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500万円のおひねり「MAZDA MX-30」ロータリーエンジン万歳! マツダの市販乗用車イッキ乗り その3

2025年9月18日

マツダを心から応援したい!ここ20年ほどガレージには必ず一台マツダのクルマがある筆者が、今のマツダのクルマに乗って、心から「頑張れ!」と勝手に叫ぶ連載企画。第3回はマツダの中でもっともマツダらしい、とも思える一台、ロータリーエンジン搭載の「マツダ MX-30 REV」である。

エンジンルームを見ながら思う。これは軽々と良いだの悪いだのというべきではないのかもしれないと。

ほかの市販車では見たことのないような複雑怪奇な形状のパイプがのたうちまわるぎっちりと詰まったエンジンルームを見ながら、しばらく言葉が出ない。なにしろ目の前のMX-30は一品製作の実験車なのではなく、今マツダのお店に行けばすぐに購入できる市販車なのである。これほど複雑な機構を設計し作り、しかもそれを様々な試験を行い市販車という形にすることがどれだけ情熱と時間が必要で大変なことなのだろう。そしてここまでしてロータリーハイブリッドを成立させたことにこそ、このMX-30 ロータリーハイブリッドの意味がある。

今回、マツダの市販乗用車に(ほぼ)全部乗る、という企画を聞いて僕の周りの変態自動車好きたちが一番興味を示したのはMX-30のロータリーハイブリッドであった。理由は言うまでもなく世界的にも貴重なロータリーエンジンを搭載する市販車だからで、とにかく興味津々の一台なのである。

そんな中でも、僕がお付き合いさせていただいている、元JAMSETC(海洋研究開発機構)で有人潜水調査船しんかい6500(としんかい2000)のパイロットを長年務めていた田代さんは、「ぜひ乗ってみたい」とのことだったので、半日ほど一緒にMX-30で夏も終わった(けど酷暑の)湘南を一緒に走ってみた。

JAMSETCで有人潜水調査船のパイロットを長年務めていた田代さんは、デミオのオーナー。

しんかい6500もBEVだし面白い話も聞けるかも、というのは単なる屁理屈で、381回もの深海への操縦経験を持つ田代さんが大変な乗り物好きだったことと、ここ数年愛用しているデミオのディーゼルを大変気に入っているというのが理由である。そんな田代さんのインプレッションは最後にまとめさせていただくが、とにかく4000キロしか乗っていない最新のMX-30 ロータリーハイブリッドの広報車に乗り込むことにする。

いきなり結論から言ってしまうが、MX-30 ロータリーハイブリッドには良い部分も悪い部分もある。だがそれをああだこうだ言っても仕方がないだろう、というのが僕の意見である。冒頭にも書いたように、マツダにとってロータリーエンジンを使った市販車という一種のイメージリーダーであることの大切さは言うまでもないし、今マツダのラインナップに存在していることが重要なのである。

今回のジルコンサンドメタリック(2トーン)と命名された実に渋くいい感じのカラーの試乗車は、マツダMX-30 ロータリーハイブリッドの中でも、レトロスポーツエディションという最上級モデルで、前述のボディカラーのオプション66,000円(意外と安い)と5,008,300円の車両価格を合計すると、結構な額になることはいた仕方ないと思う。

マツダらしくスタイリッシュなデザインで2人で出かけるのに絶妙なサイズ感。

良いところ悪いところ

なにしろ一か月の販売台数が一桁か二桁という自動車なのだからこの金額でも大赤字なことは間違えないし、存続している方が不思議になるほどだ。僕が何を言おうが欲しい人は絶対に購入し、興味のない人は買うことなどあり得ないそんな自動車なのである。

それにしても大きなお世話かもしれないが、MX-30 ロータリーハイブリッドモデルには3グレードもあり、ボディカラーは2トーンも加えると10種類以上、内装も4種類を設定しているなんて、大丈夫なのでしょうか?つい心配になってしまう。

いうまでもなく観音開きのドアもタッチパネルのエアコンコントロール類やその周囲のフローティング構造のセンターコンソールとコルク素材が用いられたスペース、もちろんシートも窓もそのすべてがMX-30 の専用設計なのだから。

さてそんなMX-30 には8C-PHという完全新設計のシングルロータリーエンジンを持つモデルと、直噴ガソリンエンジンのスカイアクティブ2.0の4気筒エンジンを積んだ2種があり、今回の試乗車は言うまでもなく72PSと11.4Nmを生み出すロータリーエンジンを発電用に積み、170PSと260Nmのモーターで走行するロータリーエンジンモデルである。

いずれのハイブリッドモデルも残念ながら販売台数は非常に少ないが、それでも年次改良や新しいボディカラー、グレードなどなど、エネルギーと愛を注ぎ込んで、MX-30ロータリーハイブリッド(と4気筒ハイブリッドモデル)を市販し続けていることに涙が出てしまう。ロータリー四十七氏もきっとお喜びであろう。

ハンドリングは良好

走行に関してはチャージ ― ノーマル ― EVとセンターコンソールのスイッチでセレクトできるが、ノーマルを選んだ場合、バッテリーの容量が大きく減った場合や特別に必要な場合を除き、ロータリーエンジンは目覚めることなく、ほぼEVのまま走り続ける。その場合に感じるのは実に自然で普通の自動車である、ということだ。他のEVで感じる、ここ一発の強烈な加速などはまったくないが、シームレスで自然な走行フィーリングはマツダの意図したことであると思うし、的確で心地よいハンドリングで、乗り心地も全く違和感がない。

路面の状況によってはショックを伝える時もあるし、1780kgという決して軽くはない車重を意識する時もたまにあるが、EVといえども日常的には徹頭徹尾にナチュラルな運転感覚こそ、今のマツダの狙うところなのだろう。

フローティングマウントされたセンターコンソールは使い勝手は良好。
後席は閉所感が強く、ロングドライブには向かない。
MX-30の荷室は十分に広い。

ロータリーエンジンの音は???

