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初テスト ディーゼルエンジンSクラス メルセデスS400d 4MATIC ドライビングインプレッション

2021年1月24日

非難や悪評が高まる中、果たして今後ディーゼルの生き残る道はあるのか? 新型Sクラスディーゼルモデルのドライビングテストがそのことを明らかにする

高速道路用のSクラスをお探しならS400dがおすすめだ。ディーゼルにとって不遇の時代になっても、S400dは長距離を走るための正しい選択であることに変わりはない。ディーゼルのSクラスでファーストドライブ&レポート!

豪華な日常生活のためのパーフェクトなメルセデスSクラス?
その1台は、おそらく沈みゆく船だ。
現時点で、少なくともヨーロッパでは、最高のメルセデスSクラスは、何かとその負の面ばかりが取りざたされるディーゼルモデルのS400d 4MATICだ。

素晴らしくチューニングされたATと6気筒エンジン

今回搭載された3リッター6気筒ディーゼルは330馬力の出力と700Nmのトルクを発揮する。
標準装備の全輪駆動と、素晴らしいチューニングの施されたオートマチックトランスミッションのおかげで、静止状態から100km/hまでわずか5.4秒で加速し、最高速度250km/hを備えている(250km/hで電子制御)。
このディーゼルエンジンは間違いなく優れている。
圧縮着火エンジンは見事にカプセル化されているので、ディーゼルエンジンを思わせるようなものはほとんどない。
ガソリンエンジンといってもおかしくない。
700馬力までの幅広いレンジのエンジンラインナップからは、乾燥重量が2トンを超えるSクラスには350馬力か380馬力という出力は妥当といえる。
ステアリングも滑らかで、特に低速域では正確だ。
エンジンと同様にステリングも、もう少し精度や敏捷性の面でより俊敏なモデルへと改良も可能だと思われる点もあるが、それは快適性の損失を意味しかねないし、メルセデスの開発者は、快適性に関しては決して妥協を許さないため、現時点でのバランスが良いと判断したのだろう。

ツーリングメルセデスの高い走行快適性

メルセデスS400d 4MATICを、長距離走行車として魅力的にしているのは、その限りない快適性だ。
風切り音、ローリングノイズ、エンジン音…、ここではディーゼルSクラスが新しい世界のスタンダード(基準)を打ち立てている。
シャシー、ギアセレクション、エンジンコントロール、全輪駆動のすべてが、選択されたドライビングプログラムに応じて統合制御され、巧みに適応する。
なかでも「コンフォートモード」が最も快適で、ステアリングは、必要に応じてタッチスクリーン上で調整することができるようになっている。

最大10度まで後輪をステアリングすることができるセルフステアリングリアアクスルによって、最大2メートルまでターニングサークル(旋回円)を減少させている。
地下駐車場などの狭い場所ではこれがいかに実用的であるかを示している。

想像できるすべての調整オプションを備えた電動レザーシートは、まさに圧巻だ。
老いも若きも、レザーシートの上でなく、レザーシートの内に包まれるように座っていることを感じることができるだろう。
ダイムラーがいくつかの競合他社とは対照的に、本物のレザーシートに固執し、人工皮革を使用していないのは素晴らしいことだ。
ドアパネルのシートコントロールはいつものように実用的だ。
他メーカーはこの機能の改良で苦戦している。

全輪ステアリングのおかげで、ロングSクラスは街中の交通や駐車場でも実用的だ。

2列目の純粋な贅沢

フロントよりもリアの方が座り心地が良く、騒音レベルも非常に低く、良好だ。
リアにも、マッサージ機能付きシート、最大31個のスピーカーによるハイテクサウンド、センターアームレスト、ドアパネルの独立した冷暖房などが備わっている。

またS400dではノーマルとロングホイールベースのどちらかを選ぶことができるようになっている。
標準仕様は全長5.18m、ホイールベース3.11m。
ロングホイールベースのバージョンは全長5.29m、ホイールベース3.22mとなり、2列目のパッセンジャーには嬉しいプラスとなっている。

