリアの排気システムくらいだ。

それ以外の部分では、新技術責任者(CTO)ルーヴェン モーア(Rouven Mohr)率いる少数精鋭チームが全力を注いだ。約1年半にわたる極秘プロジェクトの目標は、アウディの新たなフラッグシップモデルを唯一無二の存在にすることだった。そして、その目標は達成されたと言える。

コンセプトカーのような造形

デザインは「CCコンセプト」から着想を得ており、細く引き締まったグリルが新たなブランドフェイスを形成する。空力的に最適化された開口部を備え、機能性と親しみやすさを両立している。この思想は「ヌヴォラーリ」全体に貫かれている。使用される素材は、アウディが長年培ってきた「最高品質」という価値を明確に体現している。もっとも、50万ユーロ(約9,250万円)を超える価格を考えれば、それは当然期待されるレベルでもある。

アウディ ヌヴォラーリは1,000馬力超を誇る過激なハイブリッド・スーパーカーとして登場した。
Photo:Audi

「ヌヴォラーリ」全体は、まるで巨大な金属塊から削り出されたかのような印象を与える。シャープなエッジを持ちながらもプレスラインは存在しない。これは良い意味でテスラの「サイバートラック」や「サイバーキャブ」を思い起こさせる一方で、デザイナーにとっては大きな挑戦でもある。特にリアフェンダー周辺には広大な面が広がり、非常にモダンな印象だ。

ボディはすべてカーボン製で、塗装仕上げのほか、カーボン地を見せる仕様も選択できる。リアのエンジンカバーは一体構造の金属グリルで構成されており、視覚的な美しさだけでなく触感も優れている。製造や組み付け公差を考えれば、3分割構造の方が簡単で安価だったはずだ。しかし、あえてそうしなかったところに、このプロジェクトのこだわりが表れている。ここではコスト削減が優先されていない。

軽量構造によって、このハイブリッドスーパーカーの車重は1.7トン未満に抑えられている。これは「ランボルギーニ テメラリオ」と同等の水準だ。

最高速度350km/h超、1,000馬力オーバー

リアセクションは可動式リアスポイラーへと滑らかにつながる。そのためリアオーバーハングはわずかに延長され、空気の流れも最適化されている。スポイラー後端が不自然に跳ね上がらないよう工夫されているのだ。

アウディらしく、「ヌヴォラーリ」は無骨なレーシングカーではない。あくまでGTカーでありながら、必要とあればまったく別の顔も見せる。スペックシートによれば、システム出力1,001馬力、V8エンジン単体で730Nmのトルクを発生。0-100km/h加速は2.7秒、最高速度は350km/hを超えるという。

シャープなエッジと巨大な面構成により、ヌヴォラーリはまるで一塊から削り出されたような造形を見せる。
Photo:Audi

リアに配置されたアウディのフォーリングスはボディに削り込まれるように造形されており、思わず指でなぞりたくなるほどだ。

「ヌヴォラーリ(Nuvolari)」のロゴはドア後方のエアインテークに配置されている。

インテリアも同様に水平基調で構成され、ドアハンドルなどの金属パーツは大ぶりでありながら繊細に仕上げられている。

あえて簡素化されたインテリア

エアベントの手動調整ダイヤルは指にしっかりとした感触を伝え、操作時には精密な「カチッ」というクリック音を発する。

そのクリック感は、おそらく何年も前にインゴルシュタットの高給取りのエンジニアたちが執拗なまでに調整した結果なのだろう。そして今もなお、それはアウディの操作系に受け継がれるブランドDNAの一部となっている。

このエアベントの完成度こそ、ヌヴォラーリ全体を象徴するディテールだ。デザイン、触感、操作音のすべてが完璧であり、時代を超えた魅力を持つ。
Photo:Audi

こうした質感はタッチスクリーンでは再現できない。そのためアウディは、近年批判の対象となっているスクリーン過多のコックピットをヌヴォラーリでは意図的に排除した。代わりに用意されるのはセンターコンソールの小型縦型ディスプレイとデジタルメーターのみ。

周囲を取り囲むのは金属と上質な明るいファブリックだ。その結果、時代を超えた雰囲気が生まれ、将来的なクラシックカーとなる可能性すら感じさせる。かつての初代アウディTT(8N)がそうだったように。

個人的に特に気に入ったのは、あえてカバーで隠されていないシートマウント部分だ。ミニマルでありながら上品。そしてセンスがある。

着座位置は非常に低く、大きく平らなフロントウインドウ越しに優れた視界を確保する。スポーティでありながら長距離移動にも適し、極めて高品質なコックピット環境を提供している。