さて興味津々のロータリーエンジンの部分だが、最初はどうやってそれを活用したらよいのかちょっと迷う部分がある。もちろん通常は純粋にBEVとして使用するのが正しいがその場合の走行可能距離は今回の試乗では、最長でも80㎞程度であった。心理的にその距離を使い切るのは怖いので、適宜ロータリーエンジンを回して充電するように手元のスイッチで「チャージ」を選択することになるのだが、その場合信じ難い音で回り始めるロータリーエンジンの存在が妙に気になってしまう。なんというか、熱帯魚の水槽に空気を送るポンプみたいな音なのである。

ロータリーエンジンそのものがFCやFD、あるいは787Bのように(笑)ロータリーエンジンファンをしびれさせるようなサウンドを奏でるのであれば、積極的にチャージしながら走るのもアリではあるが、ブーンといった感じの音に伴って、ダッシュボードから発生する振動、ビビり音も正直言って魅力的なものではなく、BEVの静かでなめらかなモードに戻すとホッとするような平和さである。期待し過ぎなのであろうか?

ボンネットの下にはロータリーエンジンが鎮座するが、その役割は発電である。

燃費は良くない

今回の試乗では約11km/l前後というロータリーエンジンらしい燃費になってしまうことから、積極的にチャージモードは選択しにくい。やはりロータリーハイブリッドモデルは、通常家で充電を行い一般的な使用にはBEVとして活用し、長距離を行く場合にはロータリーエンジンを回してエクステンダーモデルとして使う、というのが正しいのではないだろうか。そう考えれば必要以上に大きく重いバッテリーを積んでいないことも、電欠しないという心理的な不安を持つことなくドライビングを楽しめるというメリットも生きてくるはずである。

座り心地が良く快適なフロントシート。

MX-30に一週間乗りながら思ったことは、これはマツダの壮大で熱い想いと歴史の詰まった一台なのではないだろうか、ということであった。そしてマツダがマツダらしくあるためのイメージリーダーカー、そういう位置づけなのではないか。

そういう観点からみると、ポルトガルから輸入したコルクを使用したインテリアは言うまでもなくマツダの歴史そのものを物語るものだし(マツダの前身は東洋コルクという、コルクの会社である)、RX-8のような観音開きのフリースタイルドアも、FFファミリアやペルソナ(!)にヒントを得たと思われるラウンド風のリヤシートなど数々の歴史を背負った部分を見つけることもできる。

左側のザラザラした質感の部分がコルク張りの蓋。

そして今、自分の前で回って発電してくれているのは、その昔ロータリー四十七氏と呼ばれた男たちが英知を振り絞り、熱い熱量で築き上げた、世界でも稀なあのロータリーエンジンなのである。やはり存在していてくれてありがとう、と感謝しながら500万円のお布施を払う、そんな熱い漢にはぜひ今購入していただきたい。今の販売台数ではいつラインナップから落ちてもおかしくはないのだから。

しんかい6500の元パイロットのインプレッション

「クルマを重くすることなく、あえて小さいバッテリーを載せて普段はBEVとして走らせ、遠くに行くときにはロータリーのエクステンダーモデルとして航続距離を確保する、という考えは実に正しいと思います。滑らかで自然な加速感や、ハンドリングなどはとても好みですね。あとはロータリーエンジンを作れるような匠を絶やさないためにも、ぜひ継続していただきたいですね。実は、しんかい6500の(補修)パーツも匠が引退していなくなってしまってから、急に不具合が出るケースがいくつかあったのです。だからこういう日本の技術を継承するという意味でも、ぜひ続けていただきたい、そう思います」とのことである。

フェンダーの左右にはロータリーエンジンのローターを模したエンブレムが輝く。

考えられないほどの水圧をうける6500mもの海底にパイロットとして、380回以上も潜った田代さんのJAMSTEC時代の話は、自動車やしんかい6500だけにとどまらず、ものすごく面白く深く貴重な話なのだが、書ききれないし、ここには書けないことが多い。

マツダの広報の方々、どうかマツダの社内の研修会などで田代さんを招聘してください。他では得ることができないほど貴重で、きっとこれからのマツダに大きなヒントを与えてくれるはずです。

さてMX-30ロータリーハイブリッドの持つ、マツダのエンジニアが丹精込めて作り上げたこの巧妙なシステムを、今後どう展開していくのか、それが一番気になる。

田代さん、なにか良いヒント、深海にありませんか?

Text&Photo:大林晃平