このクルマなんぼスペシャル RM Sotheby’sオークションからの名車×33台 前編 1950~1970年代+珍車×3台
2021年1月27日
本当の意味でのヴィンテージカーを含む歴代の名車勢ぞろい。米アリゾナ州スコッツデールで2021年1月21日におこなわれた「RM Sotheby’s スコッツデールオークション」に出品された数多のヴィンテージカー、名車、希少車、珍車の中から、いいなあ、欲しいなあって思う18台を選りすぐって、落札想定価格とともにご紹介する。
エンジョイ&退屈な時間を吹っ飛ばしてください!
【1950年代】
1954 フェラーリ375アメリカ クーペ(by ヴィニャーレ)
• カロッツェリア「ヴィニャーレ」によってデザインされた3台の375アメリカ クーペのうちの1台
• 1954年の「NYワールドモータースポーツショー」と同じ年のジュネーブモーターショーに出品された。
• 4.5リッター「ランプレディV型12気筒エンジン」を保持
• ベージュのインテリアにバーガンディとシルバーグレーのオリジナル仕上げにレストア
• 新車時からの所有履歴を記録した書類付き
想定落札価格: 2,400,000~3,400,000ドル(約2億5,200万円~3億5,700万円)
大林晃平: 特にイタリアでそうだったが、昔は多くのカロッツェリア(コーチビルダー)がいて、様々なモデルを自己流にボディデザインして、世に送っていた。それゆえ、同じモデルをベースにした多くのボディバリエーションが存在した。このフェラーリもその1台だ。ちなみに戦前のフランスには自動車メーカーが200社くらいあったと聞いたことがある。要はそういう時代だったのである。
今回の一台は大変上品なボディカラー(エンジン部も含め)と、かなりの部分がオリジナルと思われる。さらに新車からの所有履歴がついているという部分も大切で、そう考えれば3億円前後と予想される価格も納得であろう。
フェラーリとはいってもレーシーなタイプではなく、あくまでも上品に、本当にお金持ちが舞踏会やパーティー会場に乗りつけるような、そういうクーペだ。
1955 ジャガーDタイプ
• レースの履歴に関するちゃんとしたドキュメントを兼ね備えた個体
• ボディワーク、マッチングナンバーのエンジンとシリンダーヘッドを含む多くのオリジナルコンポーネントを保持
• 希少性の高い、個性的なレッドボディとレッドインテリアのファクトリーコレクトモデル
• イギリスのレーサー、ピーター ブロンドがバーニー エクレストン(元FIA=国際自動車連盟会長)から新品を購入
• 著名な元オーナーには、レーサーのジーン ブロクサムや、レッド・ツェッペリンのマネージャー、ピーター グラントなどがいる。
想定落札価格: 5,750,000~7,500,000ドル(約6億375万円~7億8,750万円)
大林晃平: 文字通り猫(Cat=ジャガーの愛称)の顔をしたDタイプ ジャガー。正確には「ジャギュワ」という発音が正しいと言われ、かつてエンスージャストの神様が、「ディータアイプ ジャギュワ」と発音されていたのを聞いたことがある。それはさておき今回出品された1955年と言えばまさにルマンでDタイプが優勝し、翌1956年も連続優勝したという、そういう記念すべき年。そして1957年にはコヴェントリーの工場は火災に見舞われ、そこで生産も終了してしまうのである。そんな歴史を考えれば、7億円前後の価格も当然と言えよう。
1956 フェラーリ250GTアロイ クーペ(by ボアーノ)
• カロッツェリア「ボアーノ」が1956年から1958年にかけて生産した14台のアロイ(合金)ボディのクーペのうちの1台
• 「フェラーリクラシック」認定、マッチングナンバーV型12気筒エンジン、ギアボックス、ディファレンシャル
• レースに参加経験あり
• •ミッレミリアなどのイベントに参加できるよう、非常にオリジナルに近い状態にレストアされた個体
想定落札価格: 1,200,000~1,400,000ドル(約1億2,600万円~1億4,700万円)
大林晃平: シートおよび内装の皮部分は張り替得られているが、それ以外のメーターパネルなどはオリジナル度が高く、さらにあえて工具の写真が紹介されているのがポイント。ホイール交換のためのハンマー(センターのスピナーをこれで叩くのである)をはじめ、オリジナルジャッキ、使えるかどうかはかなり怪しいが交換用タイミングベルトまでそろった工具、こういうものこそがマニアの琴線に触れるのである。ちなみにボアーノとはイタリアのカロッツェリアであり、アルミ製ボディの工作なども得意としていた。
1957 キャデラック エルドラド ブロアム
• キャデラックの手造りラグジュアリーハローカー(halo car)、1957年の新車時は13,074ドル(470万円)という驚異的な価格だった
• この見事なモデルは、1957年に製造された400台中38番目の個体だ
• デュアル4バレルキャブレター6リッターV-8、4速ハイドロマチックオートマチックトランスミッション
• ミディアムブルーのインテリアにダークブルー、ブラッシュ仕上げのステンレススチールルーフ
• 以前は40年以上にわたり「デュエイン セル コレクション(Duane Sell Collection)」の1台だった