世界中で、Sクラスが短いほうのノーマルホイールベースで注文されるのは約10%に過ぎない。

世界のメルセデスSクラスのうち、ノーマルホイールベースのモデルは10%程度しかなく、ほとんどの市場ではロングホイールベースのモデルしか提供されていない。
XLサイズのSクラスの重量増はわずか20kgだ。
その価格差もわずかだ。
ショートバージョンのすでに高価な105,096ユーロ(約1,335万円)に対し、メルセデスS400d 4MATICロングバージョンの3,500ユーロ(約44万円)という追加費用は、Sクラスを購入する人にとってみれば、さほどの金額ではないはずだ。
しかし両モデルへの追加装備には、それなりの対価が強いられる。
贅沢なインテリア、追加のレザー、高貴なサウンドとドライバー支援システムなどには、優に25,000〜35,000ユーロ(約317~444万円)が追加される。

残念ながら、ステアリングホイールには説得力がない

2列目の画面はタッチ操作も可能で、センターコンソールのセンター縦画面と同様の操作が可能だ。
だがアニメーション化された計器類自体はもう少し大きくてもいい。
大型のヘッドアップディスプレー(残念ながらオプションのみ)でさえ、それを補うことはできないが、仮想的な矢印で正しい道を示したり、様々なディスプレーを運転者に見せたりしてくれる。
また、ステアリングホイールのスポーク上のボタンが過度に反応しすぎという批判もある。
その様々な操作は直感的とは言い難いもので、メニューの一つや二つの項目を親指で滑らせすぎて、正しいポジションを見逃してしまうことを繰り返してしまうなど、Sクラスのインテリアの完成度を考えれば、ここは改善の余地がある。

近代的だが、必ずしも実用的ではない。タッチ面を備えた新しいステアリングホイールは、我々のテストでは説得力を欠いたものだった。

高速道路の正しい選択

ラグジュアリーセダンを愛し、高速での長い時間をかけての走行を楽しみ、ほぼ完璧に旅行したい場合は、メルセデスS400d 4MATICは完全に正しい選択だ。
それは投じた多くのお金のために信じられないほど多くのものを提供してくれるといえよう。

ディーゼルエンジンのモデルはいったいこれからどうなってしまうのだろう、とディーゼルエンジン大ファンの私はこのところずっと心配している。いくらまだ猶予はあるとはいえ、これからガソリンエンジンのハイブリッドシステムモデルやEVが圧倒的に増え、それに伴いディーゼルエンジンは衰退していってしまうのだろうか、と考えると憂鬱になってしまうのである。
ディーゼルエンジンの良いところはたくさんあって、もちろん燃費がいいことと、航続距離が長いことはもちろんだが、大きなトルクで、回転数にたよらず、悠々とクルージングする時など、なんとも心地よく豊かな気持ちで運転することができる、そんな魅力のあるディーゼルエンジンが世の中からなくなってしまう方向だなんて…。
というところで、今回のS400dが発表になり、本文を読む限り、もう文句のつけようのない仕上がりらしい。一つ前の(W222)S400dでもこの6気筒ディーゼルエンジンは絶賛されていたし、メルセデスベンツ史上最高の仕上がりとまで言い切る人もいるほどである。
それほどこのエンジンは素晴らしいし、ディーゼルエンジンの完成形とってもよいと思う名器なのだが、完成した途端に世の中はディーゼルエンジンに厳しい評価を下すような風向きになってしまっている。それはあまりに不憫な話ではないか。

そんな中でも、今回のW223でもこのエンジンが生き残ってくれたことは嬉しいし、今回のSクラスのモデルライフの間はディーゼルを残してくれると考えると、あと6年程度はこの魅力的なディーゼルエンジンを自由に買うことのできる期間、と思っても良いのかもしれない。そしてその頃がひょっとするとディーゼルエンジンの最後となってしまうのだろうか?
できるならばSクラスでは大きすぎるし高価なので、Eクラスにこの6気筒ディーゼルエンジンが積まれたならば…、今からなんとか貯金をしてそのモデルを手に入れ、世の中最後のディーゼルエンジンモデルとして、一生乗り続けてみようか、とさえ真剣に思っている。
それはさておき、今度のS400dも相当魅力的なディーゼルエンジンサルーンに仕上げっているようだし、今一番乗ってみたい一台でもある。もうじき日本に上陸するというし、ぜひその素晴らしさと実力を、身をもって体験し、確かめてみたい。

Text: Stefan Grundhoff
加筆: 大林晃平
Photo: Daimler AG