【スーパーテスト】「BMW M5」セダンとツーリングの727馬力対決
2026年3月10日
スーパーテストで初めてとなる“ダブルヘッダー”。しかも、2.5トン級のクルマが一度に2台だ。常識外れと言っていいだろう。新型M5はまさにそんな存在だ。信じられないほどの重量を抱え、常に大きな負荷がかかった状態で走る。それでもなお楽しいのか?ツーリングとセダンの間にパフォーマンス差はどれほどあるのだろうか。
ディルク ヘッカー(Dirk Häcker)は本気だ。M部門の開発責任者である彼は、セミスリックタイヤを履いた「M3 CS」を限界まで追い込み、私の前を走る。ノックシュタインコーナーではわずかにオーバーステア。そこで彼は少し距離を稼ぐが、私はぴたりと食らいつく。オストシュライフェへ向かうバックストレートではこちらが追いつく。速度は265km/h。パドックへ続く右コーナーで強烈なブレーキングをかけても、彼は逃げ切れない。だが、スタート/フィニッシュ前のシケインで、ラインラント出身の彼はようやく再び差を広げていった。
どこで、何を、どのように?―2024年5月、M5プロトタイプによるプレビュー試乗会が行われた。ザルツブルクリンクのコースおよびその周辺で、BMWは初めてジャーナリストにステアリングを握らせたのだ。これは重要なイベントであり、M部門トップのフランシスクス ファン ミール(Franciscus van Meel)も現地に姿を見せていた。「M5」がいかに重要なMモデルであるかは明白だ。そしてG90型で、BMW M GmbHはついに純内燃機関車からプラグインハイブリッドへと大きく舵を切った。もっとも、その話は後ほど触れることにしよう。
まず、ヘッカーが巧みに操るペースカーだけでも、BMW Mが「M5」のパフォーマンスをどれほど本気で追求しているかを雄弁に物語っていた。試乗したジャーナリストたちの反応も実に率直で、「ああっ」「おおっ」「ワオ」といった感嘆の声が次々と上がる。
そして、その日の最も印象的な点は何だったのか。それは後に実際の顧客の間でも起こることを、すでに予感させていた点だ。重量やハンドリング、さらにはデザインに対する当初の懐疑―しかし、ひとたび実際にステアリングを握った瞬間、誰もが熱狂する。
さらに、M5プロジェクトマネージャーのヨアヒム ポップ(Joachim Popp)は、いくつかの数字を明かした。システム最高出力727ps、最大トルク1000Nm―それはまさに新しい世界の到来を示すスペックだった。

だが、これほどの巨体が本当に「M3 CS」を脅かす存在になり得るのだろうか。あの日のヘッカーは絶好調で、ドライビングの腕前は言うまでもない。したがって、その周回は決してリラックスしたものではなかった。とりわけ「M3 CS」は「M5」よりも600kgも軽く、さらに標準でスポーツタイヤを装着しているのだからなおさらだ。
結論を先に言えば―以前のテストで「BMW M5 Sedan (G90)」はザクセンリンクで1分33秒台前半のラップタイムを記録した。これは前述の「BMW M3 CS」にわずか1.5秒遅れという結果だ。デビュー戦としては決して悪くない。しかも、従来最速だった「BMW M5 CS (F90)」との差もわずか0.5秒に過ぎない。
この重量を考えれば、そして新型としての初登場を踏まえれば、実に印象的なタイムと言えるだろう。さらに、「ポルシェ パナメーラ ターボ Eハイブリッド(Porsche Panamera Turbo E-Hybrid)」をも上回る結果となった。
| BMW M5 セダン | BMW M5 ツーリング | |
| エンジン | V8+電動モーター (PSM)/ツインターボ | V8+電動モーター (PSM)/ツインターボ |
| 排気量 | 4395㏄ | 4395㏄ |
| バッテリー容量 | 22.1/18.6kWh | 22.1/18.6kWh |
| エンジン最高出力 | 430kW (585hp)/5600-6500rpm | 430kW (585hp)/5600-6500rpm |
| 電動モーター最高出力 | 145kW (197hp)/6000rpm | 145kW (197hp)/6000rpm |
| システム出力 | 535kW (727ps) | 535kW (727ps) |
| エンジン最大トルク | 750Nm/1800-4500rpm | 750Nm/1800-4500rpm |
| 電動モーター最大トルク | 400Nm/1000-5000rpm | 400Nm/1000-5000rpm |
| システム最大トルク | 1000Nm | 1000Nm |
| トランスミッション | 8速オートマチックトランスミッション | 8速オートマチックトランスミッション |
| 駆動 | 全輪駆動 | 全輪駆動 |
| 全長/全幅/全高 | 5096/2156/1510mm | 5096/2156/1516mm |
| ホイールベース | 3006mm | 3006mm |
| 燃料タンク/荷室 | 60/466L | 60/500-1630L |
| WLTP100km走行燃費 | 1.6L+ 26.4kWh | 2.0L+ 30.7kWh |
| テスト車価格 | 162,340ユーロ(約3000万円) | 160,940ユーロ(約2977万円) |
では、なぜ今このテーマを改めて取り上げるのか。理由は単純だ。「BMW M5 (G90)」は、セダンとツーリングを比較するのにまさにうってつけのモデルだからだ。高性能ワゴンは通常、セダンよりわずかに遅い―一般的にはそう考えられている。そして今回、テスト車のセダン(DGF-M 506E)がすでに編集部にあったため、ツーリングも用意することにした。こうして、このテスト形式が始まって以来初めてとなる“ダブル・スーパーテスト”を実施することになった。もちろん、必要な計測はすべて行う。18mスラロームやパフォーマンステストも含めてだ。
結果には大きな関心が集まっていた。というのも近年、BMW Mのエンジンは公称出力を上回ることが多いと言われているからだ。ただし、これまで私たちがInsoricで行ってきた測定では、必ずしもそうした傾向は確認されていない。前回の「M5」スーパーテストは2021年で、その際はスポーツタイヤを装着した「BMW M5 CS (F90)」をテストした。当時の測定では公称635psに対し、実測は649psだった。今回の2台のハイブリッドモンスターが、Nolimit Performanceの新しいローリングロードダイナモメーターでどんな数値を示すのか。
新型「M5」についてはすでに多くの記事を書いてきたが、包括的なテストを行う以上、技術的なポイントにも簡単に触れておくのがふさわしいだろう。基本的に技術内容はセダンとツーリングで共通しており、重量やボディ構造の違いによって、走行性能の数値がわずかに異なるだけである。

