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あの乗り心地の今「マツダ CX-60」最新モデルに試乗 マツダの市販乗用車イッキ乗り その1

2025年9月5日

マツダを心から応援したい!ここ20年ほどガレージには必ず一台マツダのクルマがある筆者が、今のマツダのクルマに乗って、心から「頑張れ!」と勝手に叫ぶ連載企画。第1回は新世代ラージ商品群の第一弾であるクロスオーバーSUVの「MAZDA CX-60」。

そしてCX-60へ

しょっぱなから個人的な話題で申し訳ないが、ここ15年以上、我が家のクルマの一台に必ずマツダの自動車がある。といっても「クルマは絶対に広島じゃけん」とか「ロータリー最高!」みたいな生粋のマツダファンではなく、なんとなく今いいなぁとか、社用車ではなく自腹で買ってみようと思ったのがマツダの自動車であったためで、分け隔てなく国内外のクルマに興味がある身としては、とっても気になる「今の気分」がマツダだったのである。

マツダ初となるエンジン縦置きレイアウトの電子制御多板クラッチ式AWDがFR車のようなニュートラルな走りを見せる。これぞマツダの走りへの拘り。

そのマツダ遍歴だが、アマガエル色のデミオ(DE3FSの13CV)、初期(KE2AW)のCX‐5(ディーゼル)、CX-3(ディーゼル)、現行のCX-5 (ディーゼル)、そして今はロードスターの990Sである。その間他社のクルマも持ってい履いたが、一番気やすく、一番便利に使っているのがマツダのクルマで、ついついキーを真っ先に選ぶことが多い。

6気筒ディーゼルエンジンが発表された時、きっとそのエンジンが乗るはずと勝手に予想したマツダ6(その頃はアテンザだった)のワゴンの6気筒ディーゼルが出たら買おう、と思っていたのだが、いつの間にか6はいなくなってしまい、ちょっと気が抜けた。

無駄なメッキパーツを使用しないところに好感が持てる。

じゃあもうじき出るはずの新しいCX-5を買って、どんなに良くなったのかと3世代を乗り比べてみようと思ったら、大好きなディーゼルエンジンモデルは出ないというではないか。じゃあこれからどう買い替えていこうかなぁ、と思っている矢先、マツダの決算が発表になった。大変失礼なことにそれは赤字で、なかなか厳しい数字であった。もちろんその原因にはTACOトランプが推し進めた気まぐれ関税も影響しているが、実はそれ以外にも心配の種がなかったわけではない。

というのも今年の4月にマツダのラインナップで一番売れたのがロードスターだ、というニュースを聞いたからだ。魅力的なロードスターが多く売れることにがっかり感はもちろんないのだが、他に幾多のSUVモデルも、ハッチバックモデルも、セダンもあるというのに、2シーターのオープンカーが1916台売れて一位になる、というのはただごとではない。本当にその時には、ちょっと心配になったと同時にSUVなどの根幹車種不振の原因はなんなのだろうか、としばらく考えこんだ。

センス溢れるカラーリングの「CX-60」のインテリアはどこか北欧風。電動調整式のシートはルックスだけでなく座り心地も良い。

そして、これは大好きなマツダのクルマに実際に乗って感じてみなければいけない何かがあるのかもしれない、とも思った。以前にも記したが、僕は自動車を開発している人たちも、工場で作っている人たちも、みんな大好きで心から尊敬している。僭越ながら今のマツダのラインナップに全部乗って、そんな方々の応援が少しでもできたら、と願っている。

まずは、本来一番売れなくてはいけないはずのCX-60 から乗ってみよう

今回マツダにお借りしたCX-60はプラチナクオーツメタリックと呼ばれる上品なシャンパン色で,実に品のあるカラーリングだった。この外装色に組み合わされた内装も、ホワイトレザーに白っぽいオープンポア仕上げ風のウッドパネル(もちろんプラスチック)が組み合わされ実に明るくいい感じである。

シックなプラチナクオーツメタリックは良い色だ。ソウルレッドクリスタルメタリックといいマツダのカラーリングセンスの良さは他にない。

ダッシュボードもホワイトの合皮ながらも手触りの良い素材が張られているし、各部のつくりは本当に日本車の中でも最上級のものと言ってよい。ちょっとボルボXC60とか90あたりを思い出すような品のあるコーディネートだ。個人的にはこういう明るい内装が大好きだし、暗い内装色の多い自動車の中にあってはこれだけでも選ぶ価値が生まれる。

プラチナクオーツメタリックのCX-60 XDエクスクルーシブモード

試乗車のグレードはXD エクスクルーシブモード、と呼ばれる中間グレードなのだが、ADASをはじめシートベンチレーションやBOSEオーディオ(音は正直、それほどのものではない)など各種の装備満載で、これ以上は思いつかないような充実ぶりである。

素材感が高く、建付けもしっかりしている。小径のステアリングホイールはダイレクトでドライビングフィールを高める。

エンジンはもちろんご自慢の直列6気筒で、今回の試乗車はハイブリッドモデルではなく「普通の」ディーゼルエンジンで231PSと500Nmのパワーを発揮する。トランスミッションはトルクコンバーターを用いない8速のATで、2輪駆動(むろんFRだ)と4輪駆動の中から4輪駆動のモデルをお借りした。