• エアサスペンションは最近整備された
想定落札価格: 80,000~120,000ドル(約840~1,260万円)
大林晃平: テールフィンの備わった、まさにアメリカが一番ピカピカに輝いていた頃のキャデラック。2ドアに見えるが観音開きの4ドアモデル。トップのアイボリーホワイトと上品なブルー、そしてたっぷりあしらわれたクロームメッキが絶妙なバランスで美しい。しかし60年以上も前にエアサスペンションと4速オートマチックトランスミッション搭載とは……、世界の最先端技術はアメリカのものであった。
1957 メルセデスベンツ300SLロードスター
• 名車: 1950年代、メルセデスベンツ製スポーツカーの見事な一台
• つい最近、オリジナルのエンジンと再会、装着
• ダークグリーンのインテリアにライトグリーンメタリック、ダークグリーンのコンバーチブルトップ
• 隠しパワステ、隠しBluetoothオーディオで小粋にアップデート
• オーナーズマニュアル、工具キット、整備工場データカードのコピーが付属
想定落札価格: 1,000,000~1,200,000ドル(約1億~1億2,600万円)
大林晃平: メルセデスベンツ300SLといえばガルウイングドアというイメージだが、台数が多いのはこちらのロードスター。ジャーマンシルバーではなく薄いグリーンメタリックというところがなんともエレガントで素敵である。コメントにあるように、パワーステアリングとBluetoothオーディオをそれとわからないように後付けされ、張り替えられた内装もオリジナル度高し。メルセデスベンツに標準装備される、整備工場データカードとオーナーズマニュアルがついているというのも実に大切な部分である。
【1960年代】
1962 シボレー コルベット
• 2011年~2012年に完成した高品質なフレームオフ修復
• エルミネホワイト仕上げ、ホワイトトップ
• 250馬力5.4リッターV8エンジン
• 3速MT
• レッドインテリアには時計とワンダーバー(Wonderbar)ラジオ
想定落札価格: 50,000~70,000ドル(約525~735万円)
大林晃平: 50代後半から60代以降のクルマ少年にとってのシェビー コルベットといえばこれ。内装のレッドも派手過ぎずホワイトのボディカラーとマッチしている。カリフォルニアのナンバープレートがついているので、ルート101とか405あたりを走っていたのかもしれない。価格はリーズナブルで、なかなかお買い得感がある一台だ。
1963 オースチン ヒーレー3000 Mk II BJ7
• マークII BJ7の美しい個体
• 134馬力2,912cc 直列6気筒OHV; オーバードライブ付き4速マニュアルトランスミッション
• ブラックアクセント付きコロラドレッド、レッドパイピング付きブラックインテリア、ブラックコンバーチブルトップ
• エンジン、ギアボックス、アクスルのナンバー一致
• 機械的にも見た目にもハイレベルにレストアされている
想定落札価格: 70,000~80,000ドル(約735~840万円)
大林晃平: 日本でも愛好家の多いオースチン ヒーレー。3000 Mk Ⅱは、同じ直6OHV3000のエンジンながら、MkⅠよりもパワーが高められている。赤と黒のボディカラーはリペイントかどうか怪しいが、高級スポーツカーなどを生産していたジェンセン社によるデザインとなかなかマッチしているといえよう。
1964 シェルビー コブラ デイトナ クーペ
• 著名なコブラのスペシャリスト、マイク マクラスキーによって厳格な基準で製造された個体
• ヴィンテージ部品や時代に合った部品を大幅に使用
• 細部にまでこだわった仕上げ
• 完成してからはほとんど運転していない
• 世界中のヴィンテージレーシングイベントに最適
想定落札価格: 600,000~800,000ドル(約6,300~8,400万円)
大林晃平: コメントからもわかるように、あとで作られた一台。とはいっても、あのキャロル シェルビーと一緒に車輛を作っていたマイク マイクマクラスキーによって、という部分が大変重要な部分。排気管の状態や、サスペンション部の汚れなどを見てもわかるように、完成してからほとんど乗っていないというというのは本当だと思われる。価格は妥当なところか。
1965 シェルビー427 S/C コブラ ‘サンクションII’
• 人気の高い「サンクションII」コブラ
• 現存の427S/Cのシャーシナンバーを使用した現代的なビルド
• 新品同様の状態で、オドメーターの表示はカタログ掲載時の10マイル未満
• 高品質で厚手のアルミボディ、光る細部へのこだわり
• シェルビー製427 FE 7リッターV8、550馬力、732Nmの最大トルク
想定落札価格: 375,000~425,000(約3,940~4,465万円)
大林晃平: こちらも「あとで」作られた一台。とはいってももちろん中身はオリジナルそのものでシェルビー427FEの7リッターエンジンも積まれているし、文句をつける部分などは皆無。まったくの新車であるとのことだが、言うまでもなくこれだけ綺麗であれば疑う余地などない。「フォードvsフェラーリ」を見て感動したあなた、一台いかがでしょう?