正直に言えば、パワートレインのベースが再びV8になったことを、私たちはただただ歓迎している。オーストリアでの試乗会の際、M部門の開発責任者ディルク ヘッカーは、現在のツインターボ直列6気筒でも同等のパフォーマンス数値を実現できた可能性があると明かしていた。しかし、エンジンのダウンサイジングを進め、その結果として顧客の反応が冷え込んだアファルターバッハとは異なり、BMWはエモーショナルな魅力を重視する道を選んだ。Mチームには改めて感謝したい。
というわけで、文字通り“すべて込み”のV8エンジンに回帰したわけだ。総称すればプラグインハイブリッドである。車体下部に配置された18.6kWhのリチウムイオンバッテリー、そして8速オートマチックトランスミッションに統合された197ps/280Nmの永久磁石同期電動モーターを備える。電動モーターはプレ減速ギアを介して有効トルクを450Nmまで高める仕組みだ。純電動での走行距離は約60km。11kWのウォールボックスを使用すれば充電時間は2時間15分ほどで済む。さらに社用車としての税制メリットなど、さまざまな利点もある。
システム出力727ps―それで十分なのか?
主たる動力源は、先代から受け継がれた4.4リッターV8ツインターボエンジンで、現在は585psと750Nmを発生する。確かにこれは、600psを誇った先代の「M5 (F90)」や、短期間設定された635psの「M5 CS (F90)」よりも数値としては低い。
なぜか。第一に排出ガス規制の影響があるだろう。第二に、電動モーターが加わったことで、そもそもそれ以上のエンジン出力を必要としなくなったためだ。システム総合出力727psは、パワーウエイトレシオこそ従来モデルより低いものの、実用上は十分以上と言えるはずだ。

シャシー:フロントはダブルウィッシュボーン式、リアは先代と同様の5リンク式サスペンションを採用。これに加えて、アダプティブ式スチールサスペンション、より剛性を高めたエンジンおよびトランスミッションマウント、各所の補強ブレースが組み込まれている。また前後アクスルともにキャンバー角が拡大されている。さらに新たに最大1.5度の操舵角を持つ後輪操舵(リアステアリング)も採用された。なお、48ボルトのアクティブロールスタビライザーのような“人工的な”軽量化対策は、現時点では採用されていない。
四輪駆動とブレーキ:パワーに合わせた最適化
実績あるMの四輪駆動システムは、アクティブリアディファレンシャルと組み合わせて従来どおり機能する。駆動力配分は「リア寄り」から「より強いリア寄り(4WDスポーツ)」、さらには2WDドリフトモードまで可変だ。今回のテスト車2台はいずれもオプションのカーボンセラミックブレーキを装備しており、フロント420mmディスクにもかかわらず25kgの軽量化を実現している。
タイヤは前20インチ/後21インチの異径サイズが標準装備だが、顧客は“スポーツタイヤ”を選択することもできる。とはいえ、完全なセミスリックではなく、ピレリの新型P Zero Rが用意されている。このタイヤはすでに「アウディ RS 3(Audi RS 3)」や「ポルシェ パナメーラ(Porsche Panamera)」で経験済みだが、「M5」でも非常に高いグリップを発揮するはずだ。その実力は、オーバルトラックとニュルブルクリンクでのテストによって確かめることになる。
先代と比べると、車幅はフロントで75mm、リアで48mm拡大されている。両ボディともリアには大型ディフューザーを備え、その中央部は分割構造となっており、ここにトレーラーヒッチ(1200ユーロ、牽引能力2トン)を装着できる。セダンでは30kgの軽量化に貢献するカーボンルーフが用意されるが、ツーリングには設定されない。どうやら、これほど大きなカーボンパーツを社内の品質基準に通すことができなかったようだ。残念なことだ。