過剰な装飾ではなく削ぎ落とされたインテリア。金属を多用し、ディスプレイは最小限に抑えられている。
写真:Audi

唯一気になる点を挙げるとすれば、センターロック式の鍛造ホイールだろう。大きく閉じた面構成を持つボディデザインとの統一感という意味では、完全には調和していない。ホイールはやや軽快で開放的すぎ、モノリシックなデザインテーマを最後まで貫き切れていない印象だ。もっとも、ブレーキ冷却性能を考慮すれば他に選択肢はなかった。デザイナーたちは当初、より閉じたデザインを提案していたが、テスト走行の結果、開口部を拡大せざるを得なかったという。

Predictive Rideを備えた新世代quattro

技術面での最大の見どころは、新しい四輪駆動システム「quattro predictive ride」だ。独自アルゴリズムによって車両状態を常時分析し、ドライバーの挙動や走行状況を予測するとされる。

例えばドライバーが意図的にオーバーステアを発生させようとした場合でも、システムは運転者が気付かないレベルで穏やかに介入するという。BMWの「Heart of Joy」や新型ゴルフRにも似た発想は見られるため、考え方自体は新しいものではない。ただし、より賢く、より高速に、そしてアウディによれば特別なquattroアルゴリズムによって進化している。これは「技術による先進(Vorsprung durch Technik)」というブランド理念を再び前面に押し出す試みでもある。個人的には、この有名なブランドスローガンを具現化したアウディをここ10年近く見ていなかった。

リアに「quattro pr」のような小さなエンブレムを赤文字で追加していれば、初対面の印象はさらに完成度の高いものになっていたかもしれない。

ヌヴォラーリは、アウディにおける「技術による先進」を再定義するモデルとなることを目指している。
Photo:Audi

アウディはヌヴォラーリによって、将来のF1活動との橋渡しも狙っている。直線区間で速度を高めるDRS機能付きリアウイングや、F1から着想を得たカーボンブレーキシステムなどがその例だ。しかし、メルセデスがAMG Oneで実際のF1エンジンを公道仕様へ転用したことを考えると、アウディのF1との結び付きは比較的控えめに感じられる。この程度の批判は許されるだろう。なにしろ、ここで語っているのはR8後継車ではなく、本格的なスーパースポーツカーなのだから。

テクニカルデータ:アウディ ヌヴォラーリ(Audi Nuvolari)
・ハイパフォーマンスハイブリッドシステム
システム出力:736kW(1,001PS)
4.0リッターV8ツインターボ+3基のアキシャルフラックスモーター
V8単体出力:588kW(800PS)
・最大トルク:730Nm
・V8最高回転数:10,000rpm
・フロントアクスルに110kWモーター×2基
・V8とトランスミッション間にモーター×1基
・7.3kWhリチウムイオンバッテリー
・0-100km/h加速:2.6秒
・0-200km/h加速:6.8秒
・最高速度:350km/h超
・生産台数:499台限定
・価格:約60万ユーロ(約1億1,100万円)
・発売時期:2027年以降
・「quattro predictive ride」搭載アクティブ四輪駆動
・フロントアクスル電動トルクベクタリング
・ドライブモード:E-Hybrid/Balanced/Dynamic/Dynamic+
・トラックモード:Wet/Dry/Race/TC Off
・DRS機能付きアクティブリアウイング
・最大400kg超のダウンフォース
・発展型Audi Space Frameベースのカーボンボディ
・カーボンセラミックブレーキ
フロント420mm
リア410mm
・最大2.8MWの回生能力
・F1技術由来のSダクト
・冷却性能向上とフロントダウンフォース増加を実現

結論:
アウディはやり遂げた。

ルーヴェン モーア率いるチームは、量産車の姿をまといながらもコンセプトカーのような存在感を放つスーパーカーを生み出し、ブランドの将来像を示した。しかし個人的には、アウディは少々高望みしすぎたようにも感じる。これらのデザイン要素を取り入れた新型「R8」や新型「TT」の方が、499台限定の超高価なスーパースポーツカーよりも、プレミアムブランドとしての大衆性に適していたのではないだろうか。もちろん、このクルマが妥協なく作り込まれた傑作であることに疑いはない。だが、アウディが今後すぐに行動を起こし、このデザインや技術を他のモデル群へ展開し、発表済みの新型「A2」にまで反映させること。そして現在あまりにも高騰している価格設定を見直し、「TT」や「R8」後継モデルについて明確な方針を示すこと。それが実現すれば、ヌヴォラーリは「誰も求めていなかった問いへの答え」ではなくなる。

そのとき初めて、アウディは本来の軌道へ戻ったと言えるだろう。

Text:Robin Hornig
Photo:Audi