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格好は良いんだけどねぇ「マツダ CX-3」 マツダの市販乗用車イッキ乗り その6

2025年10月9日

マツダを心から応援したい!ここ20年ほどガレージには必ず一台マツダのクルマがある筆者が、今のマツダのクルマに乗って、心から「頑張れ!」と勝手に叫ぶ連載企画。「マツダ CX-5」に続く6回目は「マツダ CX-3」。

街で数多く走っているレクサスLBXを見るたびに思う。これってCX-3に似ていないか?と。もちろんその内容やセグメントなどは違うのかもしれないが、なんだか似たようなその姿を見るたびに、CX-3があんな風に進化し、小さな高級車としても認められていたらよかったのになぁ、と思ってしまう。

CX-3が日本で発売されて今年でちょうど10年、となった。不思議なことにデザインはちっとも古びていないし、プラスチックパネルなどで上げ底をして、一生懸命腰高感を隠したCX-30よりもすっぴんでずっと美しく、二枚目でスタイリッシュだと思う。個人的にマツダで一番格好良いSUVはCX-3に決まりである。

今をさかのぼること10年の2015年、デミオでは満足できない方のためのちょっと高級なデミオベースのミニSUV、たしかCX-3が出た当初、そんな内容の記された記事をどこかで読んだ気がするし、実際問題この車はそういうコンセプトの自動車なのだろう、と今でも思っている。そして実際にも、当時はなかなか成功した一台だった。

早くも10年選手になっていたCX-3。古さを感じないどころか依然カッコイイ。

かくいう私もそんな幻想と期待を抱きながら、CX-3の契約書にハンコを押した一人であった。その頃手元には最新式のCX-5があったというのに、家族(主に妻と娘)が乗るからという名目で、ディーゼルエンジンモデルのCX-3を同時所有するという荒業に至ったのである。そんな小さな高級車を思い切り頭の中に描きながら購入したCX-3は……正直ちょっと期待を下回った。

直近の比較対象がCX-5だったのがいけないのか、CX-3は小さいサイズなため、とにかく軽快で運転しやすいことは間違えないが、それ以外はなんだかエンジンの回り方やパワーは薄味でがさつだし、乗り心地はほとんどの路面で荒く、特にタイヤがどたついた印象を持った。

軽快で小さく運転しやすさを求めるのならデミオで良かったはずだし、乗り味ごこちもデミオのほうがよく感じられた。そんな内容に対して、CX-3は全体的に割高な感じを抱いてしまった、というのはもう9年ほど前の話である。

2025年のやっと涼しくなり始めた9月末日から一週間、最新のCX-3に乗ってみた。XD Vivid Monotoneという特別仕様車で、ディーゼルエンジンに4輪駆動を組み合わせたモデルである。いつの間にかマニュアルトランスミッションモデルはカタログから消えてしまっていたので、トランスミッションは6速のオートマティックトランスミッションである。さらに付け加えて言えばもはやCX-3は日本で作っておらず、今回の試乗車もタイからの輸入車なのであった。

乗ってみてまず思ったことは、あの頃のCX-3とほぼ一緒だということだった。いや、運転席のパワーシート、全車速対応に進化したクルーズコントロールと電動パーキングブレーキ、妙に小さく感じられるスマホ大のディスプレイ(以前はもう少し上下に大きかったように記憶している)、そしてリヤシートのセンターアームレストといった部分は、9年ほど前のモデルと違うが、とにかく乗った感じはあの頃のCX‐3のまんま。マツダの横浜研究所を出てすぐのところには電車の線路があるのだが、そこを超える時にはかなり直接的なショックがお尻を襲う。

センターモニターの小ささを除けばインテリアデザインの良さはクラス随一。質感も高いが建付けに問題あり。

つまりCX-3というクルマは軽快で適当なサイズということもあって、だれにでも運転しやすいという長所はあるものの、全体的に乗り心地が雑で荒く、CX-5などと比べると薄っぺらい感じがしてしまい、格好は二枚目なものの洗練さにかける自動車、というのが僕の感想である。

長距離ドライブでも疲れない前席。質感も良い。

電動式のサイドブレーキや完全停止式の自動追尾式クルーズコントロールに進化し、パワーシートなども装備されてはいたものの、他はほぼ同じように感じられた。ひょっとすると足回りなども改善されていたのかもしれないが、やはりざらついた印象も十分にショックを吸収し切れていない感じもそのままという印象を受ける。

1.8リッターで130PS と270Nmを生み出すターボディーゼルエンジンでも決して足りない場面は少ないし、積極的に運転すればなかなか速いのだが、それでもどとこなく線の細い感じは否めない。(それはCX-5 のエンジンの印象があまりによく、頭にこびりついているからでもある)。なお燃費は高速道路から激渋滞路市街地までまんべんなく走行し、17km/l程度であった。

130PSのディーゼルエンジンはパワフルではないものの、レスポンスの良さが光る。

街中や駐車場ではもちろんこのサイズが有利な武器となり、毎日の使用には適した部分も多いが、諸事情が許せば似たような金額でCX-5を買った方が豊かなモータリングライフを送れるし、満足度も高いのではないだろうか。

というのもCX-3が思い切り安いのであれば存在価値があるのだが、ディーゼルエンジンに4輪駆動を組み合わせた今回のXDヴィヴィッド モノトーンというモデルが、3,434,200円である、という事実を知った時に軽いショックを受けたからだ。

前席のシートバックが薄いのもあって後席はミニマムだが窮屈な感じはしない。

てっきり260~280万円くらい(4輪駆動でも300万円以下)で買えるものだと思っていたからである。もちろんCX-3にも安いグレードもあり、特にガソリンのベーシックなグレードであれば230万円程度で購入できるが、実際に装備がよく(なんて言ったって小さな高級車なのだから)、スタイリッシュなグレードのディーゼルエンジンで今回の同じように4WDを選ぶと300万円くらいにはなってしまう。それでは同門のCX-30ともCX-5ともバッティングしてしまうし、内容を考えればCX-3は劣勢であることは間違えない。それでもタイから輸入してまでも売ることの意味とはなんなのだろう。

必要十分な容量のラゲッジスペース。

もちろん小さな高級車であるのならば、300~400万円という価格を否定しないし、それ以上の値付けであっても決して悪くはない。だがそれは内容等を考えた時に「これなら仕方ないかな」と納得できた場合の話であって、現状のCX-3に乗った場合に感じた乗り心地の荒さやドタドタした感覚、そしてなんとなく線が細い(薄い)では高額な対価には見合わない部分が多すぎる。

野暮ったさは微塵もないスタイリッシュなコンパクトSUV。乗り心地をもっと煮詰めてほしかった。

せっかく小さな高級車というジャンルを開拓しようという志を持ちながら、なんとなく中途半端な内容で洗練されないまま8年が経過し、今まで来てしまった……そんな印象をCX-3には受ける。せめて格好はそのままで内容だけCX-30くらいのレベルにはならないものか、と思うし、せっかくまいた種をレクサスLBXがこっそり横取りしてしまったのではないか、と残念な気持ちも抱く。

格好はよくスリムでクールなのにもったいないし、このまま消え去っていくのも寂しいが、そろそろCX-30とCX-3の二つをひとつに統合し、その2つ分のエネルギーで新しい高級小型SUV像を描いてくれることを心待ちにしていたい。

Text:大林晃平
Photo:大林晃平、アウトビルトジャパン