きれいなウッド調パネル。スイッチの操作感も心地よく、使いやすい。

価格は4,790,500円の車両本体価格にサンルーフなどのオプション121,000円が加算され、合計金額4,911,500円。あとちょっとで500万円に届く金額は決して安いとは言えないものの、前述の充実した装備やつくりの良い内外装と、そして国産車、輸入車を問わず価格が上がっている昨今の状況を考えると、6気筒を搭載している高級(?)SUVとしては決して高すぎることはない価格設定かな、とも思う。

ピアノブラック仕上げはどこにもない。個人的には大賛成だ。
後席は広大ではないが十分広く座り心地も良好。

さて皆様もご存じの通り(?)CX-60 が発表された直後のメディアのロードインプレッションなどの評価は決して芳しいものではなかった。特に「乗り心地がものすごく悪い」ことと「トルクコンバーターを使用しないトランスミッションの変速ショックなどが大きい」という2点に対しての酷評は開発者や関係者がかわいそうになってしまうほどで「未完成」「生煮え」「実験車みたいだ」といった毒舌の評価記事表現を見た時には気の毒になった。

おそらく新開発の6気筒エンジンをつんだ、マツダのフラッグシップモデルということに対する期待値が高すぎた故の辛口表現なのかもしれない、と思ったが先ほどの毒舌表現を書いた人に直接会って話を聞いたら「とにかくものすごく乗り心地が悪くてぎくしゃくした自動車に、おべんちゃらを言って褒められるか!」と逆にお説教をくらった。

その後、もちろんマツダの開発陣は血尿が出るほど苦労してCX-60 を大幅改良し今のモデルになっているわけだが、それでもあれほどの酷評を頭から消し去ることはできないので、昨年12月にマイナーチェンジされた新型に乗るのは大いに楽しみであった。

直列6気筒ディーゼルの魅力と走りの印象

さて、マツダの横浜研究所から一般道に出ると、まずは3.3リッター直6ディーゼルエンジンの自然で滑らかなことが嬉しくなった。3.3リッターでターボ付き、というスペックを期待すると低速でのモリモリ感に関しては拍子抜けするが、滑らかにパワーを紡ぎだし、1890㎏の車重はいつの間にか速度がかなり高い領域に達している、そんな洗練されたパワーユニットに不満はない。アイドリング時などにはディーゼルエンジンであることがはっきりとわかる音と若干の振動はあるものの、無音を目指して消すよりもずっと自然で好ましいと思うし、どんな領域でも十分に静かで滑らかだ。酷暑の夏の中でも、特に一番気温が高かった時期ということもあり燃費は13km/l程度にとどまったが、1.9t近い車重を考えれば仕方ないだろう。

2022年の登場当初、批判のひとつでもあったトルクコンバーターを使っていないオートマチックトランスミッションの変速ショック問題ではあるが、こちらもかなり改良された結果、日常使用で特に問題となることも気に障る部分も個人的にはなかった。神経を研ぎ澄ませてチェックすれば確かに音や振動が感じられる部分もたまにあるが、誰もがそんなに張りつめて運転することなどあり得ないし、普通に自動車を生活の道具として使った場合に気にすべき問題はまったくないと思う。

CX-60に採用されているKPC(キネマティック・ポスチャー・コントロール)によって九十九折のコーナリングにも不安はない。

「酷評ポイント」はどう変わったか

さて、酷評の対象でもあったCX-60の乗り心地が固すぎる問題(?)ではあるが、今回の2025年モデルでは、恐れるに足りずというのが個人的な結論である。特に低速領域では改善著しく、不快な硬さという部分はほぼ消えており、一般道で凹凸がつらいとか、還暦の身体に堪えるような荒さを感じることはなかった。

まだ残る課題―乗り味の“しなやかさ”

でもわがままを言えば、全体的に車が突っ張っているような、しなやかさに欠けるような乗り味が感じられたことも事実で、まだ乗り心地に改良の余地はあると思う。今回の車両は走行距離7500㎞であったから初期の固さは取れているはずだし、ブリヂストン アレンザの235/50R20タイヤの空気圧も適正だったから、やはりサスペンションそのものの熟成があと少しなのかもしれない。もう少ししなやかに、滑らかな乗り味だったらこの内装はもっと生き生きと輝くのに、そしてそういうエレガントな乗り味になったとしたらこの車の大きな魅力になるのに……。現時点では愛車だったCX-5と大きく変わらないばかりか、状況においては劣ってしまう乗り心地、それがなんとも残念でならない。

20インチという大径ホイールであることを感じさせないアピアランス。

今後のさらなる改良でCX-60が今よりもエレガントな方向に進化したのであれば、本質的な魅力はより増すであろうし、CX-5に対しての大きなアドバンテージはそこに生まれてくるはずである。そしてそんなしっとりとした乗り味になった時に、この魅力的で作り込まれた内装は国内外のライバルに対し、大きな加算ポイントとなるだろう。

手前はさらに大きな「CX-80」。

さてさてロングホイールベースで3列シートのCX-80はCX-60とどう違うのであろう。

Text&Photo:大林晃平