【ユニークな比較テスト】メルセデス 230SL(W113)とメルセデスAMG SL63(R232) 約60年の隔たりがあるロードスターの共通点と相違点とは?
2025年1月30日
メルセデスAMG SL63(R232)対メルセデス 230SL(W113):メルセデスのロードスター「SLクラス」の伝統。AMGによって開発された最新のR232には「パゴダ」の愛称でクラシックカーとしての価値も高いW113と同じ血は流れているのか?メルセデスAMG SL63と230SLの特別な旅!
最高のストーリーは、自然に起こるものだ。7月、我々は「GT 63」と「SL 63」を編集部に持ち込んだ。AUTO BILD SPORTSCARSの兄弟車比較だ。熱心な読者の方なら覚えていらっしゃるかもしれない。
ちょうどその頃、私は両親の友人と数年ぶりに再会した。「GT」で少しドライブした後、私は思いついた。「ねえ、あなたのSLはどう?ちゃんと走っていますか?」なんて失礼なことを聞いてしまった。彼は即座に答えた。「もちろん走っているさ。だって、ガレージに保管されていて、丁寧にメンテナンスされているんだ。最高級のワックスを使って、手洗い洗車をしているんだぜ」と。「それは凄い。今、新しいSLを借りているんだけど、新旧の比較に興味はないかい?」と私は彼を誘惑した。
天気も良いし、カメラマンも時間通りに来てくれている。だから、ちょっとドライブして田舎の風景を撮影しよう。これまでにもっと最悪な木曜日だってあった。その日、2台の「SL」のどちらがより多くの人の注目を集めたのかはわからない。おそらくは旧型の方だろうが、メルセデスの最新モデルもまた、多くの人々を魅了する才能を備えている。
「SL」ロードカーの系譜を簡単に振り返ろう。始祖である「300 SL」は1954年の初登場当時からアイコンであり、多くの人々の憧れの的だったが、購入できるのは一部の人々だけだった。レーシングカーの直系であるため、非常に魅力的であると同時に、手の届かない存在でもあった。したがって、大衆向けのスポーツカーが必要とされていた。ただし、大衆といっても相対的なものだ。
そこで、より小型の「190 SL」が市場に投入された。ハードトップとファブリック製トップを備えたコンバーチブルの価格は当時、17,650ドイツマルクだった。これは現在の53,000ユーロ(約860万円)に相当する。終戦からわずか10年後には、まずそれを購入できるだけの経済力が必要だった。しかし、「300 SL」をモデルにしたことは明らかだが、1,180kgという軽量な車重は「スーパーライト(超軽量)」という名称にふさわしいものだった。しかし、105馬力という性能では、「300 SL」のスポーティな精神を継承することはできなかった。0から100km/hに達するまで14.3秒を要し、「190」をベースとしたロードスターの基本設計は、スポーティな運転とはほとんど関係がなかった。
メルセデス W113とR232は同じベースを持っている
そして、「W113」と現代の「R232」が基本理念において共通しているのはこの点である。なぜなら新開発の「パゴダ」は法外なほど高価な「300 SLロードスター」と、乗用車ライクな「190 SL」を同時に置き換えることを目的としていたが、「AMG SL」もほぼ同じ目的を持っているからだ。長年にわたり、メルセデスは「SL」、「AMG GTロードスター」、「Sクラス カブリオレ」という3つの高価なオープンモデルをラインナップしていた。
後者はモデルチェンジの際に廃止されたが、「SL」と「AMG GTロードスター」の間には大きな相乗効果の可能性があった。性能面では、「SL(R231)」は「AMG GT(R190)」とはかけ離れており、そのオープンモデルは実際にはコンバーチブルとしては妥協し過ぎたものだった。
そのため、次の目標は2つを1つにすることだった。2つのモデルの中間的なデザインで、新しいプラットフォームを開発することで新型の「GT」と共有する。それによって、「SL」はクルージング性能にスポーツ性能を兼ね備えた車となった。
「W113」の開発における主な目標のひとつは、200km/hという一流の最高速度を達成することだった。しかし、角張ったボディデザインは空気抵抗係数の面で不利であったため、当初予定されていた220エンジンは大幅に改良された。
