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【クラシック オブ ザ デイ】90年代のメルセデスSLラグジュアリーロードスターの魅力

2022年3月20日

このメルセデス・ベンツSL320は短い期間に作られた直6搭載モデルだ。当時の値段は15万マルク(約960万円)。1989年以降に製造された技術的にセンセーショナルなメルセデス ロードスターR129は、最高の一品だ。

間違いなく、この「メルセデスSL320」は静かな人生を歩んでいた。15年間で走行した距離はわずか6万8千km。最初は温暖な南スイスで、次にイタリア中部のパリエッタで。おそらく、本格的な冬を屋外で経験したことなどないだろう。

その後、ドイツの「クオリティ オートモーティブ」でこの「R129」が販売されたが、その値段は15,000ユーロ(約195万円)を大きく下回る価格だった。そのディーラーは、取材後に買い取ったオーナーの下で、目を覆いたくなるほどのチューニングが施され、オリジナリティを損ねてしまい、ダウングレードしてしまったからだと語ってくれた。

「SL」とはスーパーライトの略称だが、乾燥重量は1850kgもあるのであてはまらない。

デザインチーフのブルーノ サッコは、12年間の生産期間中、微妙なタッチアップしか許さなかったため、シュヴァーベン語で「MoPf(モデルメンテナンス)」と呼ばれる2回のフェイスリフトで、白いウインカー、ラジエーターグリルの変更、バンパーをコントラストカラーからカーカラーに変更されても、オリジナルモデルの飾らない魅力はそのままであった。

直列型エンジンからV型へ

メルセデス通は、直列エンジンを好むだろうが、1998年に導入されたV型エンジンに対しても言うべきことはほとんどない。写真の車のような後期の「M104」は、クラシックな「SL」の雰囲気と、走りの文化と性能の魅力がミックスされ、運用や維持のコストのことを考慮すれば、最適な選択と言えた。

直6は一時代のハイライトで、1998年にメルセデスはV型エンジンに切り替えた。V8とV12は生産期間中ずっと用意されていた。

「R129」は、自らをスポーツカーと位置づけているため、多くの豪華なギミックを見ればロードスターとは呼べないかもしれないが、231馬力の出力は十分にあるはずだ。サッコデザインの流れるようなドレスには、ちょっとした富が隠されている。ここでは、1,800kg以上の体重を移動させなければならないのだ。それでも現行モデルよりは軽い。

シャーシはW124からの大規模生産で揺るぎないもの

重厚なドアからもすぐにそれは実感できる。我々は、一過性のオープンカーではなく、長期的に価値のある自動車を取り扱っているのだ。また「最後の本物のメルセデス」を想起させるようなことはしたくない。しかし、秋にシュヴァーベンアルプの丘陵地帯を延々とドライブしていると、シュトゥットガルトでは90年代初頭よりも頑丈な自動車が作られるようになったのだろうか、という疑問が次々と頭に浮かんでくるのだ。結局、永遠の「R107」から「R129」へと乗り換えた人が、すぐに後継モデルになじめるのも、重厚な仕上げよるものだろう。

メルセデスのデザインチーフ、ブルーノ サッコが手がけたスリムなスタイルは、豊かさの中にある贅肉を隠すようにデザインされている。

そして、この幸福感には、確かな技術的理由がある。しかし「SL」は常に若々しいスポーティさとはかけ離れた存在だ。90年代になっても、シャープなコーナリングマシンというよりは、2シーターの「Sクラス」という感じだった。しかし本来の「SL」はそういうものであり、そこが「BMW 8シリーズ」との一番の違いである。

ロールオーバーバーは花火のように放出される

「R129」は、安全性に関しても中途半端なことはしていない。この分野のパイオニアとして、メルセデスは大きな期待に応えなければならなかった。サイズ的に安定したボディに、耐衝撃性に優れたインテグラルシートが加わり、その座り心地は現在の高級車も見習うべきものだった。