1965 シェルビーGT350
• 多くの人の求める初期のヴェネツィア製「二桁ナンバー」のGT350 – #47
• 初期生産の特徴が多く残っている
• 元々はフロリダ州デイトナビーチのレイハントフォードを通して販売された
• 1965年に製造された562台のGT350のうちの1台
• キャロル シェルビーの直筆サイン入り!
想定落札価格: 350,000~400,000ドル(約3,675~4,200万円)
大林晃平: マニアには絶妙にしびれるGT350。シェルビーの直筆サインがはいっているというのも希少性が高く、そういう意味でも価値のある個体だろう。残念ながら走行距離などは不明ではあるが全体的な程度はかなり良さそう。
1969 イソ グリフォ7リトリ シリーズI(byベルトーネ)
• 希少なシリーズIの個体で、シリーズIIのノーズに改造されている
• 7リッターエンジンを搭載した90台のイソ グリフォのうちの1台
• トレメック5速マニュアルギアボックス搭載
• 1989年にフルレストア
• サドルレザーの上にボルドーの美しい色合いの仕上げ
• 希少なマグネシウム製ノックオフホイールを装着し、エアコンを装備
想定落札価格: 500,000~600,000ドル(約525~630万円)
大林晃平: イソ グリフォとはまた懐かしい名前だ。日本にもかつては生息していたがすっかり見かけなくなった。当時はなんとも不人気だったが、それを反映してか(?)なかなか妥当な価格がついている。ベルトーネのデザインはじっくり見ればバランスもよく、ひとつひとつのディティールパーツもなかなか凝ったデザイン。ベルトーネのバッチもトリノのバッチも完品なので、実はお買い得なイタリアンヴィンテージカーともいえよう。
【1970年代】
1971 レンジローバー サフィックスAコンバーチブル(by SVC)
• 最初期モデルのレンジローバーをSVC(Special Vehicle Conversions Ltd)がコンバーチブルに改造したもの
• 右ハンドル構成
• レストア済み
• リンカーングリーンにタン エバーフレックス(Tan Everflex)のトップ仕上げ
• インテリアはパロミノタンレザーでトリミングされ、スクエアウィーブカーペットが敷かれている
想定落札価格: 40,000~50,000ドル(約420~525万円)
大林晃平: 当時のイメージカラーに塗られた初代の、しかも初期のレンジローバー。シンプルで美しい内装、上品なたたずまい、ではあるのだがやはり普通にクローズドボディのままでいて欲しかった。そのせいもあって価格はそこそこだ(というか安いかも)。しょぼい黒のフロントフェンダーミラーは、これが正式な姿の純正パーツです。
1972 フォード ブロンコ カスタム
• キャロル シェルビー エンジンカンパニー製ハイパフォーマンス421馬力5424cc V-8エンジン搭載
• 錆びないように改装されたオリジナルブロンコ
• 新しいホイールに新しいタイヤを装着
• プレミアムな「ヘビーデューティサスペンションコンポーネント」を備えた高品質リフトキット装着
想定落札価格: 120,000~160,000ドル(約1,260~1,680万円)
大林晃平: かなりカスタマイズされた1972年のブロンコ。正直言ってかなり高いような気もするが、キャロル シェルビーのハイパフォーマンスエンジン搭載、というところがミソ。とはいってもせっかくのシェルビーエンジンなら、やっぱりコブラみたいなのに付いていてほしいような気もする。
1972 ランチア フルビア クーペ1600HF シリーズ2 ‘ファナローネ’
• レース仕様の1,584cc V型4気筒エンジン
• イタリア、フランス、モンテカルロの数々のラリーで優勝を飾る
• 初期型”1.6HFはファナローネ(Fanalone)の愛称で呼ばれ、人気もシリーズ中最も高い
想定落札価格: 30,000~40,000ドル(約315~420万円)
大林晃平: ラリー王者としてのランチアの歴史はフルビアから始まった。そしてレジェンドモデルのストラトス、037、S4、デルタへと受け継がれていく。中でもフルビアはそのエレガントさが際立っていて、今でも街中で出会うと目が釘付けになる。やはりランチア フルビアといえばこういうの、と考えれば価格はなかなかお買い得感あるかも。こういう小柄なクーペのランチア、どうして今、出してくれないのだろう(もうこうなったらEVでもいいかも)。