大胆なデザインではあるが、賛否両論のあったパゴダルーフも、根本的な空力上の欠点があると言われていた。当時の測定では、「SL」のハードトップ装着車は時速198kmに達したが、幌を閉めた状態では202kmに達した。当時のテスト担当者でさえ、これは重量(ハードトップは約50kgプラス)によるものなのか形状によるものなのか、確信を持って言うことはできなかった。
「W113」のエンジンは生産期間中にさらに改良が重ねられたが、新型(R232)は幅広いバージョンが用意されている。43のコードを持つ4気筒エンジン(421馬力)と、同じく広く知られ愛されている4リッターのツインターボV8エンジンがある。「55」では476馬力を発揮し、ラグインハイブリッドバージョンの「GT 63 S E パフォーマンス」では、ピークパワーが816馬力という途方もない数値に達する。今日、我々がテストする車は、そのちょうど中間に位置するモデルだ。「63」の略語と585馬力を備えた車だ。
メルセデス 230SL:エレガントな先駆者
「230」は1966年末に「250」に取って代わられたが、基本的なエンジンコンセプトは同じであったため、オリジナルと同じ熱の問題を抱えていた。シリンダー配置がペアで設計されていたため、1番と2番、3番と4番、5番と6番のシリンダー間の内壁は薄くなっていた。つまり、熱分布が均一ではないため、エンジン自体が熱に弱いという問題があった。
この問題はシリンダーが均等に配置された280モデルまで解決されなかった。そして、このことが、彼の美しい「SL」につながるのだ。なぜなら、以前の所有者がオリジナルの230エンジンを280エンジンに交換したのは、まさにこの理由からだったからなのだ。1966年の最初の登録から数年後だったらしい。彼が濃い赤に再塗装され、白い内装の「W113」を購入したのは1974年だ。
約20年間の運転の楽しみの後、彼は工場出荷時の状態にレストアすることを決意した。そのため、包括的なレストアが必要となり、多くの作業はDIYで行ったが、いくつかの主要な作業は専門のワークショップに依頼した。
この車の特別な特徴は、完璧に保存されたインテリアだ。この色の組み合わせの「W113」は現存数が少なく、しかもレザーの内装はオリジナルで保存状態も極めて良好だ。その多くの「W113」を死に至らしめたのは直射日光だった。この「SL」は、その生涯の大半をガレージで紫外線から守られて過ごした。
この車はレストア後、計画的に10万km以上走行している。巨大なベークライト製のステアリングホイールに平らなクロム製のホーンリングが取り付けられ、マニュアル4速トランスミッションのシフトレバーは長めだが、直列6気筒エンジンはスロットルを踏むと敏感に反応し、1.3トンという重量をまったく感じさせない。
サウンドは滑らかで控えめだが、名人芸のようなハーモニーで、一日中聴いていても飽きない。この世代の「SL」はクルーザーとして、ゆったりと流すのがお似合いだ。
メルセデスAMG SL 63:横方向のダイナミクスを好む暴れん坊
「AMG SL 63」は、まったく異なる才能の持ち主だ。「スポーツ」、「スポーツ+」、そして「レース」の各運転モードだけでも、この車が横方向のダイナミクスを好むことが分かる。「SL 63」のサウンドは、ドライバーにそのまま響く。軽量な21インチの鍛造ホイールにセラミックブレーキパッドを装備し、強力な減速を実現する。また、AMGパフォーマンスシートは、完璧に体をホールドする。
しかし、「W113」が望んでいるのはそれとはまったく異なるものだ。60年近く経った今、もう少し快適な扱いを受けるに値する。荒々しさは若者に譲ろう。こうして、2台の本物のロードスターによる夢のようなドライブは終わる。
結論:
この2台のスターロードスターの間には、約60年の隔たりがある。この2台に共通点を見つけようとするのは愚かである。だから、私たちはこの2台をありのままに楽しむことにしよう。つまり、独特のセンスを持つ素晴らしいスポーツカーとして。
Text: Alexander Bernt
Photo: Tobias Kempe / AUTO BILD