【第44回JAIA輸入車試乗会】シボレー・コルベット・コンバーチブル 最新技術で作ったアナログ車の大傑作!
2025年2月12日

スポーツカーのNo.1はコルベット。そう言い切れる理由を説明しましょう。
太平洋戦争の終結から8年を経た昭和28年。日本でNHKがテレビ放送を開始し、イギリスでエリザベス女王が即位し、ソ連でスターリンが死んだ年に、アメリカでは自動車史に名を残すアイコンが誕生した。
シボレー・コルベットである。
偉大なスポーツカーを決める指標はいくつもある。例えば最高速。ブガッティの独壇場である。例えばニュルブルクリンクのラップタイム。ポルシェが意地を見せつけている。例えば生産台数。マツダ・ロードスターがギネス記録を持っている。
しかし、歴史の長さが最も偉大なスポーツカーを決めるとしたら、No.1はコルベットである。19世紀から続く自動車の歴史で、これほど長く作られ続けたスポーツカーは他にないのだから。
クルマは工業製品であり、商品である。消費者に支持されず、利益を生み出せないクルマは、どんどん生産中止になっていく。特にスポーツカーはそうだ。日本にもアメリカにも欧州にも、消えていったスポーツカーは山のようにある。
コルベットが生き永らえているのは、1953年から72年間、ファンが(中古車でなく)新車を買い続けているからだ。ポルシェ911より11年ほど先輩のコルベットは、高いお金を払ってでも新車を手に入れたいと思わせる魅力をファンに提供し続けている。尊敬に値するスポーツカーである。

最高水準のエンジニアリング
2020年に登場した8代目のコルベット(C8)は、FRからミドシップに転換したことで大きな話題となった。
より安価なシボレー・カマロ、フォード・マスタング、ダッジ・チャレンジャーの性能が向上する中で、コルベットに相応しいワンランク上の性能とエンターテイメント性を実現するためにミドシップ化が決断されたのだろう。
だがファンの心情は複雑だ。RRでない911を見せられたような気持ちである。
JAIA試乗会の会場でマクラーレンのようなオレンジに塗られたC8に乗り込み、左右のフェンダーの峰が見えるフェラーリのような前方視界を眺めながらクルマを発進させた時には、それゆえコルベットに乗っているという気分になれなかった。頭の片隅から「ジェネリック・スーパーカー」という悪口すら聞こえてくる。
ほんの少し走らせただけで、クルマの出来栄えが並外れていることはわかった。
まずボディの剛性感が素晴らしい。試乗車は電動ルーフを持つコンバーチブルだったが、クーペと呼ばれる標準車も手動のタルガトップであり、つまるところC8のシャシーはオープンボディの専用設計なのである。固定ルーフのクルマの屋根を切り取ったオープンではないため、ボディ全体の剛性感も、サスペンションの取付部やフロントのバルクヘッド周辺部の局部的な剛性感も十分以上に高く、舗装の荒れた田舎道でもまったく不満を覚えない。
ステアリングフィールも見事である。少し重めの操舵力と、切っていった際の操舵反力のリニアな出方が丁度良く、前輪のグリップ感を掴みやすい。メカニズムの精度感も高い。道幅の狭い日本のワインディングを走らせても、車幅を読みやすい上に一体感があり、自信をもって操縦できるクルマである。まるでポルシェだ。
ブレーキについても、効き、リニアティともに文句はなく、8速DCTの変速も同様である。
運転席が前輪から離れているため、右ハンドルでもペダルレイアウトに不自然なところはない。運動性能を追求するため、左右の前輪の間に足を突っ込んで座るマクラーレンは、右ハンドルだと危険なほどのペダルオフセットがあるが、コルベットは重量配分の悪化と引き換えに安全で快適な運転環境を得ている。マクラーレンよりも客層の広いコルベットでは理にかなった設計である。
アメ車は大味、などという古臭い偏見をもってC8に乗ると、その精緻なドライブフィールに驚くだろう。コルベットは、アメリカのトップの自動車メーカーであるゼネラルモーターズのフラッグシップ車輌のひとつであり、精鋭のエンジニアが最新技術を惜しみなく使って作ったスポーツカーなのだ。

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V8が生み出すアナログ感
最新技術で作られた完成度の高いミドシップ・スポーツカーが果たしてコルベットの名に相応しいのか、という疑問はスロットルの一撃で消えた。
アクセルを踏み込むと6.2リッターV8の音、音、音の洪水に飲み込まれて、にわかにテンションが上がってくる。
ハリウッド映画に出てくるハイパワーのアメ車のV8サウンド、あのどこか怖さを感じさせるレーシーで乾いた音が、背後から怒涛の勢いで噴出されているのがわかる。イメージと違って中低速トルクで圧倒するタイプのエンジンではない。トルクは下から上まで全域にあり、高回転までズバッ、ズバッと502馬力が爆発的に吹け上がっていく。NAならではの回転の鋭さとリニアティの高さは陶酔の境地にあり、近頃のターボエンジンを寄せ付けない。
高性能グレードのZ06を除くC8は、LT2の型式をもつ新設計のV8エンジンが搭載される。LT1と呼ばれた先代C7の発展型だが、2025年になってもOHVである。これが理由かどうかは知らないが、このエンジンは20世紀的なアナログの情緒に溢れている。日本によくあるだらだらと低速で流れる下道でクルマを泳がせ、右足に込める力を微妙に変えると、そのちょっとした力加減にV8は繊細に反応して音色を変えてくれる。
ああ、昔のクルマはこうだったよな、と思わず笑顔になってしまう。
そこからスロットルを踏み込めばV8はパワフルに炸裂するわけだが、その緩急自在なキャラクター、そして(アメ車に対する世間の偏見とは異なる)精密なフィーリングがC8の印象を決定付けている。これはフェラーリやランボルギーニを買えない人が代用品として購入するジェネリックではなく、コルベットに心底惚れ込んだ人が指名買いするクルマである。
これほど魅力に溢れるクルマなら、新車で買いたいと思う人が沢山いるのは納得がいく。最も長くファンの支持を得てきたという意味で、コルベットがスポーツカーの頂点に君臨する時代はまだまだ続くだろう。C8は傑作である。


Text: Auto Bild JAPAN
Photo: 河村東真 & Auto Bild JAPAN