1973 ポルシェ911カレラRS 2.7ツーリング
• 華やかな初代RS 2.7ツーリング
• シグナルイエローで完成した86台のうちの1台
• メーカーオプションとして愛好家に人気の高い、ヘッドレスト付スポーツシート、熱線付リアウィンドウ、3点式安全ベルトなどを装着
• フルレストア済み
想定落札価格: 500,000~575,000(約5,250~6,037万円)
大林晃平: ナナサンカレラのフルレストアモデルということで、値段もさすがの5,000万円越えが予想される。運転席側だけのミラー(これが正しい)も、ヘッドレスト付きスポーツシートもスパルタンでよろしい。これからも価格が下落することはあり得ないナナサンカレラ。走行距離は不明だが、その中でも最もコンディションの良い一台かもしれない。
※おまけ: 珍車×3台
1954 ピアッジオ アペ カレッシーノ(Ape Calessino)
• 戦後のイタリアを象徴する独創的なワークホース(仕事馬)、機械的には有名なベスパのスクーターに似ている
• 愛好家に人気の高い150ccエンジン搭載、ケーブル式ギアチェンジ
• グリーンメタリックのメゾナイト(硬質繊維板)製パッセンジャーコンパートメント、幌は布張り
• 珍しい「バギー」スタイルの素敵なお手本
想定落札価格: 20,000~30,000ドル(約210~315万円)
大林晃平: ピアッジオの作った3輪車。ブレーキレバーも空冷エンジンの搭載位置もなんともプリミティブだが、人の生活には役に立ってきたのだろう。香港の小舟のような幌もウッドパネルボディと相まって、なかなかお洒落。もはや実用にはならないかもしれないが、歴史博物館などに飾ってほしい。
1959 モトグッチ エルコリーノ(Ercolino)
• 有名なモーターサイクルメーカー「モトグッチ」製のレアなカーゴスタイルバイク
• ガレットスクーター由来のパワートレイン、192cc単気筒2サイクルエンジン
• 助手席ベンチシートとファブリックトップを備えたユニークなサリー型馬車構成
• 滅多に見られないイタリア製の多目的車(トランスポーテーション)
• 2018年にフルレストア
想定落札価格: 20,000~30,000ドル(約210~315万円)
大林晃平: こういうモトグッチが存在したとはまったく知らなかった。東南アジアには同類が存在するが、それらよりはるかにファッショナブルで上品。上のピアッジオが荷物を運ぶためのものに対し、こちらはお洒落な人を別荘からビーチまで乗せるとか、大きな荘園の中を移動するための乗り物という風情である。ウエス アンダーソンの映画に出てきても可笑しくないほどいい感じの乗り物で、個人的には決して嫌いではない。でも東京や都内では乗る場所がなどあろうはずもなく、地中海かアドリア海沿いに別荘が必要だ。
1959 スパルタン インペリアル マンション
• 希少なヴィンテージ トラベルトレーラーで長さ47フィート(14メートル32センチ!!!)だ
• 2018年に内装フルリフォーム、2020年11月に外装磨き
• 石造りのバスルームのフローリング、新しい木の壁と天井、アンティークの照明器具、新しい発泡断熱材
• カスタムメイドのウォールナットのキャビネット、ウォールナットのスラブカウンター、バスタブ
• 2020年11月に新品ホイールとタイヤを装着
想定落札価格: 125,000~175,000ドル(約1,312~1,837万円)
大林晃平:なんともアメリカ的なモバイルホーム(トラベルトレーラー)だ。牽引する自動車を加えれば、全長20メートルにも及ぶ。(笑) インテリアは2018年に全面的にやり替えたとのことなので、アメリカンではあるが華美ではなく綺麗で快適そう。大型エアコンもマジックシェフのガス台もばっちり準備完了。ホイールもタイヤも新品だそうなので、明日からでもアメリカ大陸横断の旅にどうぞ! って、アメリカもコロナ禍がはやく落ち着くと言いなぁ、と願わずにはいられない。
Text & photo: RM Sotheby’s