さらに、緊急時にはシート後方に一瞬で跳ね上がる、量産車では初となる、まるで花火のように起き上がる、「ロールオーバーバー」も装備された。

メルセデスSL R129のソフトトップは、ボタン操作だけで28秒後に収納される。30年前のビッグショーだった。

ルーフストリップは今日もショー

当時のメルセデスのディーラーに135,000マルク(約865万円)を支払った人は、さらに多くの金額を提示された。例えば、34kgのハードトップは、数分で取り付け、取り外しが可能だった。そして、電動油圧式ソフトトップは、28秒でSLを日向ぼっこできる場所に変えてしまった(今では永遠に思える)。今では何でもないことだが、当時は、カフェの前でボタンを押すと、6個のロック、17個のリミットスイッチ、11個のソレノイドバルブが動き出し、そこにいた見学者たちは、みんな、口をあんぐりと開けて驚いたものだった。

そのルーフストリップは今日も見せ場だ。まず助手席の後ろのロックが「カチッ」という静かな音で解除される。そして、張った布製のキャップが少し緩み、揺れ、波打つように後方に揺れ、収納部の蓋が持ち上がり、正確に畳まれたすべてのものが、その下の谷にスムーズに消えていくのだ。写真のロールバーももちろん油圧で作動する。
タクシールックと呼ぶ人もいれば、機能美と呼ぶ人もいる。SLのコックピットは、80年代後半の渋い実用性を具現しているのである。後期モデルなので、ステアリングホイールの形状やシート形状が前期モデルとはかなり異なっている。

あらゆる贅沢がサーチャージ・リストに載ることになった

ルーフメカニズムの工夫は、常に車体価格に含まれているが、他の部分にもコストが大きくかかっていたことはいうまでもない。1990年代半ば、「500SL」の価格が10万マルク(約1,640万円)の大台をとっくに超えていた頃でも、メルセデス・ベンツはちょっとした贅沢にも、さらに大きな贅沢にも、別料金を課していた。

革張り、オートエアコン、「エクスクイジット」ラジオ(ここではBOSEサウンドシステムと組み合わせ、そのスーパーウーファーでリアの補助シートが犠牲になった)により、この「SL」の価格は、1997年には、15万マルク(2,000万円)にまで高騰した。それから25年近く経った今日、ヘンリー ロイスの伝説的な言葉は、「R129」にも完璧に当てはまる。「品質は、たとえ価格が長く忘れ去られたとしても、不変である」。

【おまけ】

一番長生きしたのは、1971年から1989年まで18年間続いた伝説の長寿SL、「R107」だ。この「SL」が末期でもあまり古さを感じさせないのは、本来の優れたデザインとコンセプトが証明している。 Photo: Werk

【ABJのコメント】
僭越ながら「メルセデス・ベンツR129 SL」を中古で購入し所有していたことがある。もうその時点で、25年落ちくらいの、1990年モデル、ということは最初期モデルの大古車だったが走行距離嶽は少ない「500SL」だった。乗ってみればスムーズでパワフル、そして各部分の仕上がりや質感などなど、まごうかたなきメルセデス・ベンツとはこのこと、と思うような自動車だった。今でもシートベルトを引き出す時のめちゃくちゃスムーズな感覚を思い出す。細かい部分だがそういうところの出来が、驚くほど素晴らしかったのだ。

その一方で、様々な部分が故障し、メンテナンス費用には涙が出るほどだった。エンジンのインジェクション部分やポンプの故障もあったが、油圧作動の幌が壊れた時には、修理に100万円と言われ、さすがにどうしようかと途方に暮れた。結局中古パーツと、油圧シリンダーを直してくれる方を千葉に見つけ、なんとか対応したがそれでもかなりの金額がかかった。結局維持をするためには(当たり前だが)多額の費用が掛かり、数年で手放してしまったが、今でもあんなに厚みを持った自動車は、もう今後出てこないだろう、という気持ちを抱く。そういう意味からか昨今、「R129」の価格はじりじりと上昇し、今はとても買えない範疇に(日本では)なりつつある。クラシックカーとしての魅力と、当時の最先端テクノロジーとの絶妙なバランス・・・。そんな魅力こそ「R129」の人気の理由だろう。(KO)

Text: Martin G. Puthz
加筆: 大林晃平
Photo: D. Rebmann