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【名カーデザイナー】アルファからVWまで ワルテル デ シルヴァのデザインとそのフィロソフィーについて語る

2022年11月10日

デザイナー、ワルテル デ シルヴァはライン(線)の達人だ。ワルテル デ シルヴァはアルファロメオで頭角を現し、その後数年間、VWグループのデザインを形成してきた。彼はクルマに飾り気のない軽快さを与え続けてきた。そんな彼のライフワークを紹介する。

ワルテル デ シルヴァは、静かな言葉を発する人だ。しかし、彼が自動車デザインについて語るとき、その言葉が熱を帯びたものになることは珍しくない。何が良いデザインなのか、というよくある質問に対する彼の答えは、「クルマは2本、多くても3本の線で定義されなければならない」というものだ。彼の創るものは、淡々としていて、明快で、シンプルだが単純ではない。

彼は今まで、常に自分自身の原則に従って行動し、その結果、新しい自動車を紹介するのに最適な色はシルバーであることを発見したのだ。「なぜなら、そこでは形が最も強調されるからだ」。

デ シルヴァがドイツの自動車産業の中枢に身を置くまで

1972年、研修を終えたデ シルヴァは、トリノのチェントロ スティレ フィアットに入社した。しかし、この若いイタリア人は、デザイナーとして成長するためには、もっと多くの影響を受ける必要があることに気づいた。1975年、ミラノの有名デザイナー、ロドルフォ ボネットのもとで家具をデザインし、1979年にI.De.A研究所に入所。そして、1986年にアレーゼのアルファロメオ チェントロスティーレに入り、翌年から責任者となり、1990年代の終わり、1999年までその任にあたった。

アルファロメオ156スポーツワゴン。ワルテル デ シルヴァは、リアドアのハンドルをCピラーのウィンドウグラフィックに巧妙に組み込んだ。

デ シルバがデザインしたシルバーの車といえば、アルファロメオ156が有名だ。アルフィスティにとって、このセダンはすでにクラシックであるべき要素を備えており、時代を超えたクルマに事欠かないイタリアの自動車メーカーの歴史を考えると、それはとても重要なことなのだ。

ワルテル デ シルバがデザインしたセアト アルテアとセアト レオン

アルファのデザインは、ある自動車経営者の目に留まり、才能あるイタリア人は注目された。フェルディナンド ピエヒにだ。

ピエヒがやろうとしたことは、フォルクスワーゲングループのセアトのテコ入れだ。そこでデ シルヴァは、1991年にVWの子会社であるセアト社に移籍した。そこで彼はすぐに、イベリア半島の自動車ブランドにエモシンを吹き込む仕事に取り掛かった。「セアト アルテア」や、とりわけ「アルファロメオ147」に酷似した、「セアト レオン」といったクルマは、デ シルヴァの筆から生まれたものだ。

セアト レオン(2代目)。細いテールライトは、紛れもなくデ シルヴァのデザイン要素である。

地中海的なデザインはその目的を果たし、マートレルの車に、このイタリア人の関与によってグループ経営陣が意図したスポーティなタッチを与えた。デ シルヴァは、セアトのデザインを通じて、グループの主要なブランドに対する聖別を獲得していた。当時、特にアウディには、ビジュアル面での改革を必要としていた。

実りあるパートナーシップ: デ シルヴァとヴィンターコルン

そして、ワルテル デ シルヴァとVWグループのボス、マルティン ヴィンターコルンは、プレミアムブランドで出会うことになる。対照的な2人の出会いだった。

マルティン ヴィンターコルンは、自分の品質基準に満たない部品を投げつけるほど気骨のある経営者であり、デ シルヴァは、常に上質な糸を身にまとい、柔らかな声で話す洗練されたイタリア人であった。インゴルシュタットでは、「シニョーレはいつまで人間の台風の目(ヴィンターコルン)に耐えられるか」という賭けがさかんに行われた。

しかし、自称専門家たちは勘違いすることになった。二人は外見こそ違うが、完璧な自動車を追求することでは一致していた。技術者でもあるヴィンターコルンは、明快なデザインを得意とする設計者を意のままにさせた。

