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メルセデス・ベンツSクラスのすべて その系譜を歴代モデルの解説で紐解く

2025年5月10日

メルセデス・ベンツの象徴、高級セダンのベンチマークたる「メルセデス・ベンツ Sクラス」。その75年に及ぶ歴史を各モデルの解説で振り返る。

メルセデス・ベンツのフラッグシップSクラスは、いわゆる高性能を表すSUPER(スーパー)の頭文字「S」を掲げるものである。第2次大戦後「S」の文字が付いた最初のモデルは1949年~1952年までに製造された170S/W136で、この車はまだクラシックなウィングタイプのフェンダーを持ったいわば戦前のスタイルで、真の意味では元祖Sクラスとはいえない(Sクラスの元祖は諸説ある)。

1952年の170V(ウエスタン自動車が1952年最初に輸入した4台170V/170S/220/300の内の1台が170V)。

1951年;Sクラスの元祖220シリーズ/W187(1951-1955年)

第2次大戦後、まず4気筒モデルから生産を再開したメルセデス・ベンツだが、敗戦後の混乱から脱し、1951年に久々に世に送りだしたモデルが中型高級車の220シリーズと大型高級車の300シリーズ(両モデル共ウィングタイプ)である。

220は基本的に170Sのシャーシ、ボディを利用したが、エンジンは新設計で生産車初のSOHCを採用し、2.2L 直列6気筒エンジンは80HPを発揮した。

1951年発表の220シリーズ;Sクラスの元祖。

一方、300/W186の3.0L SOHC 直列6気筒エンジンは2基のキャブレターで115HPを発揮。特に、この300は当時の西ドイツでは経済政策上3Lを超える車両には高額の税金が課せられたので、当時の西ドイツでは最高級車であった。

ボディは鉄板のつなぎ目がわずかな隙間も残さず埋め込まれ「塵合わせの技」を施された。度々の改良により1962年まで生産された(a/b/c/dシリーズ)。1957年にボディがリデザインされ、ハードトップ4ドア・6ライトとなり、グラスセクションが広いすっきりとしたルックスになった。

1959年300d。

当時の西ドイツのアデナウアー首相が、特殊パレード用を含め6台も愛用し「アデナウアー・メルセデス」と呼ばれ、世界中の王侯貴族、政財界要人、ローマ法王、ハリウッドスター(ユル・ブリンナーなど)や20世紀のソプラノ歌姫マリア・カラスなどが愛用者リストを飾った。

300dから降りる当時のアデナウアー西ドイツ首相;アデナウアー首相が好んで6台所有していた事から通称「アデナウアー・メルセデス」と呼ばれた。

日本では、宮内庁に300cが4台納められた。上皇皇后が正田美智子さん時代に初めて皇居を訪問された折の送迎にも使われた。その高貴な血統は600リムジン/W100に、そして現マイバッハSクラスに受け継がれている。

180/W120 220シリーズ/W180/W128(1953-1961年)

1951年に発表されたSクラスの元祖220シリーズ/W187は、1953年には中型セダン180/W120(世界初衝撃吸収構造のセミモノコックボディ)へと発展し、その上級版として1954年に登場した220a/W180となった。延長したシャーシに搭載した2.2L、直列6気筒エンジンは85HPを発揮し、一気にモダンな「フラッシュサイド」のスタイルとなり、「ポントン(Ponton)」の愛称で呼ばれた。

モダンなフラッシュサイドの1953年180/W120(世界初衝撃吸収構造のセミモノコックボディ)。

ここで「フラッシュサイド」について一言解説する必要があるといえる。昔のフェンダーがボディから出っ張っていたウィングタイプに比べて、「フラッシュサイド」は前後のフェンダーがボディ・ドアとフラットになりボディに取り込まれ、いわゆる現代のスタイリングへの転換期を迎えた。

特に、乗員空間は堅牢に造り、ボディ前後は効率よく壊れることで衝撃を吸収する安全構造となった。今や常識のこの構造をメルセデス・ベンツは70年も前に採用していたのである。

上級版として1954年に登場した220a/W180は、延長したシャーシに2.2L、直列6気筒エンジンを搭載し85HPを出し、一気にモダンなフラッシュサイドのスタイルとなり、ポントン(Ponton)の愛称で親しまれている。

2.2L直列6気筒エンジンは85HPを発揮し、フラッシュサイドのモダンスタイルとなった全長4.715mmのボディを150km/hまで引っ張りあげた。これが諸説ある中で正しくSクラスの原点といえるモデルである。

220S。当時のカタログから。

1959年;220シリーズ/W111/W112(1959-1971年)

1959年に登場したモデルがフルモノコック構造のボディを採用した新型220シリーズ(W111/W112)である。縦目のヘッドライトやテールフィンを採用したスタイルが特徴、通称「ハネベン(Tailfin)」である。

1959年に登場した220シリーズ/W111。縦目のヘッドライトやテールフィンが特徴で通称ハネベン(Tailfin)と呼ばれた。

1961年に追加された3.0Lエンジンを搭載した300SEでは、初の4輪ディスクブレーキやパワーステアリング、4速オートマチックトランスミッションにエア+コイル式サスペンションなど新技術を積極採用。後に世界の主流となる2系統式ブレーキシステムも搭載し、安全思想をさらに進化させた。

