【稀代の天才デザイナー】時代を超越した美しいデザイン パトリック ル ケモンのデザインした芸術品「無意味さの美しさ」ルノー アヴァンタイム物語
2025年8月2日

ルノー アヴァンタイム(Renault Avantime):その存在意義は「無意味さ」にある。史上最も売れたコンセプトカー。このショーカーは約8,500台が製造された。どのルノー アヴァンタイムを購入すべきか – そしてその存在意義が「無意味さの美しさ」にある理由。
想像してみてほしい。ガレージの上にサンルームが付いた家があるのだ。そのサンルームの快適なソファに座り、ハンドルを握り、少し回しながら太陽の光を満喫する。または、頭上のガラス屋根に降り注ぐ雨を眺める。その様子を、近所の人がじっと眺めている。
それが、「ルノー アヴァンタイム」を運転する感覚だ。高い位置に座り、広大な景色を望む。はい、「アヴァンタイム」を、そんな車たらしめるようなもの、例えばサスペンションやエンジンなどもどこかで動いているのだ・・・。しかし、それらはすべて下の方に位置しているため、ここには全く邪魔にならない。ステアリングは、まるで車輪とつながっていないかのように感じられる。

Photo: Toni Bader
ルノー アヴァンタイムは一体何のために存在するのか?
ほとんどの車は特定の目的のために設計されており、燃費が非常に良いか、特にスポーツ性能に優れているか、または多くの乗客を乗せられるように設計されている。
しかし「アヴァンタイム」は違う。スペースは「エスパス」と同じくらい広々としているが、快適に過ごせるのは大人2人と子供2、3人までだ。実用性、スポーツ性、燃費の良さ、環境への配慮?申し訳ないが、そんなものはない。実用的な車から「アヴァンタイム」に乗り換えるドライバーは、その態度、あるいは性格を露わにする。眉をひそめながら、「この車は意味がない」と不満を漏らすかもしれない。あるいは、この車を無意味だと考え、笑うだろう。
ついに自由になった、目的意識から解放され、完璧への執着から解放された!人生を悟った者だけが、この車を評価できるのだ。

Photo: Sven Krieger
目的(目標指向の行動の動機)と意味(意義)の違いを理解することは役立つ。「アヴァンタイム」は、バルコニーのヒナギクや無名画家の絵、あるいは古い車愛好家の皆さんなら、納屋に置かれた故障したシュナウザー(ドイツ犬)のようなものだ。その意味は、無意味さそのものの美しさにあるのだ。「クーペスペース」が多くの荷物を収納でき、リラックスした旅行に最適であることは、「アヴァンタイム」のファンは受け入れざるを得ない。
この派手なデザインは、意外にも目的意識の強い人物の指揮下で生まれた。パトリック ル ケモン(Patrick Le Quement)は、ルノーに11回応募した末、1987年に採用された。「アヴァンタイム」の設計者は、あまり知られていないが、同様に伝説的なフィリップ ゲドン(Philippe Guédon)だ。

Photo: Toni Bader
クリス バングル、伝説のBMWデザイン革命家は、AUTO BILD誌に対し、次のようにコメントした。「アヴァンタイムは現代のヴォワザン(Voisin)のような存在だ。非常に幾何学的で、アール デコ風の要素をほんの少し取り入れた、超エレガントなデザインだ。」

Photo: Ingo Barenschee / AUTO BILD
マトラとアヴァンタイム: どちらがどちらを破滅に追いやったのか?
パトリック ル ケモンは、「トゥインゴ」、「カングー」、「ヴェル サティス」に機能的なデザインを授けただけでなく、多くのコンセプトカーにもその手腕を発揮した。ショーカーとして発表された「アヴァンタイム」が量産車となった経緯と、その過程でルノーとマトラ(アヴァンタイムはそこで製造されていた)の契約が果たした役割 – これらは推測の域を出ない。

Photo: Ingo Barenschee / AUTO BILD
フランスのロモランタン=ラントネー近郊のオルレアンにあるマトラ工場は、もともと廃業が避けられなかったのだろうか?ルノーはマトラの破綻を早めるため、広告やディーラー研修への投資を意図的に抑えたのだろうか?それとも、マトラ自身が55kgのドアの複雑なヒンジを機能するように製造できなかったため、自滅したのだろうか?要するに、「アヴァンタイム」が2003年にマトラ工場の閉鎖を余儀なくさせたのか、それとも逆なのか?
これについては議論の余地がある – あるいは、ガラスルーフとサイドウィンドウを開けるボタンを押して、夏の風を感じながら存在の喜びを噛みしめることもできる。

Photo: Ingo Barenschee / AUTO BILD