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新しい大統領はクルマ好き コルベットファンのジョー・バイデン第46代アメリカ大統領

2020年11月17日

コルベットファンのジョー・バイデンが運転を禁止される理由とは? アメリカ大統領選挙で勝利したジョー・バイデンは、2021年1月に、新米大統領としてホワイトハウスに移動し、就任する。しかし、これは車ファンの彼にとっては、愛車であるコルベット スティングイに長の別れを告げなければならないことを意味する。

安全上の理由から、アメリカの大統領は自分では運転できない。
任期中も、その後も運転できない。
法的には義務付けられているわけではないにもかかわらず、何十年にもわたって守られ続けてきたこの慣習は、新たに選出された第46代大統領にマイナスの影響を与える可能性が高い。
新たにアメリカの大統領に選出されたジョー・バイデンは、この慣行に全く満足していない。
77歳のアメリカ民主党員は、大の自動車ファンであり、コルベットの愛好家であることを公言している。

バイデンは1967年に結婚祝いとしてグリーンのコルベットをプレゼントされた。彼が初代オーナーだ。 ©Twitter/GeorgeEast19

バイデンが最初に所有していた1967年製シボレー コルベット スティングレイ
バイデンがデトロイト生まれのスポーツアイコンに憧れていたのは偶然ではない。
バイデンは1967年に父親から結婚祝いとしてグリーンのシボレー コルベット スティングレイを贈られた。
美しいコンバーチブルは、ボンネットの下に5.4リッターV8を搭載し、約350馬力を発生させる。
トランスミッションはMTのため、ギアチェンジは手動でおこなわれる。
バイデンの父親はシボレーの自動車ディーラーで営業部長をしていたが、どうやら早い段階で息子にPS(馬力)ウイルスを感染させてしまったようだ。
何はともあれ、バイデンは2016年に米トークショーの司会者ジェイ・レノとのインタビューで、通っていた高校のプロム(Promenade=イギリス、アメリカ、カナダの高校で学年の最後に開かれるフォーマルなダンスパーティーのこと)に、毎年父親から違う車を借りていたことを、意味深なニヤリとした表情で語っていた。
さらに、「スピードが好き」であることを公然と認めていた。
同じ会話の中で、バイデンは、彼が50年以上前に、1951年のプリマスで最初のデートに出かけたことも告白していた。
本物の車ファンでなければ、誰がこのような詳細を覚えているだろうか?

1967年からバイデンに登録されているグリーンのコルベットは、アメリカのデラウェア州にあるバイデンの自宅のガレージ内に停められている。
バイデンの車は、運転する喜びに加えて、時にとても悲しい家族の歴史を思い出させる。
まず、思い起こすのは、彼の父親と運転技術の記憶だ。
そして悲しいことに、1967年に結婚した最初の妻ネイリアは、1972年に痛ましい交通事故で亡くなっている。
そして最後に、家族の中で2番目にコルベットファンであった長男のボーは、2015年に脳腫瘍で亡くなった。

2011年、バイデンは(副大統領としての)仕事で嫌だったことは、車の運転が許されないことだと語っている。 ©Twitter/BriannaWu

「それが私の仕事の嫌いなところです」
外交的な言葉遣いは、アメリカの新大統領の強みとは考えられていない。
バイデンは思ったことをストレートに言うという定評がある。
そのため、2011年には、米自動車雑誌『Car and Driver』のインタビューで、当時副大統領だったバイデンは、副大統領職として「唯一嫌いなこと」は自分で運転することを許されないことだとコメントしている。
それから4年後の2015年には、バイデンはエール大学の卒業生へのスピーチで、「ポルシェの製品よりもコルベットの方が優れている」とまで明言している。
最後に、2020年8月の大統領選挙戦の短い動画の中で、彼はアメリカの自動車産業を近代化して、将来再びコルベットのような欲望の対象物となるようなモデルを生産できるようにしたいという思いを表明している。

バイデンのコルベットはどうなる?
アメリカの様々なメディアが、大統領が愛車を売却して、9万ドル(約970万円)近くの収益を慈善事業に寄付するのではないかと推測している。
しかし、おそらく車はバイデンファミリーのもとに残るだろう。

アメリカでは自動車のない生活というのは考えられないし、田舎の、(自動車に全く興味のなさそうな)おばちゃんに何気なく聞いたとしても、「最初に運転したのは1962のポンティアックだったわよ」とちゃんとした答えが返ってくる、そんな国がアメリカなのである。まあ日本での感覚とはその辺が大きく異なる。自動車なしには成り立たない国、それがUSAだ。
だから歴代の大統領だって今まで一度もクルマを運転せずに生きてきたなどということはありえないし、逆に一度もクルマを運転せずに今まで歩んできた人のほうが「ありえない」と思われるだろう。

だからもめにもめた大統領選挙で、(おそらく)次期大統領となるバイデンがコルベットを所有していたとしても、なんら不思議でもなんでもなく、それはそれは良い話題だと思うのだが、大統領になると運転しちゃいけなくなるとは思っていなかった。
まあエアフォースワンとか大統領専用車「ビースト」の装甲性能、そしてそれに関わるSPやSWATの多さを考えれば、一度大統領になった人物が、気軽に一人でオープンカーに乗って海を見に行ったり、インアンドアウトハンバーガーを買いに行ったりするなどということはもはや不可能になってしまうのは仕方ないけれど、コルベットのコックピットに収まるバイデンの嬉しそうな笑顔を見ると、「もう自由にコルベットを満喫できないのか」となんだか不憫でならない。
自分で選んだ道とはいえ、自由も好きなことも制限されてしまう人生。大統領というのはそういう因果な生活を自分で選ぶことでもある。若かりし頃アルファロメオに乗っていたと漏れ伝わる安倍晋三元首相も、もう二度と自分でステアリングホイールを握ることはないのだろうか。

Text: Lars Hänsch-Petersen
加筆:大林晃平