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【サーキットテスト】マクラーレン セナ ラップタイム新記録樹立 その凄さとは?

2021年3月7日

マクラーレン セナがザクセンリンクの新王者に! その圧巻の走りをビデオとともにお届け

マクラーレン セナがザクセンリンクサーキットで新記録樹立。マクラーレン セナが前王者のマンタイ ポルシェの記録を破ってザクセンリンクの新王者になった!しかしその記録達成はそれほど生易しく単純なものではなかった。

2019年に、「ポルシェスーパーカップ」や「ニュルブルクリンク24時間レース」などで連覇を果たし、ポルシェのモータースポーツ活動においてトップに君臨し続けているドイツのレーシングチーム、マンタイレーシング(Manthey Racing)の作り上げたポルシェがザクセンリンクサーキットで最速タイムを記録したことを覚えているだろうか。

その時は、大記録こそ立てたものの、マンタイのスタッフたちは、25秒の壁を破れず、24秒台を目指して再度挑戦するといってサーキットを後にした。今回、その彼ら打ち立てた記録に、マクラーレンのハイパーモデル、「セナ」で挑戦した。果たしてマンタイの記録は破れただろうか?

マクラーレン セナ800馬力、1354kgキロのハイパーカーに出会う

まずはスーパーマクラーレンの重要なデータをご紹介しよう。「セナ」は25度まで調整可能なDRS(Drag Reduction System=マシンの走行中にリアウイングの角度を意図的に変更することで空気抵抗を減らしトップスピードの向上をめざすデバイス)と、スワンネックステーが4.8キロと超軽量な構造が特徴だ。その結果、車重は1,354キロというライトウェイマシンに仕上がっている。比較のために挙げれば、「ポルシェ911 GT2 RS」は1,500キロだ。

「セナ」のエンジンは?V8ツインターボは、800馬力を発生する。エアロダイナミクス(空力特性)に関してはアクティブなエアロブレードを備え持ち、LEDヘッドライトの吸気口から吸い込まれた空気は、ガイドベーンによってシルに押し付けられてリアブレーキダクトとディフューザーに供給される。つまり、ダウンフォースとコーナリングスピードが圧倒的だということだ。そして、その性能を試すための理想の場所に我々はいる。ザクセンリンクサーキット、そう、「マンタイGT2 RS MR」が2019年春に1分25秒30のラップタイムで歴史を作った場所だ。気温も20度前後で、アスファルトも十分な温度まで温まっている。

そして、我々は満を持して、いざコースへ。ルーフに手を置き体を支えて、足からコックピットへ身体を滑り込ませる。フルバケットシートはグローブのようにフィットし、6点式シートベルトがカチッと音を立て、ガルウィングドアが閉まる。ヘッドライナー上部のスターターボタンを押し、ダイヤルを「T」に合わせて「トラック(Track)」を選択し、「エアロ(Aero)」を作動させると、セナは魔法のようにフロントが39ミリ、リアが30ミリも下がる。

シルバーストーンでのプレゼンテーションを通してこのクルマのことはすでに知っているが、ここザクセンリンクでの「セナ」のフィーリングはまったく違うものだった。ステアリング、スロットル、ブレーキ、すべてが極限まで研ぎ澄まされ、 それはル マンでのLMPカーのようなものだった。少し走り込んだだけでも、すでに「セナ」というハイパーカーのポテンシャルを感じることができる。オールドタイヤを履いたままの中途半端なウォームアップでも1分32秒台のラップタイムを記録した。そして一度ピットスインして高性能なタイヤに履き替える。シートベルトをさらにきつく締め直し、より緊張感が高まる中スタートする。

まずはスタート/フィニッシュ地点に向けて突進し、縁石を越えて少しオーバーステアになり、時速258マイル(415km/h)になるまでスピードを落とさず走り続ける。この区間の8.15秒はすでに新記録だ。しかしその後の狭いコーナーでは245サイズのタイヤを履いた比較的狭いフロントアクスルはレーシングラインを描くことに苦戦しており、このスピードでは前述のエアロも役に立たず、「セナ」は「マンタイ ポルシェ」よりも5分の1秒遅い。そしてすぐに2度目のチャレンジが始まる。

結局、更新したラップタイムの差は予想以上にわずかなものだった。左の下り坂ではわずかにアンダーステアになってしまう。しかし、そこから「セナ」の逆襲が始まる。「セクター4」はパワーと優れた空力特性の見せ所だ。V8ツインターボはスロットルに応じて、自由自在に回転を上げていく。

「セナ」はブラインドクレストを越えて2つの高速左コーナーを狂ったようなスピードで通過し、横Gは極限に達し、ヘルメットが重くなる。ザクセンカーブまでは259.9km/hだったが、実際はもっと出ると思っていた。そして、ケッケンベルクではまたわずかにオーバーステアになった。それにもかかわらず、フィニッシュした時、主観的には1分24秒台を樹立したと考えていた。しかし、ディスプレーには1分25秒19と表示されていた。

「まさか…。これ以上は考えられない完璧なラップだったのに」と心の声が叫んだ。分析によれば、ピレリ製「トロフェオR」はミシュラン製「カップ2 R」と同じレベルではないということと、フロントアクスルが狭すぎること、そして「トラック」モードのサスペンションが少し鋭すぎることが要因のようであった。「マンタイ ポルシェ」の記録は破れたものの、残念ながら、24秒台に突入するという希みは消えたのである。しかし、マクラーレンセナは最高かつ最適なコンディションで再度チャレンジしてみたくなる、文字通り「素晴らしいマシン」だった。

テクニカルデータ: マクラーレン セナ
● エンジン: V8ツインターボ、リアセンター縦置き ● 排気量: 3994cc ● 最高出力: 800PS@7250pm ● 最大トルク: 800Nm@5500~6700rpm ● 駆動方式: 後輪駆動、7速デュアルクラッチトランスミッション ● 全長×全幅×全高: 4744×1958×1229mm • 乾燥重量: 1354kg • 0-100km/h加速: 2.6秒 ● 0-200km/h加速: 6.8秒 ● 最高速度: 340km/h ● 価格: 922,250ユーロ(約1億2,000万円)

結論:
ウォーキング(Woking=マクラーレンの本拠地)に祝福のメッセージを贈ろう。「セナ」はザクセンブルクの記録を更新し新しい王者となった。最終的には予想をじゃっかん下回ったものの、少なくとも私はあのヘルメット内の素晴らしい感触はまだはっきりと残っている。さて「メルセデスAMG GTブラックシリーズ」が、この「セナ」以上のことができるか、その挑戦が楽しみだ。

ということで、「セナ」は「マンタイ ポルシェ」のタイムを上回ったわけだが、こういうタイムアタックがかなりのハイリスクを持っていることは言うまでもない。車のコンディションだけではなく、ドライバーの一瞬の(ほんのわずかな)ミスがタイムロスに直結してしまうし、これだけの高速であれば、なにかあった場合には、ドライバーの命の保証などないも等しいであろう。

そんな胃の痛くなるような状況で重責を背負いながらも、タイムアタックしなくてはいけないドライバーのことを思うとなんとも気の毒に思えてしまうが、そもそもそういう人間にはレーサ―やテストパイロットになる資格はないのだろう。まだまだ人間の記録への向上心が続く限り、タイム向上は果てしない夢の世界なのである。

Text: Guido Naumann
加筆: 大林晃平
Photo:McLaren Automotive Limited