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【ひねもすのたりワゴン生活】滋賀から城崎、そして神戸 5日間1500㎞のクルマ旅 その8

2024年5月22日

一路、日本海へ。
京都縦貫道路で、地粉の手打ち蕎麦に舌鼓

 この日の宿は、兵庫県の城崎温泉にとっていた。大谿(おおたに)川に沿って木造の和風旅館が軒を連ねる小ぢんまりとしたこの温泉町は、志賀直哉の小説で世に知られる存在となった。

 …が、ここも日暮れ前に到着すればいい。周辺で特に訪ねたい場所もないし、夜にかけて外湯めぐりができれば充分なのである。そこで地図を眺めると、城崎温泉の少し手前に天橋立があった。あまりにも有名なザ・観光地だが、せっかく近くを通るのだから訪ねるのも悪くない。この先、天橋立を目当てに旅することもないだろうから、ついでに見ておこうというわけだが、そのちょっと上、丹後半島の先のほうに目を遣ると伊根集落があった。舟屋で知られる小さな漁師町で、一階が舟置き場の漁師家屋が波打ち際に並ぶ美しい光景が注目されている。最近では全国から観光客が集まる人気観光地で、欧米からの来訪も多いらしい。こちらもザ・観光地だけど、やはり欲張って足を伸ばすことにした。

 カーナビで検索すると、近江八幡から260㎞ほど…5時間弱で到着らしく、天橋立と伊根の風景を眺めるだけなら、夕方には城崎温泉に着けそうだ。この日の流れは決まった。

 まずは竜王ICに向かい、名神高速道路に入る。大津、京都方面を経て、京都縦貫道路へ…。この道路も与謝天橋立ICまで伸びたので、日本海側への旅がずいぶん楽になった。一車線区間では何度か低速の軽トラックに遭遇したけれど、こういう旅だと気にならないのが、我ながらおもしろい。むしろ、ゆっくりドライブのおかげで山々の美しさやそこに見え隠れする集落に目を配ることができる。

ロケや取材行だと、同じようなシチュエーションでも気が急くことがないわけではないけれど、目的や心持ち次第でドライブの風景、印象がまったく違うものになることを噛み締めたのだった。

地元産の蕎麦粉を使い、手際よく仕上げられる

 朝食をとらずに近江八幡を出発したものだから小腹が減ってきた。天橋立や伊根に着いてからの昼食では、夕食を空腹で迎えられなくなる。“空腹は最高の調味料也”、北大路魯山人の言葉だったろうか、そんな一節が頭を過った。日本海の恵みを含め、城崎温泉では食事も楽しみだから、ここはひとつ万全の状態で夕餉を迎えたい。そこで寄ったのが京丹波PA内の「道の駅京丹波味夢の里」。農産品の品揃えがよく、伊勢芋などの自然薯やいろいろなキノコに目を奪われる。…で、食堂に向かってみると、入り口の脇に京丹波製麺所と銘打つ蕎麦打ち実演スペースがあった。

 PAに製麺所?見れば、ガラスで仕切られた作業スペースで女性スタッフが黙々と作業していて、麺が整然と並んでいる。

 東北道の佐野でもラーメンの青竹打ちを実演していたけれど、こちらは挽きたて、打ちたて、茹でたてを是とする日本蕎麦…ぜひ食べてみたい。京丹波町では、1999年に休耕地の利用促進のため蕎麦の栽培を始めたそうで、一帯は気温の寒暖差が大きく、上質な蕎麦が採れるようになったらしい。旧瑞穂町で始まったので、「瑞穂そば」と称され、このPAでは、“瑞穂そば師範代”に任命された職人が供するという。

 頼んだのは野菜かき揚げ蕎麦。たっぷりの青ネギが、ここが西日本であることを感じさせる。青海苔が香る竹輪天も乗っていてボリュームもなかなか…思いのほか、きりっとしたつゆが嬉しい。麺を啜れば、口の中に蕎麦の香りが広がる。まぁ、見た目がちょっと麗しくなかったけれど、そんなのはご愛敬(笑)。お江戸の高級店ではないのだから。お決まりの定食かカレーライスでも…とクルマを停めたのに、こんな思いがけない地の恵みに出会うことができたのだから、幸運以外の何ものでもない。これもまたクルマ旅の醍醐味、楽しみだ。

 心地よいひと時を経て、再び、京都縦貫道路をひた走る。終点の与謝天橋立ICまで約 60㎞……1時間の行程も快適だった。

へしこ…若狭や京丹後の名産。本場に近づいていることを実感する

Text&Photo:三浦 修

【筆者の紹介】
三浦 修
BXやXMのワゴンを乗り継いで、現在はEクラスのワゴンをパートナーに、晴耕雨読なぐうたら生活。月刊誌編集長を経て、編集執筆や企画で糊口をしのぐ典型的活字中毒者。

【ひねもすのたりワゴン生活】
旅、キャンプ、釣り、果樹園…相棒のステーションワゴンとのんびり暮らすあれやこれやを綴ったエッセイ。