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その限界は青天井 究極の高性能ゴルフ「VW GOLF R」に試乗

2025年5月21日

2002年にVWゴルフⅣにR32として登場し、第4世代目となるVWゴルフR(VW GOLF R)の試乗会がポルシェエクスペリエンストウキョウ(PEC)において開催された。フォルクスワーゲン自ら究極のゴルフと言う新型VWゴルフRに大林晃平が試乗。

2002年にVWゴルフR32が登場した時は、今よりもずっと少数で特別ではるかに高価に感じられた、つまり普通のゴルフやGTIとも大きくかけ離れたモデルに感じられた。6気筒エンジンに4モーションが組み合わされ、イメージカラーの青に塗られたR32はとにかく異形で、内心「とんでもないゴルフだ」と思ったものである。

そんなとんでもないはずのR32だったが日本にも正式輸入され、結局多くの人から受け入れられる結果となり、22年間で累計11,800台ものRが販売されたという。今や超高性能なゴルフRは年間30,000台も作られ、そのうちの約1,000台が日本に輸入されるというが、これは世界第6位の数なのだという。今や333馬力で420Nmものパワーを持ちRベクタリングシステムによって後輪のトルク配分を0~100%の間で調整しながら駆動力を伝える4モーションや、シャシー全般を電子制御する頭脳であるヴィークルダイナミックスマネージャーが電子制御ディファレンシャルロック(XDS)やアダプティブシャシーコントロール(DCC)、そして4モーションをも統合制御するハイテク超高性能車である。

「スリリングR(Thriling R)」VW GOLF Rの高性能ぶりを最大限に体感できる試乗会だった。

ひと昔(ふた昔かも)前ならば、おまえはポルシェ959かと言ってしまいそうな果てく高性能ぶりだが、ここまで性能が高くなると、特に日本の一般道では性能を十分に発揮できないということもあってか、今回は「スリリングR」と名付けられたイベントが千葉県木更津市のポルシェエクスペリエンスセンターで行われ、同施設のハンドリングトラックやスキッドパット、パイロンスラロームコースを使っての試乗会が行われた。

ゴルフR、ゴルフRヴァリアント、ゴルフGTIの走りを堪能した。
Photo:フォルクスワーゲン ジャパン

同会場には僕の長年のあこがれの一台でもあるゴルフGTIも用意され、比較試乗が可能となっていたが、最初に結論を言えばゴルフRは「自分の運転技術が、おもいきり向上したかのように思えてしまう」ほど高性能で洗練された技術を持つ一台であった。フォルクスワーゲン自らが「日常使いの利便性と究極のパフォーマンスを持つゴルフ」と堂々と宣言している台詞に噓偽りは全くない。

そんなフォルクスワーゲン8.5のRにはハッチバックモデルとヴァリアントの2種類のボディが選べ、さらにどちらとも「普通のR」と「Rアドヴァンス」の2グレードから選択することができる。

ホイールベースが5㎝長いゴルフRヴァリアント。いまやゴルフのワゴンはスタイリッシュだ。

RとRアドヴァンスではざっと45万円ほどの価格差があるのだが、この違いはRが225/40/R18のタイヤサイズを持つのに対し、アドヴァンスは235/35/19(試乗車はブリヂストンのポテンザS005だった)となり「ヴァルメナウ(Warmenau)」と呼ばれる71%もの開口部を持つアルミホイールと組み合わせるようになることと、シートが電動調節式でシートベンチレーションも装備されるナパレザーシートにグレードアップされること、そしてアダプティブシャシーコントロール(DCC)が装備されることが大きな違いとなる。最後のDCCの有無が個人的には一番気になったが、これの効用がいかなるものであったかは最後に述べる。

ゴルフRアドヴァンス。R専用ナパレザー。
ゴルフR。チェック柄はいまひとつパッとしない。

まずはハンドリングトラックを使用して高速性能を試すこととなり、用意されたイメージカラーのラピスブルーメタリック(44,000円のオプション)青く塗られたハッチバックモデルのRアドヴァンスに乗りコースへと乗り入れる。今回はインストラクターが操るGTI を、僕の前を走る腕扱きのモータージャーナリストのR、そして僕という3大編成でガンガンコースを走ることになったが、高等な運転技術を持つ前走のお二方は遠慮なくコースを攻める。

ゴルフGTI。こちらのチェック柄もイマイチ。スポーツシートにミスマッチしているように見える。

最初はついていくのが難しいかと思うほどのペースに感じられたが、ほどなく「これは車に性能に任せても大丈夫」と気が付き、心からゴルフRの性能を信頼してからは不安なくついていけるようになった。特に上り坂の高速コーナーなどではリヤのトルクベクタリングの効果は絶大なものがあり、しっかり安定しながらもコーナーを驚くほどの駆動力を保ったまま抜けていくことができる。