二人はよく夜遅くまで新型アウディについて語り合った

BMWとメルセデスとの三つ巴のプレミアムバトルに遅れをとらないためには、インゴルシュタットのブランドはビジュアル面で変身する必要がある、ということが二人にとって明確だったからだ。

ワルテル デ シルヴァが最も美しいと思うクルマは、アウディA5

ワルテル デ シルバは、アウディのモデルに、現在でもブランドを象徴する顔であるシングルフレームグリルを与えた。さらに、シンプルでありながら、それまで以上に存在感のある新しいデザイン言語を与えた。そして、アウディデザイナー時代には、「アウディA6(C6)」、「アウディTT(8J)」や「アウディR8」などの美しいスポーツカーが生み出された。

アウディA5(1代目)。デ シルヴァにとって、このクーペは「私がデザインした中で最も美しい車」であるという。

イタリア人にお気に入りを尋ねると「アウディA5は、私がデザインした中で最も美しいクルマです」と答えた。この意見は彼だけのものではなかった。2010年、彼は「アウディA5」でドイツ連邦共和国のデザイン賞を受賞している。

2007年にVWデザイン部門のCEOに就任したマルティン ヴィンターコルンは、すぐに信頼するデザイナーをニーダーザクセン州に連れて行った。デ シルヴァはヴォルフスブルクに到着するや否や、すぐにパフォーマンスを発揮する必要があった。

「VWゴルフの6代目」は、すでにスタート台に立っていたが、マルティン ヴィンターコルンはその外観に満足していなかった。「ゴルフは古くなってはいけない」というのが、当時も今もデザインの前提である。

VW ゴルフ6: フォルクスワーゲンのベストセラーカーはデ シルヴァの影響でぽっちゃり感がなくなり、ライトも細くなった。

「ゴルフ6」のデザイン言語は、VWグループの次の年、次のモデルにとって決定的なものとなった。ワルテル デ シルヴァは、ヴォルフスブルクを去る2015年までVWに在籍していた。

現在は、自動車サプライヤーであるEDAGに関わるだけでなく、自身のデザイン事務所を持ち、「ワルテル デ シルヴァ シューズ」で、自身のファッションブランドも展開している。

【ABJのコメント】
あなたはワルテル デ シルヴァの作品で何が一番好きですか?
僕はやっぱり「156」、でしょうかねぇ。あれがなんとも印象に残っているし、アルファロメオの歴史の中でもたくさん売れたことと、かっこよかったことのバランスが非常に高い、という点でずっと残っていく一台だと思う。「156」のかっこよさは誰がみてもアルファロメオに見えるという部分で、そういう意味ではシルヴァはアルファロメオが格好いいのはこの部分だ、みたいな大切なレシピをよくよく理解している人物なのだろう。

そんなシルヴァがフォルクスワーゲンに移籍するというニュースは当時かなり話題になり、そのことでこれからのフォルクスワーゲンのラインナップは革命的にスタイリッシュでイタリアンテイスト満載の車になるのか、と晩御飯を食べながらみんなで盛り上がったものである。結論から言えば、「ゴルフ6」も「アウディA5」もスタイリッシュではあったし、「セアト レオン」はかなり攻めたものであったことは認めるが、あくまでもフォルクスワーゲンのラインナップ中ではスタイリッシュであったけれど、「アルファロメオ156」ほどの突き抜けたスタイリッシュさは無かったのではないだろうか。

それはもちろん考えてみれば当たり前で、フォルクスワーゲンという巨大企業の中で制約満載の条件でデザインしたならば、いくら巨匠であったとしても腕を振るえる上限というものはおのずと生まれてしまう。そんながんじがらめな状況下でデザインされた「ゴルフ6」は確かに垢ぬけてスタイリッシュだし、アウディも彫刻的な美しさを感じさせるような部分もあり、そういう意味ではやはり巨匠なのであった。

そんな巨匠が選ぶ自分のベスト作品が「アウディA5」というのは意外な気もしたが、本文中にもあるように、シルヴァは物静かで大変紳士的な人らしい。そう考えると端正でありながら、一本筋の通った力強さを感じさせるあの一台は、実は「本当の」シルヴァらしいデザインといえるのかもしれない。(KO)

Text: Wolfgang Gomoll
加筆: 大林晃平
Photo: autobild.de