さて、再び重量の話題に戻ろう。この2台のパワーハウスを実際に計量してみる。公称では両車の差は40kgだが、私たちの測定ではツーリングのほうが70kg重かった。ワゴンはリアアクスルだけでセダンより76kg重い。
では乗り込んでみよう。ついに「M5」でも低い着座位置が得られる。CSを除けば、これまではライバルに対して少々不利な点だった。テスト車のような鮮やかな赤いレザーを好むかどうかは個人の好みによるだろう。ステアリングホイールは下部がフラット形状となり、リムもやや太くなった。走行やパフォーマンスに関する設定はセンターコンソールのボタンから選択できる。これは非常に優れた操作系だ。
セットアップ:これまで以上に豊富な選択肢
従来どおり、エンジン、シャシー、ステアリング、ブレーキなどを「Comfort」「Sport」「Sport Plus」で調整できる。新たに追加されたのが回生ブレーキの設定だ。さらに「M Hybrid」メニューも用意され、「Electric」「Hybrid」「Sport」「Sport Plus」「Battery Hold」の各プログラムが選べる。Sportモードでは内燃エンジンと電動モーターが長時間高いパフォーマンスを発揮できるように制御され、Sport Plusでは短距離で最大パフォーマンスを発揮する設定となる。
いざ走行へ
急がなければならない。目的地はDEKRAのテストコースとザクセンリンクだ。車は静かに始動するが、これは少し慣れが必要だ。V8エンジンはほとんど気づかないほど滑らかに作動し、ショックもない。パワートレインの組み合わせは実に見事だ。言い換えれば、完璧なマッチングである。
結果として、パワーの出方は非常に自然で余裕がある。電動ブーストが加わることで、1000rpm以下でも猛烈な加速感が得られる。追い越しは容易そのもの。トルクは驚くほど素早く立ち上がり、中回転域で強烈な加速を見せ、最後は「M5」らしい高回転での鋭い伸びを披露する。

サウンドは内外ともやや控えめだが、今後さらに改善される可能性はあるだろう。一方、ZF製オートマチックトランスミッションはまったく不満がない。常に期待どおりの仕事をする。最もハードな設定では変速がやや荒々しいほどだ。
ステアリングは路上ではややフィードバックが不足気味だが、サスペンションの完成度は驚異的だ。500kgの重量増など感じさせない。両モデルともコーナーではまるで「M3」のように攻めることができ、トラクションも絶大でドライビングは実に楽しい。しかも新型「M5」は快適性も備えている。少なくとも、仕様によってはかなり硬かった先代(CompetitionやCS)と比べれば明らかに快適だ。ブレーキのフィーリングも優秀で、これは多くのハイブリッド車で弱点となりがちな部分でもある。
ブレーキ性能:重量のわりに驚くほど強力
ここでブレーキテストに移ろう。以前、「M5 CS (F90)」は100km/hから30.2m、200km/hから120.1mという記録を残していた。新型「M5」は大幅に重くなっているにもかかわらず、100km/hからの制動距離は30.6mと30.8mで非常に近い。200km/hからでは約8m長くなるが、それでも立派な結果だ。
加速性能はどうか。カタログ上では先代より遅い。しかし私たちのVBox測定でも、0–100km/hは3.5秒と3.6秒でメーカー公表値と一致した。これはローンチコントロールの初期設定がやや攻撃的すぎたためで、タイヤが温まっていても四輪すべてでホイールスピンが発生したからだ。
ただし高速域ではV8ハイブリッドの真価が現れる。従来のV8が息切れしていた領域でも、エンジンとモーターのコンビはさらにパワーを発揮する。その結果、0–300km/h加速では新型「M5」のほうが約4秒速い。
サーキットテスト:ザクセンリンク
ザクセンリンクでのテストへ向かう。セダンのDGF-M506 Eが以前記録したラップタイムは1分33秒01だ。そして限界域では車体が明らかにロールやピッチを見せた―やはり重量の影響だ。
ではツーリングはどうか。さらに重いのだから当然遅い?答えは「必ずしもそうとは言えない」。ワゴンは最初のコーナーから明らかに俊敏に感じられる。セダンと同じ回生ブレーキ設定(レベル2)ではオーバーステア気味になるため、レベル1に戻した。中速コーナーではツーリングのほうが扱いやすく、非常に高速なコーナーでのみ安定性でわずかに劣る。結果としてセダンとの差はわずか0.3秒。これは驚くべき結果だ。
唯一の欠点はタイヤだ。グリップの高いピレリP Zero Rは2周程度は安定しているが、その後急激に性能が低下し、トレッドが裂け始める。
結論:
見た目だけならツーリングは少なくとも1秒速そうに思える。しかし実際はまったく違う。70kgの重量増はあるものの、ハンドリングはむしろ活発だ。実用性とドライビングプレジャーが見事に両立している。
Text: Guido Naumann
Photo: Ronald Sassen

