ダイムラー、かつてのパワーを取り戻す戦い
2020年4月19日
ドイツのトッププレミアムブランドの苦闘
コロナ危機、過剰な開発コスト、ダイムラーはプレッシャーにさらされている。
しかし、一部の人々が予想するよりも早くカムバックする可能性は高い。
あたかもコロナ危機の前には困難がなかったかのようだが、すでにその時には困難な状況下にあったドイツのプレミアムメーカーは、今回の危機によってさらなる打撃を受けつつある。
特にダイムラーAGは、取締役会会長のオラ ケレニウス氏が国家支援の中止を発表したことで、株価は20ユーロ強にまで急落した。
高い開発コストと多すぎる派生モデル
現在、メルセデスの大きな利益は、アジア、特に中国とアメリカから得られている。
欧州では、すべての自動車メーカーは厳しい状況にあり、今後、コロナ危機の影響がどれほどその状況を悪化させるか、現時点では誰にも予測できない。
さらにコロナ以前は、コストの構造がダイムラーの最大の問題だった。なぜなら、シュトゥットガルトでは新車の開発に時間がかかりすぎて、国際競争に比べてコストが高すぎるからだ。
BMWやアウディと同じように、シュトゥットガルトもまた、現実にはないギャップのための、派生モデル開発で泥沼化してしまった。
GLAやGLB、GLCクーペだけでなく、GLCのような車は、製品管理やマーケティングの考えるような需要を生むことも、大きな特徴的な差異を生むことも難しい。
つまりはそのメーカーも、根幹車種以外の、派生車種や、ニッチのモデルが多すぎて、その開発にも製造にもコストがかさんでいるのである。
なにせたった30年くらい前までは、(C、E、S)の三車種に、SLとかSEC、そしてGクラスがあるくらいだけのラインアップだったのに、今や売っているメーカーも販売店も覚えきれず、数えきれないほどの車種があるのだから無理もない。かつての高級車メーカーも、いまや上から下までラインナップを揃えた大衆車メーカーの様相を呈している。
レイオフとモデル数の減少
しかし、状況は再びゆっくりと好転しているようだ。中長期的に株価がこの安値水準にとどまることは考えられず、プロセスの高速化とコスト削減のための作業が全速力で行われている。
経営委員会は夏に新しい顔ぶれを何人か加える予定で、同時にダイムラーは現在、大規模な退職プログラムを実行している。メルセデスは、最大で1万人、あるいは1万5千人の従業員をレイオフすることで、スリム化したいと考えている。
10億ユーロ(約1,200億円)の投資に備えて、節約をかなりしなければならないからだ。この投資は特に代替ドライブや自動運転の分野に対しておこなわれる。
そんな中、モデルの削減も行われている。例えば、メルセデスSクラス カブリオレには後継車はなく、ピックアップXクラスの終焉はすでに決定事項だ。そのように、だれの目にも不要と思われる車種はこれからも削減の対象となるだろう。
新しいモデルの登場
もちろん、一方で新しいモデルもまだまだ続々と登場してきている。
遅ればせながら2020年秋に初公開を迎える新型Sクラスなどはその筆頭といえる。
2021年夏には待望のメルセデスEQSが登場するが、これは顧客需要の少なさよりもデリバリーの問題に苦戦しているEQCよりも運が良いと言われている。
2021年春には新型Cクラスの登場が予定されているが、その開発はそう容易ではないはずだ。Sクラスと同様に、完全に再開発され、自動運転という点でミッドサイズクラスの新たな基準を打ち立てようとしているからだ。
とはいえ、そのサイズはCLAや、中国ではロングホイールベースもあるAクラスセダンなどのモデルに近いまま維持される。
Cクラスも次の世代に向けて、その派生モデルを減らすことでラインナップが縮小される可能性が高い。また、これはSUVの流行がこの先も続くことが予想されることにも関連している。
将来的には、メルセデスGLAやGLBだけでなく、特に内燃機関と根本的には変わらないように見えるバッテリー電動バージョンのEQAやEQBが顧客にインパクトを与えてくれることが期待されている。
新型SLとAMG GT
ここ数年、スポーツカーのクラスで苦戦してきたダイムラー。SLシリーズが売れず、その販売が絶不調であることは明らかである(SLCとの明確な差がないことも原因のひとつだ)。
2021年にはいよいよ新型SLが発売され、かつて成功を遂げたプロポーションと、再度登場するファブリックルーフとともに、その姿を見せることになる。
これにより、SLと共同開発された新型AMG GTとの間に明確な違いが生まれるといえよう。
メルセデスSLは、のちに導入されるバージョンに、次期型メルセデスAMG C63のために計画されている、ターボチャージャーと48ボルトの電動システムを備えた2リッターガソリンエンジンを採用することが計画されているが、SLの潜在的なバイヤーはすでにこれに対して不満の意を表明しているという。このクラスでは、2リッター4気筒モデルは、苦戦することは明らかだからだ。
少なくとも現在のモデルのように、強力なV8という強力なセールスポイントを持ち、そこに魅力を感じているSLの現オーナーが、躊躇せずに2リッターモデルを買うとは想像できない。
なおSLにも将来的には、全輪駆動とハイブリッドバージョン、また、中長期的には電動仕様も追随する可能性が高い。それがどれだけの需要を生むとは、予想もつかないが。
待望のスマートSUVついに登場か
そしてついに、スマートもまた新たなチャンスを手に入れつつある。
新しく設立された「スマート」 =ドイツ中国ブランドの本社は、中国に置かれることになった。新世代のピュア電気自動車「スマート」は、2022年に国際市場に投入される予定だ。
メルセデスがデザインとブランドのDNAを提供する一方で、新世代のスマートは吉利汽車が開発し、後に中国でも生産されることになる。そしてそれは2人乗りの小型車ではないことはすでに明らかだ。
いくつかの100%EVが計画されており、15年以上前から議論の対象となっていた派生車種である、スマートSUVの導入も初めて議題に上るだろう。
このようにメルセデスはその存在を確固たるものとして継続できるように、失敗と成功を繰り返しながらこれからもスリーポインテッドスターのついた、様々な自動車を毎年必ず生みだすのである。
Text: Stefan Grundhoff