1965年;スマートなスタイル250シリーズ&300シリーズ/W108/W109(1965-1972年)

1959年のラインナップに変化が起きたのは1965年で、フルモデルチェンジしたテールフィンのないスマートなスタイル250S/SE、300S/SE/SEL(W108/W109)がフラッグシップモデルとして発表された。

1965年、テールフィンのないスマートなスタイルで登場した250S/SE、300S/SE/SEL(W108/W109)。

全長4.900mmの標準ボディとホイールベースを100mm伸ばした300SELのロングボディを用意した。エンジンは当初2.5Lと3.0Lの直列6気筒エンジンでスタート。

300SELにV-8、6.3Lを搭載した300SEL6.3(エアサス付き)を発表。

更に1968年に2.8Lの280シリーズが登場すると、同年には最高峰リムジンの600/W100から6.3L、V型8気筒エンジンを譲り受けた300SEL 6.3が追加された。最高出力250HPのエンジンがもたらすパフォーマンス・最高速度は実に220km/hを出し、他の追従を許さない圧倒的なものだった。後に3.5L、V型8気筒エンジンを採用。最終的には4.5L、V型8気筒エンジンも用意された。

折りしも、1968年にはジャガーがXJシリーズをデビューさせ、BMWも高性能化が計られるという声が聞こえてきた。そこで、メルセデス・ベンツはこれら競合車種の巻き返しを向え撃つべく超高性能モデルの開発を進めたのであった。

1972年;初代Sクラス/W116(1972-1980年)が登場(Sクラスの名が正式に使用)

1972年に登場したW116でSクラスの名が正式に使われるようになった。筆者がメルセデス・ベンツの輸入会社に入社したのは1972年なので、特に愛着がある。

初代Sクラス/W116(1972-1980年)から「正式にSクラス」と呼ばれた。

最大の特徴は安全性の追求がより徹底されたことにある。メルセデス・ベンツはSクラスで、さらに進化したボディの衝撃吸収構造や大型バンパー、衝撃を柔らかく受け止める内装材の採用などで徹底した安全性の追求。社会問題となりつつあった自動車の安全性について先進的な回答を示した。

ラインナップは280SE、350SE、450SE/SELとグレード名が変わったがエンジンは従来通り2.8L、3.5L、4.5L。1975年には280HPを発揮する6.9L V型8気筒エンジンを搭載した450SEL 6.9も追加された。この新Sクラス450SE/SELは「1973年ヨーロッパのカーオブ・ジ・イヤー」を獲得した。

350SE/W116。

折りしも、エネルギークライシスの真っ只中であり、この様な高級車が賞を得た事は大いに物議を醸した。これについて同賞の選考委員会は「確かにこの様な時期ではあるが、しかし、それを加味してもなお、このクルマの高度な品質や安全性は高く評価されるべきである」とコメントした。ちなみに、ロールス・ロイスは1965年に高級ビジネス市場に向けて同社としてはコンパクトな「シルバーシャドウ」を投入していた。実は、このW116はそれに対するメルセデス・ベンツの解答だった。

1979年;2代目Sクラス/W126(1979-1991年)

オイルショックに揺れた1970年代の締めくくりに登場した2代目のSクラスは全幅を狭め、前後のウインドウを寝かせるなど空力性能を追求したスタリングや軽量化が注目を集めた。これはもちろん燃費低減が目的だ。また、ABS(アンチロック・ブレーキシステム)や運転席エアバックなど、世界初となる革新的な技術を次々と投入して、安全思想もさらに進化。最終的に5.6L、V型8気筒エンジンまで用意された圧倒的な動力性能も合わせ、まさに世界のクルマの頂点に君臨したのであった。

2代目Sクラス/W126(1979-1991年)。

サスはフロントが変則的なダブルウィッシュボーン(ゼロ・スクラブのステアリング・ジオメトリー)、リアはセミトレーリング・コイルの独立懸架にも一層の磨きが掛かった。この時代には遂にスーパーメルセデスの登場はみられなかったが、その代わりに安全性は他の追従を許さないレベルに到達していた。特に、能動的安全性の技術的進歩は顕著であり、ABS(アンチロック・ブレーキシステム)、ASR(アクセレレーション・スキッドコントロール)、そしてリミテッド・デフ等の量産化を実現した。受動的安全性においてもボティの衝撃吸収能力を一段と向上、エアバックもドライバー側のみならず助手席側にも装備可能とした。

5.6L、V8エンジンを搭載した560SEL。「L」はロングボディを意味する。

W126はハンドリングの進化が顕著で、スタート時のテールの沈み込みや、制動時のノーズダイブも見事に抑えて常にフラットな姿勢での走行を実現した。これは最近のメルセデス・ベンツに共通する走行感覚であるが、メルセデス・ベンツが得意とするソフト気味のコイルスプリングとハードなダンパーとのセッティングは絶妙であった。この独特の走行姿勢と路面からの応答性がドライバーを魅了した。