運動性能は譲らない 世界戦略BEV「スズキ eビターラ」誕生
2025年9月22日

去る9月16日、スズキ株式会社は 東京・港区の東京ミッドタウンにて、新型「eビターラ(e VITARA)」の発表会を開催した。
当日は同社代表取締役 社長の鈴木 俊宏氏、日本営業本部 本部長の玉越 義猛氏、チーフエンジニアの小野 純生氏の3名が登壇、それぞれの立場から車輌解説を行った。

e ビターラは、同社が展開するBEV世界戦略車の第一弾で、すでに2024年11月にイタリア・ミラノにて初公開を果たしている。今回の日本での発表会では、来たる2026年1月16日より国内市場向けの発売が始まることが明らかにされた。

Photo:スズキ
まずはラインナップを一覧しておこう。e ビターラには次の3機種がある。
機種名 | 駆動 | 電力量 1) | 航続距離 2) | 価格 3) |
eビターラ X | 2WD | 49kWh | 433km | 399万3000円 |
eビターラ Z | 2WD | 61kWh | 520km | 448万8000円 |
eビターラ Z | 4WD | 61kWh | 472km | 492万8000円 |
注1): 動力用主電池総電力量。2): 一充電走行距離。WLTCモード。3) 「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金」対象で、交付額は87万円。
以下、順を追って各部の特徴を説明していく。
エクステリア:「ハイテク&アドベンチャー」をテーマに、BEVの先進感とSUVの力強さを併せ持つ外観に仕上げた。押し出し感の強いフロントマスクやBEVならではのロングホイールベース、四隅に踏ん張る大径タイヤなどで力強い走破性を表現。また、フロントのLEDデイタイムランニングランプ(LEDポジションランプ)やリヤのLEDコンビネーションランプに3ポイントが特徴のシグネチャーランプを採用、先進感を演出している。18インチアルミホイールは、空力特性と軽量を両立させた樹脂製ガーニッシュを採用、細部まで作り込んだデザインに仕上げた。

Photo:相原俊樹
インテリア:SUVらしい力強い造形と機能的な装備を搭載すると同時に、ブラックとブラウンを基調にした内装色による上質なキャビンを実現。メーターディスプレイとセンターディスプレイを同一平面上に配置した「インテグレーテッドディスプレイシステム」を採用、優れた操作性を提供すると同時に、繋ぎ目のない1枚ガラスの質感によってBEVならではの先進感を演出した。

Photo:スズキ
e ビターラではスズキ初のデジタルコクピットを採用。10.1インチのセンターディスプレイと10.25インチのメーターディスプレイを同一平面上に配置した「インテグレーテッドディスプレイシステム」を採用。
BEVパワートレイン:目指したのはBEVらしいキビキビとしたシャープな走り。モーター、インバーター、トランスアクスルを一体型にした「eAxle」により、エネルギー効率を高めると同時にコンパクトなレイアウトを実現した。

Photo:スズキ
ドライブモードには「NORMAL」「ECO」「SPORT」の3つを設定。これに加えてアクセルペダルの操作のみで加減速をコントロールできる「イージードライブペダル」を備える。バッテリーは安全性が高く、寿命も長いリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを採用する。

路面状況に合った走行を可能にする3種類のドライブモードやイージードライブペダル、4WD専用のトレイルモードをコントロールするパネル。
4WDの「Z」モデルでは、前後に独立した2つのeAxleを配置することで電動4WDを実現、これをスズキは「ALLGRIP-e」と呼ぶ。
ALLGRIP-eには「オートモード」と「トレイルモード」の2つの選択肢がある。「オートモード」は、路面状況に応じて前後輪の制御を最適化し、優れた操縦安定性と悪路走破性をもたらす。前後駆動力配分を緻密に制御することでタイヤのグリップを最大限活かし、様々な道で安定した走行(走る、曲がる、止まる)を可能にしている。

一方の「トレイルモード」では、タイヤが浮くような路面で、空転するタイヤにブレーキをかけ、反対側のタイヤに駆動力を配分(LSD機能)することで、悪路からスムーズに脱出できる。


プラットフォーム:BEV専用に新しく開発した「HARTECT-e」を採用。軽量な構造とショートオーバーハングによる広い室内スペースを実現した。また、高ハイテン材の使用率を上げて重量低減を図ると同時に、メインフロア下のメンバーを廃止してバッテリー容量を最大化している。ロングホイールベースに大径タイヤの組み合わせながら、舵角を大きく設定して、5.2mの最小回転半径を実現した。

Photo:スズキ
以上が9月16日当日の発表会にて明らかにされたeビターラの車両概要だ。車輌説明に続いてメディアとの質疑応答が行われた。各メディアからかなり専門的な質問があったが、鈴木社長以下3氏の真摯に答える姿勢が印象的だった。
価格設定の根拠を尋ねた質問には、鈴木社長が答えた。これについては社内でも喧々諤々(けんけんがくがく)の議論を交わしたと前置きして、価格を決める背景には「値引きや補助金を前提にした価格設定でいいのかという議論」があったことを明かした。e ビターラが新しい市場を開拓する主役になり得る価格に決めたとの回答だった。
わがアウトビルトジャパンもズバリ「他車との差別化ポイントはどこに?」との質問をぶつけた。これにはチーフエンジニアの小野氏から項目別の回答を得た。1. 先進性溢れたデザイン(内装を含む)。2. 長寿命で安全性の高い電池パックの採用。3. すがすがしい加速感。4. 電動4WDの採用。「電動ヨンクのメリットは雪路の走破性だけではないのです」と語り、ヨーロッパでも相当走り込んで優れた操安性は立証済み、ワインディングロードでの楽しさも味わえる、とALLGRIP-eの出来映えに自信のほどを見せた。
eビターラはスズキにとって同社初の量産電気自動車(BEV)。インドのスズキ モーター グジャラート社で生産し、欧州を皮切りに、グローバルモデルとして世界100以上の国と地域に投入する世界戦略モデルだ。同社がこれに寄せる期待は大きい。
一方、ヨーロッパでは中国メーカーによる新型EVの投入が相次いでおり、シェアを着々と伸ばしている。EUは昨年、中国政府が施行する補助金ゆえに同国製EVの価格が不当に抑えられているとして、その効果を相殺すべく最大35.3%もの関税を課した。それでも中国製EVの勢いは続き、補助金を停止したドイツでは今年1~7月の販売が前年同月比約24%と大幅に伸びている。

eビターラはかくも競争過激な市場で手強いライバルを向こうに回すことになる。世界市場を舞台にしたスズキのEV戦略は始まったばかり。期待をもってその動向を見守りたい。
Text:相原俊樹
Photo:アウトビルトジャパン