【JAIA試乗会】フィアット・ドブロ ATでFFでディーゼル → 最高の車!
2024年2月14日
イタリアで見た異次元の走りをする配達業者、あいつはドブロに乗っていた
ドブロに乗り始めて10分が経過した。
ぐんぐんと地平の果てまで走っていけそうな頼りがいのある1.5L 直列4気筒、130馬力のターボ・ディーゼルに身を預けながら、この不思議な魅力をもつ車のことを考えていた。見晴らしが良く明るい車内。ぴたりと身体に馴染むシート。自然なステアリングの手応え。安心感に満ちた直進安定性。丸一日でも乗っていられそうな乗り心地。すべてに信頼感に溢れるフィールがあり、すべてに余計な演出がなく、そして乗りやすい。ほんの10分もあれば、10年連れ添った愛車のように運転できてしまう。
欧州で商用車として使われるドブロは、実直かつ親しみやすい車なのである。
海沿いのバイパスを流しながら、このフィーリングを実現する特別な仕掛けがどこにあるのか思いを巡らせた。パワートレーンはターボ・ディーゼルに8速AT。サスペンションは、フロントがマクファーソンストラット、リアがトーションビーム。
普通以外の何ものでもない。
謎を解けないままバイパスを抜け、混雑した市街地に入った。全長4.4m、幅1.8m超のボディを持て余すはずもなくスイスイと街を泳いでいくが、ここで思い出したのは、数年前に個人旅行で訪れたイタリアのことだ。
あの日、レンタカーのフィアット500で田舎道を走っていた筆者は、配達用のバンに思い切りぶっちぎられたのであった。あれは旧型のフィアット・ドブロだった。ブラインドコーナーに信じられない速度で突っ込むドブロを追いかけ、500に鞭打ってみたが、ドブロはどんどん遠ざかり、やがて視界から消えた。
いま走らせている現行型ドブロも、あの日のドブロのように異次元の走りをするのだろうか?
市街地を離れたドブロは、裏山を巡るワインディングに入った。
全力で飼い主に尽くす雑種犬
走り屋漫画「頭文字D」には、ATでFFでディーゼルなんて車じゃない、サイテーだよ、と主張するキャラクターが登場する。
だが彼はドブロを知っているのだろうか?
ATでFFでディーゼルの現行型ドブロは、あの日の旧型ドブロを思い出させる走りを見せてくれた。ステアフィールやペダルのタッチは自然そのもので扱いやすく、また高い重心にも関わらず車体がしっかり安定しているため、車を信頼してカーブに入っていけるのだ。日本では法が許さないが、これがイタリアの田舎道だったら高いスピードでブラインドコーナーに飛び込めるだろうし、日本の峠道であっても、たとえばAE85(ハチゴー。誤植ではない)には負ける気がしない。
特別なメカニズムは何もないが、走りの資質は特別そのものである。
だが、そもそもドブロは走りを目的としておらず、家族や仲間や荷物を載せたり、仕事道具を積んだりして、日々の生活や旅行や出張で使う車である。ドブロはそれなりに便利で快適な車だが、商用車として使う場合はともかく、日本で実用車として使う場合には、車内モニターをはじめ装備が充実する日本車との差を気にする人もいるだろう。一般的な日本のユーザーに対しては、トヨタ・ヴォクシーなどはじめから乗用車として開発された車の方がオススメしやすいことは確かである。そこで日本車に勝てる車は世界にない。
だからドブロは、一般ユーザーでなく、車好きにオススメの車である。日本で実用車と趣味車の二台を所有するのは、なかなか経済的なハードルが高い。だがドブロは、実用車でありながら趣味車のような走りの楽しさがあり、家庭生活と趣味生活を円満に両立できるのだ。
ドブロは、同じステランティス・グループのシトロエン・ベルランゴやプジョー・リフターの兄弟車だが、お洒落なシトロエンや颯爽としてスポーティなプジョーに比べると、保健所から引き取ってきた雑種犬のように飾り気がない。しかし、この三兄弟が本来的に持つ骨太で芯の強いキャラクターをもっともストレートに表現しているのはドブロである。
尻尾をふりながら全力で飼い主に尽くす、健康そのものの雑種犬。ドブロはそんな車である。
Text: AUTO BILD JAPAN
Photo: 池淵 宏 & AUTO BILD JAPAN