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【ひねもすのたりワゴン生活】滋賀から城崎、そして神戸 5日間1500㎞のクルマ旅 その1

2024年2月6日

甦る9日間、2000㎞の思い出。東京~広島、気分&天気&運まかせのクルマ旅。

 3年前、ちょっとした思いつきから、9日間2000㎞のクルマ旅に出かけた。とりあえず、最終目的地を岡山県倉敷市の下津井に定め、あとはざっくりとしたルートだけというなんとも緩い旅行である。その行程で必要になりそうなものを全部、相棒のカーゴルームに積み込んで、あとは気分次第、天気次第、運次第のぐうたら旅。…と言っても、大したものを積み込むわけではない。雨具や着替え、季節によっては防寒着、そしてクーラーボックスくらいのもの。着替えはもちろん、肌着や靴下などだが、行った先で出会った飲食店によってはジャケットくらいは羽織りたくなることもあるので靴と合わせて放り込んでおく。クーラーボックスは言うまでもなく旅先の美味を収納するためのもの。車内は食品にとって過酷な環境で、夏ならトイレ休憩でほんの少し離れただけで灼熱空間になるし、冬は乾燥したり冷え込んだりする。

さて、そんな旅だから、思いつきで立ち寄り先はどんどん変わるし、その日の運で思いがけない出会いがあったりする。予定ルートの通りに進んでも、そうでなくても気にしない。明日は明日の風が吹く…なんていうけど、半日先には半日先の風が待っているって自分に言い聞かせてクルマを走らせる。こんな旅、飛行機や新幹線では無理だ。絶対に。

気が変わったからと飛行機から飛び降りるわけにはいかないし、新幹線だってその角を曲がってみよう…なんてできない。まさにクルマの独壇場。その顛末はこの連載で紹介したのでご覧の方もいらっしゃると思う。

て、去年の春。そんな旅を思い出していたら、またまた足を伸ばしたくなった。しばらくロングドライブはご無沙汰で、せいぜい東京から仙台の日帰り程度。その時は身内の葬儀があって、行程を楽しむという要素は皆無の“移動手段”だったから、速く、そして安全に往復さえできればよかったのである。

旅、果樹園、キャンプ、釣り…と、遊びの相棒として酷使してきたけれど、最近、その疲れが出てきたかも

 で、3年前のような、旅を楽しむためのロングドライブが恋しくなった。あの思い出と歓びは頭の片隅にずっと陣取っていて、ヘビーなロケから帰ってきたり、締切をようやくクリアしたり…そんな時にふわっと甦る。

 今回は、さすがに9日間もの長丁場を用意することはできなかったけれど、5日くらいならなんとかなりそうだった。ちょうど神戸に出かけなければならない事情もあったので、それを絡めれば一石二鳥。

 昨年9月、長崎県天草市で同地の陶芸家、濱田稔博さんの遺作展が開催されたのだが、そこを訪ねた際に入手した作品の数々を、神戸に住む親族宅で預かってもらっていたからである。かなりの数だったので宅急便で送るのも不安で託したのだけれど、そろそろ受け取りに行かなくては…と、思っていたところだった。つまり、前回、下津井滞在が目的だったように、今回は神戸の滞在が前提になる。

この広いカーゴルームがどんなリクエストも受け止めてくれた

 そこで、ざっくりとルートを考えた。3年前には東京から東名高速道路で滋賀に向かい、近江八幡でランチをとって、そのまま奥琵琶湖経由で大湖をぐるりと回り、海津や菅浦、和邇などに立ち寄り、最初の夜を大津市で迎えた。その時、近江八幡は2時間ほどの滞在だったけれど、その落ち着いた街並みが妙に心に残っていて、後ろ髪を引かれる思いで後にしたのだった。1度、近江八幡に泊まってみたい…そんな想いをずっと引きずっていたので、今回はぜひそれを叶えたいと思った。旅の妄想はそこから始まったのだった。

前回の9日間、2000㎞の旅では、近江八幡は昼食だけのステイ…改めてゆっくり訪ねたいと思った

 さて、その頃、我が相棒は時々エンジンのトラブルを示すインジケータが点くようになっていた。こんな長旅の途中で動かなくなったら目も当てられない。出発前に解決しておきたいので、工場のスケジュールを確認しながら出発日を決めることになった。大ごとだったら長期入院も考えなければならないから、ちょいと不安が過る。何せ、そろそろご老体と呼ばれるお年頃……日頃の思いやりは欠かせない。長旅には万全の状態で伴わせたいと思う。

 しかし、メカニックの診立てはバキュームセンサーの不具合で、2日もあれば完了だという。時間も予算も軽微で小躍りした。これで心配なく出かけることができる。

Text&Photo:三浦 修

【筆者の紹介】
三浦 修
BXやXMのワゴンを乗り継いで、現在はEクラスのワゴンをパートナーに、晴耕雨読なぐうたら生活。月刊誌編集長を経て、編集執筆や企画で糊口をしのぐ典型的活字中毒者。

【ひねもすのたりワゴン生活】
旅、キャンプ、釣り、果樹園…相棒のステーションワゴンとのんびり暮らすあれやこれやを綴ったエッセイ。