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【一騎打ち 】シボレー コルベットC8スティングレイ対ポルシェ911カレラS 勝者は?

2020年12月21日

コルベットC8がポルシェ911に性能面で急接近。何十年もの間、コルベットはポルシェ911の後で喘ぎ続けてきた。そして今度は追い抜くための新しいコンセプトを持ったコルベットC8スティングレイで911カレラSに挑む。我々は米独のスポーツアスリートを比較してみた。

過去66年間、シボレーはフロントエンジンレイアウトでスポーツカーのエリートである911に挑み続け、少しでも困らせ追い抜こうとしてきた。当初はパフォーマンスのために設計されたものではなかったコルベットをスポーツカーに変えたのは、1960年代のグランドスポーツとそのデザイナーであるゾーラ アーカス=ダントフだった。そして、もしアーカス=ダントフの手にかかっていたら、第3世代のコルベットにはリアミッドエンジンが搭載されていた可能性すらあった。だからミッドシップのアイデアは常に存在していた。長い間欠けていたのは勇気だけだった。

しかしついに、ボウタイ(※)陣営も、このレイアウトでは765馬力とスーパーチャージドV8を搭載していても、限界を迎えているという結論に達したようだ。
※ボウタイ(Bowtie)=本来は蝶ネクタイという意味だが、シボレーの愛称でエンブレムから生じたものとされる。

911のエンジンもますます中央へと移動

一方、1963年の初代911のデビュー以来、ポルシェは文字通りリアエンジンと後輪駆動に頼ってきたが、時折アクティブなフロントアクスルを装備することもある。911でも、パワーユニットはどんどんクルマの中央、ミッドエンジンの方向に近づいてはいるが、6気筒ボクサーは最新の992モデルでも、まだその分野には到達していない。2016年からリアアクスルの前に動力源を置いて走行している長距離バージョンのRSRとは対照的だ。ポルシェが次世代で大きな一歩を踏み出すかどうか、それによってC8をドライビングダイナミクスの新たな領域に引き上げるかどうか、興味深いところだ。そして今、コルベットもリアヘビーな重量配分へと移行し、出力的には50馬力少ない911との走行性能は僅差である可能性が高い。

これまでコルベットは911に対し悔しい想いしてきたが、ポルシェにとってはいよいよ状況が厳しくなってきている。

ポルシェは6気筒ボクサーのトップパフォーマンスに欠けているものを、ターボパンチとカタパルトのようなトランスミッションで補っている。完璧な始動回転数、最小限のスリップ、0から100km/hまでの加速を3.4秒と、コルベットの3.5秒を0.1秒上回っている。トップモデル911に至っては、ここラウリッジリンクサーキットで、2019年半ばに3.2秒を記録している。

ドライビングエクスペリエンスが大きく変わった

さて、最も重要なこと、すなわちドライビングエクスペリエンス(走行体験)に取り掛かろう。走り出した途端、コルベットがミッドシップになったことでその動力性能が大きく変化したことがわかる。
緩いリアの部分と重い小さなブロックによる負荷の大きかったステアリングの時代は終わったことが明確に伝わってくる。C7では、目の前の巨大な防波堤を常に押しているような感覚があったが、それは基本的にはなくなっている。今では6.2リッターV8がドライバーの真後ろに座り、重心を最適化するために低めに設置されている。

従来のリアに別れを告げる。新型C8はエンジンを中央に搭載しているため、かなりの部分が変更されている。

サーキットでの2台はお互い妥協なし

ドライビングダイナミクスの面では、C8コルベットはまったく新しいクルマであり、絶妙なバランスを保ち、シートポジションを大幅に前方に移動させたことで正確にコントロールでき、軽量化されたフロントエンドは驚くほどのグリップ力を発揮する。C8はオーバーステアすることもあるが、以前のように予測できないことはなくなっていて、その走行性能はすべての面ではるかに良くなっている。アダプティブマグネティックライドサスペンションは、レーストラックの快適さから剛性の適正化まで効率的に適応する。さらに、6種類の基本的なドライビングモードとトラクションコントロールは、トラックモードで5段階の調整が可能で、コーナー毎に好みのスリップ度を事前設定できるようになっている。日常生活ではもっと気軽に操れるポルシェは、一転、レーストラックでは、その限界点で何度も何度も真価を発揮して、改めて驚かされる。高速コーナーでは、普通のドライバーでさえも、まるでチャンピオンレーサーであるかのように感じさせることができる車は、他にはほとんど存在しない。それはスポーティで、低い着座位置と正確なステアリングでドライバーを魅了する。

テスト当日は雨が降っていたため、すべての項目で公平な条件下での比較とは言えなかった。しかし、一つだけ確かなことは、C8が911と同等のレベルで走行していたという事実だ。

そしてどちらが、テストトラック上で速かったか?それは残念なことに、この日は嵐が吹き荒れ、終日雨に見舞われて、テストメニューをちゃんとこなすことができなかった。しかし、ひとつだけ確かだったのは、コルベットC8スティングレイのドライビングパフォーマンスが911に負けず劣らず、同等レベルの優れたものだったということだ。そしてそれは我々の強い印象として残った。

テクニカルデータ: シボレー コルベットC8スティングレイ
● エンジン: V8、ミッドシップ縦置き ● 排気量: 6162cc ● 最高出力: 502PS@6450pm ● 最大トルク: 637Nm@5150rpm ● 駆動方式: 後輪駆動、8速AT ● 最高速度: 299km/h ● 0-100km/h加速: 3.5秒 ● 全長×全幅×全高: 4630×1934×1234mm • 乾燥重量: 1666kg • 燃費: 8.0km/ℓ ● CO2排出量: 284g/km ● 価格: 99,000ユーロ(約1,237万円)より(ローンチエディション)

テクニカルデータ: ポルシェ911カレラS
● エンジン: 6気筒ツインターボ、リア縦置き ● 排気量: 2981cc ● 最高出力: 450PS@6500rpm ● 最大トルク: 530Nm@2300~5000rpm ● 駆動方式: 後輪駆動、8速DGG ● 全長×全幅×全高: 4519×1852×1300mm • 乾燥重量: 1570kg ● 最高速度: 308km/h ● 0-100km/h加速: 3.4秒 • 燃費: 11.2km/ℓ ● CO2排出量: 205g/km ● 価格: 120,125ユーロ(約1,500万円)より

以前からコルベットの性能には911を凌駕する面も多く、911よりもコルベットを積極的にスポーツカーとして選択するコニサーも多かった。それもただ単に直線番長としてでは決してなく、コーナリングもかなりの性能を持っていたし、ブレーキシステムだって、その性能だってポルシェと並ぶほどのものを、実は今までも持っていたのである。コルベットのいい面はそれほどの性能を持ちながら、価格が911よりもずっと安かったことと、おそらくエアコンなどの快適性に関しては勝っていた部分である。
だからアメリカ車の利点と、911をしのぐほどの性能を持っていたコルベットを愛する人は世界中に多く、その数はこれからも減ることはないだろう。だから911に勝てない理由は、もはや「相手がポルシェであることと、911であること」のみであって、直接対決をしたならば少なくとも公道などではコルベットが負ける部分はない。今回ミッドシップになったことに関しては、日本も含めて熱心なコルベットファンの中では喧々諤々の論議が進展中だが、個人的にはあと1点、なんだかフェラーリに似ちゃったね、という面だけがちょっと残念だ。今までのあのコルベットらしい、アメリカらしさをもっともっと追求してくれていたら良かったのに。そこだけがなんとも口惜しい。

Text: Alexander Bernt
加筆:大林晃平
Photo: Roman Raetzke / AUTO BILD