【クラシック オブ ザ デイ】日本の生んだ名車 スバル インプレッサWRX STI
2021年1月25日
Classic of the day: スバル インプレッサWRX STI。このスバル(欧州での愛称はSubie)は、チューナーだけでなく、ラリードライバーにも愛されている。多くのファンにとって、スバルといえばインプレッサWRX STIだ。この特徴的な箱型の車は、ラリーコースで大歓声を浴び、映画でも見事な姿を見せてくれた。アイコンスバルが今日の主役だ。
車好きなら誰もが知っているスバルのインプレッサWRX STI。ベーシックモデルのインプレッサは、比較的目立たない車だが、全輪駆動モデルもラインナップにあったということもあり、林業家やハンター(狩猟家)用のクルマを連想する人が多いのではなかろうか。しかし、ブルーとゴールドというカラーリングを持つWRXは1990年代半ばには野獣のような存在に変身する。最初はラリーコースやレース場で相手の心を恐怖に陥れ、次には映画の大スクリーンに登場し大人気を博し、ついにはSNS上のスターにまでなった。そして今や、インプレッサWRX STIは、ファンの間では”Subie”と呼ばれ、熱狂的に崇め奉られるアイコンとなっている。
1994年、初代インプレッサWRX STIで、スバルはインプレッサのトップモデルをスポーティに仕上げたいと考えた。2リッター ボクサーエンジンを搭載した250馬力の初代インプレッサWRXは、それを実現するのに十分な能力を備えていた。WRXとは、ワールドラリークロス(World Rally Cross)またはワールドラリーエクスペリメンタル(World Rally Experimental)の略で、STIはスバルのモータースポーツ部門であるスバルテクニカインターナショナルの略称である。スバル インプレッサは、1993年には、すでにその速さと強さでいくつかのラリーで話題を呼んでいた。
ドリームチーム: コリン マクレーとインプレッサWRX STI
そして1995年にビッグクーデターが起きた。イギリスのラリースペシャリスト、「プロドライブ(Prodrive)」が製造したインプレッサ ワールドラリーカーで、コリン マクレーが世界ラリー選手権のドライバーズタイトルを獲得し、同時にスバルもコンストラクターズタイトルを獲得したのだった。
その強さはまさに圧巻の一言に尽きた。マクレーの類稀なるドライビングテクニックとインプレッサの優れた動力性能の絶妙なハーモニーは観衆を熱狂させた。スバルの先代ラリーマシンだったレガシィは、1回のレース中少なくとも1度は大破していた。マクレーは素晴らしいドライビングの才能を持っていると評価されていたが、ついにインプレッサという理想のパートナーを見つけ、彼の真価を発揮し、その才能を証明してみせたのだった。マクレーとインプレッサの最高級のパフォーマンスは、我々の記憶の中に強烈な印象として残っていて、今日でも、インプレッサの走っていない世界のラリーコースを想像するのは難しいほどだ。言うまでもなく、WRXは今日でも高い人気を誇り、多くの愛好家が探し求めているアイコンモデルだ。
「ワイルドスピード(Fast & Furious)」の後に訪れたYouTubeでの名声
WRX STIのモータースポーツキャリアは、その後、映画スターとしての名声を得た。カルト的大ヒットシリーズ「ワイルドスピード」の第4作では、若き日のSTIが、事故で多くのファンに惜しまれて亡くなったポール ウォーカーと並ぶ重要な役どころを演じている。また、この日本車のダイナミックな才能にネット上でも注目が集まった。2008年にはケン ブロックがブルーの500馬力以上のスバル インプレッサWRX STIで、スリリングなドリフト動画「ジムカーナ プラクティス」を撮影したことが、伝説の始まりとなった。さらに、2018年にヨーロッパ向けの生産が終了した”Subie”は、すぐにチューナーやコレクターの間に多くの愛好家を見つけた。そして欧州大陸では正式には購入できなかったバージョンを、専門業者が日本を始め世界各国から入手してきて、市場に供給するようになったのだった。WRX STI 2003 Vリミテッド、WRXタイプR STI、インプレッサ22B STI、インプレッサプロドライブP1などは、特別扱いとされている。WRX STIは、どこのエンスージャストのイベントやミーティングでも、今後も注目を浴びる存在であり続けることだけは間違いない。
スバルの遺産、それは360だったり、サンバーであったり、4輪駆動のパイオニアであったりと、様々に貴重なものが多く存在するが、一番広く世界中にその名声を響かせたのはこの青いWRXに違いない。このWRXがWRCで熱く戦っている時、スバリスト達だけではなく、多くの人がその雄姿にしびれたものであった。そしてその営みがあってこそ、いまのスバルの高いブランディングイメージが構築された、といってもいい。昨年はレヴォーグが日本カーオブザイヤーも受賞し、今年はBRZのモデルチェンジも行われる。そこで、あともう一歩、スバル全体を引っ張っていくことのできるイメージリーダー的なクルマや活動を行ってもいいのではないだろうか。これからもスバルという会社の良きイメージを保ちつつ、魅力的な独自の路線で歩み続けるためにも、よりアイコン的な一台とWRCなどでの活躍があったなら、昴(スバル)星団の輝きはさらに増すと思う。青いボディカラーに金色のホイールを履き、もう一度世界の大舞台で大活躍する姿を、世界中のスバリストが待っている。
Text: Lars Hänsch-Petersen
加筆:大林晃平
Photo: Klaus Kuhnigk / AUTO BILD