まったく色気のないエンジンルーム。パフォーマンスはピカイチ。

安定感を保ったまま楽に高速でコーナーを抜けることができる上に、とにかく直進性の抜群に優れた4モーションの感覚を持ちながらも、自分の運転技術がいつの間にか向上したかのように思えるこの感覚こそ、究極のゴルフたる「R」の持つ世界なのだと思う。ハンドリングトラックの後にスラロームとスキッドパッドのテストも行ったが、どちらも拍子抜けするほど簡単にこなしてしまい、「俺ってうまいじゃん」とつい勘違いをしてしまうが、実はすごいのはRのほうであることは言うまでもない。

とにかく速い、そしてコントローラブル。かなりのハイスピードで急ハンドルを切っても破綻させることはできなかった。

個人的に気になったGTI (くどいようだが長年のあこがれの車である)との比較であるが、安定しながらも驚くほどのハンドリング性能とパワーを持つRと乗り比べると、走り始めた瞬間にGTIは軽快で軽やかに感じられたことが自分でも意外であった。これは30㎏ほど車重が軽いことが原因だったかもしれないが、ゴルフGTI独特のチェック模様の明るい内装の影響だったかもしれない(笑)。だがそんなGTIも今や265馬力で370Nmものパワーを持つ高性能車だし、おそらく日本の路上ではあっという間に「御用」の速度領域になってしまう一台であることは言うまでもない。

ゴルフGTI。FFスポーツのベンチマークの座は揺るぎない。

だがFFと様々な電子デバイスに囲まれた4モーションの違いは明白で、特に絶対的な安定感ははるかにRのほうが上であった。何をしても破綻させることができない、という危ない錯覚を抱いてしまう感覚はRのほうがはるかに強い。

“R-Performanceトルクベクタリング”を備えた4MOTIONは秀逸。

今回、前走するインストラクターはGTI をRで追走するというシーンが多かったのだが、インストラクターによればGTIの限界の95%くらいで走っていたというが、Rに乗った僕の方は限界の70%程度で走っていた。それぐらいRの持つパフォーマンスは高い。そしてそれはヴァリアントのボディであってもハッチバックモデルであっても、決して大きく異なるものではないとも感じられた。

“Vehicle Dynamics Manager”によりラフに走ってもスキールさせることは難しい。

さて、最初にRとRアドヴァンスとの大きな違いにアダプティブシャシーコントロール(DCC)があると記したが、このDCCの効果は絶大なものがあり、走り始めた瞬間から乗り心地の違いを大きく感じることができる。特に飛ばすことをせず、ゆるゆると日常使いするような領域では圧倒的にDCCのほうが乗り心地よく快適である。

敢えてスピンさせても制御されるので怖くない。

もし40万円を追加で支払い、より究極のゴルフを求めるような方であれば、アドヴァンスを選ぶほうが良いと思う、かっこいいホイールもついてくることだし。何しろヴァルメナウホイールを装着すると、かなり見た目が変わり、スカスカに抜かれたホイールの視覚効果は相当高い。

開口部が71%もあるゴルフRアドヴァンスの19インチホイール「ヴァルメナウ(Warmenau)」。18インチの“Jerez”がフツーに見えてしまうほど特別感が高い。

普通のRハッチバックでも7,049,000円、それをアドヴァンスにアップグレードすると7,499,000円ともなる高価格車ではあるが、これほどまでに超高性能で日常使いも苦も無くこなす内容を考えれば、仕方ないと思える内容であるし、購入できる方たちを裏切ることはないと断言できる。だからこそ世界中でこれだけの台数が受け入れられているのだから。

アクセルワークとハンドル操作でドリフトさせながらグルグルと回ることがいとも簡単にできてしまう。

それにしても1976年に発表されたGTIも、2002年に発表されたRも、どちらも一回も絶やすことなく今まで継続し、育て、熟成し続けて来たフォルクスワーゲンは実にえらい、偉大であると思う。その間、世の中は大きく変化したが、GTIとRというアイコンをこれだけ継続するのには相当なエネルギーが必要であったことは容易に想像がつく。

2025年の現在、大人が安心して選び、恥ずかしくなく毎日乗ることのできるゴルフGTIやRのような高性能車が実に少ないことに改めて気が付くし、そういう意味でも稀有で貴重な存在であるといってよい。

「R」と「GTI」には「GOLF」の文字はない。

これほどの性能になったGTIやRがこれからも存続するかどうか大変気になるが、フォルクスワーゲンの作ったアイコンとしてぜひ無くならずに続いていくことを願っている。

来年はGTIの50周年。ぜひ盛大にお祝いしたいと思う。

Text:大林晃平
Photo:アウトビルトジャパン